HOMETEXT .

名前変換登録:苗字 名前
苗字:
名前:  

今だから言えるいつかの陰謀 #相澤先生

 お前の頭がまともなことだけはわかる、と先生は言ってくれて私は胸を撫でおろした。先生は私が頭のおかしい父親に洗脳されているのだと本気で心配してくれていたらしい。お前が、お前の意志で、お前の希望なら、お前の人生だ、と言葉を連ねて、最後には紙コップを手にスイートルームの別室へと向かった。私はベッドの上で太ももをもぞもぞと擦りあわせることしかできない。
 時計の針が半分も回らないくらいで先生は戻ってきて「ほらよ」と紙コップを突き出してくるので慌てて両手で受け取った。

「ありがとうございます。私と子供の生活はご心配なく。資産はあるので」

 あ、気が早いですね。と手で口元を押さえると先生は眉を顰めた。

「生徒とどうにかなる気はさっぱりないからな。これで済ませてくれるならありがたい」
「昨日付で退学した元・生徒ですよ」

 父親に退学させられた、の方がより正確だが、「生徒」を大事にする相澤先生にとってはこの方が良かったに決まっているから仕方ない。

「お前、俺がそんなに機械みたいにパチパチ気持ち切り替えられるとでも思ってんのか?」
「失礼しました。決してそんなことは」
「まあ、いい。で? 俺はもういいのか?」
「いえ……、その、一回でうまく出来るかわかりませんので念のためもう少し……」

 いて欲しいと頼む前に先生は、わかった。と短く応じた。



 シリンジ法、と私が言うと先生は、しりんじほう、とただおうむ返しに言葉を返してきた。

「先生との子供はとてもとても欲しいのですが、セックスまでしていただくのは申し訳ないので、精子だけ頂戴出来れば、あとは私がこのシリンジで中に」

 続きは先生の「もういい」という声に阻まれた。頭を抱え、唇をぎり、と噛む先生はいま何を思うのだろう。若かりし頃の自分の選択を後悔しているのだとしたらもう遅い。お金があって頭のおかしい私の父親と、強い個性を保持しておきたい国とが出会って、タッグを組んでしまった。
 個性婚、よりもっとひどい。婚姻すら結ばず、ただ、種をもらうなんて。

「お前が妊娠しなくても」
「子供を産んで、育てるのが私の夢なのです」

 そう、でも。これが私の夢。



「そっち行っていいか」

 別室から先生の声が遠く聞こえる。返事に窮していると、先生が容赦なく現れた。私は姿勢を整える暇もなく、ベッドの上で膝立ちの状態で迎える羽目になる。スカートは履いたままだが下着は脱いでいて、風が吹いたわけでもないのに急に下半身がすうすうと心もとなく感じる。先生は私を見下ろして「難航してそうだな」と評した。

「ふ、不甲斐ないです。先生にここまでしていただいているのに」
「何が問題なんだ」
「あの、い、痛くて、入らないというか、入れられない、のです」
「潤滑剤は」
「使っていますが、その……」

 怖くて、とはさすがに言えなかった。

「お前は、俺との子供が欲しい」
「はい」
「それは、俺への好意も多少あると思っていいのか」
「もちろん。好いた方の子供が欲しいのです。憎い男の子供など宿したくありません」
「そうか。なら」

 先生は私の背後にぼす、と腰を下ろした。ベッドに投げ出された先生の足の間に私がおさまる形になる。え、え、と狼狽えていると先生が私の両肩に手を置き、ぐっと下に力を入れるので私もお尻をついてしまった。肩越しに先生の気配を感じるのは初めてだ。

「まずリラックスしろ。身体に力が入ってれば痛みも感じやすいだろう。あとは体を温めろ。室温も低すぎる」

 先生はよどみなく言って後ろからそっと私の手を取った。先生の手は温かく、私はそこで初めて自分の指先の冷たさを自覚した。私が固く握っていたシリンジも、先生にさりげなく奪われてしまう。

「ほら。まずは足を毛布の中に突っ込め」

 先生に言われるがまま身体を動かしていくと、どんどん先生と密着した。先生は気にしていないようだったが、私は「じゃああとはがんばれ」といつ放り出されるのか気が気ではなかった。

「心配するな、最後まで付き合う」

 私の心を見透かしたような言葉が耳元で響いて、足先から寒さとは違った震えが脳まで走った。

「一応聞くが、経験はあるのか?」
「へ?」

 そんなこと聞かれるのは生まれて初めてで、熱い血が一気に顔を染めたのがわかった。けいけん、と脳がその言葉でいっぱいになる。二の句を継げずにいると、相澤先生がはあ、とため息をついてそれが私の首筋を這った。また、震えが。産毛がぞわ、と逆立つ。なんだかさっきから色んな刺激を過敏に受け取りすぎている気がする。先生はただ、息を吐いただけなのに。
 先生は私の答えを待たずに「処女受胎は無理があるだろう」と結論付けた。

「そ、そんな、大丈夫です」
「お前、セックスを何だと思ってるんだ」
「もちろん、子を授かるための」
「話にならんな」
「――ッあ?!」
「セックスが子を成すためだけの行為としか思えんのならお前はまだ子供だ」

 先生の指が、私の膝裏から太ももの裏を、つうっ、とゆっくりなぞる。毛布で、スカートで、覆われているとはいえ、下着はもうとっくに脱いでいるのだ。先生の指が肌をつたうほど、さっきまで固く閉ざされていた入口が今さら勝手にひく、と蠢くように思えて気が気ではない。先生の指はいったりきたりするが、どこがスタートでどこがゴールになるのかわからず、全神経が毛布の中の先生の指に集中する。

「随分、体温が上がってきた」
「――ッ!!」

 ほとんど息ばかりの先生の声が急に耳をなぞっていって、私の身体は仰け反るようにびくん、と大きく跳ねた。そのはずみで、大事なシリンジと紙コップがふかふかの絨毯に音もたてずに落ちていった。その様を涙目の端でとらえながら、私の夢が、たぷと零れて、じわりと染みをつくるのを想像する。
おしまい

官能小説,短編,僕のヒーローアカデミア 2449字 No.54 

Powered by てがろぐ Ver 4.7.0. Powered by Charm.js