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カテゴリ「KISSMEMORE」に属する投稿[14件]
Udonさん(@Udon_10221022) から頂きました!
お気に入り,ONEPIECE,KISSMEMORE 32字 No.35
もっとキスして #カク
カリファは、意地悪ではなく、純粋に、心からカクが心配だった。小さな頃から苦楽を共にし、弟のように思っている年下の仲間が傷つくのは嫌だなと思って言っただけだ。決して、悪意があって言っているわけではない。ただ、辛い現実にカクが打ちのめされるのはかわいそうだと思ったのだ。カクだってもういい年の男だし、力ではとても敵わなくとも、カリファにとってはいつまでも面倒見る必要がある可愛い年下の男の子だった。
「女の二年を舐めるんじゃないわよ。二年あったら子供だって産めるわ」
「不幸になっとるかもしれんじゃろ」
どんなに可愛く思っていてもそれはそれとして、馬鹿なのか、とカリファは思う。カクはここまで馬鹿だったかしら、と。カクはこの件に関してだけは、全然冷静じゃなかった。普段の一パーセントほどだって、冷静じゃない。口を尖らせて不満そうに言ったかと思えば「のう……、やっぱり、他に男が出来とると思うか?」と一転、不安そうに聞いてくる。そんなに気になるならさっさと調べればいいじゃないの、と返せば、馬鹿なのか!? そんなの怖くて出来るわけないじゃろう? と馬鹿に馬鹿と言われてしまうのだ。私たちが五年間過ごしたあの島は、ここから船で何日もかかるというのに、調べずに行って無駄足になったらどうするつもりなのか。カリファは呆れて、ものも言えなくなる。聞こえるようにわかりやすくため息をついたカリファを、カクはキッと睨んだ。カリファは優しくない、とボソボソとぼやいているが、カリファは大人なのでそれを華麗に無視した。
「不幸になっとらんかの?」
「それは心配なの? 願望に聞こえるわよ」
「願望に決まっとる。わし以外の男と幸せになるなんて許せん」
「……子供ね」
「カリファよりはな」
無言で殴ると簡単に拳を掴まれてしまった。どうせ当たるわけがなかったがそれでも悔しいカリファは、先輩にも、レディにも、礼儀がなってないわ、と苦し紛れに言ってみる。「失礼」と心のこもらない、形式的な謝罪がかえって頭にくる。
「好きにすればいいわ」
泣いて帰ってきたら慰めてあげる。これ以上ない優しい言葉だとカリファは思うのだが、カクからは、やっぱりカリファは優しくない、と拗ねられてしまった。
だって、二年よ?
たった今
「前の部屋ね、水没しちゃったの」
「ああ、知っとる」
知ってるんだ! ああでも、引っ越しの理由なんてきっとすぐわかるよね、とウカは一人納得したようだ。
カクがウカの部屋のドアをノックすると、ウカはほんとに来た、と呟いて、そのあと「びっくりした」と全然驚いていないふうに言った。
「その、久しぶりじゃの」
「なんか、緊張してる?」
ウカがくすくすと笑いながらカクが隠していたものをぴたりを言い当てるので、カクは動揺しながらキャップのつばに手をかけ、ぐいと目深にかぶった。ウカはカクのその様子を見て、また笑みをこぼした。立ち話もなんだし、お茶でも飲む? とウカが気を遣ってくれたが、さすがにそれは、とカクは遠慮した。ウカは、そう、と短く言って自分の分のコーヒーを淹れる。
「そんなとこに立ってないで、せめて座ったら?」
ソファどうぞ? ウカはコーヒーをマグに注ぎながら、所在なさげにドアの前に立ったまま動かないカクに声をかけた。あまりにも、最後に会った日と変わらないウカにカクは調子が狂う。髪の長さも色も、眉の描き方も、服やアクセサリーの趣味も、カクが知っているウカと違わなかった。カリファに言われた言葉を思い出し、薬指や腹回りにもつい目がいくが、見たところ指輪もしておらず、身ごもっている様子もなかった。この新しい部屋にも男の気配は感じない。
「ほんとに、ってなんじゃ?」
ウカはベッドに、カクはウカにすすめられたソファにおずおずと腰を下ろす。出会い頭に言われた「ほんとに来た」を今更ながら問うと、ウカは、半信半疑だったんだけどね、と前置きしてからベッドのヘッドボードに手を伸ばし、一枚のカードをサイドテーブルに置いた。見ると「長鼻の男がお邪魔するかもしれません」とたった一行、女性のような字が並ぶ。差出人は書いておらず、どうやって届いたのかもわからないのだという。
「かも、って書いてあったから、どっちかなあって思ってたんだけど」
やられた、とカクは目元を手で覆った。これはカリファの字だ。カクの手で隠れなかった口元は、口角が上がっているのが見て取れる。ウカはそんなカクを見て満足そうに鼻をこする。
「……待っていて、くれたのか?」
「まあ、……用事もなかったし」
なんとなく冷たく聞こえたウカの声に、カクは押し黙ってしまう。ウカは、思いのほか冷たく響いた自分の声に、自分で驚いているようだった。少しの気まずい沈黙の後、その空気を振り払うかのように、ウカは一度だけ大きく深呼吸をしてから口を開いた。
「パウリーから聞いたよ」
カクはウカ以外にも騙した男の名前を聞いて居心地の悪い気持ちになり、一瞬、視線を自分のつま先に向けてしまう。カクはもちろん、今でもあれは世界のために必要な任務だったと思っており、彼らを騙したことに何の後悔もなかったが、後悔していないからと言って、悪く思っていないかと言えば、それはまた別の話だった。
ああ、やっぱりお茶をもらえばよかった。そしたら少しは気が紛れたかもしれない、と内省しているカクに、ウカの思いもよらない言葉が続く。
「パウリーが言ってたの。あの状況で、カクが私に別れを言いに来るのはきっと簡単なことじゃなかったはずだって」
「パウリー、が」
「カクは黙っていなくなってもよかったはずなのに、わざわざ会いに来たんだから」
カクは、二年前、自分たちが敗れた戦いを思い出す。パウリーが海列車で麦わらと共に自分たちを追いかけてきたことは知っていた。だが、辿り着いたのはロロノアで、伝言という形でパウリーから「クビ」を言い渡された。あの夜、島から出る海列車の中で、自分はもう二度と金槌と鑿を持つことはないのだと、当たり前のことを自分に言い聞かせていた。そこに重ねられた「クビ」の二文字は、思いのほかぐさりと刺さった。そして、わざわざそれを言い渡すために、あの島までくらいついてきたパウリーも。
「きっと、ちゃんと好かれてたって、言ってくれて」
会いに行ったのは、好きだったから。
「……パウリーに、感謝じゃな」
「憎んで生きてくのは辛かったから、本当に助かった。パウリー当たってた?」
「ああ、寸分違わず」
パウリーすごいな、とウカが笑う。ああ、本当に、と同意した。
パウリーが、至らなかった自分との別れで傷ついただろうウカをそんなふうに救ってくれていたとは知らなかった。カクは一人、まるで祈るように顔の前で手を組んだ。パウリーに、いつか言えるだろうか。彼は、もう会いたくないかもしれないが。
「でさァ、カクは何しに来たわけ?」
「い、や……ウカは元気かと、気になって」
「なにそれ。本気? 馬っ鹿じゃないの」
カリファと同じ調子、いや、カリファよりも「っ」の分強い調子のウカに、カクは言葉を続けられなくなる。数分、カクを見つめ続けたウカは、埒が明かないと言い、カクに助け船を出す。
「なんで付き合ってる人がいるとかいないとか聞いてくれないの? 失礼じゃない?」
「いるのか!?」
「それがさァ、全然うまくいかないの」
カク、何か邪魔してる? ウカは悪戯っぽく言いながらも、半分は真面目に、疑い深い目でカクを探るようにみつめた。これが聞きたかったのか。カクは濡れ衣じゃ、と両手を上げる。それが出来たらこんなに苦労はしていない。ウカは、ふ、と息を吐くと、じゃあ単純に私のせいか、と大げさにため息をついた。
「ウカはいい女じゃ。周りの男が馬鹿なんじゃ」
「カクも?」
「わしは馬鹿じゃない」
「へえ。じゃあ、また付き合ってくれる?」
「そっ……」
それが出来たらわしはこんなに困ってない、とカクは泣きそうになって言った。
「わしだって、わし以外の男と幸せになるウカなんて見とうないんじゃ。でも、わしはどう頑張っても、ウカに普通の幸せはやれん」
「ほう、例えば?」
「け、結ッ婚、とか……、子供とか!」
「他には?」
「毎日ただいまと家に帰ってくるとか、そういうやつじゃ」
カクの捨て鉢な物言いは気にも留めず、そういうやつか、とウカは顎に手をあてる。
「じゃあ、どんな幸せならもらえるの?」
「ど、どんな……、死にそうになったら、なるべく生きて戻ってウカのそばで死ぬ……」
「不穏すぎる!」
私、カクの本当の仕事ってよくわかってないんだよ、とウカは喚いた。そして、何も知りたくないから何も聞かせないで! と叫ぶ。パウリーのやつ、そこは言わんかったのかと、カクは口を開けて驚くばかりだ。魚のように口をぱくぱくと開けて何か言いたげなカクを尻目に、ウカは、じゃあ、と仕切り直す。
「毎日は無理でも、どれくらいなら会えそうなの?」
「あ、会えそう? ……、半年に」
「もう一声!」
「い、三か月…に一回なら、たぶん」
カクは目を下の方に向けながら頭を巡らして、なんとかそれだけ言った。自分はいったい何を言わされているのか、と考える余裕はカクにはもうなかった。代わりに考えているのは三か月に一回どうやってこの島にやってくるか、アイスバーグやパウリーに見つからないようにしなければ、そもそもルッチにばれたら終わりだ、どうやって時間を作れば、といったことだったが、考えれば考えるほどやっぱり無理で、だからやっぱり無理だとカクが言いかけたその時。
「じゃあ、いいよそれで」
「はァ!?」
「いいよ、三か月に一回、会いに来て」
「ば、馬鹿なのか!? そんな人生でいいのか!?」
「うん、いいの」
ウカはまっすぐカクを見つめた。カクの瞳にうつる自分の満ち足りた笑顔を見つけたウカは安心する。カクが見ている自分はとても幸せそうだ、と。
「あの日、カクと別れたこと以上に悲しいことはこれまでなかった。もう、嫌なの」
ウカは揺らがない大木のような、大きな湖のような、堂々とした態度だった。カクは、ウカが自分よりずっとずっと考え、何度も自問し首を振り、それでも、と覚悟を決めたのだろうということがすぐにわかった。そして、先ほどやっぱり無理だと言いかけた自分を恥じた。
「何か、せめて詫びを……」
カクが小さく背中を丸めて恐縮しながら言うので、ウカは調子に乗った様子で「じゃあ、お願い聞いてもらおうかな」とえらく上機嫌になった。
「わしにできることなら」
「キスして」
カクの鼓膜を震わせた言葉はカクの脳髄に届いて、聞き間違いか? とカクの目をぱちくりさせた。あっけにとられるカクだったが、ウカは頷くばかりだ。カクは柔らかいソファから腰を浮かせてウカの側に侍り、小さな肩を抱く。
二年ぶりの懐かしい体温を唇で測り終え、カクがウカの顔を覗き込むとウカが潤んだ瞳で訴える。
「もっと」おしまい
←
カリファは、意地悪ではなく、純粋に、心からカクが心配だった。小さな頃から苦楽を共にし、弟のように思っている年下の仲間が傷つくのは嫌だなと思って言っただけだ。決して、悪意があって言っているわけではない。ただ、辛い現実にカクが打ちのめされるのはかわいそうだと思ったのだ。カクだってもういい年の男だし、力ではとても敵わなくとも、カリファにとってはいつまでも面倒見る必要がある可愛い年下の男の子だった。
「女の二年を舐めるんじゃないわよ。二年あったら子供だって産めるわ」
「不幸になっとるかもしれんじゃろ」
どんなに可愛く思っていてもそれはそれとして、馬鹿なのか、とカリファは思う。カクはここまで馬鹿だったかしら、と。カクはこの件に関してだけは、全然冷静じゃなかった。普段の一パーセントほどだって、冷静じゃない。口を尖らせて不満そうに言ったかと思えば「のう……、やっぱり、他に男が出来とると思うか?」と一転、不安そうに聞いてくる。そんなに気になるならさっさと調べればいいじゃないの、と返せば、馬鹿なのか!? そんなの怖くて出来るわけないじゃろう? と馬鹿に馬鹿と言われてしまうのだ。私たちが五年間過ごしたあの島は、ここから船で何日もかかるというのに、調べずに行って無駄足になったらどうするつもりなのか。カリファは呆れて、ものも言えなくなる。聞こえるようにわかりやすくため息をついたカリファを、カクはキッと睨んだ。カリファは優しくない、とボソボソとぼやいているが、カリファは大人なのでそれを華麗に無視した。
「不幸になっとらんかの?」
「それは心配なの? 願望に聞こえるわよ」
「願望に決まっとる。わし以外の男と幸せになるなんて許せん」
「……子供ね」
「カリファよりはな」
無言で殴ると簡単に拳を掴まれてしまった。どうせ当たるわけがなかったがそれでも悔しいカリファは、先輩にも、レディにも、礼儀がなってないわ、と苦し紛れに言ってみる。「失礼」と心のこもらない、形式的な謝罪がかえって頭にくる。
「好きにすればいいわ」
泣いて帰ってきたら慰めてあげる。これ以上ない優しい言葉だとカリファは思うのだが、カクからは、やっぱりカリファは優しくない、と拗ねられてしまった。
だって、二年よ?
たった今
「前の部屋ね、水没しちゃったの」
「ああ、知っとる」
知ってるんだ! ああでも、引っ越しの理由なんてきっとすぐわかるよね、とウカは一人納得したようだ。
カクがウカの部屋のドアをノックすると、ウカはほんとに来た、と呟いて、そのあと「びっくりした」と全然驚いていないふうに言った。
「その、久しぶりじゃの」
「なんか、緊張してる?」
ウカがくすくすと笑いながらカクが隠していたものをぴたりを言い当てるので、カクは動揺しながらキャップのつばに手をかけ、ぐいと目深にかぶった。ウカはカクのその様子を見て、また笑みをこぼした。立ち話もなんだし、お茶でも飲む? とウカが気を遣ってくれたが、さすがにそれは、とカクは遠慮した。ウカは、そう、と短く言って自分の分のコーヒーを淹れる。
「そんなとこに立ってないで、せめて座ったら?」
ソファどうぞ? ウカはコーヒーをマグに注ぎながら、所在なさげにドアの前に立ったまま動かないカクに声をかけた。あまりにも、最後に会った日と変わらないウカにカクは調子が狂う。髪の長さも色も、眉の描き方も、服やアクセサリーの趣味も、カクが知っているウカと違わなかった。カリファに言われた言葉を思い出し、薬指や腹回りにもつい目がいくが、見たところ指輪もしておらず、身ごもっている様子もなかった。この新しい部屋にも男の気配は感じない。
「ほんとに、ってなんじゃ?」
ウカはベッドに、カクはウカにすすめられたソファにおずおずと腰を下ろす。出会い頭に言われた「ほんとに来た」を今更ながら問うと、ウカは、半信半疑だったんだけどね、と前置きしてからベッドのヘッドボードに手を伸ばし、一枚のカードをサイドテーブルに置いた。見ると「長鼻の男がお邪魔するかもしれません」とたった一行、女性のような字が並ぶ。差出人は書いておらず、どうやって届いたのかもわからないのだという。
「かも、って書いてあったから、どっちかなあって思ってたんだけど」
やられた、とカクは目元を手で覆った。これはカリファの字だ。カクの手で隠れなかった口元は、口角が上がっているのが見て取れる。ウカはそんなカクを見て満足そうに鼻をこする。
「……待っていて、くれたのか?」
「まあ、……用事もなかったし」
なんとなく冷たく聞こえたウカの声に、カクは押し黙ってしまう。ウカは、思いのほか冷たく響いた自分の声に、自分で驚いているようだった。少しの気まずい沈黙の後、その空気を振り払うかのように、ウカは一度だけ大きく深呼吸をしてから口を開いた。
「パウリーから聞いたよ」
カクはウカ以外にも騙した男の名前を聞いて居心地の悪い気持ちになり、一瞬、視線を自分のつま先に向けてしまう。カクはもちろん、今でもあれは世界のために必要な任務だったと思っており、彼らを騙したことに何の後悔もなかったが、後悔していないからと言って、悪く思っていないかと言えば、それはまた別の話だった。
ああ、やっぱりお茶をもらえばよかった。そしたら少しは気が紛れたかもしれない、と内省しているカクに、ウカの思いもよらない言葉が続く。
「パウリーが言ってたの。あの状況で、カクが私に別れを言いに来るのはきっと簡単なことじゃなかったはずだって」
「パウリー、が」
「カクは黙っていなくなってもよかったはずなのに、わざわざ会いに来たんだから」
カクは、二年前、自分たちが敗れた戦いを思い出す。パウリーが海列車で麦わらと共に自分たちを追いかけてきたことは知っていた。だが、辿り着いたのはロロノアで、伝言という形でパウリーから「クビ」を言い渡された。あの夜、島から出る海列車の中で、自分はもう二度と金槌と鑿を持つことはないのだと、当たり前のことを自分に言い聞かせていた。そこに重ねられた「クビ」の二文字は、思いのほかぐさりと刺さった。そして、わざわざそれを言い渡すために、あの島までくらいついてきたパウリーも。
「きっと、ちゃんと好かれてたって、言ってくれて」
会いに行ったのは、好きだったから。
「……パウリーに、感謝じゃな」
「憎んで生きてくのは辛かったから、本当に助かった。パウリー当たってた?」
「ああ、寸分違わず」
パウリーすごいな、とウカが笑う。ああ、本当に、と同意した。
パウリーが、至らなかった自分との別れで傷ついただろうウカをそんなふうに救ってくれていたとは知らなかった。カクは一人、まるで祈るように顔の前で手を組んだ。パウリーに、いつか言えるだろうか。彼は、もう会いたくないかもしれないが。
「でさァ、カクは何しに来たわけ?」
「い、や……ウカは元気かと、気になって」
「なにそれ。本気? 馬っ鹿じゃないの」
カリファと同じ調子、いや、カリファよりも「っ」の分強い調子のウカに、カクは言葉を続けられなくなる。数分、カクを見つめ続けたウカは、埒が明かないと言い、カクに助け船を出す。
「なんで付き合ってる人がいるとかいないとか聞いてくれないの? 失礼じゃない?」
「いるのか!?」
「それがさァ、全然うまくいかないの」
カク、何か邪魔してる? ウカは悪戯っぽく言いながらも、半分は真面目に、疑い深い目でカクを探るようにみつめた。これが聞きたかったのか。カクは濡れ衣じゃ、と両手を上げる。それが出来たらこんなに苦労はしていない。ウカは、ふ、と息を吐くと、じゃあ単純に私のせいか、と大げさにため息をついた。
「ウカはいい女じゃ。周りの男が馬鹿なんじゃ」
「カクも?」
「わしは馬鹿じゃない」
「へえ。じゃあ、また付き合ってくれる?」
「そっ……」
それが出来たらわしはこんなに困ってない、とカクは泣きそうになって言った。
「わしだって、わし以外の男と幸せになるウカなんて見とうないんじゃ。でも、わしはどう頑張っても、ウカに普通の幸せはやれん」
「ほう、例えば?」
「け、結ッ婚、とか……、子供とか!」
「他には?」
「毎日ただいまと家に帰ってくるとか、そういうやつじゃ」
カクの捨て鉢な物言いは気にも留めず、そういうやつか、とウカは顎に手をあてる。
「じゃあ、どんな幸せならもらえるの?」
「ど、どんな……、死にそうになったら、なるべく生きて戻ってウカのそばで死ぬ……」
「不穏すぎる!」
私、カクの本当の仕事ってよくわかってないんだよ、とウカは喚いた。そして、何も知りたくないから何も聞かせないで! と叫ぶ。パウリーのやつ、そこは言わんかったのかと、カクは口を開けて驚くばかりだ。魚のように口をぱくぱくと開けて何か言いたげなカクを尻目に、ウカは、じゃあ、と仕切り直す。
「毎日は無理でも、どれくらいなら会えそうなの?」
「あ、会えそう? ……、半年に」
「もう一声!」
「い、三か月…に一回なら、たぶん」
カクは目を下の方に向けながら頭を巡らして、なんとかそれだけ言った。自分はいったい何を言わされているのか、と考える余裕はカクにはもうなかった。代わりに考えているのは三か月に一回どうやってこの島にやってくるか、アイスバーグやパウリーに見つからないようにしなければ、そもそもルッチにばれたら終わりだ、どうやって時間を作れば、といったことだったが、考えれば考えるほどやっぱり無理で、だからやっぱり無理だとカクが言いかけたその時。
「じゃあ、いいよそれで」
「はァ!?」
「いいよ、三か月に一回、会いに来て」
「ば、馬鹿なのか!? そんな人生でいいのか!?」
「うん、いいの」
ウカはまっすぐカクを見つめた。カクの瞳にうつる自分の満ち足りた笑顔を見つけたウカは安心する。カクが見ている自分はとても幸せそうだ、と。
「あの日、カクと別れたこと以上に悲しいことはこれまでなかった。もう、嫌なの」
ウカは揺らがない大木のような、大きな湖のような、堂々とした態度だった。カクは、ウカが自分よりずっとずっと考え、何度も自問し首を振り、それでも、と覚悟を決めたのだろうということがすぐにわかった。そして、先ほどやっぱり無理だと言いかけた自分を恥じた。
「何か、せめて詫びを……」
カクが小さく背中を丸めて恐縮しながら言うので、ウカは調子に乗った様子で「じゃあ、お願い聞いてもらおうかな」とえらく上機嫌になった。
「わしにできることなら」
「キスして」
カクの鼓膜を震わせた言葉はカクの脳髄に届いて、聞き間違いか? とカクの目をぱちくりさせた。あっけにとられるカクだったが、ウカは頷くばかりだ。カクは柔らかいソファから腰を浮かせてウカの側に侍り、小さな肩を抱く。
二年ぶりの懐かしい体温を唇で測り終え、カクがウカの顔を覗き込むとウカが潤んだ瞳で訴える。
「もっと」おしまい
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夢小説,長編・連作,ONEPIECE,KISSMEMORE 4569字 No.33
それはゴールデンデイズ #カク #パウリー
夏が終わったな、とパウリーは思った。吹く風だろうか、空の高さだろうか、アクアラグナが去った後は、毎年こうだ。夏だけが終わる感じがするよね、と言ったのはウカだったと思い出す。パウリーはウカの言うことがいまいちよくわからず、首をひねっていたが、ウカの隣にいたカクは「確かにのう」と大きく頷いていたのをよく覚えている。夏が終わる、雨が降る前の匂い、夜の温度、笑っている犬、そういうのをよく「わかる」と言い合っていた。
一緒にいると、わかるようになるもんか? とパウリーは思ったが、それならおれの方がウカとの付き合いは長いんだからわかっていいはずだよなと思い直し、こいつらはなんかそういうのが合うんだなきっと、と納得した。それが、いつかの夏の終わりだ。ここ数年の話のはずだが、遠い蜃気楼の向こうにある夏の話だったように思える。
二年前・夏の終わり
パウリーが、尊敬する社長を襲った不埒な輩にクビを言い渡して島に戻ると、島は島で大変なありさまだった。かつてない規模のアクララグナに襲われた街の被害は例年以上に深刻で、そんななか本社は焼け落ちており、まあとにかく命からがら戻ってきた身体には堪える、散々な忙しさが十分に覚悟出来る様子だった。
「パウリー」
「あ、アイスバーグさん」
休んではいられない、とまずはドッグに顔を出したパウリーは、アイスバーグの包帯だらけの姿を見て顔をしかめたが、それはアイスバーグも同じだった。アイスバーグは、パウリーの肩に手を置いて、よく戻った、と短く、だが力強く激励する。傷の痛みより、お互い無事でよかったという安堵の方が勝った。とはいえ、パウリーはそれでも自分の力不足と情けなさを痛感しており、悔しさに歯を食いしばった。喉の奥の方から絞り出したような声が出る。
「勝手して、すみません」
「いや、いいんだ、それは」
アイスバーグは事も無げに言った。命があって本当によかった、とそれしか言わない。パウリーは頭を振って、気持ちを切り替えた。
「なんです? 仕事ですか? なんでもすぐに取り掛かれますよ」
「違うんだ」
アイスバーグは、おれじゃあ駄目なんだ、と言いながら力ない笑顔でパウリーに降参のポーズをとった。パウリーは何のことかさっぱり見当がつかず、尊敬する男の「お手上げ」ポーズも初めて見るものだったので、何かあったんですか!? と大きな声を出してしまう。
「ンマー、ウカがなァ」
「え、あ……」
パウリーは一瞬の間の後、すぐに察した。そして、自分たちを五年もの間だまし、つい先日あっけなく裏切っていた元仲間たちを思い出し、ぎりぎりと唇を噛んだ。思い出したくもなかったが、思い出すまいと意識すればするほど思い出されるのだから仕方ない。散々な目に遭わされたし、殺されかけた。そいつらには「勝利」してきたはずだが、そんなもので溜飲が下がるものでもなく、許せるはずもなかった。
そして何より、必死で追いかけたのに、結局何も話せず、何も聞けなかった。
帰ってきた今だからこそ思う。話せたとして、話したところできっと何も変わらないし、自分の望む答えは決して得られない。むしろ、余計怒りが募るだろうと。それは、追ってみたからこそわかった。だとしても。なぜ、どうして、と、疑問は胸の中で燻りつづけ、じりじりと火傷のような痛みを負いつづけている。
ウカは、話せたのだろうか。それとも、カクは何も言わず去ったのだろうか。
「ウカはいま、仮設本社に仮住まいだ」
「え? どうしたんです?」
「部屋が水没したんだと」
「なっ!?」
◆
「虫の知らせ、かな? このマグカップだけは一緒に避難したんだよね」
いつもは荷物に入れたりしないのになんでだろう。ウカはマグカップをことりとデッキにおいて、不思議そうに腕を組んだ。
アクアラグナが去った後の今日は突き抜けるような青さの快晴だった。ウカは窓の下のデッキでお茶を飲みたがり「ああ、でもパウリーの分のカップがないや」と申し訳なさそうにした。おれはいい、というパウリーと、コーヒーを淹れてきたウカは並んでデッキに腰かける。
元は本社だった瓦礫に埋もれるように建てられた一階だけの仮設本社はみるみる出来上がり、すでに麦わらたちにも寝床を提供しているらしい。さすがの麦わらたちも今日は誰も起きておらず、無事だった社員は出払っているか、自宅や街の片づけに追われており、仮設本社にはほとんど人がいない。
カクのマグカップだというそれは、乳白色でたっぷりしたサイズ感ではあったが、どこにでもありそうな、ただの食器にしか見えない。ウカはそれでコーヒーをごくごくと飲んだ。もう冷めちゃってちょっと酸っぱい、と舌を出す。
ウカは「よくわかんないけど急にふられて部屋は水浸しになってしまった」と言った。そして、踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂、一難去ってまた一難、濡れてるのに雨、雪の上に霜、……と自分の不幸さを知る限りの表現で、淡々と教えてくれる。
付き合っていた恋人から急に別れを告げられたその夜に自室が浸水して、住む場所と自分の財産、そして恋人との思い出の品を失った人間にしては、少なくともパウリーには、ウカは何でもなさそうに見え、それが怖かった。
ウカは、からっからに乾ききった花や木のように思え、今は辛うじて形を保っているものの、触れてしまえばパリパリという軽い音とともに壊れてしまいそうにみえる。水を含ませたところで、もう決してもとには戻らない。
「あとは全部水に浸かっちゃった。もう、ほんと、今年のアクアラグナは最悪」
「その……、大丈夫じゃねぇんだろうけど」
「あ、でもね。アイスバーグさんがここにしばらく住んでていいっていうし、使ってた家具は元々前住んでた人が置いてったやつばっかりだったし、結構大丈夫」
断捨離が過ぎるよねえと、呑気そうな声を出す。カクとの別れには触れないウカが痛々しかった。
「……話せたのか?」
パウリーは意を決して口にした。避けては通れないと思った。無視されるかとも思ったが、ウカはこれまた以外にも「どうだろう」と何でもないふうに言った。
「どうだろうって」
「うーん、だって」
はじめは気を遣っていたパウリーだったが、ウカの、どこ吹く風といった他人事みたいな態度が少しだけ彼を苛立たせた。パウリーも大怪我をしており本調子でなく、余裕がなかったのだ。少なくともウカは会えたのに、という妬みもあった。おれは、殺されかけただけ。パウリーはふっとよぎった自分の思いに、ぎゅっと拳を握る。
「ちゃんと言えたか? 気持ちとか、文句とか」
「どう、だろう」
ウカの歯切れの悪さに少しずつ苛立ちが募っていくパウリーは、ウカが小さく身体を震わせていることには気が付かない。
「そんな、お前」
もう二度と会えないかもしれないんだぞ、とパウリーが言いかけたそのとき、ウカが、コーヒーを飲んでいたマグカップを床に叩きつけた。腕を上から下にぶんと振り下ろして叩きつけたものだから、案の定、ガチャン、と見事な音を立てたマグカップは、血だまりみたいに広がるコーヒーに濡れながら無残な姿になった。ウカは、割れたマグカップを見つめながら、はあ、はあと肩を上下させていた。
「だって、」
「ウカ」
「なんで! どうして!」
終わりがあるって知ってたくせに! と続いた言葉は、空気をびりびりと震わせるような大声でほとんど悲鳴のようだった。そして、うう、と小さく唸ったかと思うと、空を仰ぐようにしてわあわあと泣き出した。堰を切ったように幾筋もの涙が頬を伝い、顎の先で合流してぼたぼたと滴り落ちた。
パウリーは、大人がこんなふうに泣くのを初めてみた。大人でもこんなふうに泣けるのか、と息を吞む。ああ、うああ、と声を上げて泣き叫ぶウカはまだ言葉を持たない赤ん坊のようだった。身体からとめどなく溢れ出る悲しみに溺れ、呼吸もままならない様子で、時々、ひぃ、としゃくりあげている。さするウカの背中は熱くて熱くて、湯気が出てもおかしくないと思うほどだった。
「ほんとだよな」
決して慰めになんかならないと思っても、パウリーは言わずにはいられなかった。そうだ、おれだって。
「あいつら、ひでぇよ」
重ねる言葉に自分でも傷ついた。彼らに言えなかった言葉を、つらつらと重ねていく。ウカの泣く声はすさまじく、パウリーの言葉が届いているかはわからなかったが、パウリーは自分のために、ぽつぽつと呟く。
「おれは、仲間だと思ってたんだ」
今も、とは決して言葉に出さない。だってまだ何も聞けていない。叫んだ言葉には、お前だけだとにべもなく返されたが、あれは本心なのだろうか。この五年間、あいつらは一度だっておれらを好ましく思ったことがなかったのか?
少なくともカクは、きっとそんなことないと、パウリーは隣で泣きじゃくるウカを見て思う。あの状況で、カクはウカに別れを言いに来たのだ。それはきっと簡単じゃなかった。黙っていなくなってもよかったはずなのにカクはそれをしなかった。それがあの時の彼に許された精一杯の答えなのだと思う。落ち着いたらウカに言ってやろう。また泣くかもしれないし、「そんなので許せるわけない」と怒るかもしれないが、好かれていたのだと、知らないよりはきっといい。
どれほど泣いたかわからないが、ウカが少しずつ静かになっていく。いつの間にか日は傾いて、ただ眩しく明るかった透明な光に、少しだけ金色が混じっている。ああ、日が暮れていく、今日が終わる、とパウリーは寂しくなる。子供の頃から、なんとなく寂しくなるこの時間が苦手だ。
それでもまた明日はやってきて、死なない以上、生きていく。
「自分の手で壊してやりたかったんじゃねぇか?」
「……ん?」
「マグカップ。水にさらわれて無くなるよりよ、自分でガチャンとやれたら、多少すっきり、しねぇ?」
そうかも、とウカは涙と鼻水でぐちゃぐちゃに湿った顔で、叫び続けて枯れた声で、ほんの少しだけ笑った。
「また会えるかな」
独り言みたいなウカの言葉に、パウリーは何も言えなかった。
ただ、会えたらいいなとパウリーも思った。おしまい
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夏が終わったな、とパウリーは思った。吹く風だろうか、空の高さだろうか、アクアラグナが去った後は、毎年こうだ。夏だけが終わる感じがするよね、と言ったのはウカだったと思い出す。パウリーはウカの言うことがいまいちよくわからず、首をひねっていたが、ウカの隣にいたカクは「確かにのう」と大きく頷いていたのをよく覚えている。夏が終わる、雨が降る前の匂い、夜の温度、笑っている犬、そういうのをよく「わかる」と言い合っていた。
一緒にいると、わかるようになるもんか? とパウリーは思ったが、それならおれの方がウカとの付き合いは長いんだからわかっていいはずだよなと思い直し、こいつらはなんかそういうのが合うんだなきっと、と納得した。それが、いつかの夏の終わりだ。ここ数年の話のはずだが、遠い蜃気楼の向こうにある夏の話だったように思える。
二年前・夏の終わり
パウリーが、尊敬する社長を襲った不埒な輩にクビを言い渡して島に戻ると、島は島で大変なありさまだった。かつてない規模のアクララグナに襲われた街の被害は例年以上に深刻で、そんななか本社は焼け落ちており、まあとにかく命からがら戻ってきた身体には堪える、散々な忙しさが十分に覚悟出来る様子だった。
「パウリー」
「あ、アイスバーグさん」
休んではいられない、とまずはドッグに顔を出したパウリーは、アイスバーグの包帯だらけの姿を見て顔をしかめたが、それはアイスバーグも同じだった。アイスバーグは、パウリーの肩に手を置いて、よく戻った、と短く、だが力強く激励する。傷の痛みより、お互い無事でよかったという安堵の方が勝った。とはいえ、パウリーはそれでも自分の力不足と情けなさを痛感しており、悔しさに歯を食いしばった。喉の奥の方から絞り出したような声が出る。
「勝手して、すみません」
「いや、いいんだ、それは」
アイスバーグは事も無げに言った。命があって本当によかった、とそれしか言わない。パウリーは頭を振って、気持ちを切り替えた。
「なんです? 仕事ですか? なんでもすぐに取り掛かれますよ」
「違うんだ」
アイスバーグは、おれじゃあ駄目なんだ、と言いながら力ない笑顔でパウリーに降参のポーズをとった。パウリーは何のことかさっぱり見当がつかず、尊敬する男の「お手上げ」ポーズも初めて見るものだったので、何かあったんですか!? と大きな声を出してしまう。
「ンマー、ウカがなァ」
「え、あ……」
パウリーは一瞬の間の後、すぐに察した。そして、自分たちを五年もの間だまし、つい先日あっけなく裏切っていた元仲間たちを思い出し、ぎりぎりと唇を噛んだ。思い出したくもなかったが、思い出すまいと意識すればするほど思い出されるのだから仕方ない。散々な目に遭わされたし、殺されかけた。そいつらには「勝利」してきたはずだが、そんなもので溜飲が下がるものでもなく、許せるはずもなかった。
そして何より、必死で追いかけたのに、結局何も話せず、何も聞けなかった。
帰ってきた今だからこそ思う。話せたとして、話したところできっと何も変わらないし、自分の望む答えは決して得られない。むしろ、余計怒りが募るだろうと。それは、追ってみたからこそわかった。だとしても。なぜ、どうして、と、疑問は胸の中で燻りつづけ、じりじりと火傷のような痛みを負いつづけている。
ウカは、話せたのだろうか。それとも、カクは何も言わず去ったのだろうか。
「ウカはいま、仮設本社に仮住まいだ」
「え? どうしたんです?」
「部屋が水没したんだと」
「なっ!?」
◆
「虫の知らせ、かな? このマグカップだけは一緒に避難したんだよね」
いつもは荷物に入れたりしないのになんでだろう。ウカはマグカップをことりとデッキにおいて、不思議そうに腕を組んだ。
アクアラグナが去った後の今日は突き抜けるような青さの快晴だった。ウカは窓の下のデッキでお茶を飲みたがり「ああ、でもパウリーの分のカップがないや」と申し訳なさそうにした。おれはいい、というパウリーと、コーヒーを淹れてきたウカは並んでデッキに腰かける。
元は本社だった瓦礫に埋もれるように建てられた一階だけの仮設本社はみるみる出来上がり、すでに麦わらたちにも寝床を提供しているらしい。さすがの麦わらたちも今日は誰も起きておらず、無事だった社員は出払っているか、自宅や街の片づけに追われており、仮設本社にはほとんど人がいない。
カクのマグカップだというそれは、乳白色でたっぷりしたサイズ感ではあったが、どこにでもありそうな、ただの食器にしか見えない。ウカはそれでコーヒーをごくごくと飲んだ。もう冷めちゃってちょっと酸っぱい、と舌を出す。
ウカは「よくわかんないけど急にふられて部屋は水浸しになってしまった」と言った。そして、踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂、一難去ってまた一難、濡れてるのに雨、雪の上に霜、……と自分の不幸さを知る限りの表現で、淡々と教えてくれる。
付き合っていた恋人から急に別れを告げられたその夜に自室が浸水して、住む場所と自分の財産、そして恋人との思い出の品を失った人間にしては、少なくともパウリーには、ウカは何でもなさそうに見え、それが怖かった。
ウカは、からっからに乾ききった花や木のように思え、今は辛うじて形を保っているものの、触れてしまえばパリパリという軽い音とともに壊れてしまいそうにみえる。水を含ませたところで、もう決してもとには戻らない。
「あとは全部水に浸かっちゃった。もう、ほんと、今年のアクアラグナは最悪」
「その……、大丈夫じゃねぇんだろうけど」
「あ、でもね。アイスバーグさんがここにしばらく住んでていいっていうし、使ってた家具は元々前住んでた人が置いてったやつばっかりだったし、結構大丈夫」
断捨離が過ぎるよねえと、呑気そうな声を出す。カクとの別れには触れないウカが痛々しかった。
「……話せたのか?」
パウリーは意を決して口にした。避けては通れないと思った。無視されるかとも思ったが、ウカはこれまた以外にも「どうだろう」と何でもないふうに言った。
「どうだろうって」
「うーん、だって」
はじめは気を遣っていたパウリーだったが、ウカの、どこ吹く風といった他人事みたいな態度が少しだけ彼を苛立たせた。パウリーも大怪我をしており本調子でなく、余裕がなかったのだ。少なくともウカは会えたのに、という妬みもあった。おれは、殺されかけただけ。パウリーはふっとよぎった自分の思いに、ぎゅっと拳を握る。
「ちゃんと言えたか? 気持ちとか、文句とか」
「どう、だろう」
ウカの歯切れの悪さに少しずつ苛立ちが募っていくパウリーは、ウカが小さく身体を震わせていることには気が付かない。
「そんな、お前」
もう二度と会えないかもしれないんだぞ、とパウリーが言いかけたそのとき、ウカが、コーヒーを飲んでいたマグカップを床に叩きつけた。腕を上から下にぶんと振り下ろして叩きつけたものだから、案の定、ガチャン、と見事な音を立てたマグカップは、血だまりみたいに広がるコーヒーに濡れながら無残な姿になった。ウカは、割れたマグカップを見つめながら、はあ、はあと肩を上下させていた。
「だって、」
「ウカ」
「なんで! どうして!」
終わりがあるって知ってたくせに! と続いた言葉は、空気をびりびりと震わせるような大声でほとんど悲鳴のようだった。そして、うう、と小さく唸ったかと思うと、空を仰ぐようにしてわあわあと泣き出した。堰を切ったように幾筋もの涙が頬を伝い、顎の先で合流してぼたぼたと滴り落ちた。
パウリーは、大人がこんなふうに泣くのを初めてみた。大人でもこんなふうに泣けるのか、と息を吞む。ああ、うああ、と声を上げて泣き叫ぶウカはまだ言葉を持たない赤ん坊のようだった。身体からとめどなく溢れ出る悲しみに溺れ、呼吸もままならない様子で、時々、ひぃ、としゃくりあげている。さするウカの背中は熱くて熱くて、湯気が出てもおかしくないと思うほどだった。
「ほんとだよな」
決して慰めになんかならないと思っても、パウリーは言わずにはいられなかった。そうだ、おれだって。
「あいつら、ひでぇよ」
重ねる言葉に自分でも傷ついた。彼らに言えなかった言葉を、つらつらと重ねていく。ウカの泣く声はすさまじく、パウリーの言葉が届いているかはわからなかったが、パウリーは自分のために、ぽつぽつと呟く。
「おれは、仲間だと思ってたんだ」
今も、とは決して言葉に出さない。だってまだ何も聞けていない。叫んだ言葉には、お前だけだとにべもなく返されたが、あれは本心なのだろうか。この五年間、あいつらは一度だっておれらを好ましく思ったことがなかったのか?
少なくともカクは、きっとそんなことないと、パウリーは隣で泣きじゃくるウカを見て思う。あの状況で、カクはウカに別れを言いに来たのだ。それはきっと簡単じゃなかった。黙っていなくなってもよかったはずなのにカクはそれをしなかった。それがあの時の彼に許された精一杯の答えなのだと思う。落ち着いたらウカに言ってやろう。また泣くかもしれないし、「そんなので許せるわけない」と怒るかもしれないが、好かれていたのだと、知らないよりはきっといい。
どれほど泣いたかわからないが、ウカが少しずつ静かになっていく。いつの間にか日は傾いて、ただ眩しく明るかった透明な光に、少しだけ金色が混じっている。ああ、日が暮れていく、今日が終わる、とパウリーは寂しくなる。子供の頃から、なんとなく寂しくなるこの時間が苦手だ。
それでもまた明日はやってきて、死なない以上、生きていく。
「自分の手で壊してやりたかったんじゃねぇか?」
「……ん?」
「マグカップ。水にさらわれて無くなるよりよ、自分でガチャンとやれたら、多少すっきり、しねぇ?」
そうかも、とウカは涙と鼻水でぐちゃぐちゃに湿った顔で、叫び続けて枯れた声で、ほんの少しだけ笑った。
「また会えるかな」
独り言みたいなウカの言葉に、パウリーは何も言えなかった。
ただ、会えたらいいなとパウリーも思った。おしまい
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夢小説,長編・連作,ONEPIECE,KISSMEMORE 4240字 No.32
望むらくはノンフィクション #カク
フランキーに口説かれているウカを見るや否や、叫んでいた。慌てて駆け寄り、これ以上ウカに手を出される前に、彼女の手を取って足早に店を去る。ウカは無言でついてきた。
ウカのヒールが石畳を鳴らす音だけが高らかに響く。
「……、さっきは、すまんかった」
先に帰ってしまって。沈黙に耐え切れずカクが謝ると、ウカは足を止めた。ウカ? と振り向くと、ウカは観光客向けの安宿を見つめていた。
五年前・夏の夜
裏町に佇む安宿の女主人はこちらを見ようともせず、部屋の鍵だけ投げるように寄こしてきた。ウカは鍵についている部屋番号のタグを確認するとカクの手を引いて大股でずんずんと進んでいく。
なだれ込むように部屋に入ると、そのままベッドに倒れこんだ。カクは抵抗しなかったが、ウカは体の全部を使って、自分の身体の下にいるカクを、さらにベッドに押し付けるように体重をかけた。互いの鼓動がドッドッどっどっ、と絶え間なくリズムを刻む。どちらがどちらかは、もうわからない。
もちろん、カクはいつだってウカを力で止めることができた。今だって、ウカを押し返すことができる。でもそれはしなかった。ウカがはじめて、自分の気持ちをむき出しにしている。彼女のこの衝動を、いま何かで遮ってしまったら、もう二度と彼女はこんなふうに自分を求めてこないんじゃないかと思った。
ウカは体を起こすと、カクの服を脱がし始める。カクはされるがまま、ウカに身体を預けたが、ベルトに手をかけられたときはじめて、「自分だけ脱がないのはずるいじゃろ?」とウカの手を制した。
ウカはカクのベルトからすっと手を離して、自分のブラウスのボタンを外し始める。脱ぎ終わったカクが手伝おうとすると、ウカは身体を振って拒み、カクに背を向けてしまった。仕方なく、露わになっていくウカの肌をただ見つめる。
「ごめんなさいっ!」
ウカは振り向きざまそう言うと、またカクをベッドに押し倒して、唇を押し付けてきた。肌と肌、粘膜と粘膜が触れ合っているところだけ、妙に熱い。唇の柔らかさと、生き物のように蠢く舌にも驚いたが、とりわけ、生殖器の触れ合いはすさまじい刺激だった。
ウカはわざとなのか、すでに潤っている秘所をカクに擦り付けるように腰をくねらせる。ウカの柔らかな肉襞と、ぬるっ、という感触を己の敏感な部位で知覚したカクは、頭の先からつま先までぶわ、と一気に鳥肌が立った。それは、ウカの「ごめんなさい」が何に対する謝罪なのか、考える余裕がなくなるほどだった。
唇を離したウカは腰を浮かすと、ビンと跳ねるように持ち上がるカクのモノに優しく手を添えて、わ、わ、と焦るカクを尻目に、腰を落としてカクを吞み込んでしまう。カクが果ててしまわないよう、カクの様子を探るウカの視線は、カクを標本の蝶のようにベッドにピン止めした。
「ごめ、んねっ、ごめん、ねっ」
本当はずっと、こうしたかったの。
カクに馬乗りになったウカは、腰を前後に揺らしながら、途切れ途切れに謝罪の言葉を紡いだ。ウカは喘ぐたびにカクをきゅうと締め付けるものだから、カクはウカの腰に手を添えて、ウカに悟られぬようにそっとウカの動きを制御する。このままウカの自由にさせておいては危うかった。
「そ、れなら、さっさとしてくれればよかったものを。随分、焦らされたのう」
本当なら行為に没頭したいのだが、今それをしてしまってはあっけなく果ててしまいそうで、カクは仕方なく、断腸の思いで、気の紛れる会話をすることを選んだ。
「ごめん、ごめんね」
だが、ウカはそんなカクの努力も知らずに、好き、好き、大好き……、とカクがずっと聞きたかった言葉を、腰を振りながら惜しげもなく浴びせた。身体を起こしておけなくなったウカが倒れこむようになると、丸い胸がカクの固い胸板で潰れ、ウカの顔がカクの耳元におさまる。
そうなってもウカはゆるゆると腰を動かした。好き、好きだったの、ごめんね、好き、あっ、好きっ、ん……、カクの耳元で甘い熱を孕んだウカの声が鼓膜を揺らす。たまらず、ウカの腰に添えていたカクの手に力が入る。それに気づいたウカが、ゆっくり動きを止めた。気だるげに身体を起こして、きょとんとする。
「これ以上は我慢できん」
「え、……」
「その……ビギナーには、優しく、手取り足取り、教えて欲しいんじゃけど」
カクが恥を忍んで言うと、ウカは自身の乱れ振りと、カクの告白に、はっと口許を手で覆った。暗闇だったが、耳まで赤く染めているだろうことが想像できる。心なしか体温も上がり、先ほどからカクを捕らえて離さない蜜壺もじゅわ、と、とろみを増した。
これだからこの人は。
羞恥の炎に焼かれているウカのその表情、仕草は、カク自身をまたさらに固くさせる。彼女を貫いているモノがどくりと脈打つのがカクにもわかった。彼女がそれに丁寧に反応して、小さく喘いだのも。全部がカクを追い詰めてくる。
カクが繋がったまま体を起こすと、当たる角度が変わったのかウカの嬌声が口と指の間から漏れてくる。そのまま腰を動かしても良かったが、先ほどから頑なに口許を覆っている両手を指先からはがしていく。唇が見えたところで、すかさず唇を重ねた。
カクは、様々な角度で唇を重ね、ウカの唇を舌で割り、差し入れながら、さっきウカに教わったばかりの気持ちよさを反芻した。そのまま、ウカにやられたのをそっくりそのまま、やり返す。つまり、ウカをベッドに押し倒した。
「わしばっかり、気持ちよくなっとらんか?」
この位置からウカを見下ろせるとはのう、とカクは内心静かに感動した。
「そんなこと、ないよ」
「そうかのう? どうしたら、もっと、いいんじゃ?」
「え?」
「初心者じゃから、教えてもらわんと」
「あ……」
ウカの目が泳ぐ。どう答えたらいいかと考えあぐねているのが手に取るように分かった。もう一押し、とカクは「のう? どこが、いい?」と問いを重ねる。
ウカは目をぎゅっと瞑ってカクの手を取ると、自分の胸の膨らみに誘導した。掌にコロン、と固く尖るものを感じる。膨らみに少しだけ五指を沈めると、ふ、とウカが息を漏らした。指の股に屹立したそれを挟んでくにくにと刺激すると、刹那、ウカが顎の裏を見せるようにして背中をしならせた。そのまま刺激し続けると、腰が切なげに揺れ、カクを呑み込んでいる肉壺がうねうねと収縮する。ウカは、いやいや、と顔を振ってみせるが、繋がっている部分はとてもそのようには思えない。
ウカのいいところ、を弄びながら、喘ぎ声しか出さないウカの耳元で「これがいいんじゃな?」と囁くと、逡巡したのち、首を縦に振った。
「じゃあ、『気持ちいい』って教えてもらわんと」
「あっ、そん、なっ」
「言ってくれんと、わからんじゃろう?」
なにもかも、と続けると、ウカはまた「ごめんっ、なさい」と喘ぎながら詫びた。
「『ごめん』はもう、いいんじゃ」
「あっ、うん、あ」
カクが腰を進めウカをゆっくり貫くと、ウカはその動きに合わせて仰け反っていく。腰を進めながら、聞きたかったこと、答えを知りたかったこと、をひとつずつ尋ねていく。
「ちゃんと、気持ちいいか?」
「ん、うん、うん」
反応を見ながら少しずつ角度や深さを調節する。そうして試していき、びくん、とウカの身体が跳ねるところを丁寧に、何度もこすった。
「ここがいいのか?」
「あァっ、うん、そうッ!」
カクのまだ続けたい、という意志とは裏腹に少しずつ腰の動きが速くなる。
「もっといろいろ、教えてくれるかのう?」
「あっ、うんっ──あッ!」
「これからも?」
「ああっ、うん、んっ」
「……わしのこと、好きじゃろう?」
「あぁッ!」
「いい加減、諦めて、認めてくれ」
「ああっ、ん、だいす、き──ッ」
悲鳴にも似た今日一番の『すき』にあわせて、ウカのつま先がぴん、と伸びる。そのすぐ後、びくびくと痙攣して果てた。カクも堪えきれず、吐精する。ウカは、ぴくぴくと小さく震えている。
「わしもじゃ」
届かなくてもいい、とカクは思った。ウカにはもう何度も伝えているから。それでも言わずにはいられない。だからウカ、あなたも。
おしまい
← →
フランキーに口説かれているウカを見るや否や、叫んでいた。慌てて駆け寄り、これ以上ウカに手を出される前に、彼女の手を取って足早に店を去る。ウカは無言でついてきた。
ウカのヒールが石畳を鳴らす音だけが高らかに響く。
「……、さっきは、すまんかった」
先に帰ってしまって。沈黙に耐え切れずカクが謝ると、ウカは足を止めた。ウカ? と振り向くと、ウカは観光客向けの安宿を見つめていた。
五年前・夏の夜
裏町に佇む安宿の女主人はこちらを見ようともせず、部屋の鍵だけ投げるように寄こしてきた。ウカは鍵についている部屋番号のタグを確認するとカクの手を引いて大股でずんずんと進んでいく。
なだれ込むように部屋に入ると、そのままベッドに倒れこんだ。カクは抵抗しなかったが、ウカは体の全部を使って、自分の身体の下にいるカクを、さらにベッドに押し付けるように体重をかけた。互いの鼓動がドッドッどっどっ、と絶え間なくリズムを刻む。どちらがどちらかは、もうわからない。
もちろん、カクはいつだってウカを力で止めることができた。今だって、ウカを押し返すことができる。でもそれはしなかった。ウカがはじめて、自分の気持ちをむき出しにしている。彼女のこの衝動を、いま何かで遮ってしまったら、もう二度と彼女はこんなふうに自分を求めてこないんじゃないかと思った。
ウカは体を起こすと、カクの服を脱がし始める。カクはされるがまま、ウカに身体を預けたが、ベルトに手をかけられたときはじめて、「自分だけ脱がないのはずるいじゃろ?」とウカの手を制した。
ウカはカクのベルトからすっと手を離して、自分のブラウスのボタンを外し始める。脱ぎ終わったカクが手伝おうとすると、ウカは身体を振って拒み、カクに背を向けてしまった。仕方なく、露わになっていくウカの肌をただ見つめる。
「ごめんなさいっ!」
ウカは振り向きざまそう言うと、またカクをベッドに押し倒して、唇を押し付けてきた。肌と肌、粘膜と粘膜が触れ合っているところだけ、妙に熱い。唇の柔らかさと、生き物のように蠢く舌にも驚いたが、とりわけ、生殖器の触れ合いはすさまじい刺激だった。
ウカはわざとなのか、すでに潤っている秘所をカクに擦り付けるように腰をくねらせる。ウカの柔らかな肉襞と、ぬるっ、という感触を己の敏感な部位で知覚したカクは、頭の先からつま先までぶわ、と一気に鳥肌が立った。それは、ウカの「ごめんなさい」が何に対する謝罪なのか、考える余裕がなくなるほどだった。
唇を離したウカは腰を浮かすと、ビンと跳ねるように持ち上がるカクのモノに優しく手を添えて、わ、わ、と焦るカクを尻目に、腰を落としてカクを吞み込んでしまう。カクが果ててしまわないよう、カクの様子を探るウカの視線は、カクを標本の蝶のようにベッドにピン止めした。
「ごめ、んねっ、ごめん、ねっ」
本当はずっと、こうしたかったの。
カクに馬乗りになったウカは、腰を前後に揺らしながら、途切れ途切れに謝罪の言葉を紡いだ。ウカは喘ぐたびにカクをきゅうと締め付けるものだから、カクはウカの腰に手を添えて、ウカに悟られぬようにそっとウカの動きを制御する。このままウカの自由にさせておいては危うかった。
「そ、れなら、さっさとしてくれればよかったものを。随分、焦らされたのう」
本当なら行為に没頭したいのだが、今それをしてしまってはあっけなく果ててしまいそうで、カクは仕方なく、断腸の思いで、気の紛れる会話をすることを選んだ。
「ごめん、ごめんね」
だが、ウカはそんなカクの努力も知らずに、好き、好き、大好き……、とカクがずっと聞きたかった言葉を、腰を振りながら惜しげもなく浴びせた。身体を起こしておけなくなったウカが倒れこむようになると、丸い胸がカクの固い胸板で潰れ、ウカの顔がカクの耳元におさまる。
そうなってもウカはゆるゆると腰を動かした。好き、好きだったの、ごめんね、好き、あっ、好きっ、ん……、カクの耳元で甘い熱を孕んだウカの声が鼓膜を揺らす。たまらず、ウカの腰に添えていたカクの手に力が入る。それに気づいたウカが、ゆっくり動きを止めた。気だるげに身体を起こして、きょとんとする。
「これ以上は我慢できん」
「え、……」
「その……ビギナーには、優しく、手取り足取り、教えて欲しいんじゃけど」
カクが恥を忍んで言うと、ウカは自身の乱れ振りと、カクの告白に、はっと口許を手で覆った。暗闇だったが、耳まで赤く染めているだろうことが想像できる。心なしか体温も上がり、先ほどからカクを捕らえて離さない蜜壺もじゅわ、と、とろみを増した。
これだからこの人は。
羞恥の炎に焼かれているウカのその表情、仕草は、カク自身をまたさらに固くさせる。彼女を貫いているモノがどくりと脈打つのがカクにもわかった。彼女がそれに丁寧に反応して、小さく喘いだのも。全部がカクを追い詰めてくる。
カクが繋がったまま体を起こすと、当たる角度が変わったのかウカの嬌声が口と指の間から漏れてくる。そのまま腰を動かしても良かったが、先ほどから頑なに口許を覆っている両手を指先からはがしていく。唇が見えたところで、すかさず唇を重ねた。
カクは、様々な角度で唇を重ね、ウカの唇を舌で割り、差し入れながら、さっきウカに教わったばかりの気持ちよさを反芻した。そのまま、ウカにやられたのをそっくりそのまま、やり返す。つまり、ウカをベッドに押し倒した。
「わしばっかり、気持ちよくなっとらんか?」
この位置からウカを見下ろせるとはのう、とカクは内心静かに感動した。
「そんなこと、ないよ」
「そうかのう? どうしたら、もっと、いいんじゃ?」
「え?」
「初心者じゃから、教えてもらわんと」
「あ……」
ウカの目が泳ぐ。どう答えたらいいかと考えあぐねているのが手に取るように分かった。もう一押し、とカクは「のう? どこが、いい?」と問いを重ねる。
ウカは目をぎゅっと瞑ってカクの手を取ると、自分の胸の膨らみに誘導した。掌にコロン、と固く尖るものを感じる。膨らみに少しだけ五指を沈めると、ふ、とウカが息を漏らした。指の股に屹立したそれを挟んでくにくにと刺激すると、刹那、ウカが顎の裏を見せるようにして背中をしならせた。そのまま刺激し続けると、腰が切なげに揺れ、カクを呑み込んでいる肉壺がうねうねと収縮する。ウカは、いやいや、と顔を振ってみせるが、繋がっている部分はとてもそのようには思えない。
ウカのいいところ、を弄びながら、喘ぎ声しか出さないウカの耳元で「これがいいんじゃな?」と囁くと、逡巡したのち、首を縦に振った。
「じゃあ、『気持ちいい』って教えてもらわんと」
「あっ、そん、なっ」
「言ってくれんと、わからんじゃろう?」
なにもかも、と続けると、ウカはまた「ごめんっ、なさい」と喘ぎながら詫びた。
「『ごめん』はもう、いいんじゃ」
「あっ、うん、あ」
カクが腰を進めウカをゆっくり貫くと、ウカはその動きに合わせて仰け反っていく。腰を進めながら、聞きたかったこと、答えを知りたかったこと、をひとつずつ尋ねていく。
「ちゃんと、気持ちいいか?」
「ん、うん、うん」
反応を見ながら少しずつ角度や深さを調節する。そうして試していき、びくん、とウカの身体が跳ねるところを丁寧に、何度もこすった。
「ここがいいのか?」
「あァっ、うん、そうッ!」
カクのまだ続けたい、という意志とは裏腹に少しずつ腰の動きが速くなる。
「もっといろいろ、教えてくれるかのう?」
「あっ、うんっ──あッ!」
「これからも?」
「ああっ、うん、んっ」
「……わしのこと、好きじゃろう?」
「あぁッ!」
「いい加減、諦めて、認めてくれ」
「ああっ、ん、だいす、き──ッ」
悲鳴にも似た今日一番の『すき』にあわせて、ウカのつま先がぴん、と伸びる。そのすぐ後、びくびくと痙攣して果てた。カクも堪えきれず、吐精する。ウカは、ぴくぴくと小さく震えている。
「わしもじゃ」
届かなくてもいい、とカクは思った。ウカにはもう何度も伝えているから。それでも言わずにはいられない。だからウカ、あなたも。
おしまい
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夢小説,官能小説,長編・連作,ONEPIECE,KISSMEMORE 3434字 No.31
今夜ばかりは我慢の限界 #カク #フランキー
久しぶりに酔いつぶれて、ゴト、という音とともにバーカウンターに突っ伏してしまった。もう頭を上げるのも億劫だ。
五年前・夏
カクさんに振られた。いや、この場合、私が振ったのだろうか。どうなんだろう、あまり突き詰めて考えたくないのに、さっきからそればかり考えている。とにかくカクさんに「さすがのわしも傷つく」と言われてしまった。ああ、愛想を尽かされた、というのが一番しっくりくる。
いつまでもカクさんに甘えていたのが良くなかった。カクさんならまだ許してくれると、知らず知らずのうちに思っていたのかもしれない。
いつものように食事をしていたら、いつものように「で、いつになったら付き合うんじゃ? わしら」と聞かれた。だから、いつものように「ん~?」とはぐらかしたのだが、それがいけなかった。いつもなら、カクさんの次の言葉は、眉を下げて残念そうに、でも笑顔で「はあ、今日もダメか」なのだが、今日ばかりは違った。
「……今日でちょうど一年じゃぞ」
と静かに、ぽつりと続いたのだ。
いち、ねん。私が愚かにも状況を掴めずにいるのを察したカクさんは、とても傷ついた顔でそれでも笑って、「わしも気の長い方じゃが…、これは」と、席を立った。
「さすがのわしも傷つく」
カクさんはキャップを被って店を出ていってしまった。すぐに後を追えばよかったのだが、びっくりして足が動かなかった。私にできたのは、食べかけのハンバーグが冷めていくのをただ見つめることだけだった。
こんなふうにはなりたくなかったから、はぐらかしていたのだが、大層愚策だったと今になって身に染みた。私は彼の気持ちに応えなかったのだ。きっと、少なく見積もって一年間。私の、このとんでもなく悲しくて辛くて申し訳ない気持ちは、若者の一年を無駄に奪ったことへの償いに足りるものだろうか。足りるわけない、とすぐに思い直す。私は彼を傷つけたのだ。私が傷つくのは勝手すぎる。
カクさんが帰ってこなかったレストランからそのまま一人、自分の部屋に帰る気には到底なれなくて、ブルーノの店に飛び込んだ。幸い、キウイちゃんとモズちゃんが楽しそうに飲んでいたところだったから、無理矢理便乗させてもらった。キウイちゃんとモズちゃんは優しくて、らしくない私の飲み方を心配こそすれ、止めはしなかった。せめて水もちゃんと飲むんだわいな、と必ずチェイサーをつけてくれた。空のジョッキがテーブルに所狭しと並んだ。
もうこれで終わりだろうか。何もかも。あっけなく。もう、言い訳も弁明もさせてもらえないのかな。
動けなくなった私のそばでオロオロしていたキウイちゃんとモズちゃんが揃ってどこかへ行って、お店に一人きりになった私は、そんな今更どうしようもないことをぐるぐると考えていた。ブルーノがグラスを拭いているのか、一定のリズムで、棚板にグラスの置かれるコトリ、という音がする。
保たれていたひそやかな空気を乱したのは、どすどすとしたガサツな足音だった。
それは私に近づいてくると、隣の椅子をガタガタと乱暴に引いた。同時に、聞き覚えのある声が上から降ってくる。アルコールで馬鹿になった鼓膜が無理矢理びりびりと震わされた。
「おいブルーノ! こんなになるまで飲ませたのか?」
「……誰だって、潰れたい夜があるだろう?」
急性アルコール中毒にだけはならないよう、気をつけて見ていたよ、という頼もしいのかよくわからない返答に、声の主、フランキーはため息をつく。
「おい、ウカ。聞こえるか? 立て。帰るぞ」
「ほうっておいてよお」
自分でもなんて頭の悪そうな声なんだろうと情けない。
「いい大人の女がこんなに乱れてどうしたってんだ。まさか山猿絡みじゃねえだろうなァ?」
そうだったらおれァ帰るぞ、忌々しい、とフランキーはとても嫌そうに言った。図星だったから、なんて言ったらいいのかわからず、私は額をバーカウンターにこすりつけながら苦笑する。
「……そのとおりだから、ほうっておいてってば」
私の言葉に、フランキーがあからさまに舌打ちをした。ブルーノはキッチンにひっこんだようで、お店の奥からお皿を洗う水音がする。お店にはもう迷惑な客、つまり私と、その客をなんとかしようとしているフランキーしかいない。もう夜深い時間で、店の外も静かなものだ。
フランキーはサイボーグだというけど、日常の動作から機械のような音がすることはなくて、ひそかに不思議に思っていた。だから、フランキーが私の頭に手を置いてゆっくり撫でたのにも、音では気づくことが出来なかった。
フランキーの姿形はだいぶ変わってしまったけど、優しく髪を梳く指先のやさしさは変わらないなと、お酒で痺れた脳でぼんやり思う。
「お前、山猿に告白されてたろ? 返事したのか? して、これか? どういうこった?」
「……はぐらかしてた」
「はぁ? 最低だな。なんで応えてやらねぇんだよ」
「怖かったんだよ。……カクさんは、私よりずっと若くて、優秀で、人気者で、背も高くて、スタイルも良くて、かっこよくて、それなのに気さくで優しくて。なんで私なの? わかんないし、もし、やっぱり無理って振られたりしたら、もう、私、大人だもん。無理だよ」
吸った息一息に淀みなく言い切った私を、フランキーは鼻で笑った。
「承服しかねる点が大分あるが……、まあ、くだらねえなあ」
ガキだってところは同感だ、と馬鹿にしてくるので私は黙ってしまう。それに、自分でもわかっていた。そんな理由で、自分の気持ちを誤魔化していたからこうなってしまったのだ。
髪を梳いていた手が私の手に重ねられて、懐かしい声が耳をくすぐる。
「なら、おれにしておけよ。おれと、仲良くなりてえんだろ?」
なにを、と思ったその瞬間。
「今すぐその手を離せ。フランキー」
カラン、と店のドアベルが鳴ったのと同じくして、カクさんの鋭い声が耳に刺さった。気まずい私は顔を上げられない。代わりにフランキーが答えた。
「はあ、これだからガキは。痴話げんかに巻き込まれて迷惑してんのはこっちの方だ。うちのかわいい妹たちじゃこの女は重くて運べねえってんで、おれァ、きてやってんだぞ?」
まずは礼のひとつやふたつ、言っても損はねえだろう? と、恩着せがましいフランキーに、カクさんはうんざりしたような声で応じた。
「この女呼ばわりとは、随分な言い草じゃの。そりゃどうも、わしのツレが世話になったの。じゃが、その手はなんじゃ。さっさと離せ」
ツレ、ねえ。言うじゃねえか、とフランキーは揶揄うが、私の手を離すことはなく、むしろ強く握りしめてくるものだから、思わずびくりとする。
「大体、おめぇは振られてるんだろ? しつこい男は嫌われるぞ」
「まだ振られとらんわ」
「おうおう、吠えるねえ。残念だったな。おれとこいつはこういう仲なんだ」
言い終わるや否や、露わになった首筋に、湿った熱を感じる。
キス!? と、たまらず椅子から飛びのいて、
「フランキー!」
と叫んだのは私とカクさんだった。
にやにやと勝ち誇ったような顔のフランキーを睨む。
「ここで女を責めるような男だったらよかったのになあ、ウカ」
カクさんは、うっ、と言葉につまった私の手を取ると、何も言わずに店の外へと歩き出した。私も叱られた子供のように項垂れて連れられて行く。
どうせまた、懲りずに惚れ直してるんだろう?
首筋の熱をそっと手で撫でながら、遠くなっていくフランキーの声を背中で受け止めた。おしまい
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久しぶりに酔いつぶれて、ゴト、という音とともにバーカウンターに突っ伏してしまった。もう頭を上げるのも億劫だ。
五年前・夏
カクさんに振られた。いや、この場合、私が振ったのだろうか。どうなんだろう、あまり突き詰めて考えたくないのに、さっきからそればかり考えている。とにかくカクさんに「さすがのわしも傷つく」と言われてしまった。ああ、愛想を尽かされた、というのが一番しっくりくる。
いつまでもカクさんに甘えていたのが良くなかった。カクさんならまだ許してくれると、知らず知らずのうちに思っていたのかもしれない。
いつものように食事をしていたら、いつものように「で、いつになったら付き合うんじゃ? わしら」と聞かれた。だから、いつものように「ん~?」とはぐらかしたのだが、それがいけなかった。いつもなら、カクさんの次の言葉は、眉を下げて残念そうに、でも笑顔で「はあ、今日もダメか」なのだが、今日ばかりは違った。
「……今日でちょうど一年じゃぞ」
と静かに、ぽつりと続いたのだ。
いち、ねん。私が愚かにも状況を掴めずにいるのを察したカクさんは、とても傷ついた顔でそれでも笑って、「わしも気の長い方じゃが…、これは」と、席を立った。
「さすがのわしも傷つく」
カクさんはキャップを被って店を出ていってしまった。すぐに後を追えばよかったのだが、びっくりして足が動かなかった。私にできたのは、食べかけのハンバーグが冷めていくのをただ見つめることだけだった。
こんなふうにはなりたくなかったから、はぐらかしていたのだが、大層愚策だったと今になって身に染みた。私は彼の気持ちに応えなかったのだ。きっと、少なく見積もって一年間。私の、このとんでもなく悲しくて辛くて申し訳ない気持ちは、若者の一年を無駄に奪ったことへの償いに足りるものだろうか。足りるわけない、とすぐに思い直す。私は彼を傷つけたのだ。私が傷つくのは勝手すぎる。
カクさんが帰ってこなかったレストランからそのまま一人、自分の部屋に帰る気には到底なれなくて、ブルーノの店に飛び込んだ。幸い、キウイちゃんとモズちゃんが楽しそうに飲んでいたところだったから、無理矢理便乗させてもらった。キウイちゃんとモズちゃんは優しくて、らしくない私の飲み方を心配こそすれ、止めはしなかった。せめて水もちゃんと飲むんだわいな、と必ずチェイサーをつけてくれた。空のジョッキがテーブルに所狭しと並んだ。
もうこれで終わりだろうか。何もかも。あっけなく。もう、言い訳も弁明もさせてもらえないのかな。
動けなくなった私のそばでオロオロしていたキウイちゃんとモズちゃんが揃ってどこかへ行って、お店に一人きりになった私は、そんな今更どうしようもないことをぐるぐると考えていた。ブルーノがグラスを拭いているのか、一定のリズムで、棚板にグラスの置かれるコトリ、という音がする。
保たれていたひそやかな空気を乱したのは、どすどすとしたガサツな足音だった。
それは私に近づいてくると、隣の椅子をガタガタと乱暴に引いた。同時に、聞き覚えのある声が上から降ってくる。アルコールで馬鹿になった鼓膜が無理矢理びりびりと震わされた。
「おいブルーノ! こんなになるまで飲ませたのか?」
「……誰だって、潰れたい夜があるだろう?」
急性アルコール中毒にだけはならないよう、気をつけて見ていたよ、という頼もしいのかよくわからない返答に、声の主、フランキーはため息をつく。
「おい、ウカ。聞こえるか? 立て。帰るぞ」
「ほうっておいてよお」
自分でもなんて頭の悪そうな声なんだろうと情けない。
「いい大人の女がこんなに乱れてどうしたってんだ。まさか山猿絡みじゃねえだろうなァ?」
そうだったらおれァ帰るぞ、忌々しい、とフランキーはとても嫌そうに言った。図星だったから、なんて言ったらいいのかわからず、私は額をバーカウンターにこすりつけながら苦笑する。
「……そのとおりだから、ほうっておいてってば」
私の言葉に、フランキーがあからさまに舌打ちをした。ブルーノはキッチンにひっこんだようで、お店の奥からお皿を洗う水音がする。お店にはもう迷惑な客、つまり私と、その客をなんとかしようとしているフランキーしかいない。もう夜深い時間で、店の外も静かなものだ。
フランキーはサイボーグだというけど、日常の動作から機械のような音がすることはなくて、ひそかに不思議に思っていた。だから、フランキーが私の頭に手を置いてゆっくり撫でたのにも、音では気づくことが出来なかった。
フランキーの姿形はだいぶ変わってしまったけど、優しく髪を梳く指先のやさしさは変わらないなと、お酒で痺れた脳でぼんやり思う。
「お前、山猿に告白されてたろ? 返事したのか? して、これか? どういうこった?」
「……はぐらかしてた」
「はぁ? 最低だな。なんで応えてやらねぇんだよ」
「怖かったんだよ。……カクさんは、私よりずっと若くて、優秀で、人気者で、背も高くて、スタイルも良くて、かっこよくて、それなのに気さくで優しくて。なんで私なの? わかんないし、もし、やっぱり無理って振られたりしたら、もう、私、大人だもん。無理だよ」
吸った息一息に淀みなく言い切った私を、フランキーは鼻で笑った。
「承服しかねる点が大分あるが……、まあ、くだらねえなあ」
ガキだってところは同感だ、と馬鹿にしてくるので私は黙ってしまう。それに、自分でもわかっていた。そんな理由で、自分の気持ちを誤魔化していたからこうなってしまったのだ。
髪を梳いていた手が私の手に重ねられて、懐かしい声が耳をくすぐる。
「なら、おれにしておけよ。おれと、仲良くなりてえんだろ?」
なにを、と思ったその瞬間。
「今すぐその手を離せ。フランキー」
カラン、と店のドアベルが鳴ったのと同じくして、カクさんの鋭い声が耳に刺さった。気まずい私は顔を上げられない。代わりにフランキーが答えた。
「はあ、これだからガキは。痴話げんかに巻き込まれて迷惑してんのはこっちの方だ。うちのかわいい妹たちじゃこの女は重くて運べねえってんで、おれァ、きてやってんだぞ?」
まずは礼のひとつやふたつ、言っても損はねえだろう? と、恩着せがましいフランキーに、カクさんはうんざりしたような声で応じた。
「この女呼ばわりとは、随分な言い草じゃの。そりゃどうも、わしのツレが世話になったの。じゃが、その手はなんじゃ。さっさと離せ」
ツレ、ねえ。言うじゃねえか、とフランキーは揶揄うが、私の手を離すことはなく、むしろ強く握りしめてくるものだから、思わずびくりとする。
「大体、おめぇは振られてるんだろ? しつこい男は嫌われるぞ」
「まだ振られとらんわ」
「おうおう、吠えるねえ。残念だったな。おれとこいつはこういう仲なんだ」
言い終わるや否や、露わになった首筋に、湿った熱を感じる。
キス!? と、たまらず椅子から飛びのいて、
「フランキー!」
と叫んだのは私とカクさんだった。
にやにやと勝ち誇ったような顔のフランキーを睨む。
「ここで女を責めるような男だったらよかったのになあ、ウカ」
カクさんは、うっ、と言葉につまった私の手を取ると、何も言わずに店の外へと歩き出した。私も叱られた子供のように項垂れて連れられて行く。
どうせまた、懲りずに惚れ直してるんだろう?
首筋の熱をそっと手で撫でながら、遠くなっていくフランキーの声を背中で受け止めた。おしまい
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夢小説,長編・連作,ONEPIECE,KISSMEMORE 3161字 No.30