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熱と息 #オールマイト

微熱があるじゃない、と無理矢理ベッドに寝かしつけたオールマイトの様子を見に行くと、彼は体を起こして本を読んでいた。俊典さん、と声をかけると悪戯がばれた子供みたいな顔で「いや、寝たら調子が良くなったんだ」と言い訳し始める彼が可愛らしくて、私は何も言わずに、ベッドサイドの椅子に掛けていたカーディガンを手に取る。彼の肩は、私のカーディガンでも足りてしまうほどに小さくて、カーディガンをかけながらそっと包み込むようにその肩に手を置くと硬い骨の感触があった。ありがとう、と微笑む笑顔はいつも通りでほっとする。確かに熱は下がったみたいだ。

「君は、私を『オールマイト』とは呼ばないね」
「呼んで欲しい?」

 私は顔じゅうにハテナマークを散らした。聞いた本人は本人で「いや、そういうわけじゃないんだが」と口をもごもごさせている。

「君に名前で呼ばれるのは、その、少々気恥ずかしい」
「へえ、そうなの。俊典さん」
「からかわないでくれよ」

 ベッドに腰かけると、ベッドは私の体重分だけギシ、と沈み込み私を受け止めた。『オールマイト』の姿ではこのベッドは使えないだろう。不謹慎かもしれないが、よかった、と思う。彼が私のベッドを使えて。そのベッドに、私も一緒に寝ることが出来て。

「うまく言えないけど、『俊典さん』って感じがするの」

 身体を捻って、彼の胸に左耳をぴたりと寄せる。ど、ど、ど、と規則正しいリズムでポンプする心臓の音は聴いていて心地がいい。オールマイト以外の心臓の音を、私は知らない。だからこの音が、大きいのか小さいのか、健康的なのかそうでないのか、それはよくわからなかった。ただわかるのは。

「ちゃんと、動いてる」
「おかげさまで」
「こうすると」

 左耳で鼓動を感じながら、パジャマの裾から右手を服の中に差し入れる。左胸から広がる大きな傷を指で丁寧になぞった。引き攣った皮膚の感触と肉が盛り上がった傷跡を、五指で丹念に。上から下へ、下から上へ。指の腹で、爪で。最初は何の感情も込めず。次第に、明確な意思を持って。

「よ、よさないか」
「速くなるのね」

 きちんと反応を返す心臓に、肌に、熱に、汗に。そしてここに。
 私は安心する。彼の身体がきちんと刺激に反応して、正しく機能している。

「熱が、またあがってしまう」
「知らないわ。寝てればよかったのに。少し汗をかいた方がいいのよ」
「ぅ、あッ。こ、こらッ」
「私、その𠮟り方好き」

 真面目なあなたの、体裁を取り繕うためだけの、口だけの、叱り方。
 ほんとに駄目なんて思ってないくせに、なんてかわいそうだから言わない。その代わり、手は休めない。あなたの熱と息があがっていくのを、私は無言で観察する。
おしまい

官能小説,短編,僕のヒーローアカデミア 1161字 No.52 

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