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秘密の角度 #カク

 カクとウカには、お気に入りの革靴を磨くように、贔屓のパン屋に足繁く通うように、着古したスウェットの袖口を繕うように、二人で大事に育んできたものがたくさんある。
 例えば、休日でも平日と同じ時間に起きて朝ごはんをゆっくり食べる。目玉焼きは半熟。ウカはトマトケチャップで、カクは岩塩とミルで挽いたブラックペッパーをぱらり。並んで歩く時はカクが右側で、お風呂に入るのはウカが先。相手が買ってきた本は勝手に読まない。シャンプーが切れたら次に使うシャンプーを相談すること。アスパラの穂先はカクが食べていい。ジェラートの最後の一口はウカに食べる権利がある。コーヒーを淹れるときは相手にも欲しいか聞く。寝るときはウカが右側。相手の鼻歌は邪魔しない。
 そしてこれも、育んできたもののひとつ。

「カク」
「ん?」

 ソファに身体を預けコーヒーを片手に本を読んでいたカクは、目の前に立つウカに呼ばれて、本から視線を外した。ソファに座ろうとしないウカを上目遣いで不思議そうに見つめる。
 ウカは、お酒の席で酔っぱらった悪友に茶化されたことを思い出した。『で、どうやってキスするの?』。下世話な好奇心を隠そうともしない悪友はいっそ清々しい。  ウカはカクの頬にそっと両手を添えた。指先でそっと頬を撫ぜる。カクはウカのその仕草で彼女が何をしたいかすぐに察して「なんじゃ、昼間からやらしいのう?」とおどけたが、ウカはそんなカクの戯言なんて気にもとめずに、カクとの距離を詰めていく。
 互いの唇が指三本分まで近づいたところで、カクが小首をかしげて薄く唇を開けた。赤い舌先がちろちろと動いているのが見え、ウカはつい生唾を飲み込む。それに気づいたカクは声を出さずに笑った。ウカは催した春情を悟られたのを悔しく思いつつも、目を閉じる。
 二人で育んできたキスするための秘密の角度。これは誰にも教えない。

おそろいのスウェットがやわくなるほどに肌も馴染んでいいようになる
ふと気づく 自分の皿にいつからかもらえるようになったアスパラ
おしまい

夢小説,短編,短歌,ONEPIECE 863字 No.16 

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