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IrishKiss #アイスバーグ

 望みがないのは知っていたし、不毛な恋だというのも知っていました。それでも好きになってしまったから、私はせめて、この気持ちがこれ以上大きくならないように、育たないように、念には念を。慎重に。過ごしていたのに。

「おはよう、ウカ
「おはようございます、社長。今日もお早いですね」
「ンマー、今日はいい天気だったから、空気が気持ち良くて、な」

 アイスバーグ社長はそう言いながら、玄関をゆっくり、大きく全開にして、社に朝の空気と光を入れた。
 アイスバーグ社長は、社員の顔と名前を全て記憶していて、会えば必ず一言二言かけてくれるような人だったけれど、社長は私が眠い目をこすりながらもなんとか起きて、会社に一番に出勤する理由までは知らないだろう。
 私は、社長が、アイスバーグさんが、好きだ。
 私は船を造れるわけでも、製図が書けるわけでも、秘書として社長のそばで力になることもできない。誰にでも出来る仕事を任されて一日のほとんどを事務室で過ごしている。私の代わりはいくらでもいる。社長にしてみれば、何百人もいる社員のうちの一人にすぎないはずだ。私にとっては、社長はただ一人でも。
 その事実は私を時々悲しませることはあったけど、これくらいがいいのだとも思っていた。だってこれ以上好きになってしまったら。辛い。
 どこに惹かれたのかと問われれば参ってしまう。別段きっかけがあったわけではなかったと思う。入社した当時、確かに社長は「社長」でしかなかったはずなのに、いつのまにか心の中で「アイスバーグさん」と呼ぶようになった。職人のみなさんがそう呼ぶからだろうか。

 アイスバーグさん、アイスバーグさん

 届かないのを知っていて、私は社長の背中に声にしない息を吐く。社長は腰に手をあてて空を仰いでいる。私は彼の後ろで秘密の呪文を唱える。

 アイスバーグさん、アイスバーグさん

 こうやって愛しい人の名を呟けば、わたしの中でくすぶって、 わたしを可笑しくさせる「恋」と呼ばれる魔物を外へ追い出せる気がしたのだ。 どんどんこうやって追い出していけばそのうち、私はもっと望みのある恋を探せる。 そうやって信じて、どんどん、どんどん。なのに、

ウカ

 突然振り向いた貴方が、

「なんでしょう?」
「ンマー…」

髪切ったんだなァ、なんて言うからおしまい

夢小説,短編,ONEPIECE 994字 No.15 

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