HOMETEXT .

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タンデム#カク

「ねえ、私も乗せてよ」

 ウカの少し甘えたような声にカクはわかりやすくうんざりした顔で「嫌じゃって言っとるのに」と返した。そうすると今度はウカの方がうんざりした顔で「ケチ」と口を尖らせる。

「ルッチさんは乗せてるじゃん」
「ルッチに逆らえるわけなかろう」
「パウリーだって乗せてるのに」
「あいつは後が面倒なんじゃ」

 カクはウカの追及を難なく躱していく。的確に最適解を打ち返していく様は私の質問なんてお見通し、といった具合で面白くない。
 カクは少し前、念願だったという大きなバイクを手に入れて、常に乗る口実を探していた。それまでは先輩から格安で譲ってもらったというバイクに乗って練習を重ねていたのだが、ついにお金が貯まり、憧れだったバイクを購入したらしい。
 私はバイクには全然詳しくないけれど、黒くて大きな熊みたいな乗り物を、細身の体で自在に操って取りまわす姿は、心底かっこよくて惚れ直していた。ヴヴヴ、と低い唸り声をあげるそれは、完全にカクに服従しているように見え、様になっている。
 カクは真面目だから、ちゃんとバイクに乗るのに適した服に着替えるし、ブーツも履く。黒いバイクにあわせて、ジャケットやヘルメット、グローブなんかも黒を基調に揃えたのだと言う。カクは、普段は明るい色を好んで身に着けているから、バイクに乗るときだけ全身真っ黒に染まるのは、なんだか特別な儀式のための礼装みたいでドキドキする。髪の色だけやけに明るくみえて、それが真っ黒の中に一点、アクセントになっていいなと思った。

「ねえ、わたしも」
「あのなあ、ウカ

 カクはまるで小さな子供に言い聞かせるように言葉を切って、強調した。

「バイクは走る棺桶なんじゃ。そんなもんにウカを乗せられるわけなかろう」
「わたし、カクとなら一緒に棺桶入りたいけど」
「一緒に入れるかわからんじゃろ!」

 カクは、わしだけ死ぬならまだしもウカだけをひとり死なせてしまったら生きていけん、と恥ずかしいセリフをあっけらかんと言った。あまりに事も無げに言うので、心がこもっていないようにすら思える。

「でもさ」
「ん?」
「じゃあ、なんでヘルメットが二つあるの?」

 わたしの分かと思っていたのに、とウカが目を伏せるとカクが今日初めて二の句を継げなくなった。カクは視線を空に彷徨わせて、観念したように頭をかく。

「すまん。本当はウカも乗せたくて準備はしとった」
「え、そうなの?」
「じゃけど、二人乗りも練習が必要での。ルッチとパウリーに付き合ってもらっとったんじゃ」

 ウカのヘルメットはちゃんと別に用意しとるよ、とカクはすべてを諦めたように教えてくれる。練習って、いつまで? とわたしがソワソワしながら尋ねるとカクは大きなため息をついて、

「行くか」

 と言った。すぐ後に、少しだけ、と付け足す。

「デニムとブーツ、あと皮ジャンあったじゃろ?」
「わしの腰から絶対手を離さんようにな」
「曲がるときは怖がらずに身体を傾けるんじゃぞ」

 カクが先にバイクに跨ってバイクを安定させてくれる。わたしは、カクの肩に手をかけてぐっと足を蹴る。タイヤがわたしの体重分、ぐっと凹んでバイクが沈み込んだ。ゆっくり腰を下ろすと、太陽の光で温まったシートが熱いくらいだった。カクの背中に胸をぴっとつけて抱きしめると、カクがはあ、とまたため息をつく。

「緊張する」
「な、んかごめん」
「いや、夢じゃったから」

 カクが勢いよくキックペダルを踏みこむと、エンジンが震えながら目を覚まし、ドッドッドッドと鼓動を打ち始めた。

「行くか」

 わたしはまだどこにも行けていないのに、長い旅をしてきたような不思議な気分になった。カクがアクセルをゆっくり捻って走りだす。わたしはカクの腰に回した腕に力を込める。狭いヘルメットの視界から「自由」が見えた気がした。おしまい

夢小説,短編,ONEPIECE 1621字 No.11 

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