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自由の代償 #カク

「それじゃあ、初めての一人暮らしがんばってね。困ったことがあったらすぐ言って」

 人の好さそうな大家から受けとった部屋の鍵を鍵穴に差し込むと、鍵は難なくするりと開いてドアノブが回るようになる。ドアを開けるとそこはがらんとしたただの箱に見えた。
 ウォーターセブンへの潜入任務のために政府が借り上げ、カクにあてがった部屋はよく言えばシンプル、有体に言えば簡素な造りの1DKだったがカクにとっては初めての個室、初めての一人暮らしだったので広さは十分に感じた。だが、足を踏み入れるとなんとも他人行儀な感じで、まだよそよそしく、気持ちは落ち着かない。それでもここが、今日からカクの部屋だ。
 とはいえ、ここからどうしたらいいかわからない。ひとまず、前の住人がそのまま置いていったというダイニングチェアに腰かけ、グアンハオから持ってきた少ない荷物を解いてテーブルに並べてみる。荷ほどきといっても、持ってきたのは訓練に使った大工道具と取り急ぎ必要だろうと思った着古した下着くらいだ。後者はこちらで新しく揃えたらさっさと捨てるつもりだ。グアンハオの名残はすべて残らず消してしまいたい。さっさと任務に必要な「明るくて人の好い十八歳の好青年」にならねば。
 好青年用の服はある程度カリファが揃えてくれていた。「好青年」に似合いそうな明るい色の服を。ここに来る前に駅で別の諜報員から受けとったバッグをひっくり返し、出てきた服をいくつか眺めてみるが、これまで着るものは黒か白かの二択だったカクにはどれがいいのかよくわからない。ひとまず一番上にあったジャケットとジーンズを着ることにして、他は備え付けのクローゼットにしまい込んだ。面白がったカリファに下着も準備されそうになったのだが、カクのした力の限りの拒絶は受け入れられたようで、下着類は入っていなかった。胸を撫でおろす。

「まずはパンツを買わんとのう」

 呟いてみても一人。返事はない。物音ひとつしない部屋を眺めて、また少ない荷物に視線を落とす。さて、この部屋には他に何が必要なのか。生きていくのに必要な諸々はすでに子供の頃から仕込まれている。グアンハオでは掃除洗濯炊事は当番制だ。だが、自分で選んで揃える、ということはしたことがなかった。施設にはすでに生きるのに必要なものは揃っていたし、それ以上のものを欲しがるということは許されていない。欲しい、という気持ちもよくわからなかった。施設にあってこの部屋にないもの、をピックアップしていく。
 窓からはこの島のシンボルである大噴水が見え、ああ、カーテンがいるかと思う。コーヒーでも飲むかと立ち上がろうとしてマグカップもコーヒー豆もミルもケトルもないことに気づく。気づいて、買い足していく。これが生活か、と思った。全部自分で決める。ふと、ある二文字が心に躍って、思わず口の端があがる。

「待てよ、これからはパンツの色も考えにゃならんのか?」

 面倒じゃのう、と思いつつ緩む口元はそのままにした。ついでに話相手の観葉植物でも見てみるか、とカクは黒いティーシャツを脱いで「好青年」として出かける準備を始める。
 仮初でも、束の間でも構わない。この程度の代償で自由が手に入るなら。おしまい


いろいろ考えたいふたりvol.01

二次創作,短編,ONEPIECE 1361字 No.10 

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