HOMETEXT .

名前変換登録:苗字 名前
苗字:
名前:  

静謐の訓練 #カク

 この島は、この街は、アクア・ラグナという高潮に浸かってしまうことがある。その度に、家に浸水対策を施し、高台へ避難するのだが、今日はその避難訓練だった。

ウカも来とったのか。感心感心」

 感心なのは私を見つけられたカクの方だ、と思った。
 それなりの人混みの中、カクはすらりと頭ひとつ飛び抜けているので、この格納庫に来て早々、私はすぐにカクを見つけられた。忙しいかなと思って、声はかけなかったのだ。

「カクも休日なのに大変だね。これも仕事でしょう?」
「なに、大事なことじゃ。給料も出とるしの」

 避難訓練は大まかな地区毎に行われ、その時々で実際の避難場所となる場所も解放されるため、本番さながらの訓練ができる。今回は一番ドックの格納庫も解放されることになっていたため、カクも来ているのだろう。ただの訓練だから、実際に一晩明かすといったことはないものの、実際に避難してみようとすると、浸水防止用の資材が足りない、だとか、避難所で過ごすための耳栓がないだとか、そういうところに気がつけるので、私はなるべく参加するようにしている。

「カクは今日何の担当なの?」
「これといって。まあこの格納庫の鍵を開けて、閉めるくらいじゃの」

 訓練自体は市の管轄じゃから気楽なもんじゃ、と笑う。

「そうなんだ?じゃあ、わたしの避難スペースに招待してあげようか?」
「ほう、それもいいの。どうせ終わるまでワシも待っとらんといかんし」
「どうぞどうぞ」

 私はさっき拵えたばかりの自分の陣地に案内する。分厚いピクニックシートに、ブランケット。ビスケットと水。アイマスクに耳栓にマスク。気に入っている小説も持ってきた。これらの避難グッズは年々厳選されていき、今がベストと言っても過言ではない。

「ふふ、いいでしょこれ?分厚くてフカフカしてるからずっと座ってても痛くないし、お尻が冷たくならないんだよ」
「へえ。さすが。もう避難の大ベテランじゃの」

 お気に入りのピクニックシートをひいて陣取ったスペースは、家族連れと違い自分が寝転んで過ごせるくらいしかなく、カクと一緒に過ごそうとすると大変手狭だった。試行錯誤の結果、カクの足の間に私が座ることで落ち着いた。長い手足を折り畳むようにしてスペース内におさめようと一生懸命なカクが可愛らしい。と同時に、密着しないと、二人ともなかなかシートにおさまりきらず、人の目がある場所でこんなにくっつくのは少し気恥ずかしかった。それを紛らわすように私の肩にあごを乗せているカクに話しかける。

「今回、少し手間取っちゃって、人気の壁際スペースはもう埋まっちゃってたんだ」
「そうか。仕方ないことじゃが、思ったより隣と近いんじゃの」

 すぐ隣、というわけではないが、プライバシーが確保できるかといえば確かに十分ではない。でもカクの言う通り、それも仕方のないことだ。両隣、前後は子供連れやご夫婦で訓練に参加しているようだった。ちょうど右隣は近所のお花屋さん家族で、奥さまと目があったので軽く会釈をする。お子さんが「ラブラブだ!」と無邪気に指を差してくるのが恥ずかしい。カクは「いいじゃろ?」と子供相手に余裕の笑顔だ。

『では、三十分ほど明かりを消します。パニックにならぬよう、特にお子さん連れの皆様はご注意ください』

 市の職員がそうアナウンスすると、格納庫の明かりが消え、真っ暗になった。案の定、子供たちがきゃあきゃあと騒ぎ、それをたしなめる親の声があちこちで響いた。他の大人達は、やっぱり見えないわねえと言いながら、手元だけ照らすライトを付けて確認してみたり、寝る時のグッズを装着してみたり、気にせず談笑したりと、思い思いに過ごしている。

「ふふ、暗くて全然見えないね」
「ん……。そうじゃのう」

 カクの低い声が耳をくすぐって、吐息が首にかかる。それと同時に、カクの手がTシャツの裾から入ってきて腰辺りをなぜるので思わず「ちょ!カク!」と手を掴んだ。

「こらこら、声が大きい」悪戯っぽく叱られるが、そもそも私は悪くないはずだ。
「だめだよ」仕方なく声を潜める。

「すまんすまん。少しだけ。いいじゃろ?最近忙しくて会えんかったのに、急にこんなにくっついとったら、もう我慢できんわい」

 私の返事を聞く前にカクの手が腰からどんどん上の方に伸びてくる。手のひらを浮かせて、五本の指でつつつ、となぞってくるものだから、足の方から頭の方へぞくぞくと鳥肌がたっていく。こんなところで、という混乱と、ばれたらどうしようという焦りとで、頭がおかしくなりそうだ。

「だって、声……」

 辛うじてまだ残っていた理性と微かな処理能力で、なんとかそれだけ言うと、カクはさらに私の耳元に唇を寄せてこう続けた。

「じゃあ、これからすることは全部先に教えよう。そしたらびっくりせんじゃろ? 急に触ったりもせん。全部、教えてから、ゆっくり、そっとじゃ」
「ええ?」
「いいか? そうじゃのう……。じゃあまず、これから右耳に舌を入れていくぞ。ゆっくり舌がウカの耳の中に入っていくからの。やらしい音がするじゃろうが、もうわかってるから驚かんじゃろ? 一応左手で口を押さえておくか。でもちゃんと我慢するんじゃぞ」

 カクはひそひそと囁くと、私の口許を大きな左手で覆い、本当に右耳に舌を差し入れてきた。ゆっくりと、熱くてぬるぬるした柔らかいものが耳を這っている。舌が離れて、またすぐそばを舐める時、確かにぴちゃ、と水音が響き、脳が全部その音でいっぱいになる。
 頭がくらくらして何も考えられない、と思ったそのとき、カクの右手が私のお腹をなぜ、思わず出そうになった喘ぎ声を必死に押し殺す。

「──ッ!! 嘘つきッ!」
「いやっ!し、失礼……。慣れんとうまくいかんのう。いや、悪かった。つい手が……。よし、シンプルにしよう」

 カクはそう言うと手早く私の胸を覆っていた下着を緩め、両手をTシャツの裾から差し入れると、その膨らみに添えた。

「胸を弄る。それだけじゃ」
「そっ、そんな!」
「大丈夫、弄り方はちゃんと説明するし、右と左で違う弄り方はせん」
「そういう問題じゃ……」
「まずはそうじゃのう。揉むか。ウカの胸は柔くて、触っとると気持ちいいんじゃ。しっとりしてて、こう、手に吸い付いてくるのもたまらん。まずは揉む。あ、乳首はまだ触らんようにするから安心せい」

 カクは言った通り、長い指を目一杯広げて、私の胸の膨らみを掴んだ。そしてゆっくりと揉みしだく。正直、揉まれるだけならそこまで困らない。何なら、この脂肪の塊で癒されるならどうぞどうぞお好きなだけ、とさえ思う。でも、揉まれながら、耳元でカクがはぁ、と熱のこもった息を吐くのを聞いたり、腰からお尻の上の辺りで、カクの股の間のモノがむくむくと大きく、固く、熱くなっているのを感じたりすると、私も変な気分になってくる。
 それに、揉むたびに、カクの指の間で触らないと言われた乳首にもほんの少しだけ刺激が伝わるようで、ちょっとずつ、ちょっとずつ、私の呼吸も乱れていく。

「名残惜しいが、そろそろ乳首も弄るか」

 カクが残念そうに胸を揉むのをやめた。

「本当は舐め回したいところじゃが、そうもいかんしの。それにウカは指の方が好きじゃろ? 舐めてほしいのは別のところじゃもんなァ?」

 暗いし、後ろにいるので見えないが、カクは絶対、ニヤニヤしながら面白がっている。でも、正直当たっているし、満足に声も出せない状況で反論し ても意味がないし……と何も言えず俯くだけの私を見て、カクは満足そうだ。

「じゃあ、どうしようかの。親指と中指で根本から摘まんで、人差し指で先っぽを優しくすりすりするか。知っとるか? 最初はふにふにしとる乳首も、だんだん固くなって摘まみやすくなるんじゃ。ゆっくり、優しくするからの。いいか? 絶対に声は出すんじゃないぞ。ワシの両手は塞がっとるからの」

 カクは本当に言った通りに胸の突起を摘まんで、人差し指の腹で、ゆっくり、何度も、先端を擦った。普段よりずっとソフトな刺激なので、声は我慢できるが、いつもより丹念に快感を教え込まれているようで、たかだか一センチ程度、指がそこを往復しているだけなのに、「……ぁ、……ぁ」とカクにしか聞こえないであろう声が漏れる。たまらず腰が揺れると、カクも自分の硬くなったモノを押し付けてきた。
 いつもは、身体からの刺激が先で、後から「今、ここを弄られている」と理解するけど、今日は逆だ。「今から弄るぞ? ここを、こうやって弄るぞ?」と念押しされると、これからされるだろうことと、過去の記憶とが結び付いてしまい、どうしても身体が期待してしまう。そして期待通りに気持ちがいいので安心して快感を貪ってしまう。カクは普段、明かりを消したがらないので、暗闇での愛撫も新鮮だった。与えられる快楽に没頭してしまいそうだ。

「昔は小さくて摘まみづらかったが、今はもう、こんなにいやらしく育って。弄りやすくていいのう」
「……言わないでよ。カクのせいじゃない……」
「すまんすまん。ワシが育てたと思うと嬉しくての。今度は親指で、そうじゃの、押し込むように、ぐりぐり、弄ってみていいか? 強くせんから。こう、上から下に、押し潰すように、何回も……。ま、こんなに固くなっとったら、潰れはせんか」

 カクの言うとおり、カクの親指でいくら押し込むように玩ばれても、私の胸の飾りは主張をやめなかった。むしろ、押し込もうとすればするほど、ピン、と反発し、固さを増して、また弄りやすくなってしまう。

「……ふ、……ぁ」
ウカ? 声が漏れとるぞ」
「──ッ!」
「はあ、こりゃお仕置きせんと……」
「無理ッ!無理だよッ!」

 潜めに潜めた声と、声を出せない分、一生懸命、いやいやと首を振ることで抗議する。それなのに、カクは見てない振り、聞こえていない振りで勝手に言葉を紡ぐ。

「いいか? いつもみたいに弄るからの? いつもみたいにじゃぞ? 親指と人指し指でぎゅっと摘まんで、そのまま指を擦り合わせるように。ゆーっくり続けるから、声は我慢じゃぞ? さ、いくぞ」

 抗議もむなしく、カクの指が、ついさっき聞かされた通り忠実に動いた。

「ん゛ん゛んん…………!」
「お、すごいすごい。ちゃんと我慢できとるの」
「んん゛ん────ッ!!」
「はぁ、たまらんのう。ウカはいい子じゃなあ」
「かっ、カクぅ……せめ、て、キス……で、口……」

 カクの喉がごくり、と鳴った気がした。見えないだろうと油断していたが、もしかしたら、とんでもなくだらしない顔をしていたのかもしれない。それを恥じる間もなく唇が重なり、舌が絡む。相変わらずカクの指は私の服のなかで、尖りきった先端を離すまいとしており、私の揺れる腰を固定するようにぐっと身体が引き寄せられた。
 舌を舌で、指で乳首をなぶられ続ける。
 カクは固くなった乳首の固さを確かめるように、ずっと親指と人差し指を擦り合わせるように、くりくりと前後に動かし続ける。続けていると乳首が逃げてしまうのか、その度に根本から摘まみ直され、その度に「まだ続くのか」と甘く絶望した。
 キスで口を開けていると、うっかり声が出そうになるので、そちらにだけ意識を集中させていると、与えられる快楽には無防備になるような気がする。ゆっくり、でも絶え間なくもたらされる甘美な刺激に、だらしなく「ぁぁ……んぁ……」と小さな小さな声が漏れる。

「ねえ、まだ明るくならないのー?」
「もうちょっとよ、ほら」

 魔法のようなタイミングで明かりが点った。その直前、カクも同じように魔法が使えるのか、唇と手を離していた。「お母さんすごい!魔法使い?」と目を輝かせているだろう子供の声を聞きながら、私は必死に呼吸を整えながら、前を見ることしかできない。

『これで訓練は終了です。お疲れさまでした』
「ワシも行かんと。ウカ? 大丈夫か?」

 がやがやとした喧騒のなか、カクはすっと立ち上がると、私を見下ろしながら言った。さっきまでの態度と打って変わって、いつもと変わらぬ優しい笑顔で声をかけてくる恋人に目眩がする。なんとか首を縦に振ると、しゃがんだカクが耳元でそっと囁く。

「もし、身体が疼いて仕方ないのなら、荷物をまとめて入り口で待っとってくれ」

 もちろん、そのまま帰ってもいいぞ?
 甘く痺れた脳は何も判断できない。身体だけがびくん、と跳ね、私はまだ立ち上がれない。
おしまい


仰せのままに

官能小説,短編,ONEPIECE 5180字 No.62 

Powered by てがろぐ Ver 4.7.0. Powered by Charm.js