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俺の友達 #ハン・ジュンギ

 酒の勢いは怖い。
 昨夜、ひとり酒を飲んで暇を持て余していた俺はうっかり前々から秘めていた野望を友人にメッセージアプリで語ってしまった。いや、正確に言えば、肝心のところは明日のお楽しみ、と適当にぼかし、そして煽って、今日の約束を取り付けてしまったのだ。いつもなら忙しくしていてなかなか捕まらないはずの友人が、昨夜に限っては即レスという悲劇。加えて今日も珍しく時間があるからと、悠々とした態度でアイスミルクをストローで吸っている。こんなこと、今まで一度だってなかったのに。

「カルシウムは骨にいいですから。たまにはいいものですね」

 ハン・ジュンギはいつの間にか無音でアイスミルクを飲み終えていた。俺のコーヒーもそろそろカップの底が見えてくる。飲み干すのをためらって、まだほんの少しのコーヒーが残っているカップをソーサーに置いたタイミングで、ハン・ジュンギが待ってましたとばかりに口を開いた。

「で? 今日は何を買うのに付き合わされるんですか?」

 つい目を逸らし、だが逸らしているにも限度があり、諦めてもう一度ハン・ジュンギを見ると、彼は柔らかい笑みをたたえたままだ。かえって血の気が引く。

「いやあ、やっぱりいいかなあって」

 酒の勢いだったことは黙っておこう。そんな軽薄な誘いは、忙しい友人の時間を奪う理由にはとてもならない。だが、それを聞いたハン・ジュンギはあからさまに眉を下げた。

「何を恐縮しているのか知りませんが、私は別に怒ってないですよ。突然で一方的な約束には驚きましたが、おかげさまで久しぶりにこうして会えましたし」

 いつも忙しなくて申し訳なく思っているんですから、とハン・ジュンギはストローでグラスの中の氷をくるくると弄ぶ。溶けた水のおかげでまだ残っている氷は勢いよく回った。ハン・ジュンギはそこでも音を立てなかった。

「そ、そう? じゃあ、やっぱ付き合ってもらおうかな」

 百八十度反転させた答えは彼を満足させたらしい。それではさあ続きを、と目で促してくる。そんな大した話ではなかったのに、己で放った矢がブーメランのごとく急旋回し刺さるような心地だった。だが、ハン・ジュンギの期待のこもった眼差しにすぐ屈した。

「そのコート、俺も欲しい」
「コート? 今、私が着ているコートですか?」
「そうだよ。それ。どこのやつ? ……結構、する?」

 ハン・ジュンギは、わかりやすく頭の上に大きなクエスチョンマークを浮かべ、首を傾げた。

「大した服ではないですよ。汚れたらすぐ処分できるようなものですし」
「そうなのか。てっきり、どっかのいい服かと思ってた」

 お前が着るとユニクロでもブランド物に見えそうだもんな、とそっぽを向いてぼやくと、ハン・ジュンギが手を口元に添え、ふ、と小さな笑いをこぼした。

「あなただって手足も長いし、顔も小さい。あなたも似合いますよ、ユニクロ」
「顔の良し悪しにもコメントしろよ」
「顔なんてどうとでもなりますから」

 事も無げにそう言ったハン・ジュンギは、本当に心の底からそう思っているようで不思議だった。顔なんてどうとでもなる、というのが整形のことを言っているのだとしたら、俺とは世界が違い過ぎるんだろう。違い過ぎるが、それでもこいつは普通で平凡な俺ともこうして会って話して遊んでくれる。世界の違いを感じさせずに。

「それに手足を伸ばす方が難しいでしょう」
「まあそれもそうか。じゃあいいか」
「言葉を言葉通りに受け取れるのはあなたの美点ですね」
「え? やっぱり似合わないって意味?」
「いいえ。そんなにこれが気に入ったのなら一着差し上げます。今度会う時持ってきますよ」

 まじで!? と身を乗り出した俺を見て、ハン・ジュンギは珍しく大きな口と声で高らかに笑った。目尻に涙が滲んだようでそれを指でついと拭いながら、まだ肩を揺らしている。
 本当に愉快ですね、と言いながら呼吸を整えたハン・ジュンギがたくらみ顔でこちらを覗き込む。

「今度、それを着て一緒に異人町を歩きましょう」

 また身を乗り出す羽目になる。

おしまい

夢小説,短編,その他 1716字 No.111 

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