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No.38, No.37, No.36, No.35, No.34, No.33, No.327件]

僕の愛い人 責任取って、触れる、見ないで #カク

「ねえ、いつもどうしてるの?」

 床に座りベッドにもたれる姿勢で雑誌を読んでいたカクは、ベッドの上で同じように雑誌を読んでいたはずのウカから降ってきた、だいぶ抽象的な質問に首をかしげることしかできなかった。読んでいた雑誌から顔を上げ、後ろを覗き込むようにしてウカをうかがってみるがウカはこちらを見るだけで何も言わない。仕方なく「どうしてるって?」と問うてみる。

「じい」
「G?」
「マスターベーション」
「はぁ!?」

 急に何を、とカクは憤るがウカはカクの怒りなぞどこ吹く風、といった表情だ。
 暇なのが悪い、とカクは思った。今日は雨が降っていて、とはいえ、自由になる金も乏しく、飯も済ませてしまい、結局何をするでもなく、ごろごろするだけの一日になろうとしていた。
 雑誌を閉じたウカが寄ってきて、カクの肩越しに股の間に手を伸ばす。ふに、とした感触を気に入ったのか、ウカはそのまま服の上からカクの股間のモノをやわやわと揉みしだいた。頬と頬とが触れ合い、ウカの体温であたたまった香りがカクの鼻腔を掠めていく。
 部屋着では守備力が低い。ほんの少しの時間でカクの陰茎はすっかり勃ちあがってしまう。ウカが満足そうに笑った気がした。

「で、このあとどうするの?」
「どうするって……。本気で見たいんか?」
「ぜひとも」

 はあああ、と大きく大きくため息をついたカクは尻を浮かせてスウェットと下着を一気に膝まで下ろした。幸い下着に染みはなく少しほっとする。我ながら情けない格好だな、とカクは気まずく、さっさと済ませようと、天を仰いでいる己を握って扱いた。
 感情を込めないように、作業のように、淡々と右手を上下させる。それでも刺激は刺激に違いなく、早くウカが満足してくれないかとそればかり思うのに、ウカは「そんなに強くて大丈夫なの?」と興味が尽きないようだ。

「あんまりまじまじと見んで欲しいんじゃけど」
「ええ? じゃあ……、ねえ、どんなこと考えてしてる?」
「ッ……それは、個人情報じゃろ」
「ちょっとだけ! ちょっとだけ!」

 カクは諦めて「昨日のウカはぬるぬるじゃったなあ、とか」「きゅうきゅう締め付けてきて最高じゃったなあ、とか」などと苦し紛れに言ってみるが、ウカは「へえ。他には?」と動じず、なんなら、ウカの色々を思い出したカクの方が大変だった。さっと見せて終わるつもりだったのに、点火された欲望は燃え広がる一方だ。右手は止まらない。

「んぁっ! あっ、ちょ、ああっ」

 ウカはカクの耳に舌を差し入れ、わざと水音をたてた。ウカには、ぴちゃ、ぴちゃ、と子猫がミルクを飲むような可愛らしい音に聞こえているが、カクにはどんなに卑猥に聞こえているのだろう。顎を反らせて「ぁああッ」と喘ぐカクが答えだろうか。
 耳から舌を抜くと、怒ったような顔したカクがウカを見つめてきた。

「……じゃろうな?」
「ん? なに?」
「責任、取ってくれるんじゃろうな?」

 言い終わるや否や、カクはベッドに飛び乗り、ウカを組み敷いた。そしてそのまま、唇を重ね、荒々しくウカの口内を舌で蹂躙する。ウカは「待って」とも「ストップ」とも言えず、ああこれはやりすぎたかもしれない、と遅すぎる後悔をする。

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おしまい

官能小説,長編・連作,ONEPIECE,adlut night 1400字 No.38 

息絡む夜 耐える、慰めてほしい、舌 #カク

「おっぱい、揉んでみる?」

 がやがやとした酒場で、その台詞はやけにはっきりと聞こえた。カクは飲んでいた酒を吹き出しそうになったのをぐっと耐え、そっと周囲の気配を探った。みな、己の卓でそれぞれを話題を楽しんでいるようでほっとする。意外と声は大きくなかったのかもしれない。

「なんでそうなる」

 むせそうになった喉を整え急いで聞いた。

「男の人はそれで元気出るって聞いたから。幸い、私には遠慮するパートナーもいないし」

 ウカは何でもないふうに答えた後、カクもいないでしょ? とまあまあ失礼な確認を続けた。カクはその問いに無言を貫き、微動だにしなかったのに、

「じゃあ、いいじゃない」

 と勝手に話を進めようとする。

「良くないわい。大体、揉んだらあんあん言うじゃろ。そしたら、そういうことになるじゃろうが」
「うーん……揉まれるだけならなんともないよ。肉塊って感じ」

 何がどうしてこうなった。カクは俯いて深くため息をついた。
 カクはただ、最近仕事が多い、いいことがない、もう疲れた、慰めが欲しい、とよく酒場で一緒になる飲み友達のウカにぼやいだだけだ。今日もたまたま店で会ったのでそのまま卓を共にしただけ。ごくごく稀に、彼女に対して下半身が反応しないこともなかったが、生理現象、生理現象、と己に言い聞かせていた。なぜなら、彼女にまったくその気がなさそうだったから。

「他の男にも言っとるんか、これ」

 怒気をこめたカクの言葉に、ウカは持っていたジョッキをゴン、とテーブルに叩きつける。そして

「言ってないよ! カクが初めてに決まってるじゃん」

 失礼しちゃう、と頬を膨らませる。カクは下半身に血が集まるのを感じながら、そのままにした。

「出るか」

 ウカは特に何を尋ねるでもなく、カクに倣って席を立った。



 店を出たウカは、うちくる? と短く言った。カクもそれに、おう、と短く返した。そのあとの道中はいつもの二人だった。さっきの店のこれが美味しかった、また頼もうなどと、とりとめのない話をしているうちに、ウカの部屋に着く。
 あんまりちゃんと見ないでね、と招かれたウカの部屋は、思っていたより殺風景だった。家具らしい家具は大きなベッドだけ。ウカは、柔らかい素材のブラウスにタイトなスカート、といういで立ちが多く、もっと女性らしい部屋を想像していた。
 仕方なく、ソファ代わりにベッドへ腰かける。サイドテーブルに水を置いたウカは、カクに脚を広げさせるとそこに腰かけ、

「はい、じゃあどうぞ」

 と背中を向けてきた。胸を差し出してくるくせに、対面じゃ恥ずかしい、と零す彼女の羞恥心はよくわからない。結局、カクの足の間におさまったウカの小さな肩に顎をのせる。彼女の部屋の匂いが鼻腔をくすぐった。
 ここからどうしたものか、とひとまずモゾモゾと体勢を整える振りをして、ついでに彼女の手首を握ったカクの口の端は、緩やかに上がった。そして、へえ? と肩眉を上げる。

「ほんとにいいんじゃな?」

 何を言われてもやめるつもりもないが、一応、形だけ念押しした。ウカは、どうぞどうぞと軽い返事だ。カクは出そうになる笑い声を抑える。さっき握った手首から取れた速い脈。あの心拍数で、この状況で、まだなお『普通』を取り繕うとしているウカは、どんな顔をしているのやら。

「それなら遠慮なく」

 カクもウカに倣って淡々と事に及ぶことにする。だが、下から掬い上げるようにその膨らみに手のひらを当てたカクはすぐに、おいおい、と頭を抱えたくなった。カクがこれから弄ぶ『ソレ』は当然、下着によってある程度補正された感触だろうと予想していたのだが、意を決して触れたそれは思っていたよりずっと柔らかかった。これは。

ウカ、お前……」
「ああ、今日は暑かったし、つけてなかったの。服もゆったりしてるからバレないと思って」

 わからなかったでしょう? こちらを振り返りながら、あっけらかんと告げるウカに、無性に腹が立ってくる。薄布を幾重にも重ねたような彼女のブラウスは、確かにボディラインを拾わなかった。カクも触れるまで気づかなかった。それにしても。だからといって。

「気づかんかったのう」

 嘘をつくのも癪で、仕方なく本当のことを白状しながら、親指と他の四指とでやわやわと双丘を揉みしだき反応を見る。薄布越しの膨らみは、それでも随分柔らかかった。少し上に持ち上げてみて、手に乗る重さとぬくもりを確かめる。ウカの息は、特段乱れなかった。揉まれるだけなら、というのは嘘ではなさそうだ。先ほどの脈の速さは、単に『触れられること』に緊張してたらしい。それなら、ば。カクは賭けに出てみることにした。



「ん゛あ゛あッ!!」

 カクが揉みながら見当をつけていたそれを、両方ともきゅっと押し潰すように摘まむと、ウカは悲鳴のような喘ぎ声と共に、背中を勢いよくしならせた。その瞬間カクは、勝った、と口角を歪めた。そして、弄りやすくてちょうどいいとほくそ笑み、ブラウスの上から的確に摘まんだウカの先端を追い詰めるように人差し指でカリカリとこする。逃がさない。
 摘まんだそれが、みるみるうちに固さを増していくのを指で確かめながら、ウカの肩越しに目でも確認する。突然の刺激になすすべもないウカの突起はブラウスを押し上げて健気な主張をしていた。ウカは声も出せず、ただ口を開けて、細い喉をさらけ出している。舌が助けを求めるように震え、喉の奥では、ぁ、ぁ、と漏れた息が声帯を震わせて音になっていた。
 カクはやめない。この一瞬で、抵抗する気力を、ウカの正気を奪いたかった。機械のように正確に、ウカがくねらす身体を逃がさないように、でも、決して力を入れすぎず、たった二つの小さな突起から快感だけをウカに与えていく。
 ウカの感度は知らなかった。反応が悪ければ、すまん当たってしまったわいと適当に誤魔化してやめるつもりだった。でもこれだ。雰囲気づくり? フェザータッチ? 徐々に高めていく性感? 知るか。
 ウカの手が抗議するようにカクの腕に辛うじて伸びたが、それはあまりに弱々しく、カクの動きを止めるには至らなかった。カクは、腕に添えられたウカの指に力が入り、彼女のつま先がぴんと伸びたのを見計らって、手を止めた。ウカの身体が一気に脱力する。はあはあと肩で息をし呼吸を整えるウカが息を大きく吐いたところで、カクはウカのブラウスの裾からすっと手を差し入れた。あ、と気づいたウカに抗う力はない。
 カクは固くしこった突起に指を添え、それを上下左右に動かした。押し込むようにしてみたり、円を描くように回してみたり、弾くようになぞってみたり、指の動きに合わせて先端がくにくにと色んな方を向く。

「あっ! いやッ」

 背をしならせていた先ほどまでと異なり、今度のウカは背を丸め、カクの指に呼応するように身体をびくつかせた。声も我慢できないようだ。だが、いくら背を丸めたところで、後ろには自分がいるのだから避けようとしても限界がある。結局、ウカはカクにぴたりと身体を密着させただけだった。

「ち、がうッ、あァッ──」

 ウカがようやく言葉らしきものを発する。『ちがう』と。話が違う、とそう抗議しているのだろうがもう遅い。

「何が違うんじゃ? ちゃんと揉んどるじゃろ」

 言いながら、ぐりぐりと突起の根元を転がすようにいじった。両方とも万遍なく。カクは、もうずっと両の膨らみから手を離していない。服越しに弄るのもよかったが、触れたウカの素肌はしっとりと吸い付くようで気に入った。たぷ、と揺れる肉の感触は自分の身体のどこにもない。柔肉に指が沈み、でも跳ね返してくる。それなのに、先端の突起はわかりやすく屹立していて、こんなに目立つものを弄らないのは無理な話だった。

「そん、なッ! あっ、やッ」
「誰に何を聞いたのか知らんが、ただ揉むだけよりこっちの方がずっといいじゃろ?」
「~~~~ッ!」
「良さそうで何よりじゃ」
「ちがッ、う」

 また『ちがう』だ。まあでも、言うだけならいいか。言い続けるなら、『良い』と言うまでやめなければいいだけ。幸い自分の気は長い。

「わしはこんなことせんと、本当にそう思っておったのか?」

 ウカの耳元で囁いたほとんど息だけの声は、それだけでウカの官能を刺激するようだ。ウカは問いへの答えになりうる反応はしなかった。ただ、畳んだ両脚をもどかしそうに擦り合わせただけ。腰が切なげに揺れ、もじもじと太もも同士を擦りつけるその姿も、なかなかいじらしく楽しめるものではあったが、カクは違う楽しみを思いつく。
 カクは先端への刺激はもちろんそのままに、器用に自らの足をウカの足に絡ませると、ウカが足を閉じることが出来ないよう固定した。タイトスカートが腰のあたりまでめくりあがるが、残念ながら下着まではよく見えない。
 だが、ウカにとっては羞恥心を存分に煽る体勢のようだ。顔を背け目を閉じている。その状態で、またコリコリとした感触を指で楽しむと、自由が許されている腰だけが前後し、腹筋がひくつく。

「今日は胸を揉む、それだけのはずじゃろ? ずるはいかんなあ」

 もどかしさに脚をすり合わせていた、とカクに気づかれたウカはたちまち顔を真っ赤にした。気をよくしたカクは、赤く上気しているウカの耳におもむろに舌を差し入れる。そのまま抱きしめるようにホールドして、先端への愛撫を続けると、ウカの身体がカクの指にあわせて面白いように跳ねた。その振動をカクは全身で受け止め楽しんだ。快感をどうにも逃がせず翻弄されているウカを抱きとめ、カクはひたすら指だけを小刻みに動かす。

「ああっ、も、だめッ! むりぃッ、アッあッ、ああッ」
「駄目でも無理でもないじゃろ。そのまま気持ちよくなっとれ」
「んんんんッ──!」
「はあ、いい声じゃなあ。癒される。効果抜群じゃ」

カクは言いながら、服の中からそっと手を抜いた。足のホールドは決して緩めず。

「も、もうッ、おわった?」
「まさか」

 カクはまたブラウスの上から乳輪ごと乳首を摘まんだ。また初めからだ。勝手に油断していたウカの喉が、ひゅっと鳴る。

「あああッ! ああっ、あッあッ……ッあ──」

 ウカが声をなくしてもカリカリと執拗に擦る。ウカの内股がぶるぶるっと大きく震え、突起が一際充血し固さを増してもなお、動きを緩めこそすれ、止めはしなかった。ゆるゆると弄んでいると、徐々にまた乳首が固くなり、その固さに合わせてそのまま好きに弄っていると、仰け反って震え、脱力する。その繰り返しだ。

「びくびくびくびく、かわいいのう。ウカは」

 何度それを繰り返したかは定かではないが、ウカはすっかりカクに身体を預けている。抱きしめていた力を少し抜くと、ウカの手がそろりと股の間に伸びた。それを制するようにまた先端を擦る。

「──ッ!」
「わしはもう十分元気になったんじゃけど……ウカは違うみたいじゃの」
「ふっ、あっ、カ、ク。その、」

 こちらから確認できないタイトスカートの向こう側が、いったいどうなっているのか想像して、唾を飲む。その音はウカにも聞こえたはずだ。

「いいこと教えてくれたお礼もせんといかんし、言うてみい。どうしたい?」

 悪魔みたいなカクのささやきに、ウカは迷う。そんなウカをからかうように、またカクの指が動きだす。カクの気は長い。本当に。

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おしまい

官能小説,長編・連作,ONEPIECE,adlut night 4764字 No.37 

花隠り 恥ずかしがり、死角、抱きしめて #カク

「なァ、いいじゃろう?」

 「こんなところまで来る物好きはおらんて」「大丈夫じゃから」「誰か来たらすぐやめるから」とカクは説き伏せるように繰り返しウカに言い聞かせた。ウカは渋々といった顔で、一回だけ細い首を縦に振って、こくりと頷く。ウカの同意に気を良くしたカクはぺろ、と唇をなめて、念には念を、とドアからの死角に位置どった。ウカがわかりやすくほっとしたのがわかった。

「職場ってだけで、なんでこうも興奮するんじゃろうなあ?」

 言いながら、タイトスカートから伸びるウカの太ももを指先だけで下から上へと撫でた。それだけでウカの口から「んッ……」と小さい声が漏れる。ウカはそれが悔しかったのかカクを下から睨みながら「職場でしちゃ、いけないことだからでしょ!」と抗議にも似た言葉を続けたが、カクはそれを無視して上から下へ、下から上へ指を往復させ続けた。そうして少しずつ、指先を鼠径部に近づけていく。
 古い資料を保管するだけの資料室には余程のことがなければ誰も訪れない。しかも今は昼休み。窓から差し込む光で埃がキラキラと輝くのを見て「こんな昼間から、やらしいのう」とウカの耳元で囁く。ウカは案の定「カクがどうしてもって……っあ、い、言ったん、じゃん」と自分は悪くない、と喘ぎ混じりで言い訳をしてくる。

「そうじゃ、そうじゃ。わしのせいじゃな。ウカは仕方なくわしに付き合ってくれてるんじゃった」
「そ、そうは、言ってないけど……」

 俯きながら蚊の泣くような声で「私だってここ最近忙しくて会えてなかったから、その」と恥ずかしがるウカのその顔がたまらなくて、カクはつい唇を唇で塞いでしまう。驚いてあいたウカの口にすかさず舌を差し入れて、ウカの舌を追いかける。上顎をなぞれば「ん゛んんッ」とくぐもったウカの声がカクの鼓膜を震わせてぞくぞくした。
 カクはウカが快感から逃げないようにウカの足の間に自分の足をいれ、両手でウカの後頭部と腰をホールドする。抱きしめてもう離さない。腕に力を入れて身体を密着させると、ウカがびくびくと体を震わせているのが分かる。カクは心地よい微振動を感じながら、犯すようなキスを続けた。

 「今日だけは残業せんでくれんか?」カクが問うとウカが蕩けた瞳をそらしながら小さく頷いた。カクは安心してまたキスを再開する。

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おしまい

官能小説,長編・連作,ONEPIECE,adlut night 1022字 No.36 

Udonさん(@Udon_10221022) から頂きました!
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お気に入り,ONEPIECE,KISSMEMORE 32字 No.35 

いろいろ考えたいふたりvol.01 #カク

Udonさん(@Udon_10221022) とふたりで作ったペーパー第1弾です。 ウォーターセブンでカクさんが住んでいた部屋についていろいろふたりで考えています。A4両面印刷短辺とじで冊子のようになります。
BOOTHでも配布中。

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頒布,ONEPIECE 145字 No.34 

もっとキスして #カク

 カリファは、意地悪ではなく、純粋に、心からカクが心配だった。小さな頃から苦楽を共にし、弟のように思っている年下の仲間が傷つくのは嫌だなと思って言っただけだ。決して、悪意があって言っているわけではない。ただ、辛い現実にカクが打ちのめされるのはかわいそうだと思ったのだ。カクだってもういい年の男だし、力ではとても敵わなくとも、カリファにとってはいつまでも面倒見る必要がある可愛い年下の男の子だった。

「女の二年を舐めるんじゃないわよ。二年あったら子供だって産めるわ」
「不幸になっとるかもしれんじゃろ」

 どんなに可愛く思っていてもそれはそれとして、馬鹿なのか、とカリファは思う。カクはここまで馬鹿だったかしら、と。カクはこの件に関してだけは、全然冷静じゃなかった。普段の一パーセントほどだって、冷静じゃない。口を尖らせて不満そうに言ったかと思えば「のう……、やっぱり、他に男が出来とると思うか?」と一転、不安そうに聞いてくる。そんなに気になるならさっさと調べればいいじゃないの、と返せば、馬鹿なのか!? そんなの怖くて出来るわけないじゃろう? と馬鹿に馬鹿と言われてしまうのだ。私たちが五年間過ごしたあの島は、ここから船で何日もかかるというのに、調べずに行って無駄足になったらどうするつもりなのか。カリファは呆れて、ものも言えなくなる。聞こえるようにわかりやすくため息をついたカリファを、カクはキッと睨んだ。カリファは優しくない、とボソボソとぼやいているが、カリファは大人なのでそれを華麗に無視した。

「不幸になっとらんかの?」
「それは心配なの? 願望に聞こえるわよ」
「願望に決まっとる。わし以外の男と幸せになるなんて許せん」
「……子供ね」
「カリファよりはな」

 無言で殴ると簡単に拳を掴まれてしまった。どうせ当たるわけがなかったがそれでも悔しいカリファは、先輩にも、レディにも、礼儀がなってないわ、と苦し紛れに言ってみる。「失礼」と心のこもらない、形式的な謝罪がかえって頭にくる。

「好きにすればいいわ」

泣いて帰ってきたら慰めてあげる。これ以上ない優しい言葉だとカリファは思うのだが、カクからは、やっぱりカリファは優しくない、と拗ねられてしまった。

だって、二年よ?

たった今

「前の部屋ね、水没しちゃったの」
「ああ、知っとる」

 知ってるんだ! ああでも、引っ越しの理由なんてきっとすぐわかるよね、とウカは一人納得したようだ。
 カクがウカの部屋のドアをノックすると、ウカはほんとに来た、と呟いて、そのあと「びっくりした」と全然驚いていないふうに言った。

「その、久しぶりじゃの」
「なんか、緊張してる?」

 ウカがくすくすと笑いながらカクが隠していたものをぴたりを言い当てるので、カクは動揺しながらキャップのつばに手をかけ、ぐいと目深にかぶった。ウカはカクのその様子を見て、また笑みをこぼした。立ち話もなんだし、お茶でも飲む? とウカが気を遣ってくれたが、さすがにそれは、とカクは遠慮した。ウカは、そう、と短く言って自分の分のコーヒーを淹れる。

「そんなとこに立ってないで、せめて座ったら?」

 ソファどうぞ? ウカはコーヒーをマグに注ぎながら、所在なさげにドアの前に立ったまま動かないカクに声をかけた。あまりにも、最後に会った日と変わらないウカにカクは調子が狂う。髪の長さも色も、眉の描き方も、服やアクセサリーの趣味も、カクが知っているウカと違わなかった。カリファに言われた言葉を思い出し、薬指や腹回りにもつい目がいくが、見たところ指輪もしておらず、身ごもっている様子もなかった。この新しい部屋にも男の気配は感じない。

「ほんとに、ってなんじゃ?」

 ウカはベッドに、カクはウカにすすめられたソファにおずおずと腰を下ろす。出会い頭に言われた「ほんとに来た」を今更ながら問うと、ウカは、半信半疑だったんだけどね、と前置きしてからベッドのヘッドボードに手を伸ばし、一枚のカードをサイドテーブルに置いた。見ると「長鼻の男がお邪魔するかもしれません」とたった一行、女性のような字が並ぶ。差出人は書いておらず、どうやって届いたのかもわからないのだという。

「かも、って書いてあったから、どっちかなあって思ってたんだけど」

 やられた、とカクは目元を手で覆った。これはカリファの字だ。カクの手で隠れなかった口元は、口角が上がっているのが見て取れる。ウカはそんなカクを見て満足そうに鼻をこする。

「……待っていて、くれたのか?」
「まあ、……用事もなかったし」

 なんとなく冷たく聞こえたウカの声に、カクは押し黙ってしまう。ウカは、思いのほか冷たく響いた自分の声に、自分で驚いているようだった。少しの気まずい沈黙の後、その空気を振り払うかのように、ウカは一度だけ大きく深呼吸をしてから口を開いた。

「パウリーから聞いたよ」

 カクはウカ以外にも騙した男の名前を聞いて居心地の悪い気持ちになり、一瞬、視線を自分のつま先に向けてしまう。カクはもちろん、今でもあれは世界のために必要な任務だったと思っており、彼らを騙したことに何の後悔もなかったが、後悔していないからと言って、悪く思っていないかと言えば、それはまた別の話だった。
 ああ、やっぱりお茶をもらえばよかった。そしたら少しは気が紛れたかもしれない、と内省しているカクに、ウカの思いもよらない言葉が続く。

「パウリーが言ってたの。あの状況で、カクが私に別れを言いに来るのはきっと簡単なことじゃなかったはずだって」
「パウリー、が」
「カクは黙っていなくなってもよかったはずなのに、わざわざ会いに来たんだから」

 カクは、二年前、自分たちが敗れた戦いを思い出す。パウリーが海列車で麦わらと共に自分たちを追いかけてきたことは知っていた。だが、辿り着いたのはロロノアで、伝言という形でパウリーから「クビ」を言い渡された。あの夜、島から出る海列車の中で、自分はもう二度と金槌と鑿を持つことはないのだと、当たり前のことを自分に言い聞かせていた。そこに重ねられた「クビ」の二文字は、思いのほかぐさりと刺さった。そして、わざわざそれを言い渡すために、あの島までくらいついてきたパウリーも。

「きっと、ちゃんと好かれてたって、言ってくれて」

会いに行ったのは、好きだったから。

「……パウリーに、感謝じゃな」
「憎んで生きてくのは辛かったから、本当に助かった。パウリー当たってた?」
「ああ、寸分違わず」

 パウリーすごいな、とウカが笑う。ああ、本当に、と同意した。
 パウリーが、至らなかった自分との別れで傷ついただろうウカをそんなふうに救ってくれていたとは知らなかった。カクは一人、まるで祈るように顔の前で手を組んだ。パウリーに、いつか言えるだろうか。彼は、もう会いたくないかもしれないが。

「でさァ、カクは何しに来たわけ?」
「い、や……ウカは元気かと、気になって」
「なにそれ。本気? 馬っ鹿じゃないの」

 カリファと同じ調子、いや、カリファよりも「っ」の分強い調子のウカに、カクは言葉を続けられなくなる。数分、カクを見つめ続けたウカは、埒が明かないと言い、カクに助け船を出す。

「なんで付き合ってる人がいるとかいないとか聞いてくれないの? 失礼じゃない?」
「いるのか!?」
「それがさァ、全然うまくいかないの」

 カク、何か邪魔してる? ウカは悪戯っぽく言いながらも、半分は真面目に、疑い深い目でカクを探るようにみつめた。これが聞きたかったのか。カクは濡れ衣じゃ、と両手を上げる。それが出来たらこんなに苦労はしていない。ウカは、ふ、と息を吐くと、じゃあ単純に私のせいか、と大げさにため息をついた。

ウカはいい女じゃ。周りの男が馬鹿なんじゃ」
「カクも?」
「わしは馬鹿じゃない」
「へえ。じゃあ、また付き合ってくれる?」
「そっ……」

 それが出来たらわしはこんなに困ってない、とカクは泣きそうになって言った。

「わしだって、わし以外の男と幸せになるウカなんて見とうないんじゃ。でも、わしはどう頑張っても、ウカに普通の幸せはやれん」
「ほう、例えば?」
「け、結ッ婚、とか……、子供とか!」
「他には?」
「毎日ただいまと家に帰ってくるとか、そういうやつじゃ」

 カクの捨て鉢な物言いは気にも留めず、そういうやつか、とウカは顎に手をあてる。

「じゃあ、どんな幸せならもらえるの?」
「ど、どんな……、死にそうになったら、なるべく生きて戻ってウカのそばで死ぬ……」
「不穏すぎる!」

 私、カクの本当の仕事ってよくわかってないんだよ、とウカは喚いた。そして、何も知りたくないから何も聞かせないで! と叫ぶ。パウリーのやつ、そこは言わんかったのかと、カクは口を開けて驚くばかりだ。魚のように口をぱくぱくと開けて何か言いたげなカクを尻目に、ウカは、じゃあ、と仕切り直す。

「毎日は無理でも、どれくらいなら会えそうなの?」
「あ、会えそう? ……、半年に」
「もう一声!」
「い、三か月…に一回なら、たぶん」

 カクは目を下の方に向けながら頭を巡らして、なんとかそれだけ言った。自分はいったい何を言わされているのか、と考える余裕はカクにはもうなかった。代わりに考えているのは三か月に一回どうやってこの島にやってくるか、アイスバーグやパウリーに見つからないようにしなければ、そもそもルッチにばれたら終わりだ、どうやって時間を作れば、といったことだったが、考えれば考えるほどやっぱり無理で、だからやっぱり無理だとカクが言いかけたその時。

「じゃあ、いいよそれで」
「はァ!?」
「いいよ、三か月に一回、会いに来て」
「ば、馬鹿なのか!? そんな人生でいいのか!?」
「うん、いいの」

 ウカはまっすぐカクを見つめた。カクの瞳にうつる自分の満ち足りた笑顔を見つけたウカは安心する。カクが見ている自分はとても幸せそうだ、と。

「あの日、カクと別れたこと以上に悲しいことはこれまでなかった。もう、嫌なの」

 ウカは揺らがない大木のような、大きな湖のような、堂々とした態度だった。カクは、ウカが自分よりずっとずっと考え、何度も自問し首を振り、それでも、と覚悟を決めたのだろうということがすぐにわかった。そして、先ほどやっぱり無理だと言いかけた自分を恥じた。

「何か、せめて詫びを……」

カクが小さく背中を丸めて恐縮しながら言うので、ウカは調子に乗った様子で「じゃあ、お願い聞いてもらおうかな」とえらく上機嫌になった。

「わしにできることなら」
「キスして」

 カクの鼓膜を震わせた言葉はカクの脳髄に届いて、聞き間違いか? とカクの目をぱちくりさせた。あっけにとられるカクだったが、ウカは頷くばかりだ。カクは柔らかいソファから腰を浮かせてウカの側に侍り、小さな肩を抱く。
 二年ぶりの懐かしい体温を唇で測り終え、カクがウカの顔を覗き込むとウカが潤んだ瞳で訴える。

「もっと」おしまい


夢小説,長編・連作,ONEPIECE,KISSMEMORE 4569字 No.33 

それはゴールデンデイズ #カク #パウリー

 夏が終わったな、とパウリーは思った。吹く風だろうか、空の高さだろうか、アクアラグナが去った後は、毎年こうだ。夏だけが終わる感じがするよね、と言ったのはウカだったと思い出す。パウリーはウカの言うことがいまいちよくわからず、首をひねっていたが、ウカの隣にいたカクは「確かにのう」と大きく頷いていたのをよく覚えている。夏が終わる、雨が降る前の匂い、夜の温度、笑っている犬、そういうのをよく「わかる」と言い合っていた。
 一緒にいると、わかるようになるもんか? とパウリーは思ったが、それならおれの方がウカとの付き合いは長いんだからわかっていいはずだよなと思い直し、こいつらはなんかそういうのが合うんだなきっと、と納得した。それが、いつかの夏の終わりだ。ここ数年の話のはずだが、遠い蜃気楼の向こうにある夏の話だったように思える。

二年前・夏の終わり

 パウリーが、尊敬する社長を襲った不埒な輩にクビを言い渡して島に戻ると、島は島で大変なありさまだった。かつてない規模のアクララグナに襲われた街の被害は例年以上に深刻で、そんななか本社は焼け落ちており、まあとにかく命からがら戻ってきた身体には堪える、散々な忙しさが十分に覚悟出来る様子だった。

「パウリー」
「あ、アイスバーグさん」

 休んではいられない、とまずはドッグに顔を出したパウリーは、アイスバーグの包帯だらけの姿を見て顔をしかめたが、それはアイスバーグも同じだった。アイスバーグは、パウリーの肩に手を置いて、よく戻った、と短く、だが力強く激励する。傷の痛みより、お互い無事でよかったという安堵の方が勝った。とはいえ、パウリーはそれでも自分の力不足と情けなさを痛感しており、悔しさに歯を食いしばった。喉の奥の方から絞り出したような声が出る。

「勝手して、すみません」
「いや、いいんだ、それは」

 アイスバーグは事も無げに言った。命があって本当によかった、とそれしか言わない。パウリーは頭を振って、気持ちを切り替えた。

「なんです? 仕事ですか? なんでもすぐに取り掛かれますよ」
「違うんだ」

 アイスバーグは、おれじゃあ駄目なんだ、と言いながら力ない笑顔でパウリーに降参のポーズをとった。パウリーは何のことかさっぱり見当がつかず、尊敬する男の「お手上げ」ポーズも初めて見るものだったので、何かあったんですか!? と大きな声を出してしまう。

「ンマー、ウカがなァ」
「え、あ……」

 パウリーは一瞬の間の後、すぐに察した。そして、自分たちを五年もの間だまし、つい先日あっけなく裏切っていた元仲間たちを思い出し、ぎりぎりと唇を噛んだ。思い出したくもなかったが、思い出すまいと意識すればするほど思い出されるのだから仕方ない。散々な目に遭わされたし、殺されかけた。そいつらには「勝利」してきたはずだが、そんなもので溜飲が下がるものでもなく、許せるはずもなかった。
 そして何より、必死で追いかけたのに、結局何も話せず、何も聞けなかった。
 帰ってきた今だからこそ思う。話せたとして、話したところできっと何も変わらないし、自分の望む答えは決して得られない。むしろ、余計怒りが募るだろうと。それは、追ってみたからこそわかった。だとしても。なぜ、どうして、と、疑問は胸の中で燻りつづけ、じりじりと火傷のような痛みを負いつづけている。
 ウカは、話せたのだろうか。それとも、カクは何も言わず去ったのだろうか。

ウカはいま、仮設本社に仮住まいだ」
「え? どうしたんです?」
「部屋が水没したんだと」
「なっ!?」

   ◆

「虫の知らせ、かな? このマグカップだけは一緒に避難したんだよね」

 いつもは荷物に入れたりしないのになんでだろう。ウカはマグカップをことりとデッキにおいて、不思議そうに腕を組んだ。
 アクアラグナが去った後の今日は突き抜けるような青さの快晴だった。ウカは窓の下のデッキでお茶を飲みたがり「ああ、でもパウリーの分のカップがないや」と申し訳なさそうにした。おれはいい、というパウリーと、コーヒーを淹れてきたウカは並んでデッキに腰かける。
 元は本社だった瓦礫に埋もれるように建てられた一階だけの仮設本社はみるみる出来上がり、すでに麦わらたちにも寝床を提供しているらしい。さすがの麦わらたちも今日は誰も起きておらず、無事だった社員は出払っているか、自宅や街の片づけに追われており、仮設本社にはほとんど人がいない。
 カクのマグカップだというそれは、乳白色でたっぷりしたサイズ感ではあったが、どこにでもありそうな、ただの食器にしか見えない。ウカはそれでコーヒーをごくごくと飲んだ。もう冷めちゃってちょっと酸っぱい、と舌を出す。
 ウカは「よくわかんないけど急にふられて部屋は水浸しになってしまった」と言った。そして、踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂、一難去ってまた一難、濡れてるのに雨、雪の上に霜、……と自分の不幸さを知る限りの表現で、淡々と教えてくれる。
 付き合っていた恋人から急に別れを告げられたその夜に自室が浸水して、住む場所と自分の財産、そして恋人との思い出の品を失った人間にしては、少なくともパウリーには、ウカは何でもなさそうに見え、それが怖かった。
 ウカは、からっからに乾ききった花や木のように思え、今は辛うじて形を保っているものの、触れてしまえばパリパリという軽い音とともに壊れてしまいそうにみえる。水を含ませたところで、もう決してもとには戻らない。

「あとは全部水に浸かっちゃった。もう、ほんと、今年のアクアラグナは最悪」
「その……、大丈夫じゃねぇんだろうけど」
「あ、でもね。アイスバーグさんがここにしばらく住んでていいっていうし、使ってた家具は元々前住んでた人が置いてったやつばっかりだったし、結構大丈夫」

 断捨離が過ぎるよねえと、呑気そうな声を出す。カクとの別れには触れないウカが痛々しかった。

「……話せたのか?」

 パウリーは意を決して口にした。避けては通れないと思った。無視されるかとも思ったが、ウカはこれまた以外にも「どうだろう」と何でもないふうに言った。

「どうだろうって」
「うーん、だって」

 はじめは気を遣っていたパウリーだったが、ウカの、どこ吹く風といった他人事みたいな態度が少しだけ彼を苛立たせた。パウリーも大怪我をしており本調子でなく、余裕がなかったのだ。少なくともウカは会えたのに、という妬みもあった。おれは、殺されかけただけ。パウリーはふっとよぎった自分の思いに、ぎゅっと拳を握る。

「ちゃんと言えたか? 気持ちとか、文句とか」
「どう、だろう」

 ウカの歯切れの悪さに少しずつ苛立ちが募っていくパウリーは、ウカが小さく身体を震わせていることには気が付かない。

「そんな、お前」

 もう二度と会えないかもしれないんだぞ、とパウリーが言いかけたそのとき、ウカが、コーヒーを飲んでいたマグカップを床に叩きつけた。腕を上から下にぶんと振り下ろして叩きつけたものだから、案の定、ガチャン、と見事な音を立てたマグカップは、血だまりみたいに広がるコーヒーに濡れながら無残な姿になった。ウカは、割れたマグカップを見つめながら、はあ、はあと肩を上下させていた。

「だって、」
ウカ
「なんで! どうして!」

 終わりがあるって知ってたくせに! と続いた言葉は、空気をびりびりと震わせるような大声でほとんど悲鳴のようだった。そして、うう、と小さく唸ったかと思うと、空を仰ぐようにしてわあわあと泣き出した。堰を切ったように幾筋もの涙が頬を伝い、顎の先で合流してぼたぼたと滴り落ちた。
 パウリーは、大人がこんなふうに泣くのを初めてみた。大人でもこんなふうに泣けるのか、と息を吞む。ああ、うああ、と声を上げて泣き叫ぶウカはまだ言葉を持たない赤ん坊のようだった。身体からとめどなく溢れ出る悲しみに溺れ、呼吸もままならない様子で、時々、ひぃ、としゃくりあげている。さするウカの背中は熱くて熱くて、湯気が出てもおかしくないと思うほどだった。

「ほんとだよな」

決して慰めになんかならないと思っても、パウリーは言わずにはいられなかった。そうだ、おれだって。

「あいつら、ひでぇよ」

 重ねる言葉に自分でも傷ついた。彼らに言えなかった言葉を、つらつらと重ねていく。ウカの泣く声はすさまじく、パウリーの言葉が届いているかはわからなかったが、パウリーは自分のために、ぽつぽつと呟く。

「おれは、仲間だと思ってたんだ」

 今も、とは決して言葉に出さない。だってまだ何も聞けていない。叫んだ言葉には、お前だけだとにべもなく返されたが、あれは本心なのだろうか。この五年間、あいつらは一度だっておれらを好ましく思ったことがなかったのか?
 少なくともカクは、きっとそんなことないと、パウリーは隣で泣きじゃくるウカを見て思う。あの状況で、カクはウカに別れを言いに来たのだ。それはきっと簡単じゃなかった。黙っていなくなってもよかったはずなのにカクはそれをしなかった。それがあの時の彼に許された精一杯の答えなのだと思う。落ち着いたらウカに言ってやろう。また泣くかもしれないし、「そんなので許せるわけない」と怒るかもしれないが、好かれていたのだと、知らないよりはきっといい。
 どれほど泣いたかわからないが、ウカが少しずつ静かになっていく。いつの間にか日は傾いて、ただ眩しく明るかった透明な光に、少しだけ金色が混じっている。ああ、日が暮れていく、今日が終わる、とパウリーは寂しくなる。子供の頃から、なんとなく寂しくなるこの時間が苦手だ。
 それでもまた明日はやってきて、死なない以上、生きていく。

「自分の手で壊してやりたかったんじゃねぇか?」
「……ん?」
「マグカップ。水にさらわれて無くなるよりよ、自分でガチャンとやれたら、多少すっきり、しねぇ?」

 そうかも、とウカは涙と鼻水でぐちゃぐちゃに湿った顔で、叫び続けて枯れた声で、ほんの少しだけ笑った。

「また会えるかな」

独り言みたいなウカの言葉に、パウリーは何も言えなかった。
ただ、会えたらいいなとパウリーも思った。おしまい


 

夢小説,長編・連作,ONEPIECE,KISSMEMORE 4240字 No.32 

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