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あなたが私のご主人さま
#サー・クロコダイル
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「名は?」
極限まで無駄を削いだその問いは、間違いなく「サー・クロコダイル」のものだった。その日から、彼が私のすべてになる。
「お前はひよこか」
「うふふ、確かに」
社長はうんざりした顔で、反対に副社長は慈愛に満ちた顔でそう評した。私は、副社長が用意してくれた豪華で気品のある花々を、これまた副社長が用意してくれた豪奢な花器に、緊張しながら慎重に活けているところで、急にそんな話題を振られてもうまく反応できない。
「無視か? ひよこ風情が随分偉くなったもんだなァ?」
「いえすみません決してそんなことはっ」
狼狽えながら慌てて一息でそう告げると、社長は満足そうに「クハハ」と短く笑った。「いじめちゃかわいそうよ」と副社長が窘めてくれる。さきほどのうんざり顔は私を欺くポーズだったらしい。ということは、今日の社長は機嫌が良さそうだ。社長はごくたまに、こうして私をからかう。余程お暇で、ご機嫌で、することがない、といったかなり稀な機会ではあったけれど。ここ最近、お仕事が順調なのかもしれない。社長にふさわしい品格を持ち合わせた重厚な椅子に、どっしりと腰を深く沈めてくつろいでいらっしゃる様子を見て、私は少し調子に乗ってみる。
「社長、その……ひ、ひよこというのは……?」
「……それは有能な副社長にきいてみるんだな」
「あら、ひどいひと」
副社長は肩をすくめた。私がおずおずと上目遣いに盗み見ているのに気づいた彼女はくすり、と笑って「いえね」と説明を始めてくれる。
「あなたがあんまりにも、どこへでも社長についていくでしょう? 生まれたひよこは、初めて目にした動くものを親と信じてついていくじゃない。それみたいねって」
だってあなたさっき、お手洗いにまでついていこうとしたんでしょう? 副社長は堪えきれず、あはは、と破顔した。副社長がそんな風に笑うのは初めてみる。よっぽどおかしかったんだと、顔から火が出そうだ。当の社長は、さきほどこそ「鬱陶しい」と地獄の底から響いててくるような恐ろしく低い声で私を制したけれど、今は副社長と一緒になって唇に薄く笑みを浮かべていたので、胸のつかえが降りる気持ちになった。
副社長の言うとおりだ。名を尋ねられ、社長に拾われたその日から、私には社長しかいない。ひよこは、たとえそれが玩具でもついていくと聞く。その盲目さは私にぴったりではあった。
「そうだ、ひよこさん」
自分のことだと気付くのにコンマ一秒かかった。「はい!」と我ながらいい返事をすると、社長はまるで子犬を「グッドガール」と褒めるのと同じ調子で「いい子だ」と言い、そのまま「『社長』じゃない」とこれまでの私が使っていた敬称を否定した。
「『サー』だ。サーと、そう呼べ」
「『サー』…」
「なんだ」
「いえ、あの……なんだかとても、私が扱っていい言葉には思えなくて」
「
ウカ
」
途端、ひゅっと喉が鳴る。社長の鋭い視線に射抜かれて、私が息を呑んだ音だ。
さきほどまでの和やかなムードは私の勘違いだったろうか。社長は、いや、サーは、決して椅子から動いていないのに、ただ私を見ているだけなのに、私はその場から動けなくなる。副社長は知らぬ存ぜぬのお顔だった。
「いいか、これはしつけの一環だ。お前の『サー』は、一生涯このおれだけ。そうだろう?」
「もちろんです、サー」
「よろしい。はやく慣れろ」
サーが微笑むと、ふっと力が抜けた。どっどっどっどっ、と高鳴る鼓動を必死に鎮めた。副社長が「いじわるね」と誰に言うでもなく呟いて、サーが「しつけには多少の恐怖も必要だろう」と応じた。
そうだ、もちろん。あなたが私の名を尋ねた、あの日から。
おしまい
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「名は?」
極限まで無駄を削いだその問いは、間違いなく「サー・クロコダイル」のものだった。その日から、彼が私のすべてになる。
「お前はひよこか」
「うふふ、確かに」
社長はうんざりした顔で、反対に副社長は慈愛に満ちた顔でそう評した。私は、副社長が用意してくれた豪華で気品のある花々を、これまた副社長が用意してくれた豪奢な花器に、緊張しながら慎重に活けているところで、急にそんな話題を振られてもうまく反応できない。
「無視か? ひよこ風情が随分偉くなったもんだなァ?」
「いえすみません決してそんなことはっ」
狼狽えながら慌てて一息でそう告げると、社長は満足そうに「クハハ」と短く笑った。「いじめちゃかわいそうよ」と副社長が窘めてくれる。さきほどのうんざり顔は私を欺くポーズだったらしい。ということは、今日の社長は機嫌が良さそうだ。社長はごくたまに、こうして私をからかう。余程お暇で、ご機嫌で、することがない、といったかなり稀な機会ではあったけれど。ここ最近、お仕事が順調なのかもしれない。社長にふさわしい品格を持ち合わせた重厚な椅子に、どっしりと腰を深く沈めてくつろいでいらっしゃる様子を見て、私は少し調子に乗ってみる。
「社長、その……ひ、ひよこというのは……?」
「……それは有能な副社長にきいてみるんだな」
「あら、ひどいひと」
副社長は肩をすくめた。私がおずおずと上目遣いに盗み見ているのに気づいた彼女はくすり、と笑って「いえね」と説明を始めてくれる。
「あなたがあんまりにも、どこへでも社長についていくでしょう? 生まれたひよこは、初めて目にした動くものを親と信じてついていくじゃない。それみたいねって」
だってあなたさっき、お手洗いにまでついていこうとしたんでしょう? 副社長は堪えきれず、あはは、と破顔した。副社長がそんな風に笑うのは初めてみる。よっぽどおかしかったんだと、顔から火が出そうだ。当の社長は、さきほどこそ「鬱陶しい」と地獄の底から響いててくるような恐ろしく低い声で私を制したけれど、今は副社長と一緒になって唇に薄く笑みを浮かべていたので、胸のつかえが降りる気持ちになった。
副社長の言うとおりだ。名を尋ねられ、社長に拾われたその日から、私には社長しかいない。ひよこは、たとえそれが玩具でもついていくと聞く。その盲目さは私にぴったりではあった。
「そうだ、ひよこさん」
自分のことだと気付くのにコンマ一秒かかった。「はい!」と我ながらいい返事をすると、社長はまるで子犬を「グッドガール」と褒めるのと同じ調子で「いい子だ」と言い、そのまま「『社長』じゃない」とこれまでの私が使っていた敬称を否定した。
「『サー』だ。サーと、そう呼べ」
「『サー』…」
「なんだ」
「いえ、あの……なんだかとても、私が扱っていい言葉には思えなくて」
「ウカ」
途端、ひゅっと喉が鳴る。社長の鋭い視線に射抜かれて、私が息を呑んだ音だ。
さきほどまでの和やかなムードは私の勘違いだったろうか。社長は、いや、サーは、決して椅子から動いていないのに、ただ私を見ているだけなのに、私はその場から動けなくなる。副社長は知らぬ存ぜぬのお顔だった。
「いいか、これはしつけの一環だ。お前の『サー』は、一生涯このおれだけ。そうだろう?」
「もちろんです、サー」
「よろしい。はやく慣れろ」
サーが微笑むと、ふっと力が抜けた。どっどっどっどっ、と高鳴る鼓動を必死に鎮めた。副社長が「いじわるね」と誰に言うでもなく呟いて、サーが「しつけには多少の恐怖も必要だろう」と応じた。
そうだ、もちろん。あなたが私の名を尋ねた、あの日から。おしまい