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ある晴れた日の都で過ごした#カク #パウリー #ルッチ #カリファ

 朝の光をまんべんなくうけた町はそれだけで美しい。外に出ると遠くで朝の七時を告げる音楽が鳴り始め、朝の調べと一緒に潮の匂いが風に乗って運ばれてくる。ストレッチと軽い朝食はすでに済ませた。いちに、いちに、と心のなかで反復しながら屈伸をしてから地面を蹴ると、たちまち空に近づけることを知っていた。いつもの屋根に見当をつけて、住民を驚かせないように、軽い軽い音を心がけて着地する。高所に行けば行くほど朝の空気は澄んでおり、自分を洗ってくれるような気がしている。海王類ほどに見える白い大きな雲が空を悠然と泳いでいた。
 カク、と呼ばれ下を見やれば、笑顔の眩しい彼が片手をあげた。金髪が朝日にキラキラと溶けていきそうだった。おはようさん、と言いながら、カクは登ったばかりの屋根から飛び降りた。こんな朝早くから珍しいこともあるもんじゃ、とからかう。

「今日はあいつらが家まで押しかけてきそうだからな」

 これも作戦のうちよ、と誇らしげなパウリーの言葉にカクは思わず吹き出した。『あいつら』とは金を借りている男たちのことだろう。金を返さずに悪びれぬ彼だが、どこか憎めないのをカクは知っている。朝飯は? と問うと、いやそれがよう、と口をもごもごさせるので、食べ物もとい金が無いのだとわかった。

「仕方のないやつじゃのう」
「さすがカク様! ありがてえ、ありがてえ!」
「まだ奢るなんて言っとらんじゃろ……」
「なに!? 奢ってくれんのか?」

 というパウリーの言葉に、しまったと口に手を当てるがもう遅い。カクはため息をつきながら、朝からやっているいくつかのカフェのうち、一番安く済みそうなカフェの名を口にした。

sun-solid-full

 日差しが肌をじりじりと焼くのも、首筋を伝う汗がタンクトップを湿らせていくのもいとわず、黙々と作業に没頭する。昼の十二時を知らせるチャイムが鳴ってもパウリーの手は止まらなかった。咥えた葉巻はもう大分短い。今日は風がなかったので、葉巻からの煙はゆらゆらと彼の周囲に停滞し香りだけを残してゆっくりと消えていく。手元を見る彼の視線はまるで光線のよう。今日の強い日差しと相まって、見つめるその一点を焦がしそうなほどだった。
 それを阻止したのは一枚の濡れたタオル。顔面にぶつけられたそれは、さすがに彼の手を止めた。ぶわっ、という声とともに短くなった葉巻がじゅっと音を立てて消える。煙も吹き飛び、心なしか彼の輪郭がくっきりとする。

「おいこら! なにすんだ!」顔を覆ったタオルを取り開けた視界の先にいたのはルッチだった。
『お前のその集中力は唯一称賛に値する点……だと思うこともなくはないが、度が過ぎる。もう昼だ。生産性が落ちるから休憩しろ』
「素直に褒めらんねェのか、お前は」

 言いながらカクの姿を探す。いつもならルッチの隣で早くしろと飯をせっつかれるのだが。

「カクは?」
『今日は食いたいものがあるからと一人でどこかに行った』

 逃げたな。カクの奢りで朝食を頬張ったパウリーにはカク不在の理由がピンときて、何気ない風を装いながらルッチに探りをいれる。

「へえ、珍しいな。じゃあ今日は二人か。どうする?」
『何か食いたいものがあるのか?』
「今日は外に食いに行こうぜ」

 社員食堂では、給料から天引きされる。外の店で腹いっぱい食べたあと、ルッチに泣きつけば、ルッチも奢らざるを得ないだろう。

『わかった。いいだろう』

 カクからは何も聞いていないらしい。あいつのことだ、ルッチも同じ目に遭えばいいと思っているに違いない。パウリーはカクの期待に応えるべく、ルッチと肩を並べ会社近くの食堂に向かう。

sun-solid-full

 彼は今日は何を所望するだろう。コーヒーか、そろそろ紅茶か──。カリファの熟考を三時のチャイムと電伝虫の呼び出し音が砕いた。受付からの用件を聞きながらそっと窓の外に目をやる。

「アイスバーグさん」
「ンマー、なんだ?」
「また、あのお客様です」

 カリファがそう告げると、アイスバーグはカーテンの隙間から自分がさっきしたのと同じように窓の外を盗み見た。玄関先にコーギーの部下たちがたむろしているのをみて、あからさまにげんなりしている。
 そんなに辛いのなら、さっさと手放せばいいものを──この人は社長でかつ市長でもあるのに、実に表情が豊かだった。だが、壁に貼った手配書走らせた一瞬の視線は険しい。それが何を意味するのかまでは決して悟らせない。そういう人だ。
 持っているならはやく手放して。心に思うだけで決して言わない言葉が、カリファの胸に澱のようにたまっていく。傷つけたいわけではない。目当てのものが手に入れば私達は黙って姿を消すだけ。だから、はやく。
 そこまで考えて、軽く首を振る。彼はたとえ私が正体を明かして説得したところで態度を変えないだろう。どんな忠告も懇願も彼には届かない。それなら。

「コーギー氏とお会いする前に、何かお飲み物でもいかがですか?」
「それもそうだな。今日は紅茶に」
「淹れてきました」

 さすがだな! という称賛を得て、顔がほころぶのに気づいたカリファは、そっと眼鏡をかけ直した。
 最後まで優秀な秘書を全うするまでだ。

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 細い細い月が水の都をそっと照らしている夜のこと。海を帯びた生ぬるい夜風が、月明かりも届かぬその場所を通り抜けていく。
 誰にも知られていない四人は、誰にも知られてはならない会話を続ける。

「準備はいいか?」誰かが問う。
「問題ない」低い声が響く。
「天気も上々」少し若さの残る声で返答がある。
「ちょうど新月」しっとりした声が提案を後押しした。
「それならば──」最初の声が言う。

「明日、頂こうか」

 湿った黒い風がごうと吹き、車両基地に戻る海列車の汽笛がのどかに鳴った。なんでもなかった、いつもと変わらぬ一日だったはずの今日が、この瞬間からたちまち襲撃前日に、そして潜入任務最終日となる。

 ある晴れた日のことだった。

おしまい

二次創作,長編・連作,ONEPIECE,水の都で過ごした 2559字 No.119 

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