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二次創作,長編・連作,ONEPIECE,水の都で過ごした 1037字 No.101
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あと、三百六十五回。
「カクー!」
帰路につこうとしていたそのとき、この四年で聞き馴染んでしまった声に名を呼ばれた。声の調子で酒の誘いだろうとわかる程度には、馴染んだ。今日は疲れているのに、と渋々振り返ればもちろん知った顔だったし、次に続く言葉もやはり。
「飲みに行くぞ!」
だった。しかし、歯を見せ陽気な男の隣に仏頂面の長髪男がいたのは予想外だった。そいつとその肩に乗るハトは、まさか断るつもりか貴様、と表情だけで圧をかけてくる。
ああ、疲れていたのに。読みたい本があったのに。さっさとシャワーを浴びて寝るのも良いし、アルコールよりはコーヒーがよかった。洗濯だってたまっているし、明日も早い。それなのに。
「仕方ないのう」
という答えしか持ち合わせていない自分を呪った。それを聞いたパウリーが、よし! 決まりだな、歯を見せて笑い、先に立って歩く。その背中を追うように、家とは真逆の方向に重い足を引きずった。
「ところで金はあるのか?」
店は相談せずとも決まり切っていたので、三人とも同じ方向に歩を進めていた。夕陽はぐっと傾き、これから始まる夜の賑わいが顔を出し始めている。昼の騒がしさとは違う夜の浮ついた空気は実を言うと好ましく感じているが、口に出したことはない。
「おう、今日は勝ったからな!」
「今日『は』。相変わらずじゃのう」
『懲りないやつだ、ポッポー』
「うるせえな! 勝利の宴だってのに水差すんじゃねえよ」
パウリーが肩に回してくる腕の重さがやけに煩わしい。そもそも、この男は体温が高いのだ。触れている部分がじんわり熱を帯びていくのが鬱陶しくてじろりと睨むが、当の男はこちらの不機嫌さは露知らず。能天気に笑っていた。
気づかれぬように深くため息をつく。そうだ、こういう男だった。
足元から伸びた長い影は三人分くっついて一つの大きな生き物にみえた。好き勝手にくねくねと動くそれは、一部は自分の影なのに自分の意志とは違う動きをしているように見える。影は随分楽しそうだ。思ってすぐ、くだらない、と一蹴する。
「ええい、暑苦しい!」
『同感だ。さっさとこの腕を下ろせ』
「つれねェやつらだな! 今日は誰が奢ってやると思ってるんだ」
軽口をたたきあっている間に太陽は呆気なく沈んだ。あと三百六十五回。三百六十六回目の太陽はここでは見ない。だが、それまでは。きっと隣で。
おしまい