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No.71, No.70, No.69, No.68, No.67, No.66, No.657件]

ただいま #パウリー

 『面白いやつらと友達になったんだ。帰ってきたら紹介するから、ちゃんと連絡しろよ』

 私たちはいつも隣にいたから、電伝虫なんて使ったことがなくて、電伝虫越しにはじめて聞くその声は、遠い、知らない人の声みたいでちょっと緊張した。
 五年振りなのに、昨日も一緒に遊んだみたいな口ぶりだった。

ただいま

 私の夢は一度ウォーターセブンを出て、別の島に住んでみることだった。旅や冒険というほど、あちこちの島に行ってみたいわけではなく。ただ、海の上を走る海列車を初めて見たとき、「私はどこへでも行けるのかもしれない」と思ったから「いつかどこかへ行ってみたい」と思ったのだ。海列車で行ける島にはあまり興味がわかなかった。そのうち、旅人が集まる島があると聞いて、そこに行ってみたいというのが夢になった。
 両親はとうの昔に亡くなっていて、一緒に暮らしていた祖母も亡くなって、私は十九歳になるところで、私はひとりぼっちになった。もう私を心配する人はいない、と思ったら、とてつもない悲しさと、罪悪感とほんの少しの自由を感じてしまった私は、ひどい孫だろうか。祖母はとても私を慈しんでくれたけれど「育ててもらっている」という負い目が、本当に時々、一瞬だけ、私をがんじがらめにすることがあった。祖母をがっかりさせたくない、悲しませたくない、と生きていた。それなのに祖母は「好きなことをしなさい」とお金を貯めていてくれて、私は泣きながらそれを夢の島への片道切符にした。

 私とパウリーはなんで友達になったのかな、と今更ながらに考える。
 お隣だったから。それ以外に考えられない。
 私たちが小さな子供だった頃のウォーターセブンは、朧気だけど、でも覚えている。大人の男たちは大半が酒浸りで、生気を失い、道の至る所に転がっていた。暴れたり、怒鳴ったり、ということはあまりなかったが、大人の女たちは、そんな男たちを刺激しないように息をひそめていたと思う。みんな、誰も悪くないのを知っていた。でも、だからこそ誰も何も責められなくて、辛かっただろう。
 もちろん、いい大人たちもいた。でもいいニュースはなかった。会社がつぶれた、海賊が来た、海に出た大人たちが帰ってこない。子供は大人たちの顔色をうかがって過ごしていた。息を殺して、はしゃがぬよう。大人たちがいないところでだけ、息が吸えた。パウリーとは、あの頃をそういうふうに過ごした。母親や祖母に倣って、そうっと。ある時は手をつないで、道に転がる男を起こさないよう、抜き足差し足で通り抜け、ある時は、酒瓶を片手に涙ぐみながら、訳のわからないことを喚き散らす男から、走って逃げた。逃げおおせた路地裏で、声を殺して笑った。

 そんなすべてをぶっ壊してくれたのが海列車だったのだ。
 危なくて汚くてごちゃごちゃしていて、それでいてまるで活気のない廃船島にはそぐわない、明るい汽笛を鳴らして発車した海列車は、島に立ち込めていた暗雲を見事に吹き飛ばしてくれた。大人たちの明るい顔は私たちの息を楽にした。

 パウリーからは、島を出てすぐ、まだ私が船に乗っている頃にカードが一枚届いた。『ちゃんと帰って来いよ』と一行走り書きしてあるだけだったけど、カードを買って、書いて、ニュース・クーと交渉し、まだ海の上にいる私に届くよう手配するのは、間違いなく手間だったはずだ。私も憧れの島に着いたらすぐにカードを送った。『着いたよ』と。それ以来、カードは届いていない。
 パウリーには私よりずっと、気が合う友達がきっと、いるはずだと思っていたから、それならいいなと思っている。

   ◆

 今日は嫌な一日だった。
 真昼間から酔っぱらった海賊に絡まれ、卑猥で下劣な言葉を浴びせられた。たったそれだけ、と思う人もいるかもしれないけれど、「私は」心が凍る気持ちになる。こんな人間に自分の一日の気分を支配されるのは悔しくて、腸が煮えくりかえる。でも、私にはこいつの口を塞ぐ術はない。怒りで引き攣る表情筋をなんとか御して笑顔を貼りつけ、当たり障りのない言葉で受け流していく。
 そうして心も体もへとへとになる辛い労働を終え、気分を変えよう、と帰り道で入ろうとした店はどこも満席か臨時休業だった。極めつけはテイクアウトの品を間違えられるというフルコース。

「ピクルスが食べたかったのに……」

 なんで抜いてあるの。
 思わず口をついて出たクレームは、幸い自分一人しかいない部屋に虚しく響くだけだった。さして大きくもないテーブルが今日はやけに大きく感じる。行儀悪く肘をつき、一口齧ったサンドイッチを見つめていたら、鼻がツンとしてきて視界がぼやけてきた。こんなことで、くだらない。思いながらも、目の縁にじわじわと涙が滲んでくる。はあもう、今日は駄目だ。すべてを放り投げてふて寝してしまおうかと思ったら、そんなタイミングで電伝虫が呼び出し音を鳴らす。ついてない。

ぷるぷるぷるぷる、ぷるぷるぷるぷる。がちゃ。

「……はい」
『おう、ウカ
「ぱ、パウリー?」

 電伝虫から五年ぶりに聞こえたパウリーの声は、記憶とすぐに結びつかなくて、最初は本当にパウリーなの? と訝しんだ。だけど、そうか。そもそも電伝虫で話すのが初めてだと気付く。電伝虫を通したパウリーの声は低く、少しくぐもって聞こえ、久しぶりに話す緊張もあって身構えてしまう。受話器を持つ手に力が入った。

「びっ、くりした」
『おう。なんか下がってんな。どうした?』
「びっ……くりした」

 なんでわかるんだろうと首を捻りながら「サンドイッチにピクルスが入ってなくて」と五年ぶりの話題にしては取るに足らないありのままを伝えたら、『そりゃあ、つまんねえな』と心から同意してくれたのが分かった。ふふ、と思いがけず笑みがこぼれて、力が抜けていく。パウリーがそれを耳聡く聞きつけて、「何笑ってんだよ」と唇を尖らせた。
 『元気してたか?』『仕事は?』という近況を尋ねる無難な質問に、「元気、元気」「定食屋さんと、たまに酒場に入って食いつないでるよ」と、こちらもありきたりな答えを返す。

『おうおう、かけもちか。たくましいな』
「もう、ひとりだからねえ」

 他意なくそう告げると、少しの間があった。あ、パウリーが困ってる。
 すぐにわかってしまって、聞こえないように「ごめん」と謝った。

『そうだ。失恋は?』

 パウリーは思い出して、思いつくまま問うてくる。懐かしいなと口許が緩んだ。ちょうど島を出る頃だったはずだ。「失礼にも程があるね」と応じておいて、「期待に添えなくて申し訳ないけど、恋もまだしてないよ」と進捗を報告した。

『なんだ。新しい島なら、いくらでも出会いがあるだろ』
「そりゃあ、全然知らない人ばっかりだからね。そういう意味では出会ってはいるんだろうけど、そうだなあ。恋をしなくても毎日が楽しくてここまできちゃったから」
『あァ、それはわかる。おれもガレーラに入ってから今日の今日まで、毎日全部ずっと楽しいわ。そうそう、面白いやつらと友達になったんだよ』

 紹介するから帰ってきたらちゃんと連絡しろよ、と念を押すパウリーは、嬉しいことにまだ私と友達のつもりみたいだ。

『早く帰って来いよ』
「え?」
『ひとり、だなんて下らねえこと言ってねえでよォ。さっさと帰って来いよ。もう五年経つぞ。おれァ、心配だよ』

 パウリーの言葉は、そのままだった。そのまま、言葉通りの意味しかない。昔からそうだ。私のことを心配してくれる人は、まだいたんだな。私が帰らないと、心配する人がちゃんといた。 そう思ったら、さっき乾いたはずの涙がまた押し寄せてきて、慌てて片手で乱暴に拭う。

「うん、帰るよ」
『おう、おけえり』

 一通のカード。一本の電伝虫。どちらも『帰って来い』の言葉だけ。
 でもそれはこの世界で「愛」と呼んで差し支えないもので、パウリーはそれを私に惜しみなくくれるので、私はまだ「ただいま」と言うことが出来る。
おしまい


 

夢小説,長編・連作,ONEPIECE,夏という月日 3317字 No.71 

病めるときも健やかなるときも #パウリー

 それはまるで愛の告白のよう。
 パウリーはなんにも恥ずかしがらずに「おう」と言ってくれた。

病めるときも健やかなるときも

 パウリーは少し前から恋をしている。多分、初恋だと思う。パウリーが「恋をした」と律義に教えてくれたわけではない。ただ、店先のショーウィンドウに自分が映るたび髪の毛が整っているか気にしていたり、汗臭くないかと聞いてきたり、この服は変じゃないかと不安そうにしていたりするので、恋をしたのかなと勝手に想像しているだけだ。そして、そんなパウリーを見るのは十年以上一緒に過ごしてきて初めてなので、初恋かなと思っている。ちなみに相手は私ではない。でもそれは全然悲しくない。もちろん、負け惜しみでもない。本当に。
 私とパウリーは家が隣で、でも、同じ年頃の子供は私たちしかいなくて、幸いどちらも外遊びが好きだったので「一緒に遊ばない」という選択肢がなかった。だから一緒にいたのだが、思っていたよりも気が合い、というのもあるし、正直に言えば断絶を決定づけるようなドラマチックな喧嘩なども起きず、結果としてゆるゆるとした付き合いが今も続いている。
 パウリーが恋をしたのは、角の煙草屋のお姉さんだ。先代のおばあちゃんがお店を閉めようかというその時に、サン・ファルドからやってきたお孫さんで、大層美人で気さくだった。あっという間にファンクラブのようなものが出来、意外や意外。パウリーもその一人(隠れ会員)となっていた。
 私はこの時まで、パウリーが恋の出来る人間だなんて思ってもいなくて、結構かなり動揺した。私たちは十八歳。恋の一つや二つしたっておかしくはない。私が動揺したのは、パウリーの恋の仕方だった。彼がこんなに密やかに、人を想えるとは知らなかったのだ。
 でもそれもあっけなく終わった。

「パウリー、こんなところにいたの。急に走りだすんだもん。びっくりしたよ」

 だいぶ探し回ったんだよ、と息を整えながら、私はパウリーの横に腰を下ろした。白い石で出来た大橋の階段は春の陽射しで少し温まっていた。パウリーは無反応だ。黙って海を見ている。並んで座った私は、そっとパウリーの横顔を盗み見るが、長めの金髪が目元を覆い隠すその合間から整った鼻筋が見えるくらいで、表情は窺えなかった。パウリーは存外、彫りが深いのだ。視線がまっすぐ海をとらえていることだけはわかる。今日の海は春の日にふさわしく穏やかで、太陽を反射させてキラキラと輝いていた。
 突然、潮風が階段を這うように下からぶわっと吹き上がる。「うわ」と二人で目をつむり、顔を腕で覆うようにして風を受けた。髪の毛が舞い上がる。風がおさまって「すごい風だったね」と横のパウリーに話しかけて、私はそのまま言葉を失った。
 パウリーは涙ぐんでいた。目も鼻も赤い。でも決して、しゃくりあげたりはしない。じわっと涙が滲んでいて、一回だけスン、と鼻をすすった。私が差し出したハンカチを無言で受け取って、それで目と鼻を押さえる。
 パウリーはもっとわかりやすく傷つく人間だと思っていた。「うるせえ」とか「ちくしょう」とかそういう暴言を吐きながら、わんわん泣いて「くそ」とか「笑ってんじゃねえ」とか喚いて、でも最後には「ああすっきりした!」と。そういう男かと。
 でも目の前の彼はそんなことなかった。真逆だった。静かに呆けて「お似合いだったな」と殊勝な声を出す。

 今日発覚した煙草屋のお姉さんの「好い人」は、このあたりの人間なら知らない人はいない有名人だった。彼は小さな私たちにとっても、頼りになるお兄さんだった。背が高くて、目鼻立ちがはっきりしていて、顔が小さくて、引き締まった身体で、笑うとえくぼが出来て歯が白く輝く。かっこいい人だ。でも、パウリーが言っている「お似合い」はそういうことじゃない、というのも私は知っている。
 彼はとても親切で感じのいい人だ。人の悪口は言わないけれど、傷ついた人には心から寄り添える人で、目の前の人が泣いていたらおろおろとして、なんとか元気を出してもらえないかと苦心する。
 そんな二人がいつから惹かれあっていたのかは、私たちのあずかり知らぬことではあるが、歳の釣りあいのとれた近所の男女がこうなるのは必然だったかもしれない。

「パウリーだってお似合いだよ」

 年がなあ、とだけ心の中で呟いた。私たちが十八歳でなければ、お姉さんだって、パウリーを恋愛対象にしてくれたかもしれない。
 パウリーだって、背は高いし、ちょっと目つきは悪いけど笑うと可愛いし、歯だってお兄さんに負けじと白い。力だってもう負けてないはずだ。船大工になるんだって、最近は特に一生懸命勉強してるし、努力家だ。明るくてさっぱりしてて、情に厚くて、すぐ絆される。まっすぐで友達思いで、好きな人が傷つけられたら自分のことのように怒ってくれる。
 十分、お似合いだ。でも当の本人からは「そんなことねえよ」と小さな声が聞こえてくる。

「私はパウリーのいいところたくさん知ってるよ。お姉さんがそれを知らないままなのは本当に残念だ。もちろん、お兄さんもいい人だけども」

 そう。お兄さんもパウリーと同じくらい、いい人だ。それも知っている。
 結局こういうのはタイミングなのかもね、とまだ恋を知らないくせに、恋を知ってる大人みたいな台詞を頭の中で吐いてみる。

「恋はパウリーに先を越されちゃったな。私はいつになることやら」

 ひとまず様子見のジャブを打つ。パウリーは間髪入れず打ち返してきた。

「おれはもういい。なんつうか、自分のことなのに、自分じゃどうしようもできねえのが、しんどくて辛かった。気持ちを伝えようとも思えない自分も情けねえし。なんかもう嫌だ。なのに嫌いになれない。わかんねえ」

 パウリーの独白はとても悲痛な響きを伴ったものだったが、クゥークゥーと鳴くカモメと波の音に少しかき消されたので、私は目にぐっと力を入れて息を吐くことで、涙をこらえることが出来た。今日が晴れていて、雲一つない青空だったのも良かった。静かな夜の海だったらきっと涙を落としてしまっていたと思う。パウリーの戸惑いや、もどかしさ、やるせなさはすごく伝わってきたのに、私にはどうしてあげることも出来ないのが悔しかったから。
 私の眉が八の字になったのを見たパウリーは慌てた様子で「悪ぃ。なんか、急に。ずっと辛かったわけじゃねえから」と弁解するように言った。パウリーの気遣いに応えねばと、私はふっと笑んで「楽しそうに見えるときもあったよ」と茶化してみる。

「あァ? そんなにわかりやすかったかよ」
「窓ガラスに映るたびに髪を直したり、汗臭くないか? って聞いてきたり、この服おかしくないかって気にしたりしてたじゃん」

 初恋真っ最中の自身の様子を私に一息で告げられたパウリーは、二の句を継げず口をぱくぱくさせるので、それがまた可笑しくて笑った。
 もう一度、風が吹く。でも今度の風は、さっきよりずっと穏やかな、そよそよとした春風だった。
 パウリーが「ありがとな」とさっき手渡したハンカチをひらひらさせ、「洗って返す」とポケットにしまい込んだ。パウリーの目元はもう濡れていない。そよ風が乾かすのを手伝ったのかもしれない。

「ずっと友達でいようね」

 何気なく言ったつもりだったけど、なぜか愛の告白みたいに聞こえ、咄嗟に口を覆う。恐る恐るパウリーの方を見やると、パウリーは思っていたよりずっと真面目な顔で、そのまま「おう」と答えるので私はまたびっくりする。

「失恋したら慰めてやるよ」
「ちょっと待って。失恋は確定してるの? 初恋がそのまま成就するかもしれないじゃん」
「一回くらいは経験しとけって。人間的な深みが出る。おれがいい見本だろ」

 どうだと言わんばかりの顔をしたパウリーの軽口に、お腹を抱えて笑った。これまで何度もそうだったように、口を開けて、歯を見せて、大きな声で、目に涙を滲ませて。

 私は明日この島を出る。
 だとしても、月日が私たちの友情を邪魔することはない。パウリーの短い返事には、そう確信できるすべてが詰まっていた。
おしまい


 

夢小説,長編・連作,ONEPIECE,夏という月日 3378字 No.70 

偽証 #パウリー

 会いたいとただ一言、言ってくれたら。

偽証

 今回のアクア・ラグナによる町の被害は、アクア・ラグナ慣れしていたと言っても過言ではない島の人々も、呆然と立ち尽くすほかない有様だった。これだけの被害だったのに人的被害がなかったのは不幸中の幸いで、それゆえ、島にはさほど重苦しい空気は流れずに済んだ。「さあやるか」と、みな黙々と瓦礫を撤去していく。
 ガレーラカンパニーの職人たちが手助けしてくれたのも大きかった。どやどやとやってきてくれたかと思うと、あっという間に道が通れるようになり、新しい橋が渡されていく。行き来できるようになった水路に少しずつヤガラが増え、ニーニーと鳴き声が聞こえるようになった。無駄のないプロの活気に満ちた仕事ぶりは、雲一つない青空も相まって、見ていて気持ちがいい。
 とはいえ、天下のガレーラカンパニーにも限界はある。復興に向けた大体の道筋を立ててもらったら、あとの細かい作業は各々で取り組むほかない。私も漏れなく、自宅の片づけに精を出している。もう住むことのない部屋の片づけだ。

「派手に浸かっちまったなあ」
「パウリー!?」

 ドアが流されたため、今はただの四角い穴と化した元ドアから、パウリーがひょこと顔を出す。「仕事は大丈夫なの?」と驚きながら問うと、「これも仕事みてぇなもんだよ」と足元に転がっていたマグを拾い上げ、まだ使えるか、欠けはないかとカップの縁に指を伝わせた。私が、「悪いよ」「忙しいでしょう?」「そういえば怪我は?」「少しは休まないと」とおろおろしているうちに、「残念だったな、こりゃ駄目だ」とあっさりマグの査定が終わった。
 パウリーは結局、私の遠慮や質問に応えることはなかった。挨拶もそこそこにスコップを手に取ると、部屋の中の泥をかきだし、それが終われば床や壁や天井を水で清め、部屋に散らばったさまざまなゴミをてきぱきと分類して外に運び出し、最後はひとところにまとめてくれてしまう。狭い部屋と少ない家財が功を奏して、ぎりぎり夕暮れ前にひと段落ついた。一人では絶対にこんなに早く終わらなかっただろう。
 腕を頭の上にうんと伸ばしながら二人で部屋の外に出た。パウリーよりは絶対に働いていない背中が、それでもぼきぼきと悲鳴を上げる。傾き始めた日が水路に反射してきらきらと眩くのを見ながら、「細けぇとこはまた明日だな」とパウリーが今日初めて葉巻に火をつけた。その様子に、葉巻も吸わずにずっと作業してくれていたのだと今更気づいた。
 家壁にもたれながらゆるゆると座り込むパウリーの隣に私も腰を下ろす。石畳は冷たかった。秋めいた風がすうと二人を撫でていき、葉巻の煙がゆらりと攫われていく。近所の人は早めに作業を終えたらしい。周囲に人気はなく、まるでここには私とパウリーしかいないような気持ちになって、なんだかふと昔のウォーターセブンを思い出した。子供の頃、海列車が出来る前のウォーターセブン。パウリーと手をつなぎ、息を殺して歩いた石畳を。

「職場も浸水したんだったか?」

パウリーの問いかけに、はっと我に返る。

「そうなの。まあ、家に近い職場を選んだから当然なんだけど。部屋も仕事も、どっちもひとまず決めたって感じだったから、この機会にまた探すよ。幸い、市長は被災者への手厚い支援をすぐ決めてくれたみたいだし。とはいえ、ひとまず落ち着くまでは、セント・ポプラにいる叔父のところで厄介になろうと思ってるんだ。実は、前から連絡もらってて」

 別に慌てる必要はないのに、なんだか早口になってしまった。
 軽く頭を振って、水路とその向こうの路地を見る。水路の水はまだ濁っていて、路地にはごみになってしまった家具や家財、瓦礫が積んである。

 私の言葉に、パウリーは意外にもちょっとだけ目を見開いて相槌も打たなかった。少なくとも寝る場所はあるから心配しないでと、そういう意図で伝えたつもりだったので、パウリーの反応は不思議だった。煙をふうと吐くくらいの間をとって、「叔父さんが……。そうか。それなら……安心だな」と口にした言葉とは真逆の表情で呟くパウリーに、まさかと思いながら、念のため確認する。

「あの……ちゃんと戻ってくるよ? ちょっとの間、家が見つかるまでだよ」
「なんも言ってねえだろ」
「いや、だって。あんまりにも寂しそうな顔で言うから」

 パウリーは誤魔化すように、がしがしと頭を掻いたかと思うと、咥えていた葉巻を手に取って、ぼそぼそと小さな声で話しだす。聞き取りづらかったけど、頑張ったらちゃんと聞こえた。

「……こうやって、馴染みがどんどんいなくなんのかなって思ってよ」

 馴染み、にはカクさんやルッチさんのことも含まれているのかとは、わざわざ確かめなかった。代わりに「私はずっとここにいるよ。この島が好きだもん。外に出たら一層、そう思ったよ」と気持ちをしっかり言葉にする。パウリーがこれで安心するのかはわからなかったが、パウリーは「そうか」と弱々しい微笑を浮かべた。
 話題を変えよう、と思いついた話題は、さっき口にするのをやめたばかりの話題で、この場、このタイミングにはあまり相応しいと言えなかった。

「カクさんとルッチさん、ほんとにただの里帰りなの?」

 最大限、ただの世間話に聞こえるように努めたつもりだ。効果はたぶんない。
 パウリーは一転、ぶっきらぼうに、以前から何回聞いても変わらない「知らねえ」をまた繰り返した。日はもう沈んで、空は激しい茜色から穏やかな薄桃色に変わっている。段々とパウリーの顔が見えなくなってくる。私はせめて空気は変えようと、無理に明るい調子で返した。

「そう。パウリーでも知らないんじゃ、もうどうしようもないか。それにしても急だったね。私には挨拶もなかった。まあ私なんてついこの間知り合ったような仲だったから、仕方ないけど」
「カクもか?」
「パウリーに挨拶しないのに、私にするなんてこと、ないでしょ」

 本当はぎくりとした。実を言えば「あれ」がもしかしたらそうだったのかも、というのはあるにはある。
 アクア・ラグナに備えて避難していたらカクさんが避難所に顔を見せてくれたのだ。久しぶりの避難に手間取ってしまい、避難所入口近くのスペースで縮こまっていたら、聞き覚えのある声が上から降ってきた。『地元っ子じゃろ? そんなに震えてどうしたんじゃ』と。
 少し話をして、そしたら避難所の明かりが急に消えて、そしたら──……。明るくなったら、カクさんもいなくなっていた。
 刹那の暗闇での「あれ」が別れの挨拶だったのかもしれないが、真意はカクさんに聞くか、別の人にあらましを説明して意見を聞いてみないとわからないくらい、自信がなかった。でも、じゃあ例えば、パウリーにどこからどこまで伝えて、どこから伝えないか。私には咄嗟に判断できなくて、つい「何もなかった」ことにしてしまう。それを聞いたパウリーは「そうか。いや、急だったからな」と私を一生懸命慰めてくれた。ずき、と胸が痛む。あばらが軋むみたいだ。

「会いたい?」

 自分の罪を少しでも軽くしたくて、うっかり必死になってしまう。

「あァ?」
「また、会いたいよね?」

 会いたいとただ一言、言ってくれたら。
 カクさんは今、セント・ポプラにいる。ルッチさんは怪我で入院中らしいから、すぐには動けないだろう。明日でも明後日でも、海列車に乗ってしまいさえすれば、会って話せる距離にいるのだ。 カクさんは自分たちがセント・ポプラにいることは、パウリーには内緒にしてほしいと言った。あれは懇願だった。パウリーは自分達には会いたくないはずだと。察するに、カクさんとルッチさんは、もしかしたら去り際、パウリーに何か酷いことをしてしまったのかもしれない。誤解だったのか、何かすれ違いがあったのかわからないけど、あまりに時間がなくて弁解できなかったのかも。パウリーをこんなふうに怒らせるなんてよっぽどのこととは思うけど、でも二人がわざと、悪意をもってひどいことをするような人達だとは思えなかった。何よりパウリーの友達だ。何か、お互い勘違いしてるんじゃないかな。
 パウリーが会いたいなら、嘘は。

「あいつらはおれの顔なんてもう見たくねえだろうよ」

 なんで、という言葉はすんでのところで飲み込んだ。
 なんで、二人とも同じことを。

「パウリーは、もう会いたくないの?」

 縋るような問いになる。
 日は完全に落ちて、夜風といって差し支えない冷たさの風が、音もなく肌を撫でていった。パウリーは黙り込んでいる。追い詰めてしまったと反省し、ごめんと謝ろうとしたところで、「わかんねぇ」とくぐもった声が聞こえた。それを聞いた私は、本当にごめん、と心から反省する。パウリー、ごめん。

「三人に何があったかも知らないのに、勝手にごめん」

 パウリーの声には、はっきりと辛さがしみこんでいた。

「言いたいことも、聞きたいこともある。けど、もう今更だっても思う。忘れたいのに、ふと思い出しちまう。こんなのはもう嫌だ」

 既視感を覚えた。
 心臓をぎゅっと握って絞り出したようなこの悲痛さを、自分で自分をどうしようもできない辛さを、私はすでに誰かに教わった気がする。何も言えずに黙っていると、パウリーがゴーグルを外して、後ろに撫でつけていた髪をばさばさと乱暴にほぐした。パウリーの横顔が髪で隠れてその瞬間、あ、と記憶がよみがえる。

『なんかもう嫌だ。なのに嫌いになれない。わかんねえ』

 初恋だ。私ではなく、パウリーの。
おしまい


 

夢小説,長編・連作,ONEPIECE,夏という月日 3957字 No.69 

望みはたったひとつだけ #カク #長編第1話

 雨降るセント・ポプラの町中で、彼の手を掴むことが出来たのはなぜだったろう。
 答えはもう教えてもらえない。

「カク、さんッ!?」
「なんとまさか」

 見つかってしまったわい、と慌てるでもなく言ってのけたのは、私たちの前から姿を消したカクさんその人だった。

望みはたったひとつだけ

 ウォーターセブンにアクア・ラグナを連れてきた雨雲がまだ近海に停滞しているのか、セント・ポプラは生憎の雨だった。みな雨に濡れぬよう、傘の中に身体をしまいこんでいる。傘と傘が行きかう道は普段よりずっと窮屈で、行き交う人の表情も傘に隠れて窺い知ることはできない。だから雨の日は嫌いだ。

 記録的な大災害となったアクア・ラグナ襲来から二日後、家をなくした私はセント・ポプラの叔父の家にやっかいになっていた。しばらくは夢の海列車通勤だ。ただ、通勤といっても、職場も被災したから目下の仕事は瓦礫の片づけということになる。もやもやと気になることが多いこの頃、考える暇なく身体を動かせるのはありがたかった。
 とはいえ、家路につくための海列車車内では、結局、時間を持て余したため、考えずにいるということは残念ながら難しかった。車窓にぶつかる雨粒が、少しずつ大きくなって下に流れては、またうまれていくのをぼうっと見ながら、ウカはパウリーのことを考えてしまう。そして「里帰りした」カクとルッチのことも。アクア・ラグナが去った後、姿が見えなくなった二人は、このタイミングで里帰りしたそうだ。変だと思っていたら、パウリーも変だった。「知らねえ」とそれしか言わない。本当に知らないなら、もっと心配するはずだ。パウリーはそういう男のはずだった。つまり、知っているがゆえの「知らねえ」なんだな、とウカは思っていた。
 この春に知り合って、数か月。パウリーのおまけのように仲良くしてもらっていただけの私は、事情を教えてもらえなくても仕方ないと諦めがついている。ただ、パウリーは。
 なぜか大怪我までしているし、「知らねえ」の言い方も気になる。あれは、怒っていた。「里帰り」間際に三人は喧嘩でもしたのか、なにか仲に亀裂でも入るような事態になったのか。カクさんとルッチさんが、パウリーと喧嘩別れ? 里帰り間際に? そんな人たちとは思えなかった。……ほらね、知らないといろいろ考える。
 この世界で、仲違いしたまま誰かと別れるのは悲しいことだ。海は広くて、簡単に人を断絶させる。人はまだこの海を、世界を、自由に行き来できない。会いたくても会えないなんてざらだ。
 もし喧嘩なら……ちゃんと仲直りできるといいな。
 間もなくセント・ポプラ、という車内アナウンスが聞こえて、ウカはもう少し落ち着いたら絶対にパウリーを問い詰めてやるとそう決めて、雨の降りやまぬセント・ポプラ駅前に降り立った。

 傘を広げながら薄く広がる雨雲を見る。どうせなら、ざあざあと降って、からっと晴れてくれればいいものを。変に明るく、しとしとと降り続ける様は見ているだけで気が滅入る。差している傘のせいで視界が狭く、すれ違う人と足元の水たまりとを避けようとすると、なかなか思うようには歩けない。早く叔父の家に帰りたい。
 それなのにどうして私は。

「カク、さんッ!?」

すれ違ったその人を後ろから呼び止めて。それだけでは足りないと、咄嗟に腕を掴んだ。
どうして私は。ほんの少しの傘の隙間から、「知らない人」にしかみえない彼を見つけてしまったのだろう。

   ◆

「なんとまさか」

 見つかってしまったわい、カクさんは私の咄嗟の行動に、慌てるふうもなく淡々と言ってのけた。反対に、私の心臓はバクバクと動悸が止まらない。咄嗟に声と手が出た、こんなの初めてで、冷静になってくるとだいぶ恥ずかしい。道行く人にも、邪魔だと言わんばかりの正直な視線を投げつけられ、慌てて数歩先の路地に避けた。
 カクさんは「て」と声を発した。「え?」という顔で応じると、ふうとため息をついて、「そろそろ、手を、離してもらえると、ありがたいんじゃけど」としっかりめの文章で言った。「あ」と慌てて手を離す。カクさんは私に掴まれていた手をプラプラと振った。

「久しぶりじゃの。といっても、二日ぶりか?」

 なんだか全然会っとらんかった気がするのう、と人懐っこい笑顔を浮かべるのは、いつものカクさんだ。でも。
 目の前の彼の姿形は私の知っているカクさんなのだけれど、着ている服と被っている帽子は真っ黒、黒ずくめだった。こんなの見たことない。そして、何故かぼろぼろに傷んでいる。口の端は切れて、血が固まっているし、先ほどプラプラと振った手の袖口からは包帯が覗いていた。イメチェン、とは思えない。目の前の彼が纏う空気は、ウォーターセブンで仲良くなった「カクさん」とは違ってみえ少し怖い。それなのに、なんだろう。こちらの方が自然で、取り繕っていなくて、馴染んでいるような気もする。

「里帰りって聞いた……。実家、東の海じゃなかった?」
「パウリーから何も聞いとらんのか?」

 カクさんは目を見開いてそのままぴたりと止まる。首をゆっくり縦に振ると、今度は呆れたように肩をすくめて、はは、と乾いた笑い声をあげる。その笑い方は、パウリーと一緒にいるときのものとは少し違って見えた。

「パウリーめ。本当にいいやつなんじゃな、あいつは」

 触れまわるような男じゃないか、と独り言ちる。お人よしにも程があるとため息をつくカクさんを見て、彼は私とパウリーより一つ年下なのに、まるでお兄さんみたいに振舞っていたなと思い出した。それはとてもしっくりきていた。パウリーは「おい、たまには先輩を敬えよ!」とどやしていたけど、あれは照れ隠しなのを私は知っている。

「カクさんだって、いい人だよ」
「わしが?」
「いい人でしょう?」
「仕事じゃったからのう」

 「仕事だから」ちゃんとしていた、という意味ではなさそうだ。では一体、なんだというのか、見当もつかない。カクさんは「はあ、それにしても、まさかこんなふうに会うとは。気まずくて仕方がない」と傘を持たぬ空いた手で頭を搔きながらぼやいている。気まずい、とはあれのことだろうか。
 ウカは、たった二日前にあった避難所での出来事を思い出していた。
 五年振りの避難に身体が竦んで震えたことを。心細く思っていたら、カクがそばにきて、話しかけてくれ、寄り添ってくれたことを。そして明かりが消えたら──……。それがカクとの最後だった。
 あれはなんだったのか、聞けずに彼は姿を消して、いまは目の前にいる。でも、つい数日前のことなのに、思い出のすべてが等しく遠い日のことのように感じた。それはきっと、いま目の前にいるカクが、ウカの知らないカクに思えるからだろう。カクの態度は、共に過ごしたこの短い夏の日々を、いともたやすく「幻だったのでは」と錯覚させる。
 ウカは、他人行儀な調子を崩さないカクに怖気づきそうになりながら、声を振り絞った。

「仕事だってだけで、あんなふうに笑えるはずない」
「そういう仕事じゃ」

 にべもない。
 ウカは拳を握ってぐっとこらえた。そして大事な質問を。

「パウリーは」
「やめてくれ」

 知ってるの、と言わせてすらもらえなかった。
 やめてくれ、と頼むその顔があまりに必死で、ウカはどうしていいかわからなくなる。
 カクはウカの言葉をかき消すように強く短く言った。その声音にはたった一声ですべてをわからせようとする強さがあり、怒鳴られたわけではないのに、つい身構える。ウカの身体が震えるのは冷たい雨のせいか。

「なんで? パウリーに知らせたらまずいの?」

 ウカはそれでも負けじと食い下がった。「なにがあったの」と問いを重ねようと口を開けたが、カクの方がそれを制すかのように先に言葉を紡ぐ。

「パウリーはわしらの顔なんか、見たくないはずじゃから」

 ウカは一瞬息が止まりそうになった。
 カクさんが眉を寄せて傷ついた顔で笑って、なぜだろう、そんな顔初めて見るのに。ウカは、ようやくカクさんに再会できた。ああやっと、カクさんに会えた。そんな気持ちになった。

「パウリーがかわいそうじゃろう。わしらに会ったって、嫌な思いするだけじゃ」
「なんで、そんなこと言うの」

そんな傷ついた顔で、とは言えない。カクさんは私の質問に答える気はないようだ。

「わしらは、まだこの島からは出れん。大人しくしとるから、どうか」

 それは祈りにも似た懇願で。帽子を取って、パウリーには言わんでくれ、と訴えてくる彼に私は何も言えなくなる。
 喧嘩したなら仲直り、でしょう?
おしまい


夢小説,長編・連作,ONEPIECE,夏という月日 3594字 No.68 

天竜人には逆らうな #カク

「天竜人には逆らうな、ですよね?」

 嫌な予感しかないが、もちろん逆らえるわけがない。カクは目の前が真っ暗になったが、ひとまず目の前の女は天竜人ではないから消去法で奴隷だろう。この地にいるのは、神か、奴隷か、自分たちだ。神の御前に引きずり出される前に、この奴隷から少しでも情報を聞き出しておく必要がある。

「逆らうなどどんでもない。もちろん呼ばれれば馳せ参じるが……、どちらさまじゃったかの?」
「失礼しました。ミョスガルド聖の使いで、ウカと申します」

 女性は両手を上げ、敵意がないことを示しながら、封蝋がされた書状をひらひらと振る。封蝋には確かにミョスガルド聖のシンボルマークが見て取れる。書状から女性に視線を動かすと、女性はゆっくりと笑った。



 ミョスガルド聖の書状には、天竜人が入り浸っているサロンについて調べてほしい旨が書き記されていた。会員制の極秘サロンで、ミョスガルド聖にもそれ以上はわからないらしい。身内が迷惑をかけているかもしれないから、と相変わらずのお優しさだ。
 書状を持ってきたウカという女性は、海軍から紹介された同業者らしい。サイファーポールでも概要すら掴み切れないというそのサロンに、ウカの計らいで、なんとか客として来店できる手筈が整ったとのことだった。
 そして来店するや否や、

「海楼石の手錠、失礼しますね」
「“海楼石の”手錠があるのか」
「当サロンは能力者の方も利用されますので、安全のためにも手錠はすべて海楼石製です」

 サロンスタッフの女性はにっこり笑いながら、しかし、それ以上言葉を続けない。ウカに「カクさんは私に手錠をかけたいです?」と問われれば仕方ない、諦めて両手を差し出すと、手慣れた様子で両手を後ろに回され、そのまま拘束された。ガチャリ、と無慈悲な音がして、途端に体に力が入らなくなる。立つこともままならない、というほどではないが、とてもだるく、力では絶対に抗えそうにもない。今すぐにでも座りたい。
 何かあったらどうするんじゃ、とウカに小声で問うと、ひとまず入店時だけですよと申し訳なさそうな顔で謝られた。
 テーブルに案内され、もたつく足で早速ソファに座ろうとすると、ウカにそっと制止され「ごめんなさい、カクさんはこちらに」と促されたその先は柔らかな絨毯の上だ。

「地べたに座れと?」
「ごめんなさい。でも、あまり目立ちたくないでしょう?」

 カクが周囲を見渡すと、確かに手錠をかけられた人間は男女問わずみなソファではなく絨毯の上にいた。心なしかみな震えているような気もするが、それにしては怯えている様子もない。ソファにもたれるようにして背中を丸め、膝を抱えているものもいるが、何かを待ち望むような期待に満ちた目でソファに座る人間を見つめている者もいる。 カクが仕方なくソファに背を向けて絨毯の上に胡座をかいて座ると、目の前のテーブルでは香が焚かれていた。店内に充満しているのはこの香りか、と香が灰になり煙が立ち上っていく様をぼんやり見ていると、ウカもカクのすぐ後ろに陣取り、間髪いれず両足をカクの股間のすぐそばに滑り込ませた。カクが、おい何を、と声をあげたのと同時に照明が落とされる。その瞬間、周囲の人間がみな、ごくりと唾を飲んだ。ような気がした。

ぴちゃ……ぷちゅ……
「あ……あ、んぁ……んぉ……ぉ……」
ぬちゅ……
「んぅ……あ、だ、だめ……」

 暗闇のなかどこからともなく、水音や呻き声のようなもの、何かを拒む声が聞こえ始め、カクはたまらず後ろにいるウカに説明を求める。ウカはソファに座って自分の足の間にいるカクを見下ろしながら、愛おしげにカクの柔らかい髪を撫でた。

「言ってなくてごめんなさい。ここはね、こういうことが大好きで大好きでたまらない人間が集う場所なんですよ」
「こ、こういうこと、じゃと?」
「そ、こういうこと」

 そういってウカはカクの顔を手で包み込むようにすると、カクの両耳を指先でそっとなぞる。耳朶をそっと揺らしそのまま少し爪を立てるようにして首筋をさすられると、ぞわぞわと鳥肌がたった。

「や、やめんか! おい、手錠を……ッ!」
「待って待って。ばれちゃう」
「こんッ……、なこと、ぁッ、……ッ、聞いッ、とら、んッ、ぞ……」
「ふふ、鳥肌たっちゃってる。効いてるね。こっちも?」

 ウカはカクの抗議を無視してシャツのボタンとネクタイを器用に緩めた。抵抗しようにもカクにはめられた海楼石の手錠はそれを許さず、カクは首もとから侵入してくるウカの手を為すすべなく受け入れるしかなかった。
 それにしてもおかしい。手錠の件を抜きにしても、体の感覚が鋭敏すぎる。自分に殺意を抱く輩を相手にしたことはあっても、こんな、──淫らな──ことは。
 ウカはカクの混乱なぞお構いなしに、胸の突起にそっと指を添える。

「ほら、やっぱり。こんなに固くなっちゃって。鳥肌もすごいね。ぞわぞわする?」

 ウカは左手を胸元から抜き取るとそのままカクの目元を覆った。そして右耳に舌を差し入れ、右手で胸元の飾りを指先でこりこりと弄り始めた。

「ぁっ……い、いい加減に、ッせん、と……!んぅっ……」
「どうでふ? ひもひいい?」

 耳を甘く噛まれながら吐息まじりで囁かれると、背中の方からむずむずと快感がせり上がってくるようでカクの肩が震える。弄られ続けている胸の尖りからは甘い痺れが広がっていった。ウカはいつの間にかヒールを脱いでおり、足先を柔らかく使ってカクの足の間、鼠径部や内股を優しくなぜまわしている。

「よかった。こっちもちゃんと反応してますね」
「うっ、うるさ────あぅ、あッ!」
「あ、ごめんなさい。左側も可愛がってあげたくて」

 カクの意に反して膨らんでいく股の間のそれに意識を持っていかれている間に、先程まで放置されていた左胸の飾りも右胸と同様に転がされ、カクは思わず声をあげてしまった。手で口を覆いたくても海楼石の手錠は能力者の身には重くのし掛かる。
 ウカは指と足を器用に動かし、決して刺激を緩めないようにしながら、淡々と説明を始めた。

「何もわからなくなっちゃう前に説明してあげますね。ここはね、大事な“私の”お店なの。ご主人様と奴隷がこうやって楽しむ、秘密の、秘密のお店」

 言いながら、固くしこった突起を両方とも摘ままれ、カクの口からたまらず「ぅあ゛ッ!」と短い悲鳴のような声が漏れる。そのまま、ぐりぐりと押しつぶすように指を動かされるとカクの腰がびく、びく、と揺れた。じわじわと迫りくる快感を逃がしたくても、ウカの両足がそれを許さない。

「会員の方には色んな……海軍や政府関係者の方も……いらっしゃるかもね。でもそれだけよ。それなのに、うちに天竜人が来てるとか、そしたらそれをミョスガルド聖が心配してるとか、お客様から聞いてね。ミョスガルド聖で助かったけど、それでも慌てちゃった。こんなお店が天竜人に知られたら……、どうなるかわかるでしょう? だから、カクさんには『何の問題もなかった』って言ってほしくって。根回し頑張ったの」

 ウカが淀みなく説明している間も絶え間なく与えられる快感に、カクは体を跳ねさせながらも、なんとか理解しようと頭を振る。だがその程度で振り払える快感ではない。結局、「やめろ」とも碌に言えずに、ただ必死に声を我慢するだけだ。

「ッ、そ、そんなのッ……わ、しは死ッ、んでも…言わ、んぞ」
「大丈夫。それは方法があるし、あとね、記憶も飛びますから」
「まさか……」

 ウカは恐ろしいことをさらりと言ってのける。わかってやっているのか、笑顔なのが余計に恐ろしかった。ウカのたおやかな笑顔に血の気が引いていく。

「ごめんなさいね。私も必死なの。申し訳ないとは思っているのよ? こんな無理矢理ね。だからお詫びにせめて、どうぞ心ゆくまで楽しんで? ほら、このまま、この固いのコリコリしたら、どうなっちゃうかな?」
「や、めッ! ぁ、あ゛ッ! ~~~~ッ!」
「ふふ、気持ちよさそうだけど、……恥ずかしい?」

 恥ずかしいかと問われ、頷くことすら屈辱だ。せめてもの抵抗に、何も言わず唇を噛む。背後のウカは、そんな自分の最後のプライドさえも見透かされ、こんなのには慣れっことでもいうように、唇の端だけで笑っているような気がして癪に障る。

「大丈夫、全部このお香のせいですよ。これね、催淫効果があるの。感度が高まるのよ~。だから、カクさんがいやらしいわけじゃないですよ。安心して気持ちよくなってね」
「さい、いん……?」
「そうそう。だから恥ずかしくなんてないですよ? だってお香のせいだもん」

 それなら……、と快楽に身を任せ、甘い言葉のまま揺らぎそうになる弱い自分を慌てて振り払う。

「ふふ、こっちもどんどんムクムクしてますね。よかった」
「う、うるさ──あぅ、アッ!」
「全部夢ですよ、夢。夢なら気持ちよくたっていいでしょう?」
「ッ、ゆ、ゆめ……」
「そう、夢です。起きたら何も覚えていませんから」
「そん、な、ッああぁああ!」

 スラックス越しに今までずっと放っておかれた股の間の滾った熱を下から上に思い切り足で扱かれて、今日一番の声が出る。店内に響き渡ったそれを機に、あちらこちらのテーブルからカクのそれと同じ甘美な絶叫がこだました。

「いい声」



 スラックスと下着、お靴も全部脱がしてソファに乗せてあげて、あと足を抱えててもらえる? と、ウカがスタッフの女性に指示をだすと、すぐにスタッフ二人が、もうまともに立てなくなったカクを持ちあげソファに座らせた。そのまま両脇に座ると、無言でカクの両足をそれぞれ抱える。ソファの上で、まるで母親が子供を抱えて排泄させるようなポーズを取らされ、カクの秘所が露わになった。かすかにまだ残っている理性がカクの足をばたつかせるが、海楼石の手錠と、快楽で何度も痙攣させられた身体には、振りほどくほどの力は入らない。

「大丈夫、暗くて何も見えてないですよ」

 ウカが楽しそうな声音で真っ赤な嘘をついているのがわかる。メインの照明は落とされているといっても、間接照明のうすぼんやりとした灯りはあり、目も慣れた。カクには目の前のウカのうきうきとした表情がわかるのだ。それならもちろん。
 こんなところで情けをかけられ、破壊の限りを尽くすような怒りを覚えるところだが、催淫効果のある香り、筋肉が弛緩するかのような海楼石の手錠、散々跳ねさせられた身体、もう何かを考える余裕がなかった。とにかく早く終わってくれと、そればかり祈る。
 恥ずかしがり屋さんだから目隠しもしてあげて、というウカの声に両脇のスタッフが手際よく布でカクの目元を覆った。

「痛くしないから、リラックスして」

 まず指で慣らしますね、というウカの声色は、単に何かの施術や治療なんかを始めるように聞こえて、カクが取らされているポージングとのギャップに余計羞恥心があおられるが、それも束の間だった。
 カクさん、怖いかもしれないから貴女たちはお耳とお胸を可愛がってくれる? というウカの言葉に、両脇の女たちが首肯の代わりに耳に舌を、乳首に指を添えたかと思うと息つく間もなくそれぞれが思い思いに弄び始める。激しいわけではなく、むしろ、ゆっくり、身体に快感を覚えこませるかのような執拗な責めでかえって辛かった。

「あっ! あ、ああっ……ふ……んッ──! ん゛ん゛ッッ!」
「本当にごめんなさいね。両耳舐められながら両乳首かりかりされたら、それだけで気持ちよくてたまらないのにね……」
「や゛、めさせ……ッ、ろ、ぉッ……んッッ」
「んん~……、でも、それしながらのほうがいいと思うのよ」

 鼓膜を震わせる控えめな水音と規則的に休むことなくタップされている胸の突起からのシグナルはすべて快感に変換されて、股座のモノを滾らせていく。ほとんど刺激されていないそれは、健気に上を向いて切なげに震えるばかりだ。

「力抜いてねえ、あっ、すごおい……」
「ふっ、ぅあッ……、ん゛ッ! や、め……~~~~ッ!?」
「わあ、飲み込むの上手ですね」
「あ゛ぁあッ! きもち、わる、い……ッぁ、はゃ、く、ぬい、て、ぁあッ!」 
「気持ちよくてびっくりしちゃいますねぇ、お香のせい、お香のせい」
「ゃ、やめ゛ッ! そこッ、あ゛っ! なん……、あ゛ぁッ!」
「あぁ、いいなあ。私たちはもう体が慣れちゃって、あんまり効かないのよねえ」

 ウカの指がそこに触れるまではかすかな希望を抱いていたのに。
 無慈悲なウカの指が自分で触れようなどと思ったことのない穴に指を入れ、執拗に一点をトントン、トントン、と押し込むように刺激する。押し込まれるたびに、頭が真っ白になり、自分の知っている「自分」がいなくなるようで、カクは初めて恐怖した。
 これは、知らない。
 そこ、を指で軽く押されるだけで、じゅっと快楽が染み出し、一瞬で全身に回るような錯覚を覚える。ずっと放っておかれているペニスは、腰が浮き身体が跳ねる度にひくつき鈴口からだらだらと透明の液体を溢れさせ後孔を濡らすほどだ。
 耳を犯す水音の間隙を縫って、指示を出すウカの声が途切れ途切れに聞こえてくる。ただ、耳を澄ませてもかえって差し込まれる舌の音を拾うばかりで意味がなかった。

「ああぁああぁああッ!?」

 急に散々放っておかれた陰茎を扱きあげられて、大きく口を開けて喘いでしまった。そのタイミングで口に何か器具があてがわれ、口が閉まらなくなる。

「口枷って、……私、大っ好きなんです。カクさん……、いえ、人間から「言葉」を奪っちゃえるでしょう? これでもう私、カクさんが何を言ってるか、」

「全然わかんない」
「ふっあ゛ぁッ! あ゛ッ!! あ゛ァっ!」
「え? 気持ちがいい? よかったあ、それならもっと動かしますね」
「あっああぁあ゛あ゛ッ! ~~~~ッ!」
「ふふ、ぎゅうぎゅう締め付けてきてすごいわあ」
「ぅあッ────ぅあ、あ、あっ、あっ、あっ──ッッ!!」
「ほら、いっちゃうね……いく、いく、いく……」
「ぁあ゛っ! あっ! あ、あ、ああっあ゛、い、いう、いう、い゛っ!」
「いっちゃえ」
「い゛っ──ッ!」

 びりびりと電流のような衝撃が全身を貫いて、視界が真っ白になる。快感がはじけて、籠った熱が放出されていく。びくん、びくん、と肉棒が痙攣しているのがわかった。 薄れゆく意識の中で、ウカの、これくらいでいいかしら? という不安げな声が聞こえる。お任せください、と答えたのは両脇の女たちだった。
 まずい、と思った時にはもう遅く、カクはそこで意識を手放した。



「おお、カクくん。多忙なところすまなかったね」

 サロンへの潜入から数日後、ミョスガルド聖から報告のため呼び出しがかかった。応接間のソファに座るよう促され、出されたコーヒーに口をつけながら、とんでもない、と口だけは気を使っておく。

「で、どうだった? 天竜人がまた市井の人々を虐げていなかっただろうか?」
「店長曰く、天竜人が来たことなど一度もないそうじゃ」
「そうだったか! いやはや、なんとも……それなら一安心。だが、無駄足を踏ませてすまなかったね」
「いえ、お気になさらず」
「そういえば、ウカさんから君宛に招待状が届いていたよ」
ウカ?」
「今度は自分のお店にも遊びに来てほしい、と」

 私も一度行ってみたいが気を遣わせてしまうからね……、というミョスガルド聖の言葉が遠くに聞こえる。
 受け取った招待状から、仄かに懐かしい甘い香りがしたと思ったら急に心臓が跳ね上がる。あわせて、なぜか後ろの穴がきゅ、とすぼむ。わけもわからず、招待状の字を見つめ続けた。

“辛くなったらいつでもご相談下さい”
おしまい

官能小説,短編,ONEPIECE 6530字 No.67 

諦めて、覚悟して? #カク

※身体が入れ替わりました

「気が付いた?」

 目が覚めると自分が自分を覗き込んでいて、驚いて飛び起きると、笑顔の自分がいた。

「え?」

 自分の口から洩れる声は紛れもなくウカちゃんの声だったし、パジャマのハーフパンツからすらりと伸びている足先の爪には可愛い色が塗ってある。こちらも紛れもなくウカちゃんの足だった。手も小さくて、ふにふにと柔らかく、整えられた手の爪にも、足の爪とは違う色が塗られている。
 そこで思わず、ハーフパンツの中身をぐいと見てみると、あるはずのものがなかった。代わりに、目に入るのはウカちゃんの形のいい胸の膨らみと、薄いキャミソールをつん、と持ち上げている勃ちあがった乳首だ。

「見ちゃうよね~」

 面白がる自分の声が聞こえ、ようやく、目の前の自分であるはずの男をまじまじと見つめる。橙色の髪に、丸い目、何より人より四角く長い鼻。我ながら、そうお目にかかれないビジュアルだ。

ウカちゃんは、わし……なのか?」
「そう」
「わしは、ウカちゃん?」
「そう」
「なんで?」
「わかんない」

 カク(inウカ)は、はああああ、と大きなため息をついた。ウカちゃんから、水でも飲みなよと水の入ったコップを手渡され、あおるようにして一気に飲んだ。寝て起きたらこうだったんだから、また寝て起きたら戻るんじゃない? とウカちゃん(inカク)は呑気だ。というより、先ほどからそわそわと落ち着かない。表情も声音も不安からは程遠いが、どうしたのだろうと、そのまま問う。

「カクくんはすごいね」
「は?」
「私ね、カクくんのこの体で目が覚めたら、私が隣で寝てるでしょう? わけわかんなかったけど、それ以上に、その……、寝てる私を見てたら、カクくんの……これがムクムクしてきて、もう大変だったの。これ、触ると気持ちがいいし、でも、あんまり勝手に弄るのも申し訳ないし、だから、その」

 言い終わる前に荒々しく唇を塞がれた。むしゃぶりつかれた、という方が正しい。カクは自分の舌が自分に入ってくるようでぎょっとしたが、上顎を舌でなぞられたウカの体が、カクの思考とは裏腹にそれを「気持ちいい」と感じてしまい、たまらず短い声が漏れる。ウカちゃんの、あの声だ、とカクはウカにぼうっとさせられた頭で、それだけ考えた。
 ウカの体は舌と舌が絡んだだけで、何やら下腹部のあたりがうずうずともどかしく、カクはたまらず太もも同士を擦りあわせる。自分の唇を、舌を、頬を覆っている手を、こうして感じるのは奇妙なのだが、それよりも圧倒的に快感の方がすさまじく、カクは思考が追いつかない。ぷは、と唇を離すと、目をギラギラさせた自分、もといウカが言った。

「カクくんは、すごい。こんなに力が強いのに、いつも私に優しくしてくれてたんだね」

 言いながら、ウカはカクの両手をとってベッドに押し倒した。ウカの体ではもちろん、カクの腕力には敵わず、カクは簡単に組み敷かれてしまう。

「ごめんね。でももう限界なの。カクくんのこれが、ずっと、したい、したいって言ってて、もうおかしくなりそうなの。カクくん、助けて……」

 カクは、もはや涙目になっているウカの頭を優しく撫でる。自分が下半身に翻弄されている姿を直視するのは辛いものがあったが、それよりそんなものに振り回されているウカが気の毒だった。

「わしの身体がすまんの。その……最近忙しくて、ご無沙汰じゃったろ? わしも限界だったんじゃ、許してくれ」
「うぅ……」
「ほれ、ひとまずわしが抜いちゃろう。一回イケば冷静に……」
「やっ! 駄目だよ! カクくんも気持ちよくなろう?」
「ん?」
「まかせて!」

 ウカちゃんの表情は逆光でよくわからないが、笑っていることだけは確かだ。

   ◆

「んぅ……ぁあ……、あ……ん……ッ……」
「ね~? 気持ちいいでしょう? たまんないよねえ」

 ウカはカクを背後から抱きしめるようにしてベッドに乗りそのまま壁にもたれると、キャミソールの上からカクの柔らかな膨らみを鷲掴みにして、上を向いたままの両乳首の先端を人差し指ですりすりと擦り始めた。他のどこにも触れないよう、慎重な動きでそこだけを左右に往復させる。
薄い布越しのむず痒い感覚に、また腰がもぞもぞしてきて、カクは先ほどと同じように太ももをぎゅっと閉じようとする。だが、すかさずウカ

「閉じたらだめだよ? ちゃんと向こうから見えるようにしておこうね」
「うぁあッ! ウカちゃ、ん……ッ!」

 太ももの内側を指でなぞられ、のけぞってしまった。一緒に乳首も根元から摘ままれ、ぐりぐりと、押しつぶされるように愛撫される。弱い刺激を与えられ続け、敏感になっていた突起には強すぎる刺激だった。

「今度はどっちもぐりぐりするよ~。ほら、ぐりぐりぐりぐり……」
「~~~~ッ!! ん゛ん゛ぅ……ッ!」
「カクくんは、声出すの恥ずかしいの? 我慢しなくていいんだよ?」

 たとえ女性の身体だろうと、恋人の前で女性のように喘ぐのは避けたかった。それなのに、ウカは固くしこったそれを親指と人差し指で根元から摘まむようにして、ゆっくり、ぐりぐりと弄ってくる。小さな二つの突起から快感が腹のあたりにぎゅーっと蓄積していく。
 ウカは丁寧に丁寧に、それを続けた。我慢できず腰が動いてもウカは気にも留めない。足だけ閉じないように、と何度も言われ、カクはとにかくそれだけに集中した。足に力を入れ、閉じないように、閉じないように。
 少しだけ刺激にも慣れてきたころ、ウカが耳元でくすりと笑った。

「私の身体だから、何が気持ちいいか、私が一番わかっちゃうんだなあ」
「ぁあッ、ぅぁあッ! あぁんッ、~~~~ッ!」
「根元摘ままれたまま、かりかりされたら気持ちいいよねえ。布越しだと痛くないし、ずーっと、かりかりできちゃうね」
ウカちゃんッ! ちょ、ぁあッ! ま、ッで、これっ! ウカ、ちゃあッ!」
「ん~? あ、ダメダメ、また足閉じようとしてる」
「ぁ、あぁああ……ッ!」

 ウカはさっきからずっと胸の飾りを摘まんで、カクを丁寧に捕まえて離さなかった。いくら体を捩っても、それは思いもよらなかった刺激が生まれるだけでなんの意味もなく、じわじわと追い詰められていくようでカクは戸惑う。股の間がひくついて、中から温かいものが溢れてくるのが分かった。

「カクくんが私の身体をこうしたんだよ? 毎晩毎晩、たくさん弄って、舐めて、吸って、揉んで、摘まんで……散々、ね」
「そう、じゃっ、たな、あぁッ、~~ッ!」
「仕上がりは、……どう?」
「~~~~~~ッ!!」
「ね? たまんないでしょう?」

 ウカちゃんの言うとおりだった。
 自分が、毎夜たっぷり時間を使って苛んだウカちゃんの身体は、与えられる全部の刺激を余すことなく快楽として享受していた。すべてが気持ちよくて、びりびりと頭の先から痺れるような快感は、ジャムをぐつぐつと煮詰めていくように、熱く濃厚になっていく。

ウカ、ちゃ…、……わ、わしは……もう……」
「そうだね! 次は、抱っこしてあげる!」

 こっち向いて? ウカちゃんが囁く自分の声に甘い響きが混じっているのがわかり、これ以上は耐えられない、とそう思うのに、早く早く、と言いながら、また胸の突起を摘まみはじめるウカちゃんに逆らえない。

「もっと気持ちいいからね」

 尾てい骨のあたりから全身に鳥肌が広がって、恐る恐る、ウカちゃんの方に身体を向けると見慣れた自分の笑顔があった。ウカちゃんの、今は自分の、下腹部がきゅ、と締まる。
おしまい

官能小説,短編,ONEPIECE 3161字 No.66 

時の狭間で・あちら側 #カク

 カクはドアを開けて、閉めた。それだけでこの部屋にいて、全くわけがわからない。ドアはもう開かなかったし、物理的には壊せないこともわかった。すぐに諦めて部屋全体を見渡そうとしたが、見渡す前に目に飛び込んできたのは、目の前の壁から突き出しているとしか言えないベッドに、一糸纏わぬ姿で横たわっている女性だった。慌てて駆け寄ると、どういう構造なのか腹から下は壁の向こうのようだ。ひとまずジャケットを脱ぎ、身体を覆うようにかけて肩を掴んで揺さぶる。

ウカッ!」
「……んん……」

 ウカがいる以上、破壊を試みるなどの荒っぽいことは出来ないと諦めるしかなく、しかも、あちら側はあるのか、どうなっているのかもよくわからず、身動きが取りづらい。ウカの半身は自由なのか、それともすべて壁に埋まっているのか、そもそも、これはなんなのだ。
 ウカが目を覚ましたところで絶対に謎は解けないだろう。自分が何とかするしかないのだということは、カクにも十分わかっているのだが、この状況を作り出したものの意図もわからなければ、これが攻撃なのかもすらわからず、とにかく途方に暮れるしかない。

「……カク? ……え!? え、なに!?」
ウカッ! よかった!」
「なっ!? なに!? なにこれっ!?」

 ウカはカクのジャケットを身体に巻きつけると、自由が許されている範囲で目一杯身体を縮めてガタガタと震えだした。カクは慌ててベッドに乗り、ウカを抱き寄せる。無理もない、目を覚ましたら謎の部屋だというだけでも恐ろしいのに、衣服を奪われ、裸で身体の自由までも奪われているのだ。強く抱き締めながら根拠もない「大丈夫」を繰り返す。

【怖いのはわかるが落ち着いてくれ、ウカ

壁の向こうから聞こえてきたのは、紛れもない自分の、つまり、カクの声だった。

   ◆

【何が起きてるかワシにもさっぱりじゃが、ひとまずな。この状況から脱するには、そっちのワシとウカの協力が不可欠なんじゃ。辛いと思うが……耐えてくれ】

「な、なんでワシの声が……」
「カク? カクだよね? なんなの?」

 二人で同じくらい、いや、もう一人の自分がいるカクの方が余計に混乱していると、あちら側からやけに落ち着いた声がまた聞こえてくる。あちら側のカクは、自分はそちら側の自分の半年先の未来の自分であること、つまり半年前にこの部屋のそちら側をウカと一緒に経験していること、その経験上この部屋から出るにはある条件を満たす必要があること、その条件はこちら側でしか知ることができずそちらに教えられないこと、そちらの音は全く聞こえないことなどを淡々と淀みなく説明するので、二人とも黙って耳を傾ける他なかった。だが、大人しく聞いているととんでもないことを言い出した。

【条件を満たすにはその……、肌を、重ねる……まあその、セックス、する必要があっての】

「はあああああああああああ!??!」
ウカッ、気持ちはわかるが! 落ち着くんじゃ!」
【おうおう、そうじゃの。怖いのう。おい、そっちのワシはちゃんとそばにいて抱いてやっとろうな? ウカが怯えてかわいそうじゃろ】
「言われなくてもぎゅっとしてもらってますー! あほー!」
「いや、あれも一応ワシなんじゃろ?」
「そうだけど! なんか! 落ち着いてて腹立つ!」
「すまんの……」

 さっきまで冷たい身体でガタガタと震えていたウカだが、あちら側にいるのが、よくわからないが「カク」だとわかったら、少し落ち着いたようだ。

【その……本当に不思議なんじゃが、こっち側にあるウカの身体は、半年後のウカの身体なんじゃ。だから、まあその……少し触るぞ】
「えっ! あ……」
「大丈夫か!?」
「あ、う、うん。びっくりしただけ……」
【誓って傷つけることはないし、その、今日のは半年後の出来事ってことで、ノーカンでどうじゃろ?】
「ノーカン!!!!」

 ウカはさっきよりさらにじたばたと腕をベッドに叩きつけた。こちらからは見えないが、この分だと足も同じようにばたつかせていることだろう。ウカが好きに動けているということは、あちらの「カクだ」と主張する恐らく男もこれをただ眺めているのか。ウカの気持ちが済むまで待っているのだろう。
 こればっかりは「そう感じる」としか言えないのだが、確かにあちらの自分は、自分だ。自分だから、自分だとわかるとしか言えない。自分の「手」を疑い無く自分のものだと思えるのに近い。あちらにいるのは、ワシじゃ。となれば。

「これが初体験、じゃないんだよね?」
「少なくともあちら側のウカは半年先らしいからの」
「これは練習、ってことで……」
「ああ、本番はここを出てからじゃ」

 楽しみにしておれ、となるべく明るく付け足した。

   ◆

【じゃあの、ちょっと準備するから。触るぞ。こっちはなるべく声をかけるようにするからの】
ウカ、出来ればあちらで何をされてるのか、教えてもらえるか?」
「え? わ、わかった。えっと、今は足をベルトで……浮かせて、固定? されてる……」

 おいおいおいおいおい! なんちゅう羨ましい設備じゃ、とカクは口許に広がる笑みを手で覆って隠した。ウカは出るためなら仕方ない、と諦めたのか、今度ばかりはあまり騒がなかった。いや、もしかしたら、単に自分が壁の向こうでどんな格好で固定されているのか、想像ができていないのかもしれない。そして、それがこれからどう自分を追い詰めていくものなのかも。
 辛くないか、という向こうの声に「なんて返事したら伝わるかな?」などと呑気なことを言っているのがその証拠だ。この異常事態で鳴りを潜めていたカクの嗜虐心が、むくむくと頭をもたげてくる。

【よし、はじめるか。ワシにはウカの声が聞こえんから、ウカの身体の反応が頼りじゃ。よく見ておくようにするからの】
「えっ!?」
ウカがちゃんと教えるんじゃぞ?」
「あ、え、っと……」

 今さら恥じらってももう遅い。カクにはウカが足をもぞもぞさせ、そして、足が閉じられない、と今気づいただろうことが容易に想像できた。あちら側にはウカの下半身しかなく、こちらの声も聞こえないのだ。そんなとき、どこを見るというのか。

【いきなりこちらを触られるのは嫌じゃろ?しばらくはそっちのワシと楽しんでくれ】
「さすが、ワシ。優しいのう」
「……、それ、言ってて恥ずかしくな、ん……」

 ベッドは頭側に大分スペースが確保されていた。とはいえ、ウカの腹から下は壁の向こうで、普通に添い寝するのは難しい。ウカも大分リラックスしたようなので、胡座をかいて座ると、そこに枕とウカの頭をのせた。そのまま身体を折り曲げて軽くキスをする。少々窮屈だが仕方ない。とりあえず、両耳を指で優しく撫でながら、ちゅ、ちゅ、と唇だけでなく、鼻先や、頬、瞼なんかにも唇を落としていく。

「ふふ、くすぐったい」
【こんなこと言うのは本当に心苦しいんじゃが……】
「ぁんッ!」

 ウカが思わず出た己の嬌声に、慌てて口を手で覆った。だが、あちらの自分は容赦しない。

ウカは乳首を弄られるのが好きみたいじゃぞ】
「……へえ?」
「なっ、うそ! ちがうッ!」

【すまんのう、じゃがここから出るためじゃし……】
 はじめから女の正解を教えられるのはかなり腹が立つが、相手は自分だ。ここは素直にかけたジャケットを払い除け、露になったウカの胸へと手を伸ばす。寒さからか、期待からか、ウカのそれはぴんと上を向いて尖り、ふるふると微かに震えていた。人差し指の腹でそっと、微かに触れるくらいに、ゆっくり前後させる。

「ん……ッふ……」
「ほう、感度がいいのう。それなら……」
「ゃっ、だぁ……、い、あっん……っ!」

 今度は少し強めの刺激、前後に何度も弾くように指を往復させる。案の定、ウカはちゃんとここで快感を得られるようだ。機械のように正確に、同じ速さ、同じ強さで指を動かしていく。先端は弾かれるほどに固さを増していき、ぴんぴんと指に跳ね返ってくる。

「ね……えっ、……や、ぃやぁっ! ぁ、ふっ……んっ!」
「嫌そうには見えんがのう」
【そろそろこちらもいいかのう】

 あちらの声に一応手を止める。ウカも見えはしない壁の向こうを見つめていた。

【ほらあ。やっぱり乳首はよかったじゃろ?】
「やっ! ど、どこ見てんの!?」
【おっと! そんなに動くと顔にぶつかる!】
ウカ、あっち側で見る場所なんぞ、ひとつしかないじゃろう?」

 ウカの顔が真っ赤に染まり、せめてもの抵抗なのか目をぎゅっと瞑って顔を背けた。途端「ぁ……」と小さい声を漏らして身体を捩る。

「ほら、あっちのワシが何したんじゃ?」
「っ……、あ、足の間に……」
「足の間? もっと正確に説明できんのか?」
「ぅ……く、クリト、リスに……息を、かけられて……」
「へえ、それくらいでも、こんなに鳥肌立てとるのか」
「~~ッ!」
【せっかく手が四本、口は二つあるんじゃから、そっちのワシも休まず楽しんでくれ】
「あっちは半年先輩じゃしのう、こっちも早く追い付かんと」

 言い終わるのを合図に、また両乳首を優しくつねるように摘まむと、親指と人差し指でくりくりと擦った。そうすると、ウカが甘く喘ぎながら口を開けるので、容赦なく舌を差し入れる。逃げる舌を舌で、乳首を指で、逃がすまいと追いかけて追い詰めていく。
 舌を唇で捕らえて吸うと、背中がぐっとしなり、カクの指に乳首を押し付けてくるような格好になるのがたまらない。もちろん、それに応えるように指をひたすら動かす。親指と中指で両乳首の根本をぐっとつまみ、ぐりぐりとしながら、人差し指で先端をすりすりと擦るのがウカはお気に入りのようだ。深いキスをしながらそれをすると、くぐもった喘ぎ声をひたすら垂れ流した。だが、両手は身体の脇でシーツを掴むばかりで抵抗してこない。

「ふ、ここが気持ちいいなんて、どこで覚えたんじゃ?」
「~~~~ッ! い、言わ、ないで……!」
【聞いとる余裕はないかもしれんが、ワシも触るぞ】
「ぁああああああ゛あ゛ッ!!!」
「ああもう、あっちのターンか」

 恐らく、一番敏感な突起をとうとう弄られ始めたのだろう。ウカはさきほどよりもずっと身体をしならせ、背中は弧を描いている。ウカが握りしめるシーツのひだが大きく、長くなった。ひとまず手も休めて、上からウカをじっくり眺める。

ウカー、なにされとるんじゃー?」一応聞いてみる。
「ああっ! やっ! クリっ、を! あああっ、そん、なああっ!」
【びっくりするじゃろ? 忘れとるかもしれんが、こっち側のウカの身体は半年後の身体でなあ。その……半年間、弄りまくったんじゃ。ここも、中も。あ、もちろん乳首もな】
「おうおう、半年でどんなに成長したことか」
【じゃから、まあ……。そっちのウカにしたら、開発済みの身体を急にくっつけられとるようなもんかの? その……、感想は?】
「嘘、うそッ! ああ゛ぁ────ッ!!」
「見事なイきっぷりじゃのう……」

 恋人が初夜もどきでここまで乱れるとは。不思議な部屋のドアはまだ開く気配はない。

   ◆

【ほらほら、休まず手と口を動かさんか。一生この部屋でいいのか?】
「すまんのう、まだドアも開かんようじゃし……」
「やあっ! ま、ってよお! ま、だっ! からだ、が、あああッ!」

 絶頂を迎えてもあちらのワシは手を休めていないようで、ウカが身体をしならせてビクビクと痙攣して果ててもなお、突起への愛撫は続いていたようだ。不規則な痙攣に身体を任せるしかないウカはかわいそうで愛らしい。
 胸の愛撫を再開すると、イったことでより敏感になっているのか、先程よりさらに喘ぎ声が大きくなった。顎の裏が見えるほどにのけぞっている。固くはりつめた乳首の固さは手遊びにちょうどよく、反応も見ずに好きにこねくりまわした。

「やああっ! も、無理ッッ! ゆるっ、してよおっ! あ、あ、あああっ!」
「ほら、今あっち側はどうなっとるんじゃ?」
「ゆびっ! ぁあっ! ゆびで! すり、すりっ、されっ、て、ぅああ゛!」
【じゃあそろそろウカの好きなやつ、はじめるかの】
「え……」

 ウカが驚きで一瞬動かなくなったのも束の間、すぐにまた悲痛にも聞こえる声をあげ始めた。一生懸命身体を捩って、快楽を逃がそうとしているように見えるが、あちらは阻むものがない。むしろ、身体に教え込むように執拗に責められているだろう。自分なら絶対そうする。

「今度はどうしたんじゃ?」
「あああっ! した! したでぇっ…やぁあああっ!」
「へえ、舐め回されて吸い付かれてしゃぶられとるのか。そりゃいいのう」
「やぁああぁああ……あぁああああ……ぐり、ぐりしな、いでぇっ!」
【は、舐めやすくて最高じゃの】
「足は閉じられないんじゃもんなあ」
「あぁっ! ~~~~~~~~っ!!! カ、クうっ! たす、けてぇ!」
【ああこら、逃げたら終わらんじゃろ。それにしてもここまでいやらしく育つとは……。そっちのワシもこれから半年、ちゃんと励めよ】
「そんなによがられると、ちいっとばかし癪に障るのう」

 ウカの絶叫を塞ぐように、開いた口に舌を突っ込む。荒々しい動きでも、ウカは拙くとも必死についてくるようになった。この数十分で。舌を吸いながら、今度は指先でひっかくように乳首をカリカリと弄んだ。跳ねる身体に翻弄されながらも、絶え間なく刺激を与え続けていく。

【ん? もしかしてイっとるのか? もう痙攣しすぎてよくわからんから、とりあえず続けるぞ】
「イったああああっ! またっ、あああっ! あ、あ、あ、イクイクイクっ!」
【ふ、腰が動いて……物足りんようじゃの。あ、乳首はちゃんと弄っとるじゃろうな? さぼるなよ。ウカは乳首を弄られながら、が一番大好きなんじゃ。そうじゃろ?】
ウカ、そうなのか?」
「あ゛あッ! ちがッ、うぅああ゛! も、……ッゆ゛るじ、でっ」
【あ、せっかくだから舐めてやったらどうじゃ? ココを舐められながら乳首も舐められるなんて、今しかできんぞ】
「確かにのう」
「ああぁああっぁあ゛ぁッ! ぁ、な、なめるのッ! ゃ、だめッ! ィあっ!」
ウカはのう、いやいやと首を振りながら、ワシの口にココを押し付けてくるのがまた、かわいいんじゃ。あ、ほら。よしよし、まだ止めんから安心せい】

 片方は舌で、片方は指で、痙攣する身体を押さえつけながら、しつこくしつこく、快感にあえぎ浮かせているだろう壁の向こう側の腰を責めるかのように嬲る。乳輪は乳首の固さとは正反対にふわふわと捉えどころがなく、何度も舌が滑った。その度に舌先が乳首を掠め、ウカが甘い叫びで喉を震わせる。
 ぶるぶると震え、跳ね回る突起と孔しかないあちら側にいる自分は今、何を考えているだろう。舐めれば、つつけば、吸ってしゃぶって弾けば、素直に反応する、抵抗もしない突起はさぞ虐めるのが楽しかろう。白い壁を見つめながら、こちらの突起も指と舌で思いつくまま弄くり倒す。

「んあああ゛ッ! ちく、びもぉ! あ、そこッも! とけぢゃう゛!」
「まだ蕩けとらんから安心せい」

 固さを失わない乳首の存在を分からせるように舌先でぐりぐりと押し込むように舐めた。こちらのBGMは耳に心地よい。

   ◆

【水は飲ませてるか? さすがに少し疲れた】
「おっと、それもそうじゃの。すまんかったな」
「──ッ! ……ぁ、ッ! …………んッ……」

 余韻が残っているのか、ウカは何もされていないのに小さく喘ぎながらぴくぴくと脈打っていた。からだ全体が大きな心臓のようだ。
 部屋を見回すとドアのすぐ横に小さなチェストがあり、その上に水差しとコップが鎮座している。ぐったりとして身体を起こすのも儘ならないようなので、背中に腕を回し口移しで水を飲ませた。粘膜同士の触れあいにまた身体が疼くようで耐えるように、閉じていた瞼をぎゅっと瞑る。飲ませ終わると、ウカは大きく息を吸って、ゆっくり長く吐いた。

【もうそろそろの辛抱じゃ。指、入れるぞ】
「弄られながら、じゃったよな?いいもん見つけたぞ」

 カクは先程、水差しが置いてあったチェストの引き出しから見つけた小瓶の栓を抜くと、その中身をウカの胸元に垂らした。

「つっ、めた……ぁッ……!」
「すまんすまん、いま馴染ませるからの」

 手のひらで、満遍なくゆるゆると塗り広げると、適度な粘性を持った液体がウカの肌を覆っていった。手のひらを動かす度に、屹立したこりこりとした乳首の感触がまた心地よく、何度も往復させてしまう。

「ぁあっ! ぁ、あ、……ッ、~~ッ!!」
【お、ちゃんと乳首も虐めとるな。感心感心】
「ぃゃぁあああぁぁああッ! それだめッ!!!! っあ! またイクっ!」
ウカ? 何されとるんじゃ?」
【おお、やっぱり外と中から同時に刺激されるとたまらんか。今日は乳首までセットじゃからのう】
「へえ、道理で。気持ち良さそうじゃもんなあ」
「──ッ! んぅ……ッ! あッ! ~~~~~ッ!!」

 最早ろくに声も出せず、細い首をさらけだしながら絶え間なく痙攣しているウカの滑らかな肌に指を滑らせながら、カクはのんびりと言った。指を広げ、ぷりゅぷりゅと逃げていく胸の小さな尖りを五本の指で順に撫でていく。そんな単調な刺激にもウカは律儀に喘いだ。飽きてきたらぬるぬるした指でそれを捕まえてみようとするが、滑ってうまくいかず、何度も何度もしごくようになってしまう。
 あちらはあちらで、両手を使って外と中からクリトリスを苛めぬいているのだろう。あちらの突起は一つだが、こちらは二つだ。両方を、平等に、丹念に、公平に、愛撫する。

「ゃああっ! む゛ねはっ、ちく、びっ、や゛めでっ! も、むりっ!」
【すまんのう、条件が曖昧でな。どこまでやれば十分なのかわからんのじゃ。だから手を休めるなよ】
「じゃと。すまんのう、聞こえたか?」
「い゛ッでる、のにぃ゛! あ゛っ、あ、ぁっ、またっ!」
ウカ、どんなに乱れても大丈夫じゃからな。その日からのワシはもう、すごいぞ。安心して、気持ちいいことだけ考えとれ】
「そうじゃそうじゃ。明日から楽しみじゃのう」
「へ、へん、じゃなッ、い?」
「かわいいのう」

 ウカの身体がまた総毛立って、顎ががくっと上を向いた。玩んでいた乳首がまたぴんと張りつめて主張を増す。

【総仕上げといくか】

   ◆

ウカ、実況。できるか?」

 もう快楽を与えたいといった意思がなくとも、ウカの身体はただ触るだけで、勝手に快感を得るようになっていたので、カクも柔らかな双丘を好き勝手揉みしだくことにした。たまに意図せず乳首が刺激されるようで、ウカが身体を捩る。あちら側の腰はさぞ艶かしく揺れているだろうな、と想像して、少しだけ嫉妬のようなイラつきを覚えた。

「ぅ、あ……、あ、はい、って、あぁ……ゃ……」
「痛くはないか?」
「ぅ、ん。だ、いじょぶ……あ、んッ、あ、ゆっく、り……でた、り、はい、って……」

 あちらは半年後、ということだったが、心配は心配だった。仮に、痛いと泣き叫ばれても、こちらの自分にはあちらの自分を止める術がない。ウカは慣れない異物の圧迫感に戸惑ってはいるようだが、苦しくはないようだ。様子を伝える言葉の端々に甘い疼きが混じる。

「~~~~ッ! た、ぶん、はい……った……?
【ずっとな、もどかしかったんじゃ】
「っああぁああ! ゃ、いじ、っちゃぁあっ!」
「あっちは容赦ないのう」

 カクもまた、意思をもった戯れを再開する。やっていなかったことはなかったかと、ひとつひとつ確認するように、丁寧に弄る。

ウカの好きなこと、いっぺんにやるにはどうしても手が足りんくてのう】
【今日、ようやく叶うぞ】
「ほら、どうしたんじゃ?」
「あっ、はいっ、た、ままぁっ、いじられ、てっ……~~~~ッ!」
「それで?」
「ッんぅ! な、かが、ぎゅ、ってする、と、あ、カクの、が」 

【あぁ……。そっちのワシには悪いが、とんでもなくいいぞ】
「羨ましいのう。そんなに締め付けとるのか」
「だ、ってぇ! ずっ、と弄るからッ!」
【いつまでもこうしていたいが、それも無理じゃし仕方ない】
「~~ッ! ぅあ゛ッ! ああ゛ッ! ぁあ゛あっ!」

 あちらはピストンし始めたようだ。規則正しいリズムでウカから声が漏れ出て、身体が揺れる。自分にできるのは、あちらの自分の言う通り、手を休めないことだけだ。ここまで来て条件を満たせなかったとなっては元も子もない。開きっぱなしのウカの口に、また舌を伸ばす。つい数十分前まで、啄むようなキスしか知らなかったウカに。
 ウカは胸に伸びているカクの腕をぎゅっと掴んできた。抵抗ではなく、何か触れていたかったのだろう。身体が跳ねるのに合わせて、手に力が入る。

ウカもいいんじゃな、わかるぞ】

 唇と舌を離して、ウカの顔をじっとみる。

「はあ、たまらん顔じゃなあ」

 気持ちよくて気持ちよくて仕方ない、といった顔だ。

「せっかくじゃから、よく見ておこうかの」

 突かれている最中のウカの顔なんぞ、こんなにゆっくり見れんじゃろう? と言うと、ウカはぼうっとしているだろう頭でもなんとか羞恥を覚え、顔を背ける。今更だと苦笑しながら、寂しいのう、と言ってみるだけで、ウカはゆっくりと、だが、すぐにカクをまっすぐ見つめた。

「半年でこんなにいやらしくなるんじゃな? 明日からしっかり励まんと」
「それにしてもウカのここは全然萎えんの、ずっとカチカチじゃ」
「ほれ? 自分でもわかるじゃろ? 弄りやすくていいのう」
「弄って弄って、もっと大きくしようなあ」
「ワシしか見んのだからいいじゃろ」
「あっち側も楽しみじゃなあ。まずは明日早速励むからの」

 突かれている喘ぎまくっているウカと見つめあいながら、乳首を捏ねながら、言葉でも責め立てていく。ウカは言葉を理解する度に、恥ずかしそうに視線を背け、またこちらに戻す、というのを繰り返した。たまに顎が見えるほど背中をしならせるのでそのときも視線は外れた。

「ぁああああっ! んんんんんッぁあああっ!」
【ああもう! 残念じゃなあ!】

 どれくらいそうしていたかわからないが、ウカの叫びのような嬌声のすぐあと、あちらから自分の切羽詰まった声が聞こえてきた。恐らく双方果てたのだろう。自分の吐精時の声なんぞわざわざ聞きたくもないが仕方ない。ウカははあはあと肩で息をしているようだが、その他異常はなさそうだった。 部屋の様子が変わらないことに不安を覚えながら、取り急ぎ、シーツの乾いた部分でウカの身体を拭いてやっていると向こうから声が聞こえた。

【納得いかんが、言うても仕方ない】

 ドアの開く音と訝しむ自分の声。

【満足しなかったのはワシか?】

 一転、暗転。

   ◆

 カクは意識を取り戻した、と知覚してすぐさま飛び起きた。素早く回りを見渡して、ここがウカの部屋で、ウカのベッドの上とわかる。

「あ、カク。どしたの? なんか怖い夢でも見た?」
ウカ!?」
「はいっ! なに?!」

 ベッドから飛び起きるとキッチンに立つウカに駆け寄る。ウカは見た限りなんともなさそうだ。カレンダーと時計を見て、そうだ、初めてウカの部屋に遊びに来て、そしたらあの部屋にいたんだ、ということを思い出した。

ウカは、なんともないのか?」
「え? ああ、私も疲れてたのかな? さっきまでベッドでカクと寝てたんだけど……」
「それだけか? 身体は……」
「ぁんッ……!」

 言いながら、ウカの頬に手を添えるとウカが小さく喘いで、慌てて手で口を覆っている。び、びっくりしただけ! と顔を背けるので、指先で耳の後ろを、つ、となぞるとまた身体をびくつかせた。

「ゃ、ちょ、っと、起きて、から、変ッ、なの」
「変? なにが……」
「ん……、その、おなか、が、あついっていうか」

 もじもじと足を擦り合わせるウカを抱き寄せて、まだしたことのないはずの深い口づけをしてみる。するとウカは先ほどあの部屋で覚えたばかりの舌使いでカクの舌を追いかけてきた。ちゅ、と水音をたてて、顔を離すと、物足りない、というのが自分でも不思議そうな複雑な顔をしたウカがいた。

「か、カクッ! な、なんで……」

 記憶はなくとも、身体が覚えている。

「まずは、半年か」

 カクは抱き寄せるだけで「んんッ!」と喘ぐ恋人の頭を撫で、まずは戸惑いつつも身体を震わせている恋人をベッドに連れていくことにする。
おしまい

官能小説,短編,ONEPIECE 10174字 No.65 

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