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No.122, No.121, No.120, No.119, No.118, No.117, No.1167件]

下心、を、口移しキスだけで、敏感、服を脱ぐ#カク

 キスだけで? と確かに私は言った。口と口が触れるだけじゃない、と。
 任務終わりのカクはへえ、と短く言って、そのあと、じゃあ試してやろうかの、とソファから立ち上がり帽子を脱ぐと、私を自分の近くに呼び寄せた。後に引けなくなった私もしぶしぶ立ち上がる。
 正面に立つと、カクは両手で私の顔をそっと挟むように、でも決して動かないように固定した。逃げられない、と思っただけで急に落ち着かない気持ちになる。私の緊張を知ってか知らずか、カクは両の親指ですりすり、と私の耳朶をさする。指の動きに合わせて、腰のあたりから頭の先までぞわぞわとしたものがせり上がってきて、カクに気づかれないように身体をよじった。
 カクは真正面からずっとこちらを見ていた。顔を固定されているから気恥ずかしくても目を逸らすことはできない。仕方なく目をぎゅっと瞑ると、それを待っていたかのように、唇にふに、と柔らかいものが触れる。私の顔を押さえて離さない両の手はがっしりしてとても力強いのに、カクの唇は柔らかくてびっくりした。びくりと跳ねてもおかまいなしに、何度も唇を啄まれた。
 ふに、ふに、と私の唇の感触を確かめるような仕草だった。ぼうっとされるがままになっていたら、急に右手で腰を掴まれ抱き寄せられる。バランスが崩れて、あ、と声を漏らしたその瞬間、ぬるりとしたものが歯列を割って口内へと差し込まれた。あっという間だ。それは、ゆっくりと探るように私の口内を動き回った。
 なに、これ。
 カクの舌は私の舌を捕まえて、下の裏や横をなぞり、時折吸ったり、唇で挟んだりした。私はどこで息を吸えばいいのかよくわからず、変なタイミングで息継ぎをしたものだから息があがってしまう。カクはこれらを淡々とやっているように思えて、自分の反応との差に羞恥心がさらに煽られた。
「──ぁあッ」
 それは、カクの舌が私の上顎をなぞり上げた時だった。
 大きな声が出て、身体が弓なりにしなった。今まで頑なに身体の横に置いていた両手も、ついにカクの身体に伸びた。もちろんカクはそのあと執拗にそこをなぞる。何度も。何度も。私は、何度でも新鮮に反応した。声が出るのに合わせて、頭に閃光がちらつき、真っ白になっていく。
 口内の刺激に気を取られているうちに、カクの右手は私のお尻を掴みやわやわと揉みしだいているし、長い足を私の脚の間に入れ、股間にあるさらに敏感な部分をぐりぐりと刺激するように動かしていた。
「ッ……ず、るいッ」
 私が息も絶え絶えに、睨みながらなんとかそう言うと、口と手と足がぱっと離れていく。崩れ落ちそうになる私をカクは支えない。へたりと座り込んだ私は、肩で息をしながらカクを見上げ、それでも強気に非難する。
「キスッ、……だけじゃ、ないじゃん」
「すまんの。つい」
 逆光で表情はわからないが、絶対に悪いと思っていない謝罪だった。
「それで」
「……なに?」
「服は脱がんのが趣味か?」
 ばっかじゃないの、と叫びながら着ていたジャケットを投げつけると、カクもすまんすまんと言いながら、ジャケットを脱ぎ始めた。

title by icca

おしまい

夢小説,官能小説,ONEPIECE,adlut night 1338字 No.122 

chupete のにこちゃんが描いてくれました!狂喜乱舞する私はこちら

20251125201037-admin.jpgおしまい
#カク #ルッチ #パウリー

63字 No.121 

ラストレター#カク
 十年続けた日記をやめることにした。
 昔は、日記になんでも書いた。食べて美味しかったもの。言われて傷ついた言葉。読んで感動した本の感想。しでかした最悪の失敗。ひとには決して言えない妬み。思いついたことは、なんでも全部。
なんでそんなにすべて書きとめたのか、いまとなってはもうわからない。忘れ、失われてしまうのが嫌だったのか、書いてすっきりしたかったのか。ある意味、生きている自分よりずっと、『自分』らしい日記だったかもしれないけど、その日記は読み返したわたしを幸せな気持ちにすることはあまりなかった。
 愚痴を読み返すと、その時の気持ちを思い出してしまう。せっかく忘れていた、言われてつらかった言葉をまた浴びてしまう。現実には一度しか言われていないのに、脳内で繰り返し、何度も勝手に傷ついた。当時好きだったひとへの思いや行動は、今思い出すとあまりに直情的で、このまま忘れてなかったことにしたかった。
書いていたときは、ここに書いたことは全部、いつか笑って読み飛ばせる日が来ると信じていた。そしてその日はそう遠くない未来だと思っていた。
 でもそんなことなかった。「昔の自分」すべてを微笑ましく思える日なんて、訪れる気配もない。少なくとも、十年という月日は意外とひとを変えないのだとわかったし、傷にはかさぶたが出来るだけで、そのかさぶたはちょっとしたことで剥がれ、まだ生々しい肉が見えるのだと知った。

 であれば。処分してしまおうと思ったのだ。
 開けばきっとまた、傷が疼く。ようやく出来たかさぶたが剥がれる。思い立ったらいてもいられず、すぐにキッチン・ストーブに火を起こし、薪の代わりにどんどんくべていった。十年分のわたしがぱちぱちと乾いた音を立てて灰になっていく。ページが崩れるほどに、そこに閉じ込めていたすべてが、事実ごと消えてなくなるかのような清々しい気持ちにさえなった。
 あと一冊。一番古い日記を手に取ったそのとき、それははらはらと床にこぼれ落ちた。小さな紙片だった。何冊も火に投げ入れていったので、最後の最後で油断した。それに、そんなものが挟んであるなんて思いもしなかった。紙片にはなにか書いてある──認識した瞬間、慌てて裏にする。そうしたら、裏にも文字が書いてあって、また驚く。何も心当たりはなかったが、嫌な予感が胸から喉の方にせり上がってきて、息が詰まりそうだった。このまま目をつむって、火に投げ入れてしまえば──。
 思ったものの、好奇心には勝てなかった。心を落ち着けてから、紙切れをそっと拾う。たしかに自分の字だった。内容はさっぱりだったが、十年前の自分の字だけには、懐かしさを覚えた。それは短い手紙で、書き置きで、日記の断片のようなものだった。使いかけのノートから切り離したようなそっけない紙にしたためられており、かさかさに乾いている。

今日は天気がいいですね。晴れは好きなのでわたしは元気です。でも会えないのはさみしい。仕事は順調ですか? 一緒にご飯食べたいな。
──すまんの。来週は必ず。

 わたしの書いた文字の下に、当時付き合っていたひとの走り書きが並ぶ。
 床にこぼれ落ちたのは全部同じような紙切れで、交換日記のような内容のものもあった。きっとわたしが強要したのだろうが、飽きっぽいわたしがすぐやめたことも簡単に想像できた。床に落ちた紙片は両手で足りるほどの枚数だったから。

今日は本を読みました。少し昔の小説だったけど面白かった。殺し屋と女の子の話。今度貸すから読んでみて。殺し屋がかっこよかったよ。
──今度貸してくれ。ネタバレはなしじゃ。

 本は貸しただろうか。思い出せない。少なくともいま手元にこの本はない。
 付き合っていた頃、彼はわたしの部屋に入り浸っていた。彼の部屋にはほとんどいかなくて、彼の本棚にどんな本が並んでいたか思い出せない。本棚があったかどうかも覚えていなかった。

昨日は待たせてごめん! 急な残業がどうしても終わらなくて。
──待つのは苦じゃない。

 当時のわたしたちは電伝虫を飼っていなくて、簡単には連絡を取り合えなかった。だからこうしてよく手紙を書いたのだ。といっても、彼の返事は簡潔で短かった。ふと、それをさみしく思ったことを思い出す。今なら文量と気持ちの量がイコールだなんて思わないのに。

七日の夜は?

 ああ、きっとこれは。彼の方から書いた珍しい部類の手紙だったのだろう。綺麗に折ってあった。だんだんと思い出す。楽しくはしゃいだことも、悲しみと怒りで何度も枕に拳を打ち付けた夜のことも。

 彼とは嫌な別れ方をした。
 あの頃、わたしも彼も互いの仕事が忙しくなってきて、それに比例するようにすれ違いも増えていった。何よりわたしは幼くて、優しい彼に甘えすぎていた。彼を信じて待つ、ということが出来なかったし、彼を支えるということも頭になかった。与えることではなく、与えられることを望んでしまった。
 「もう別れる!」と叫んでしまったのは完全に勢いだ。彼は、疲れた様子でわたしの部屋をあとにして、それっきり。撤回したり、謝罪したりしたかったけど、その後すぐに、市長の暗殺未遂や未曾有のアクア・ラグナ被害などが続いて、何も出来ないまま、彼はわたしの生活からすぽっと抜け落ちるように消えた。
 自業自得だったけど、なんともすっきりしない終わり方だったからだいぶ引きずったし、当時は自分勝手にも彼を憎んだりもしたから、こんなやりとりをした事なんて、思い出そうともしなかった。

わたしのこと好きだよね?
──愚問じゃ

 最後に拾った紙片には彼らしい愛の言葉が記されていた。
 そうだ。確かにわたしは彼のことが好きだった。あのとき間違いなく、いちばん大切なひとだったし、彼にとってもきっと。きっと、一緒に食事をして、同じベッドで眠った。きっと、互いの本を貸し借りして感想を語り合った。きっと、並んで歩いて散歩して、同じ景色を見て笑いあった。
 酔っ払って二人で歩いた夜道。月と街灯が水路の水面に反射してキラキラとまばゆかった。初めて二人で海列車に乗って遠出したのはよく晴れた日で、空も海も、どちらも真っ青で水平線がわからないくらいだった。通りがかるふりをして、造船所で働く姿をそっと盗み見た。目が合って気恥ずかしかった。彼はいつも、笑顔だった。
 はっきりと思い出せなくても確かに。多分、おそらく。

 彼には申し訳ないことをした、と今なら思える。
 彼だって、大人びていたけど若かった。それなのにわたしは、そう年の変わらないわたしを彼に背負わせようとしたんだ。
 もう十分。ぜんぶ火にくべよう。そう決めて、床から拾い集めた紙切れを今度はしっかり挟み込もうと、手元に残った最後の日記を開く。するとそこには、まだ一枚のメッセージカードが残っていた。紙切れとは違う、きちんとしたカードだ。
そうだ、これ──。

なにかあれば、ここに白紙のポストカードを

 思い出した。アクア・ラグナが去ったあと、自宅の郵便受けに入っていたカードだ。誰のものともわからぬ、均一な印字だった。誰から、なぜこんなものがと訝しみながら、それでもその文面は心に残って、捨てきれなかった。これは『わたし宛』だと強く感じたから。
だが、宛先を見てさらに戸惑う。それは島の端の端。海列車でセント・ポプラに行くほうが近いくらいで、とてもそこまで確かめに行くことは出来ない。でも──ポストカードを出す、だけなら。
 もう、十年。このカードが届けられてから十年たった。これはいまも有効なんだろうか。いやそんなはずない。普通に考えたら。そもそも、これがなんなのかわからない。でも。
 わたしはキッチン・ストーブの火を消し、急ぎ雑貨屋へ向かう。いまさら急いだって遅いのに。どんなポストカードが良いのか、迷っている。
──まだ届くだろうか、十年たった今からでも。

おしまい

夢小説,短編,ONEPIECE 3260字 No.120 

ある晴れた日の都で過ごした#カク #パウリー #ルッチ #カリファ

 朝の光をまんべんなくうけた町はそれだけで美しい。外に出ると遠くで朝の七時を告げる音楽が鳴り始め、朝の調べと一緒に潮の匂いが風に乗って運ばれてくる。ストレッチと軽い朝食はすでに済ませた。いちに、いちに、と心のなかで反復しながら屈伸をしてから地面を蹴ると、たちまち空に近づけることを知っていた。いつもの屋根に見当をつけて、住民を驚かせないように、軽い軽い音を心がけて着地する。高所に行けば行くほど朝の空気は澄んでおり、自分を洗ってくれるような気がしている。海王類ほどに見える白い大きな雲が空を悠然と泳いでいた。
 カク、と呼ばれ下を見やれば、笑顔の眩しい彼が片手をあげた。金髪が朝日にキラキラと溶けていきそうだった。おはようさん、と言いながら、カクは登ったばかりの屋根から飛び降りた。こんな朝早くから珍しいこともあるもんじゃ、とからかう。

「今日はあいつらが家まで押しかけてきそうだからな」

 これも作戦のうちよ、と誇らしげなパウリーの言葉にカクは思わず吹き出した。『あいつら』とは金を借りている男たちのことだろう。金を返さずに悪びれぬ彼だが、どこか憎めないのをカクは知っている。朝飯は? と問うと、いやそれがよう、と口をもごもごさせるので、食べ物もとい金が無いのだとわかった。

「仕方のないやつじゃのう」
「さすがカク様! ありがてえ、ありがてえ!」
「まだ奢るなんて言っとらんじゃろ……」
「なに!? 奢ってくれんのか?」

 というパウリーの言葉に、しまったと口に手を当てるがもう遅い。カクはため息をつきながら、朝からやっているいくつかのカフェのうち、一番安く済みそうなカフェの名を口にした。

sun-solid-full

 日差しが肌をじりじりと焼くのも、首筋を伝う汗がタンクトップを湿らせていくのもいとわず、黙々と作業に没頭する。昼の十二時を知らせるチャイムが鳴ってもパウリーの手は止まらなかった。咥えた葉巻はもう大分短い。今日は風がなかったので、葉巻からの煙はゆらゆらと彼の周囲に停滞し香りだけを残してゆっくりと消えていく。手元を見る彼の視線はまるで光線のよう。今日の強い日差しと相まって、見つめるその一点を焦がしそうなほどだった。
 それを阻止したのは一枚の濡れたタオル。顔面にぶつけられたそれは、さすがに彼の手を止めた。ぶわっ、という声とともに短くなった葉巻がじゅっと音を立てて消える。煙も吹き飛び、心なしか彼の輪郭がくっきりとする。

「おいこら! なにすんだ!」顔を覆ったタオルを取り開けた視界の先にいたのはルッチだった。
『お前のその集中力は唯一称賛に値する点……だと思うこともなくはないが、度が過ぎる。もう昼だ。生産性が落ちるから休憩しろ』
「素直に褒めらんねェのか、お前は」

 言いながらカクの姿を探す。いつもならルッチの隣で早くしろと飯をせっつかれるのだが。

「カクは?」
『今日は食いたいものがあるからと一人でどこかに行った』

 逃げたな。カクの奢りで朝食を頬張ったパウリーにはカク不在の理由がピンときて、何気ない風を装いながらルッチに探りをいれる。

「へえ、珍しいな。じゃあ今日は二人か。どうする?」
『何か食いたいものがあるのか?』
「今日は外に食いに行こうぜ」

 社員食堂では、給料から天引きされる。外の店で腹いっぱい食べたあと、ルッチに泣きつけば、ルッチも奢らざるを得ないだろう。

『わかった。いいだろう』

 カクからは何も聞いていないらしい。あいつのことだ、ルッチも同じ目に遭えばいいと思っているに違いない。パウリーはカクの期待に応えるべく、ルッチと肩を並べ会社近くの食堂に向かう。

sun-solid-full

 彼は今日は何を所望するだろう。コーヒーか、そろそろ紅茶か──。カリファの熟考を三時のチャイムと電伝虫の呼び出し音が砕いた。受付からの用件を聞きながらそっと窓の外に目をやる。

「アイスバーグさん」
「ンマー、なんだ?」
「また、あのお客様です」

 カリファがそう告げると、アイスバーグはカーテンの隙間から自分がさっきしたのと同じように窓の外を盗み見た。玄関先にコーギーの部下たちがたむろしているのをみて、あからさまにげんなりしている。
 そんなに辛いのなら、さっさと手放せばいいものを──この人は社長でかつ市長でもあるのに、実に表情が豊かだった。だが、壁に貼った手配書走らせた一瞬の視線は険しい。それが何を意味するのかまでは決して悟らせない。そういう人だ。
 持っているならはやく手放して。心に思うだけで決して言わない言葉が、カリファの胸に澱のようにたまっていく。傷つけたいわけではない。目当てのものが手に入れば私達は黙って姿を消すだけ。だから、はやく。
 そこまで考えて、軽く首を振る。彼はたとえ私が正体を明かして説得したところで態度を変えないだろう。どんな忠告も懇願も彼には届かない。それなら。

「コーギー氏とお会いする前に、何かお飲み物でもいかがですか?」
「それもそうだな。今日は紅茶に」
「淹れてきました」

 さすがだな! という称賛を得て、顔がほころぶのに気づいたカリファは、そっと眼鏡をかけ直した。
 最後まで優秀な秘書を全うするまでだ。

sun-solid-full

 細い細い月が水の都をそっと照らしている夜のこと。海を帯びた生ぬるい夜風が、月明かりも届かぬその場所を通り抜けていく。
 誰にも知られていない四人は、誰にも知られてはならない会話を続ける。

「準備はいいか?」誰かが問う。
「問題ない」低い声が響く。
「天気も上々」少し若さの残る声で返答がある。
「ちょうど新月」しっとりした声が提案を後押しした。
「それならば──」最初の声が言う。

「明日、頂こうか」

 湿った黒い風がごうと吹き、車両基地に戻る海列車の汽笛がのどかに鳴った。なんでもなかった、いつもと変わらぬ一日だったはずの今日が、この瞬間からたちまち襲撃前日に、そして潜入任務最終日となる。

 ある晴れた日のことだった。

おしまい

二次創作,長編・連作,ONEPIECE,水の都で過ごした 2559字 No.119 

秘所を蹂躙 #ドラハー

 スコーピウスのおうちの薔薇園は散策路などが整備されていて、 さながら公園のようだった。様々な種類の薔薇がよく考えられて植えてある。 薔薇はその花弁に昨日の雨粒を溜めており、一層美しさが増していた。 散策路には雑草避けなのか、藁のようなものや枯れ草が敷き詰めてあり、 歩くとたまにちくちくしたが、足裏に伝わる感触は柔らかく、歩きやすかった。
「父が何か失礼なこと、言わなかった?」
 スコーピウスは恐る恐る、申し訳なさそうに言った。 わたしはすかさず首を横にぶんぶんと振って、それを否定した。 さっきのやりとりはそんなものじゃなかった。 スコーピウスのお父様が最後に呟いた『グレンジャーか。』という言葉は、 なんというか、本当は聞いてはいけないものだったのではないだろうか。 それをうっかり聞いてしまった、どきどきするような余韻にしばらく浸っていたくて、 スコーピウスにはすぐには説明できなかった。 あの呟きは、それくらい小さかったし、あまりにあの方の外見とは裏腹で、 そぐわない声音だった。
『グレンジャーか』
 大人が子供の頃を思い出す気持ちとはどんなものだろう。 子供の私が、例えば昨日のこと、二度と還らない日々を思い起こす気持ちと 同じだろうか。いや、きっと違う。 懐かしい思い出が遠くに行けば行くほど、きっと切なさで胸が潰れてしまうに違いない。 スコーピウスのお父様の声は、それくらい、悲痛で、でも楽しそうに微笑まれていて、 だけど今にも泣き出しそうな感じがした。(もちろん、わたしが勝手にそう感じただけだ。)
「大したことじゃないわ」わたしは言った。
「母を知ってるか、って伺っただけ」
「父はなんて?」
「多分、知ってるんだと思う。母と違って素直だね、って言われたし。 名乗ってないのに『グレンジャー』って言われたわ」
「そんな、呼び方」
「違うのよ、多分独り言というか、私を見て、母のことを思い出して 『グレンジャーか』ってつぶやいただけなの」
「……そう」
 スコーピウスはそれを聞いて、少し黙ってしまった。 何か思うところがあるのだろうか。わたしたちは散策路を一周して、 先ほどスコーピウスのお父様がいらっしゃった、白薔薇と青薔薇の絡みついた 可愛らしい東屋に戻ってきた。 もう、お父様は家にお帰りになったようだ。
 「座ろうか」スコーピウスはそう言って、私の返事も待たずに東屋の中にあった ベンチに腰掛ける。 私も同じようにすると、ほのかに薔薇の香りがした。
「ローズは、ご両親の恋の話って聞いたことがあるかい?」
「恥ずかしくて本人には聞けないわよ。だけど、ハリーから色々聞かされたから 無駄に詳しくなってしまったの」
「アルバスのお父様だね。ミスター・ポッターはなんて?」
「普通よ。父の方が母に惹かれていて……、とか、僕との仲を疑って喧嘩したりしただとか」
「微笑ましいね」
「スコーピウスは聞いたことあるの?」
「ないよ。ないんだけど、『グリフィンドールの令嬢だけはやめておけ』って言われたことがある」
「そんな! じゃあわたしと仲良くしているのは、お父様、お嫌なのね」
「いや、そうじゃないんだ。そうじゃなくて、『辛いから』って」
 私は息を呑んだ。それは、お父様ご自身が辛かったからなのだろうか。
 グリフィンドールの、誰と?
「父は絶対に昔の恋の話はしないんだ。まあ、柄じゃないっていうのもあるんだけど、 でも母が茶化して聞いてみても、頑なに言わないらしい。 だけどね、父がすごく大切にしてるものがあって、僕はそれが、 昔好きだった人、もしくは、付き合っていた人からもらったものじゃないかと思う」
 スコーピウスは一気にそこまで言って、また黙ってしまった。 言っていいものか、迷っているようだった。
「君のお母様は、栞、持ってないかい?」
「しおり? 本に挟んでおくものよね。持ってるわよ。 銀盤の、切り絵みたいになっていて、白い薔薇が一輪あしらってあるわ。」
 私のその言葉を聞いて、スコーピウスはやっぱり、と呟いた。そしてそのまま続ける。
「僕の父もね、持ってるんだよ。君のお母様と多分同じ、でも薔薇の色は青」
「本を読んでるのか、栞を見てるのか、わからないときがあるんだ」
「いつも手にとって、クロスで拭いて、大事に使ってる」
 スコーピウスはどんどん言葉を重ねていくが、私はついていくので精一杯だった。
 スコーピウスのお父様と、母さんが、恋仲だった?

「この東屋も、父の希望で作ったんだよ」

秘所を蹂躙
そんなこと知りたくなかった

おしまい

二次創作,短編,お気に入り,その他 1906字 No.118 

昔の話をしようか #ドラハー

 夏休みは何かしていないととても暇だ。 というわけで、明日スコーピウスのおうちに遊びに行くのよとママに言ったら、 スコーピウスってあのマルフォイの? と、静かに、でもとてもびっくりした後、 少し黙ってから笑って、「わかったわ。いってらっしゃい、お行儀よくね」と言った。 私はそんなふうにびっくりしたママにびっくりして、「……頑張るわ」としか言えなかった。 スコーピウスのおうちは確かに純血の旧家だけれども、 そんなにおっかなびっくり訪ねるようなおうちなのかしらと思った。 だってスコーピウスはいつも言ってるわ。 スリザリンには未だに純血至上主義の古いやつらが大勢いてうんざりするよ、と。 彼はスリザリンを嫌っちゃいなかったし、グリフィンドールになりたいなんて 思ってもいないけれど、でもあまりスリザリンを好いてもいなかった。 そしてなんとなく、お父上のことも好いていないようだった。 はっきりと彼がそう言ったわけじゃないけれど、 純血至上主義のやつらと言いながら、それにはお父上も含まれているのかしらと思うだけだった。
 彼は旧家特有の品の良さと優雅さを備えつつ、 旧家特有のプライドはあまり持ち合わせていないようだった。 彼は自分の家が特別視されるのを嫌っていたし、 それゆえの待遇をされるのも好まなかった。 私達と同じものを食べ、喜び、同じものを着て、遊んだ。 お父上は、そんなスコーピウスを大声で叱ることはなかったようだけど、 かといって奨励したわけでもないようだった。 スコーピウスは、父上はこの時代に耐えてらっしゃるんだと笑う。 父上には受け入れがたいんだ、と。 でも、逆らうことも出来ず、かなり努力して妥協して、 そして耐えてらっしゃるんだと思うよ。 そう言いながら、スコーピウスはちょっと悲しそうだった。

 スコーピウスのおうちは、特別視するなという方が無理な、 まさに旧家! といった佇まいだった。 スプーンひとつをとっても、 私には想像も及ばない歴史があるかのような雰囲気を漂わせていた。 スコーピウスの部屋のソファも絨毯も、ベッドもカーテンも、 何もかもが私たちを包み込み、とてもあたたかで、守られている気持ちになる。 この部屋で家で育ったスコーピウスが、 優しい子になるのは当たり前のような気がした。 全てに慈愛を感じるような、そんな部屋だった。
「ここは昔、父上の部屋だったんだって」
「まあ! なんだか不思議な感じね」
「おじい様も子供の頃はここで過ごしたとおっしゃっていた」
「じゃあ、この部屋は代々、マルフォイ家の嫡男が育つ部屋なのね」
「部屋がないだけだよ」
「御冗談を! 大きなおうちじゃない。でも不思議と落ち着くのね。 わたし、あまりに広すぎてそわそわしてしまうんじゃないかと思っていたわ」
「玄関ではしっかりそわそわしてたよ」
「やっぱり!? なんだか恥ずかしいわね。でも慣れてないの、笑わないでね」
「笑ったりしないよ。あ、そうだ。庭に出てみる? うちではどの季節でも薔薇を咲かすんだ」
「そうなの? さすがねえ」
 彼はわたしを庭まで案内すると、ティーセットを持ってくるねと一旦屋敷へ戻った。 しもべ妖精が、わたくしめにお任せを! お任せを! とわめいていたが、 じゃあ一緒に行こうか、と連れだっていった。 スコーピウスの話だと、今この家にいるしもべ妖精には、 すでにお父上がプレゼントを贈っていて、それでも残っているものばかりらしかった。 父上は慕われてもうんざりしたような顔をしているけどね、とも言っていた。
 それにしても、見事な庭もとい薔薇だった。 葉は濃い緑をしていて降り注ぐ陽の光を跳ね返し、 棘は触れるのが躊躇われるほど鋭く尖って やわらかな花を奪おうをするものを拒み、守っていた。 植えられている薔薇がなんという品種かはわからなかったけれど、 その美しさと香りの良さはわかった。 区画ごとにいろいろな品種が植えられているらしく、 よく見ると、八重咲きになっていたり、花の形や大きさ、草丈なんかが違っていて、 隣と隣を見て歩くのが楽しかった。 そうやって、それらに惹かれてどんどん奥に進むと、こじんまりとした東屋があった。 その東屋の周りには白薔薇と青薔薇しかない。 特に青薔薇はたった今通り抜けてきた中には見つからなかった、 ここで初めて見た色だった。 石造りの東屋は、屋根がドーム型でかわいらしく、 白いツルバラが絡みついていた。 そしてその中には、 スコーピウスと同じプラチナ・ブロンドの男性がこちらを背中に向けて どこか遠くを見るようにしていた。
「こんにちは……」
 東屋に近づき、恐る恐る声をかけると、 その方はゆっくりこちらを振り返り、私を視界に入れ、そして認識すると、 ほんの一瞬だけ、まるで見まいとしていたものを うっかり見てしまった時のような驚きと怒りの表情を浮かべた。そして、
「ここは、プライベートな庭なのだが……」
 と眉をひそめておっしゃった。冷たい声だった。
「それは……申し訳ありませんでした。 わたし、今日、スコーピウスに招待されまして……。 素晴らしいお庭だったものですから、つい奥に入ってしまいました」
「ああ、スコーピウスの……。それは失礼した」
「いえ、こちらこそ不躾にお声をかけてしまいすみませんでした」
 そう頭を下げると、その方はそのとき初めて、ほんの少しだけ声を和らげて、
「あなたは母上とは大違い。素直な方だ」
 と、おっしゃった。 びっくりして顔を上げると、その方はわたしをまっすぐ見ていた。
「母をご存じなんですか?」
 そう尋ねると、その方はわたしが声をかける前と同じように、 背中を向け、遠くを見つめながら
「グレンジャーか」
 わたしは今まで、父や母と同じ年の男性が、 私たちと同じような、まるで子供みたいな声を出せるなんて知らなくて、 その場で固まってしまった。 遠くで私の名を呼ぶスコーピウスの声が聞こえたが、 私はずっとその場に立ちつくしていた。 スコーピウスの父上も、それ以上何も言わなかった。

おしまい

二次創作,短編,お気に入り,その他 2529字 No.117 

潜熱 #ドラハー

「わたし、結婚するわ」
「奇遇だな、僕もだ」
 二人は同じタイミングで紅茶を口に運び、 そのことに気づいて気まずそうに、そしてゆっくりとカップをソーサーの上に戻したが、 結局そのタイミングも同じだった。
 窓の外では霧のような小雨が降っていて、別にこのまま無言で紅茶を飲みほし、「それじゃあ。久しぶりに会えて良かった」と形式的な挨拶をして、 そそくさと席を立っても良かったのだが、二人ともそうはしなかった。紅茶を飲むわけでもなく、時計を気にするわけでもなく、 頬杖をついたり、足を組みかえたり、それぞれがくつろいでそこに座っていた。 視線は先ほどからずっと窓の外だ。
 外には特に何があるわけでもなく、ただ、丁寧に手入れがされ、愛情を存分に注がれているだろう、 バラの植え込みが続いていた。 店の主人は、「今日はお客さんも少ないんで、ちょっと出てきます」と言って、 店を出ていってしまった。 あの口ぶりだと、三十分、一時間は帰ってこないような気がした。 その詫びのつもりなのか、スコーンやクッキーなどのお茶うけとティーポットは置いていったようだ。 かわいらしいティーコゼーはなかなか熱を逃がさないようで、 二杯目の紅茶も温かく、そしてとてもおいしかった。
「わたしたち、小雨の降る中で会ったこと、あったかしら?」
「……いや、初めてじゃないか?」
「そうよね。わたしが思い出すのは、なんとなく晴れた日だわ。半袖で」
「僕は夕食前の図書室を思い出すけど」
「ああ、あなたは二人きりのときを思い出してくれているのね」
 彼女がくすくすとからかうように笑うものだから、彼は少し照れ、 それを隠すように苛立った素振りをし、紅茶を飲むことでその場をしのいだ。
「わたしは、初夏の光で溶けそうなあなたを思い出すの。ハリーもロンもいて。 わたしは二人にばれないように、そっと盗み見ていたわ」
「僕もたった今、ぼさぼさ頭で少しばかり前歯の目立つかわいらしい在りし日の君を思い出しているところだよ。 あいにく、忌々しいポッターだのウィーズリーだのは記憶から抹消したんで思い出せないがね」
「……大人げないわよ」
 彼女はきっと彼を睨んで、ジャムをのせたスコーンをほおばった。 彼はそれを見て、「悪かったよ」と謝りながらスコーンをもう一つ取り分けてあげた。
小雨は音もなく振り続けているのだが、音にならない音が聞こえるような気もした。 それは二人を外界から遮断し、見えなくしている透明マントのようにも思える。 小雨に濡れるバラは一層、その色を濃くしていた。
「『やあ、グレンジャー。いい加減その爆発しそうな頭を何とかしてくれないか?』」
「僕はそんな嫌味なことを言うように教育されてないはずだが」
「誰もあなたが言っただなんて、言ってないじゃない」
 彼女は言い終わるか終らないかのところで、声をあげて笑った。 ひとしきり笑った後もまだおさまらないようで、ひいひい言いながら、肩を震わせていた。 彼は俯いて「ちくしょう」と小声で呟いている。 そして、さっき彼女に取り分けてあげたスコーンを自分の方へ引き寄せて、 少しだけクリームをのせて、食べてしまった。 彼女は「悪かったわ」と悪びれていないふうに言った。
「ねえ、」
「なんだい?」
 彼女はその後の言葉を言おうか、言うまいかと迷っていた。 今なら言える気もしたし、言ってしまっては何かが終わってしまうような気もした。 今日のこの良き日を台無しにはしたくなかった。
 彼女がそのまま黙って紅茶で喉を潤しているのを見て、彼がそっと口を開いた。
「君が何を思っているのかは知る由もないが、少なくともあの頃は良かった。 そして今もだ。君に会えて良かった」
 彼女はそれを聞いた瞬間、心臓をぎゅっと絞られているようになり、 声が出せなくなって、代わりに今にも泣きそうな顔で笑った。
 彼はあの頃となんら変わっていない、それがひたすら嬉しかった。

「ねえ、後悔してる?」

潜熱

おしまい

二次創作,短編,お気に入り,その他 1665字 No.116 

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