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なくなると忘れてしまいそうだから忘れるまでは捨てないでおく #カク #はな誕

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おしまい

夢小説,短歌,断片,ONEPIECE,夏という月日 41字 No.87 

夏という月日 は製本して頒布しております!

https://lol8.booth.pm/items/5172085

A6文庫版(カバー付き)P170 一段組(約58,000字)
挿絵:Udonさま(https://twitter.com/Udon_10221022
注1)書き下ろしはございません。挿絵も含め全てWEBで読んで頂けます。紙媒体で欲しい方向けの製本です。
注2)デフォルトネームは「ウカ」です。

カクとルッチが水の都で過ごす最後の夏。そこにはパウリーの親友・ウカもいた。突如、姿を消したカクにセント・ポプラで再会したウカは思い出す。パウリーと過ごしたこれまでの日々と、カクと過ごしたこの夏を。「あいつは」「おれの」「わしの」顔なんて見たくないはず──素直になれない嘘つき達にウカがかける言葉とは。
カクとルッチ、パウリーのブロマンスに少しの恋を添えた物語。

1,200円+送料(370円)匿名配送
※あとがきをまとめたフリーペーパー(家庭用プリンターで出力)をおつけします。

夢小説,頒布,ONEPIECE,夏という月日 451字 No.85 

美しい過去は嘘に似て #パウリー

 写真があったらよぉ、なんてパウリー副社長がぽつりと呟くから、私は静かにびっくりした。
 副社長になっても一番ドックの職長だったころと変わらぬ大声で他の職人さんたちに指示を出しているこの人が、こんなにそうっと、どこか寂しそうな声が出せるなんて、露ほども思っていなかったから。私は相槌もままならず、ベンチに座って海を眺めるパウリー副社長を間抜けな顔で見つめた。
 副社長は、私に聞こえていても聞こえていなくても問題ないのか、それ以上の言葉を発さない。手には、ベンチにぞんざいに放られていた新聞がある。きっと数日放置されていたのだろう。新聞はぱりぱりに乾いているように見えた。それを捨てるでもなく、広げるでもなく、ただ丸めて手に持って、海を眺めている。
 その新聞の一面は確か、数日前どこかの島で海賊が暴れて、海軍が制圧したといった記事だったはずだ。パウリー副社長が何を考えているのか、業務上の付き合いしかないただの事務員である私にはとても想像がつかない。
 今日は社内行事の一環である市街清掃の日で、多くの社員が軍手とごみ袋を手に社から街へと繰り出していた。社員、特に事務員はなるべく予定を空けておき参加することになっていて、今日も課長に恒例の電話番をお願いして課員みんなで参加した。他の課も概ねそんな感じだ。
 そうして参加を重ねると、自ずと陣地というか、各社員の好みでなんとなくチームや担当エリアが決まっていくもので、私は大抵海が見えるエリアを自分のペースで一人黙々と清掃するのが好きだった。このあたりは同じようなスタンスの社員が集まっていて、各々いい感じに集まってきて、切りのいいところで目配せして、こんなもんですかね、と社に戻る。
 賑やかなのが好きな人たちは街の方に出かけて、街の人たちとおしゃべりしながら励んでいるらしい。それも楽しそうだが、私は海を横目に、潮風を感じながら、時にぼんやり海を眺めて、ごみ拾いするのが好きだ。手が空いている職人さんたちは「賑やか派」らしく、パウリー副社長も多忙だろうに、よく彼らと連れ立って街の方へ出かけていくのを知っていた。
 でも今日は珍しく、副社長がひとりでここにいる。この行事で、このエリアで、副社長と一緒になるのは初めてだ。
 ベンチに座って海を眺めている副社長に近づいたのは、副社長がごみ袋を持っていなかったからだ。手に持った新聞を、拾ったごみを、持て余しているのだと思った。

「入れますか?」

 ごみ袋を広げながら声をかけたら、続いた言葉が「写真があったらよぉ」だった。

 副社長は、業務上は決裁権者だったから求人を出しても構わないかとか、じゃあどんな条件にするかといったことを確認してもらったり、勤報の決裁を取ったりすることはよくある。仕事でならいくらでも話す。
 でも、こういう、仕事でない話はほとんどしたことがなかったなと気づいた。
 昔、副社長とよく一緒にいたカクさんという職人さんは人当たりも良くて、まあまあ話した。カクさんは「お菓子を寄せる人」で、街の人からもらったお菓子を、一人じゃ食べきれんから、とよく課に横流ししてくれた。そんなカクさんは、もう二年も前に辞めてしまったけど。
 あとはルッチさん。ルッチさんは変わった職人さんで、理由はよく知らなかったが肩にハトを乗せて、ハトを介して話す人だった。そのくせ、面倒見はいいのか、なかなか書類を出してくれない副社長を引きずるように連れてきて『このバカが迷惑かけてすまない』と副社長の代わりに謝ってくれたりした。それで顔見知りになって、廊下やドック内で会うと、会釈をするくらいには知り合った。でも、ルッチさんもカクさんと同じく二年前に辞めた。
 そして、パウリー職長は、パウリー副社長になった。
 副社長は、硬派というか、「女性」を強く意識する性質なのか、職長だったころは大して距離が縮まることはなかった。二言三言、話したこともあったかなという程度だ。

「写真、ですか?」とりあえず、今更とも思うが返事をしてみる。
「そうそう、写真があったらよ」

 副社長は、自分が話しはじめたことを思い出したようだったが、かといって、こちらに視線を向けることはなく、からっからに乾いて割れそうな新聞を器用に広げながら言葉を続けた。

「忘れねェもんか?」
「何をですか?」
「そのときを」

 写真があったら。写真なんて、そうおいそれと撮れるものではない。家族での記念写真や、新聞記事、海賊の手配書なんかで使われているくらいだ。でも、もし気軽に撮れるようなものなら、みんな撮りたがるかもしれない。今、この瞬間を目に焼き付けたい、そう思うタイミングはある。そんな写真があったら、思い出すことも、思い出せることも、今より増えるかもしれない。とはいえ。

「どうでしょう。写真で残せるのは一瞬ですし」
「まあ、そうか」
「見ても、思い出せないこともあるんじゃないでしょうか」
「そうだよなァ」

 私のなんの面白味もない答えに、副社長はのんびりと返事をして、拾った新聞へ向けていた視線を海の方へ、もっと言えば海の向こうへとむけた。私もつられて海を見る。ちょうど今の時間帯は太陽が反射してキラキラと眩しく、水平線は捉えにくい。今日は雲ひとつない快晴だ。海賊なら記事になるんだけどな、とベンチから独り言が聞こえたけれど、意味がわからなくて聞こえないふりをする。

「写真、撮りたいですか?」
「あー……。そうだな、船が完成したときとか、いいかもな」
「確かに。そのあとにやる打ち上げも良さそうですね」
「お。いいな、それ」

 それいいな、と副社長は二回言った。
 打ち上げ、と聞いて、そういえば、と思い出す。二年前の夏、パウリー副社長の誕生日を祝ったことがあった。暑気払いのついでにお祝いしたのか、お祝いのついでに暑気払いをしたのかは、もはや定かではないが、パウリー副社長が「本日の主役」というタスキを誇らしげにかけていたことは思い出せる。
 確か、いつもは静かに飲んでいるルッチさん(とハットリ)も、この打ち上げは上機嫌で、酔っぱらった副社長がべろんべろんになっていても、呆れたりせず付き合っていた。副社長が「パウリー! 飲みます!」と、アイスバーグ社長に何度も宣言してグラスを高々と突き上げ、ルッチさんも『それでこそ俺たちのパウリーだ』と適当な合いの手を入れていた。カリファさんも、その日は咎めたりせず、ただ口元に手を当てて笑っていた。そういう宴会だった。そういえば、この日のカクさんは珍しくその輪から外れて、副社長のお友達だという女性と差し向かいでグラスを傾けていた気がする。意外だな、と思って、あと、おやおや? もしかしたら? なんて思ったので、結構覚えている。
 あの日も、確か今日みたいな暑い夏の日だった。夜になっても風が温くて、でも、ひとまず今日一日の仕事が片付いたという解放感と冷えたエールが楽しさ以外の全てを吹き飛ばすような夜だった。
 あの夜の、あの写真は、あったらいいなと思う。
 カクさんもルッチさんも、そういえばカリファさんも、もういないし、あの店も、もうないから。

「副社長のお誕生日会、覚えてます? 二年前くらいですかね」
「あー……べろっべろに酔っぱらったな」
「そうですね」

 覚えていますか、と聞いてみたものの、べろべろに酔っていた副社長は、あの夜をどこまで覚えていて、どこまで思い出せるだろう。私と話したら何か思い出せるだろうか、とも思うが、例えば「ルッチさんが珍しく上機嫌でしたよね」なんて言ってしまって、それを副社長が思い出せなかったら。「忘れている」ということに副社長が気づいたら悲しいかもしれない、と不安がよぎった私は、それ以上は話さなかった。
 広げた新聞をぐしゃりと握りつぶした副社長は、そのままそれを私のごみ袋に突っ込んだ。ぱん、ぱん、と手についた埃を払うと葉巻を咥えて火をつける。青い空に煙が雲みたいに揺蕩う。ふーっと煙を吐き出して副社長がからっとした笑顔で言った。

「あんときの写真は欲しいな」

 副社長がはっきりと「欲しい」と言ったのが意外だった。「あってもいいなあ」とか「撮っても良かったな」ではなく、はっきりと「欲しい」と言うのが。

「どうしてですか?」
「こんときは楽しかったなって、見ればわかるだろ。みんなちゃんと笑ってんな、ってよ」
「楽しかったなあって、思い出すだけじゃだめですかね」
「それじゃあ、足りねえ」

 副社長はきっぱり言い切る。そして「ちゃんと、思い出してえんだ」と悔しそうに続けた。
 何をもって「ちゃんと」なのかはわからない。楽しかった思い出に、確固たる何かが欲しいのだろうか。でも、それなら。

「写真があったらいいなってのもわかりますけど、でも、写真で確かめなくても大丈夫ですよ」
「あァ?」
「聞いてください。私たちに」
「聞く?」
「『あの時は楽しかったよな』って聞いてくださいよ」

 新聞や海しか見ていなかった副社長が、やっと私を見る。

「ああ、そうか。そうだな」

 副社長は観念したように、ふ、と笑みをこぼした。
 この気休めが「もう思い出せない」と泣き出しそうな副社長を少しでも救うといいなと、思う。

『楽しかったよな?』
『ええ、とっても』
『みんな、笑ってたよな?』
『笑ってましたよ』
『ほんとか?』
『ほんとです』
おしまい

夢小説,長編・連作,お気に入り,ONEPIECE,夏という月日 3892字 No.83 

イミテーションジュエリー #カク #パウリー

 珍しいな、と言われて、そうだよなあと自分でも思った。
 アクセサリーの類はあまりつけることがなくて、つけてもピアスくらいだった。ネックレスとブレスレット、指輪は、なんというか肌に馴染まず、手に取る回数が減っていって、結果ほとんどつけなくなっている。小ぶりなピアスのちょっとした存在感と、軽い着け心地が好きだった。

「そ、それ、高ぇやつか?」

 オープンテラスでお茶をしていたら、パウリーが私を見つけて声をかけてくれた。アクア・ラグナからの復興も順調で、こうしてお茶をできるくらいには日常が戻ってきている。

「これ? ううん。おもちゃ。五百ベリーくらいだったかな?」
「へえ、おもちゃか。よくできてんな。本物みてぇ」

 金も借りられそうだ、なんてパウリーは言うし、私も馴染みがないからそう思わないこともない。けど、これはれっきとしたおもちゃだった。もちろん、光に当たるとキラキラと反射して、綺麗で可愛い。でも、とても軽くて、気をつけていないと失くしたことにも気づかなさそうだし、リングは妙にテカテカしているし、少し力を加えたらすぐに壊れてしまうだろう。
 だけど、指輪だ。

   ◆

 オープンテラスでお茶をしていたら、通りがかったカクさんに、パウリーの誕生日プレゼントはなにがいいと思う? と唐突に問われ、言葉に詰まってしまった。
 聞けば、今度のお休みにガレーラカンパニーでブルーノの店を貸し切ってパウリーの誕生会を企画しているらしい。「パウリーには内緒じゃぞ?」と人差し指を立てるカクさんに見惚れながらも、わたしはううんと唸ってしまう。幼馴染として、何か気の利いたプレゼントのひとつやふたつ、見繕ってみたい。そうは思っているのだが。

「すごくひどいことを言うんだけど」
「ん?」
「お金、が一番喜ぶ気が」
「それは開口一番、本人からも言われたわい」

 カクさんは心底呆れ果てた様子で首を横に振った。パウリーのやつ、本当に言ったのか。なんだか私まで申し訳なく思って、なんかごめん、と幼馴染の代わりに思ったまま謝る。残念な幼馴染から、他にリクエストはなかったのか聞いてみるが、カクさんは少しの間のあと「くだらんことしか言わなくてのう」と困ったような顔をした。ヤガラレースの馬券でもねだったのだろうか。あり得る。

「予算はどれくらい? 会社からのプレゼント?」
「いや、わしとルッチから」

 へえ、と少し意表を突かれた。
 てっきり会社で準備するものかと思ったのに。個人的なものとは想像していなかった。ルッチさんはなんて? と聞いてみたが「ルッチに期待するのが間違いじゃ」と言われてしまう。

「そっか。じゃあ、灰皿とか、シガーカッターとかは?」
「残るものは気色悪く思わんか?」
「そんなことないけど。もう注文が多いなあ」

 口を尖らせると「わはは、すまんの」とまったく悪びれていない笑顔で謝罪を受ける。

「それなら葉巻? パウリーが普段、買えないような高価なやつ」
「おお! そりゃいいの! 豚に真珠かもしれんが」
「パウリーが普段吸ってる葉巻の銘柄なんて知らないから、煙草屋さんのお姉さんに聞こう」

 私はぬるくなったコーヒーを一気に飲み干した。店内にごちそうさまでしたと声をかけ、パウリー馴染みのお店となった煙草屋さんにカクさんと連れ立って行く。

   ◆

 パウリーだったら最近は、というよりここ数年、もっぱらこの辺を買ってるから、似た系統なら、あの島のこの銘柄あたりがおすすめだが、そのランクになるとうちでは取り扱ってないから大通りの端にあるシガー専門店に行くといい、と煙草屋のお姉さんは、ハキハキとした口調で、とても親切に教えてくれた。さすが、パウリーの初恋の相手だ。パウリーはやっぱり見る目がある。
 紹介されたシガー専門店で接客してくれた店長さんも穏やかで丁寧ないい人で、素人の私たちにほどよい距離感で接してくれた。プレゼントなのだと伝えると、在庫整理で余ってしまったのだという葉巻を一本、ラッピング用のリボンと一緒におまけで入れてくれる。「当日に封から出して、このリボンを巻いたらいい」と。本命の葉巻は、出来るだけ直射日光に当てぬよう、密閉して保管してほしいとのことだ。「数日ならあまり過敏にならなくても良いですが」とのことだが、カクさんと顔を見合わせてから、こくりと頷く。その様子をみた店長さんに「素敵なご友人ですね」と微笑まれ、こそばゆい気持ちになった。

「自分たちで言うのもなんだけど、いいのが買えたんじゃない?」

 店を出ると、店長さんの言葉に気を良くした単純な私は、カクさんにも同意を求めた。

「ほんとじゃな。パウリーは素敵なご友人に感謝せんと」
「葉巻なんて今まで興味なかったから、知らないことばっかりだったね」

 店長さんがいい人でよかった、と続けたところで、一緒に歩いていたはずのカクさんの気配が隣から消える。何事かと後ろを見れば、カクさんが雑貨屋さんの前で足を止め、軒先に並べてある商品をじっと見ている。何を見てるんだろう、とカクさんの隣に並び立ったのとカクさんが口を開いたのが同時だった。

ウカちゃん、こういうのは? 興味ないんか?」
「わあ。か、かわいい……!!」

 店の軒先で雑多に山になっていたのは、指輪だった。雑な並べられ方に一瞬驚いたが、理由は手に取らなくてもすぐにわかる。おもちゃなのだ。値段は百ベリーから千ベリーくらいで、三つで千ベリーなんてのもある。子供用のビビッドでカラフルなデザインのものも多かったが、本物みたいに見える大人向けの、ジュエリーといって差し支えないデザインのものもあった。

「こまくてよう見えん」
「うそだ。なんで急におじいちゃんになるの」
「ばれた」

 大きなエメラルド色のストーンにゴールドのリング、小さなストーンが散りばめられているデザイン、オーロラ色のセンターストーンにダイヤのような輝きのサイドストーンを添えたもの、ピンクからパープルへのグラデーションが見事なものもある。サファイヤ、ルビー、パール、トルマリン、タンザナイト、アメジスト……買おうと思ったわけではないのだが、どんなものがあるのかと興味が尽きなくて、宝探しみたいに夢中で好みのデザインの指輪をより分けていく。山の下の方まで粗方さらって、ようやく満足した。

「かわいい。かわいいしか言えない。私の中の女の子が大歓声を上げている」
「どれが好きなんじゃ?」
「え?」
「好きなの、どれじゃ?」

 問われると大いに迷う。華奢なデザインのものもかわいいと思ったし、ザ・宝石といった主張の強いものも、おもちゃという軽さのせいか、意外と圧を感じなかった。どれもいいな、と思ったが、もし身に着けるとしたらという観点で選び、ゆらゆら揺れる指先で、ただひとつを指差す。

「うーん……、これかな」
「よし、今日のお礼にプレゼントしちゃろ」
「え⁉ だ、大丈夫だよ! 大したことしてない!」
「そんなこと言ったらこれだって大した値段じゃないじゃろ。ん? かえって失礼か?」
「いや、そんな、ことはない……けど」

 でもこれ、指輪だ。おもちゃだけど。

「なんじゃ? 気に入らんか?」
「……ううん。欲しい」

 自分だけ意識しているみたいで恥ずかしかったが、あがる体温はどうすることもできず、頬が、耳が、染まっていく。カクさんはこちらを見ない。

   ◆

「ねえ。カクさん達に、誕生日は何が欲しいってリクエストしたの?」

 私は、もう彼らの話題を避けることはしなかった。彼らがこの島でパウリーと五年を過ごして、私と会ってひと夏を過ごして、それがパウリーにとっても私にとっても、かけがえのないものだということは変わらないということがわかったから。

「金」
「やっぱり……。それだけ?」

 即答したパウリーに私は念を押すように問いを重ねる。

『これからずっと、じいさんになっても、お前らと騒げたらそれで十分だ』
「あァ。金が一番だろ」

 パウリーはまた即答した。思いを馳せることも、言い淀むこともない。

「まあ、お金は大事だねえ」

 私の大事なものは、母と祖母の写真。パウリーからもらったカード。それからこの指輪。きっと、ずっと一緒に避難する。でも、指輪の理由はとうとうわからずじまい。仕方がないから、勝手に大事にする。
おしまい

夢小説,長編・連作,ONEPIECE,夏という月日 3483字 No.82 

ぜんぶおそい #カク #カリファ

『自分で言ってよ!』

ぜんぶおそい

「何を考えている」

 組んだ腕を枕に、奪った海賊船の甲板に寝転びながら、目を閉じて彼女の最後の言葉を反芻していたところ、ルッチの低い声が響いた。思い出していた彼女の声は、その姿と一緒にかき消されてしまう。仕方なく目を開けると、太陽を背にして蔑むようにこちらを見下ろすルッチと目が合った。逆光のせいで表情は読みづらいが、まあ、穏やかな表情でないことだけは確かだ。別に何も、と答えるとすぐに、あいつらのことだったら許さん、とさらに目を細めた。そうでなくても鋭い視線がいっそう鋭くなるので、片手を頭の下から出してきて、見せつけるようにひらひらとゆっくり振る。

「別に、何も」

 ルッチは何か言いたげだったが、意外にもそのまま黙った。もちろん真っ赤な嘘だったが、ばれるはずがないし、ばれたって困らない。どうせルッチも同じだ。ルッチだって、水の都の彼に囚われているに決まっている。ルッチ自身がそうだから「あいつ」ではなく、「あいつら」なんて言うのだ。次に何か言われたら、あの距離で急所を外す男に言われたくないのう、とでも言ってみようか。……少なくとも今、海の上ではやめておこう。船が壊れるに決まっている。
 自分たちのやりとりを聞いていたカリファは、小さなため息をついて船内に戻ってしまった。ルッチも舌打ちをしながらそれに続いて、甲板にはカクだけになる。気を取り直して、今度は空を見る。あいにく、天気は上々。突き抜けるような高さの空だった。この調子なら、我らが故郷、グアンハオにも問題なく着くだろう。セント・ポプラからグアンハオまではそう難しくない航路のはずだ。
 ルッチの療養のため滞在したセント・ポプラは、滞在中ずっと鬱々とした雨が続いていた。それが今日、ようやくの快晴だったのだが、カクの心はそれほど晴れはしなかった。好天にまるで似合わない、喉から血が出るのではと思うほどの必死な、切なる声が、耳にこびりついて離れない。

『連れていくから! 待ってて!』

 待つつもりだった。彼女の叫びに右手を上げて答えたのは、嘘じゃない。嘘じゃなかったのに。
 待てなかった。海賊を倒すためとはいえセント・ポプラの町をだいぶ騒がせてしまった。あの場にとどまっていては海軍と鉢合わせただろう。自分たちは世界政府から追われている身。捕まらないためには、あのタイミングで出航せざるを得なかった。そうやって言い訳したくても、もうきっと二度とできない。今度ばかりは本当にもう。
 思えばそんなことばかりだ。今日の出航はやむを得なかったからだし、病院で弱音を吐いたのはついうっかりだし、あの人ごみの中、わざとすれ違ってみたのは賭けだった。誕生日を教えてみたのはたまたまだし、避難所で抱きしめたのは魔が差したからだし、おもちゃの指輪は気まぐれだ。あれも嘘、これも偽り、それも出鱈目。そんなことをしているうちに、だんだん何が本当なのか自分でもわからなくなってきた。
 彼女の笑顔と泣き顔が、からまって、もつれて、まとわりつく。
 これじゃあルッチを責められない。

「日に当たり過ぎたら良くないわ」

 カリファがどこから見つけてきたのか、甲板のど真ん中に大きくて派手なパラソルを咲かせて、カクの上半身はすっぽり影におさまった。カリファが影の中に腰を下ろしても余裕がある。波の音が少しだけ聞こえにくくなり、代わりにカリファの声がよく聞こえる。

「お願いだから、あんまりルッチを刺激しないでよ」

 カリファがやれやれとでも言いたげに肩を竦めるので、負けじと言い訳する。

「わしは何もしとらんじゃろ。ルッチが勝手にピリピリしとるだけじゃ」
「あなたも十分してるわよ」

 カリファの呆れ顔は心外だったが、ここでむきになるほど子供ではないので黙っていた。カリファを無視してもう一度目を閉じ、彼女とした最後の会話を思い出す。瞼の裏で思い出せたのは別れの言葉と、パウリーへの礼。そこで、はたと気づく。そうか、自分は最後までパウリーのことしか言えなかったのか。今更気づいて歯がゆく思う。せめて彼女にも礼を言えたら。

「あなた、なんで『好きだ』って言わなかったの?」
「はァ!?」

 カリファのとんでもない言葉で思考を邪魔され、飛び上がるように体を起こし、反射できっと睨んだ。だが、カリファは動じない。ゴシップを楽しむような下世話な風情を隠そうともせず、薄ら笑いをはりつけながらこちらを見つめてくる。手入れの行き届いた長い金髪がはらりと肩から落ちて揺れた。

ウカちゃん、だっけ? パウリーの幼馴染」

 口にするどころか、心の中でさえ呼ぶことを躊躇っていた名前を、カリファがあっけなく声にするので一瞬、返事に詰まる。カリファはそんなカクのことなどお構いなしだ。

「あなたは彼女のこと、好きなんだと思ってた」
「好、きってまあ……別に、嫌いじゃなかったがの」

 好きとてらいなく括られると途端むず痒くなり、歯切れが悪くなるのが自分でもわかった。気恥ずかしくて、つい目を逸らす。ちらりと盗み見ると、カリファはカクの返答が気に食わなかったようで、「へえ」とつまらなさそうに髪をかき上げる。

「一緒にパウリーの誕生日プレゼント選んでもらって、お礼なんてかこつけて指輪まであげちゃって。避難所だって勝手に行ったくせに暗い顔で戻ってくるし。そうかと思えば、セント・ポプラじゃわざと見つかりにいったり、ぐちぐち弱音を聞いてもらったり、ルッチの退院を教えてあげたりしてたのに」
「見てきたかのように言うのう!?」

 たまらず抗議の声だけはあげてみるが、頭が、顔が、頬が、耳が、熱くなっていくのがわかった。行動が筒抜けなのは構わないが、それを逐一言葉にするのは勘弁してほしい。「『好き』なんて言う意味ないじゃろ」と苦し紛れに言うと、くすくすとからかうような笑みを浮かべていたカリファが一転、眉を下げて下唇を噛んだ。何事かと続く言葉を待つと、カリファが申し訳なさそうに口を開く。「好きって言いたかった?」と。

「何が言いたい?」

 カリファの表情の理由も、そう聞く意図も分からず、質問に質問を重ねる。カリファは少しだけ空に視線を彷徨させ、すっと目を伏せると、甲板に色濃くあるパラソルの影をじっと見つめた。

「あなたが恋をしてると思ったら、嬉しかったの」

 カクは意味が分からずそのまま黙り、カリファは続けた。

「あなたが、あの街でちゃんと生き生きしていたのは、安心したのよ」
「生き生き、とは心外じゃの。任務はちゃんとこなしたじゃろ」

 五年の任務を楽しんだかのように言われた気がして、不服そうに声を上げるとカリファは「そういう意味じゃないわ」と首を忙しなく横に振った。

「あなたは優秀だし、才能もある。何より任務にとても忠実だった。それは重々、痛いほどわかっているわ」

 カリファがカクをまっすぐ見て「でも、だからこそ言ってあげればよかった」と額に手を当てる。

「あなたは恋をしても良かったの。たとえ別れが決まっていても、怖がらずに、好きなら好きと言ってよかった」

 言うだけなら、とカリファが沈んだ様子で、ぽとりとつぶやく。大きな湖面に小さな葉が一枚着水して、波紋が音もなくゆっくり広がるかのようなさりげなさだった。言うだけなら、よかった。

「でも、もう遅いわよね。ごめんなさい」

 カクがウカに「好きだ」と言えなかったのは、自分のせいかもしれないと己を責めているカリファが不思議だった。言ったところで、今より状況が良くなるとは思えない。これがベスト。カクはずっと自分に言い聞かせている。

「仮に『好きだ』なんて言っとったら、任務は失敗したかもしれんぞ」
「あなたがそんなへまするわけないわ」
「随分信頼されてるようじゃが、お生憎様」

 でもそうかあれは。

「そもそも恋なんて知らんよ、わしは」

 恋と呼んでも良かったのか。
 カクはばたりと仰向けに倒れ、顔を両手で覆う。頬がいまだ冷めないのは日に当たったせいだ。恋じゃない、恋じゃない、と口には出さずに頭の中で何度も唱えた。

「じゃから、謝ってもらう必要なんぞないのう。はあ、グアンハオにはまだ着かんのか?」

 だって今さら恋など、自覚したところで。
おしまい

夢小説,長編・連作,ONEPIECE,夏という月日 3442字 No.81 

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