BUKKOMI

脳直日記です

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2 weeks from now#掌編

 たった二週間。
 言ったのは自分だが、言ってから“たった”か? と思う。案の定、彼女は眉を下げ、不安そうな顔でじっと見つめてくる。調査で二週間も家を空けるのは実のところ初めてだ。その代わり、今回は戦闘行為もないのだ、と付け加えてもなんだか取り繕ったようになってしまい、あまり効果は無いようだった。なんとか彼女に安心してほしくて、そうだ、この調査が終わったら前に言っていたカフェに行こう。そう言うと、彼女はなぜか吹き出した。意外なリアクションに目を丸くする。
「フラグ立てないでよ」
 言われてみると確かになんだか思わせぶりだ。悪かった、という謝罪に、いってらっしゃい、と笑顔が返ってきて、ほっとしながら、いってきます、と応じる。行って、帰ってきます。

 調査から帰ってきてすぐ彼女に連絡した。無事帰ってきたことと、会えないかということ。彼女の弾んだ声はわかりやすくていい。約束のカフェに行こう、と提案して一時間後に会うことにした。彼女の支度があるだろう、と決めた時間だが、彼女に会えると思ってからの一時間は長い。家にいても落ち着かなくて、時計ばかり見てしまう。三回目に見た時計の針が十分も進んでいないのに気づいて、諦めて家を出た。
 当たり前だが、待ち合わせ場所にはずっと早く着いてしまった。雑踏の中に彼女を探してもいるわけがない。カフェのメニューはなんだったか、と思い起こしていると腹の虫がぐうと鳴った。まずい。思った途端、急に空腹感に襲われる。飢餓感と言ってもいい。しょっぱくて、濃い味の、がツンとしたものが急に食べたくなる。二週間、大してうまくもないレーションで過ごしていたのだ。こんなことなら、家で何かつまんでくるんだった。この欲がカフェのメニューで満たせるとは思えない。
「ねえ、ラーメンにしよ?」
 振り向くと、したり顔の彼女がそこにいた。約束の時間よりずっと早い。なんで、と問う前に、調査明けはいつもラーメンだったじゃん、と肘で小突かれる。そんなに顔に出ていただろうか。昼にはまだ早いのに。だが彼女はすでに、どこがいいかな、とラーメン屋を探し始めている。
「あ、トッピングはご馳走してあげるよ」
 嘘じゃろ、と零す自分に彼女は淀みなく歌うように言葉をつなぐ。
「月曜日のがんばりに味玉、火曜日のがんばりにチャーシュー、水曜日にがんばりにバター……」
 十四種類あるかな? と首をかしげる彼女を抱きしめると、彼女の短い悲鳴と自分の腹の音が重なった。カフェに彼女の好きなケーキはあるだろうか。もちろん十四個買う。


No.518
1093 字
Coccoのカウントダウンを聞いていたので書きたくなりました。カクさんを怒りのままいたぶって「愛してる」と言わせたい話です。PCだと読みづらいですよねすみません!
202402102025391-admin.png20240210202539-admin.png#掌編
No.498
86 字
無遠慮の作法 手首を掴む、オモチャ、優しくして#掌編

 彼は、彼が十三歳の時にわたしについうっかり欲情してしまってからは、ふっきれたのか月に一度か二度、私の躰に触れるようになった。はじめはおずおずと、歳を重ねるほどに段々と遠慮がなくなって、今は堂々たる風情すらある。
 何の用途でわたしがここに在るのか、わたしにはわからない。わたしにはぱさついているが髪があり、関節がある程度曲がり、古布で拵えられた簡素なワンピースが着せられていた。瞼はない。彼以外に愛された記憶もない。
 わたしが思い出せるのは、八歳の彼が乱雑に積まれた古いシーツや書物、オモチャの剣やピストル、壊れた椅子やベッドなどを器用に避けながらわたしのそばにやってきて、大きな丸い目をさらにまんまるくしたこと。それ以来、彼はちょくちょくやってきて、時にはわたしが他の誰にも見つからないよう周到に隠して、蜜月の日々を過ごした。
「ルッチが意地悪なんじゃ」
 時折、涙目の彼がわたしの胸に顔をうずめてぽとりと呟くことがあった。訓練が辛いとか、怪我をした、とか。そんなときはいつだって、震える背中をこの手でさすってあげたいと思うのだが、わたしはわたしの躰を動かせないのでもどかしい。声も出ないので、仕方なくただひたすらに、がんばれ、がんばれ、と念じた。思うだけのわたしの思いは、彼になんの影響も与えなかったのだろうが、彼は自分の力できちんと生き残った。そして定期的にわたしに会いに来た。
 彼がつるつるとしたわたしの固いおなかに吐精したのは、満月の夜だった。彼は荒かった息が落ち着くと、急いでそれをぬぐって、転がるように、でも音もたてず、物置から出て行ってしまった。そんな彼の様子から、彼はもう来ないかもしれないなと気分が沈む。彼が拭ったところだけがまだぬるくて、それがとてもさみしい。
 そんな夜から一か月くらい経ったある日、彼は私の様子をうかがうようにやってきた。この前はなんだかなし崩しに始まって、あれよあれよという間に終わったけれど、今度は彼の明確な意思を感じた。頭の上で動かない手首を掴まれる。ワンピースは捲られて、今日は胸まで露わだ。そうしてから、彼はわたしのささやかな膨らみにそっと頬を寄せた。冷たい躰が彼の熱を奪っていくが、どう頑張っても、彼と同じ温度にはならない。少し前まで、彼は布越しに同じことをしていたのに、布一枚はだけられるだけで、彼の身体に籠っていく熱を如実に感じられた。
 彼がこうした行為に及ぶのは、もっぱら嫌なことがあった時らしく、時に荒々しいこともあった。壊れて困る躰ではないのだが、冷静になった彼が傷つくのではないかと気が気ではなかった。でも不思議なことに、私がもう少しだけ優しくして欲しいなと思うと、彼ははっと我に返って落ち着きを取り戻し丁寧な所作になる。まさか私の声が聞こえているのかなと思ったこともあったが、彼と会話が出来ることはなかった。彼は静かに、彼の気が済むまで、わたしの冷たい躰に自分の熱を移していくだけだ。
 彼がわたしに会いに来なくなって五年が経った。それは彼に嫌なことがおこっていないということだろうし、そうでなくても、彼がわたしを抱きしめなくてもよくなったのなら、それで良い。ただ、物置は少しずつ片づけられていて、遠くに聞こえていた作業音が少しずつわたしに近づいていた。五年前、彼はわたしを布で覆っていったが、彼以外の人間に見つかるのも時間の問題だろう。見つかればおそらくきっと処分されるだろうから、その前に一度でいいから会いたかった。でも、思うだけのわたしには、何もできない。
 とうとうその日がやってきた。その人間は、すたすたとまっすぐ私に近づいてきた。物置は、以前よりずっと歩きやすくなっているのだろう。何の迷いも感じない歩みだった。その人間は布をとって中身を改めようともしなかった。元々ゴミ置き場のようなものだったから、それも仕方のないことだ。少し驚いたのは、その人間がわたしを抱きかかえるように持ち上げたことだ。そしてすぐにもっと驚くことになる。
「間に合って良かった。会いたかった」
 わたしも、と抱きつきたかったが、わたしはわたしの躰を動かせないし、やっぱり声も出ないので、仕方なくまたひたすらに、わたしも、わたしも、と念じた。
畳む

No.489
1781 字
今だから言えるいつかの陰謀 僕のヒーローアカデミア 相澤先生#R18 #掌編
おまけPASS:

No.488
2429 字
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