レーティング:恋愛R18

望むらくはノンフィクション 

 フランキーに口説かれているを見るや否や、叫んでいた。慌てて駆け寄り、これ以上に手を出される前に、彼女の手を取って足早に店を去る。は無言でついてきた。
 のヒールが石畳を鳴らす音だけが高らかに響く。

「……、さっきは、すまんかった」

 先に帰ってしまって。沈黙に耐え切れずカクが謝ると、は足を止めた。? と振り向くと、は観光客向けの安宿を見つめていた。

五年前・夏の夜

 裏町に佇む安宿の女主人はこちらを見ようともせず、部屋の鍵だけ投げるように寄こしてきた。は鍵についている部屋番号のタグを確認するとカクの手を引いて大股でずんずんと進んでいく。
 なだれ込むように部屋に入ると、そのままベッドに倒れこんだ。カクは抵抗しなかったが、は体の全部を使って、自分の身体の下にいるカクを、さらにベッドに押し付けるように体重をかけた。互いの鼓動がドッドッどっどっ、と絶え間なくリズムを刻む。どちらがどちらかは、もうわからない。
 もちろん、カクはいつだってを力で止めることができた。今だって、を押し返すことができる。でもそれはしなかった。がはじめて、自分の気持ちをむき出しにしている。彼女のこの衝動を、いま何かで遮ってしまったら、もう二度と彼女はこんなふうに自分を求めてこないんじゃないかと思った。
 は体を起こすと、カクの服を脱がし始める。カクはされるがまま、に身体を預けたが、ベルトに手をかけられたときはじめて、「自分だけ脱がないのはずるいじゃろ?」との手を制した。
 はカクのベルトからすっと手を離して、自分のブラウスのボタンを外し始める。脱ぎ終わったカクが手伝おうとすると、は身体を振って拒み、カクに背を向けてしまった。仕方なく、露わになっていくの肌をただ見つめる。

「ごめんなさいっ!」

 は振り向きざまそう言うと、またカクをベッドに押し倒して、唇を押し付けてきた。肌と肌、粘膜と粘膜が触れ合っているところだけ、妙に熱い。唇の柔らかさと、生き物のように蠢く舌にも驚いたが、とりわけ、生殖器の触れ合いはすさまじい刺激だった。
 はわざとなのか、すでに潤っている秘所をカクに擦り付けるように腰をくねらせる。の柔らかな肉襞と、ぬるっ、という感触を己の敏感な部位で知覚したカクは、頭の先からつま先までぶわ、と一気に鳥肌が立った。それは、の「ごめんなさい」が何に対する謝罪なのか、考える余裕がなくなるほどだった。
 唇を離したは腰を浮かすと、ビンと跳ねるように持ち上がるカクのモノに優しく手を添えて、わ、わ、と焦るカクを尻目に、腰を落としてカクを吞み込んでしまう。カクが果ててしまわないよう、カクの様子を探るの視線は、カクを標本の蝶のようにベッドにピン止めした。

「ごめ、んねっ、ごめん、ねっ」

 本当はずっと、こうしたかったの。
 カクに馬乗りになったは、腰を前後に揺らしながら、途切れ途切れに謝罪の言葉を紡いだ。は喘ぐたびにカクをきゅうと締め付けるものだから、カクはの腰に手を添えて、に悟られぬようにそっとの動きを制御する。このままの自由にさせておいては危うかった。

「そ、れなら、さっさとしてくれればよかったものを。随分、焦らされたのう」

 本当なら行為に没頭したいのだが、今それをしてしまってはあっけなく果ててしまいそうで、カクは仕方なく、断腸の思いで、気の紛れる会話をすることを選んだ。

「ごめん、ごめんね」

 だが、はそんなカクの努力も知らずに、好き、好き、大好き……、とカクがずっと聞きたかった言葉を、腰を振りながら惜しげもなく浴びせた。身体を起こしておけなくなったが倒れこむようになると、丸い胸がカクの固い胸板で潰れ、の顔がカクの耳元におさまる。
 そうなってもはゆるゆると腰を動かした。好き、好きだったの、ごめんね、好き、あっ、好きっ、ん……、カクの耳元で甘い熱を孕んだの声が鼓膜を揺らす。たまらず、の腰に添えていたカクの手に力が入る。それに気づいたが、ゆっくり動きを止めた。気だるげに身体を起こして、きょとんとする。

「これ以上は我慢できん」
「え、……」
「その……ビギナーには、優しく、手取り足取り、教えて欲しいんじゃけど」

 カクが恥を忍んで言うと、は自身の乱れ振りと、カクの告白に、はっと口許を手で覆った。暗闇だったが、耳まで赤く染めているだろうことが想像できる。心なしか体温も上がり、先ほどからカクを捕らえて離さない蜜壺もじゅわ、と、とろみを増した。
 これだからこの人は。
 羞恥の炎に焼かれているのその表情、仕草は、カク自身をまたさらに固くさせる。彼女を貫いているモノがどくりと脈打つのがカクにもわかった。彼女がそれに丁寧に反応して、小さく喘いだのも。全部がカクを追い詰めてくる。
 カクが繋がったまま体を起こすと、当たる角度が変わったのかの嬌声が口と指の間から漏れてくる。そのまま腰を動かしても良かったが、先ほどから頑なに口許を覆っている両手を指先からはがしていく。唇が見えたところで、すかさず唇を重ねた。
 カクは、様々な角度で唇を重ね、の唇を舌で割り、差し入れながら、さっきに教わったばかりの気持ちよさを反芻した。そのまま、にやられたのをそっくりそのまま、やり返す。つまり、をベッドに押し倒した。

「わしばっかり、気持ちよくなっとらんか?」

 この位置からを見下ろせるとはのう、とカクは内心静かに感動した。

「そんなこと、ないよ」
「そうかのう? どうしたら、もっと、いいんじゃ?」
「え?」
「初心者じゃから、教えてもらわんと」
「あ……」

 の目が泳ぐ。どう答えたらいいかと考えあぐねているのが手に取るように分かった。もう一押し、とカクは「のう? どこが、いい?」と問いを重ねる。
 は目をぎゅっと瞑ってカクの手を取ると、自分の胸の膨らみに誘導した。掌にコロン、と固く尖るものを感じる。膨らみに少しだけ五指を沈めると、ふ、とが息を漏らした。指の股に屹立したそれを挟んでくにくにと刺激すると、刹那、が顎の裏を見せるようにして背中をしならせた。そのまま刺激し続けると、腰が切なげに揺れ、カクを呑み込んでいる肉壺がうねうねと収縮する。は、いやいや、と顔を振ってみせるが、繋がっている部分はとてもそのようには思えない。
 のいいところ、を弄びながら、喘ぎ声しか出さないの耳元で「これがいいんじゃな?」と囁くと、逡巡したのち、首を縦に振った。

「じゃあ、『気持ちいい』って教えてもらわんと」
「あっ、そん、なっ」
「言ってくれんと、わからんじゃろう?」

 なにもかも、と続けると、はまた「ごめんっ、なさい」と喘ぎながら詫びた。

「『ごめん』はもう、いいんじゃ」
「あっ、うん、あ」

 カクが腰を進めをゆっくり貫くと、はその動きに合わせて仰け反っていく。腰を進めながら、聞きたかったこと、答えを知りたかったこと、をひとつずつ尋ねていく。

「ちゃんと、気持ちいいか?」
「ん、うん、うん」

 反応を見ながら少しずつ角度や深さを調節する。そうして試していき、びくん、との身体が跳ねるところを丁寧に、何度もこすった。

「ここがいいのか?」
「あァっ、うん、そうッ!」

 カクのまだ続けたい、という意志とは裏腹に少しずつ腰の動きが速くなる。

「もっといろいろ、教えてくれるかのう?」
「あっ、うんっ──あッ!」
「これからも?」
「ああっ、うん、んっ」
「……わしのこと、好きじゃろう?」
「あぁッ!」
「いい加減、諦めて、認めてくれ」
「ああっ、ん、だいす、き──ッ」

 悲鳴にも似た今日一番の『すき』にあわせて、のつま先がぴん、と伸びる。そのすぐ後、びくびくと痙攣して果てた。カクも堪えきれず、吐精する。は、ぴくぴくと小さく震えている。

「わしもじゃ」

 届かなくてもいい、とカクは思った。にはもう何度も伝えているから。それでも言わずにはいられない。だから、あなたも。



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