BUKKOMI

memo

⚠️脳直気味です

#KISSMEMORE 書ける気がしてきました!#進捗

ようやくヒロイン像が固まった気がします。ひとまず以前も載せた気がしますが、書き直しているものの一部です。

 恋をしてみよう。それが任務だというならば。

 一か月ぶりの対面だというのに、顔を見るなり「若者らしく恋人でもつくってみろ」と耳を疑う言葉が、目の前の男、ロブ・ルッチから投げつけられる。突然すぎて脳が理解を拒否している。
「若者らしく、も、つくる、もわしにはさっぱりなんじゃけど」
 カクは大げさに両手をあげ、投げかけられた言葉すべてにおいて、まったくわけがわからないと身振りでも伝えるよう努めた。
ここは、ウォーターセブン。の、裏町にある古い空き倉庫。カクがこうしてこの島にいるのは、最長五年の猶予が与えられた長期任務に抜擢されたからだ。費やすことが許される期間の長さは任務の困難さに比例している。長いほど、難しい。当たり前だ。任務の内容は、ウォーターセブンの船大工が代々受け継ぐという、世界最悪の戦艦、古代兵器プルトンの設計図を手に入れること。
 元々造船で名をはせたウォーターセブンだが、この春、アイスバーグという船大工がこの島で競い合っていた七つの造船会社をまとめ上げ、ガレーラカンパニーという会社を発足させた。その会社に船大工として潜入する手筈となっている。
 ブルーノが先行して酒場の店主に、続いてルッチがガレーラカンパニーに船大工として採用された。カリファもめでたく、アイスバーグの秘書に抜擢され、自分は最後だ。ルッチかカクのどちらかが、五年の間に設計図の継承者に選ばれればそれでよし。そうでなくとも、在り処がわかればそれもよし。そういう任務だった。
 明日が初出社。すでに潜入任務を始めているルッチとカリファに打ち合わせのため呼び出され、指定された空き倉庫に顔を出したらこれだ。顔を見るなり「恋人を作れ」ときた。酒場の店主は、今はちょうど稼ぎ時らしく不在だ。
「ルッチでもカリファでもいいじゃろ? もちろん、ブルーノでも」
 あらんかぎりの不服を伝える。
「おれは『人とまともに話せない変人』で五年を過ごす。カリファはアイスバーグ担当だ。ブルーノは酒場の店主として客から情報を仕入れる」
「なんだってそんな設定にしとるんじゃ。情報源なら、とりあえずパウリーってやつで十分じゃろうて。わしと年も近いし、生まれも育ちもこの島なんじゃろ? 世話焼きでなんやかんやと親切そうじゃし」
 結果が決まりきった入社試験の日にちょうど見かけたから、それとなく接触しておいた。事前にルッチから聞いていた通り、気さくで人の好さそうなやつだった。
「役に立ちそうな『現地の女』が欲しいんだ」
 ルッチはそういって、隠し撮りした女性の顔写真と個人情報で埋まっている調査書を、ばさりとテーブルに投げてよこした。何人分あるのか、ターゲットとして顔を覚えるどころか、ちらりと一瞥する気さえ起きない。
「海列車完成以前よりこの島に住んでいて、かつ、今現在独身の女だ。相手がいるかは知らん。顔でも身体でも若さでもなんでもいい。そこは好きに選ばせてやる」
 偉そうなルッチの声が夜の倉庫に響く。
「デートだ何だと休日まで拘束されるなんて、そんなのかなわん」
「ふ、まるで恋人がいたことあるやつの台詞だな」
 ルッチがあからさまに馬鹿にしてくる。
 そうだ悪いか。この任務に抜擢されるまで、訓練に明け暮れていたのだ。恋人なんて出来るような環境じゃなかったことは知っているくせに。だが、数年前まで同じように過ごしていたはずのルッチには、恋人の一人や二人、いてもおかしくなさそうなのもまた事実で、この違いはなんだ、と心から不思議だ。
 わしには無理じゃって、と抵抗したが無駄だった。「正義の任務と心得ろ」とそれを言われてしまえば何も言えなくなる。
「大体、恋人なんて『つくる』もんじゃないじゃろ」
 ふてくされながらそうぼやけば、カリファがくすりと声を出さずに笑ったのが分かった。大して年は違わないはずだが、カリファはやけに大人の顔をするのでそれもまた癪に障る。何がおかしい、と問うても答えは返ってこない。
 仕方なく、ルッチが放った顔写真と調査書を手に取った。
「好みの女性はいる?」
「カリファまで」
 興味を隠そうともしないカリファに、味方じゃと信じとったのに、と肩を落とせば、だって気になるじゃない、とまるで他人事だ。私にも見せて、とねだられたので、適当に数人分、写真と調査書を渡す。
「私は選ばせてもらえなかったわ」
 顔写真と調査書を見比べながらカリファが言った。
「アイスバーグに不満が?」
「いいえ。魅力的な男性よ」
「そっちはさぞ素敵な恋が出来そうじゃのう」
 テーブルに残った顔写真を配られたトランプの手札のように持って眺めてみる。こんなただの画像情報で一体何をどう選べというのか。黒髪ショート、ブルネットボブ、ブロンドのロング、赤毛のカーリーヘア、ぱっと見ではその程度の違いしかわからない。目はまあ、みな大きいか。容姿は整っている女性ばかりだ。体形はバストアップの写真が多く、よくわからない。わかったところで、胸が大きいとか、腰が細いとか、手足が長いとか、そんなものが恋人候補の決め手になるとは思えなかった。
 写真を眺めても埒が明かない、と調査書の方に目をやる。名前、年齢、住所、勤務先、配偶者の有無。この程度の情報で調査書とは、と鼻で笑う。『若者』との釣り合いを考えたのか、みな十代後半か二十代前半の女性ばかり。同じ職場の女性も何人かいた。
「あ、この子どう? かわいいわ」
「そりゃカリファの好みじゃろ」
 言いつつ気になって、カリファの手元を覗き込む。が、自分が眺めていた女性たちととりたてて違いがあるようには思えなかった。
「わからん。かわいい、だろうことはわかる」
「もう、ちゃんと真面目に考えてる?」
「真面目に考えとるからこうなっとるんじゃろ! 誰でもいいなら上から順番に付き合ってくわい」
「それもそうね」
 カクは真面目だわ、とカリファは素直に感嘆した。
「なあ。そもそも、どういう情報が欲しいんじゃ。相手選びはそれにもよるじゃろ」
 もっともらしいことを言って最後の抵抗を見せてみる。
「ふられたら慰めてやる」
 黙って事の成り行きを見守っていたルッチが面白そうに口をはさんだ。
「お気遣いどうも」
「あと、髪も切っておけよ」
「はあ!? なんで髪形まで指示されなきゃならん」
「おれと被るだろ。鬱陶しい」
 わなわなと怒りに震えるが、ルッチはそんな自分の怒りなどどこ吹く風だ。長髪の男は二人もいらん、ととどめをさされ、ならお前が切ればいいじゃろとは言えずに口を噤む。なぜなら、彼の長髪は腹立たしいほど似合っているし、カクが髪を伸ばしていたのは、彼への憧れもあったのだ。これはたとえ拷問されたとしても絶対に白状する気はなかったのでいい機会かもしれない。悔しいが数秒で気持ちが固まった。
 短髪にするのはいつぶりだろう。いや、子供の頃からこの長さだ。初めてかもしれない。存外、浮足立つ。
「結構、気に入っとったんじゃがのう!」
 浮足立った心がバレないように悪態をついてはみたが、果たして効果はあっただろうか。ひとまず明日は髪を切る。恋をするのはそれからだ。
畳む

No.440
3023 字
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