夜長の戯れ(下)


「座りっぱなしも疲れるじゃろ?そろそろ横になるか」

カクはそう言うと、さっきまで背もたれにしてたベッドに、ぐったりした私を抱えるように支えながら座らせ、そのまま横たえた。息が上がってしまっている私はカクにされるされるがまま、辛うじて「ありがとう」と小さな声でお礼を言う。部屋の明かりが眩しくて腕で顔を隠すように覆った。

「このままだと汗が冷えるのう」

 カクはそう言って自分のシャツを脱ぐと、そのまま私の横には寝そべらず、足の間に座って「ほれ、ばんざーい」とそう言うので、私は大人しく両腕を上にあげ、背中を反らせて、ブラウスやキャミソールの裾を捲りあげるカクに従った。火照った体に外気は気持ちがいいくらいだったが、さっきまで弄られ続けていた乳首はそれくらいの刺激でも反応してしまい、また一段と疼くのがわかった。

「カク、ちょっとまって。ひっかかっちゃって......」

 たくしあげられたブラウスとキャミソールが顔をすっぽり覆ったところで、あごに服がひっかかってしまう。「おう、すまんすまん」というカクの表情は服で視界が遮られてわからない。「ボタン外さんといかんかったか」というカクの声がなんだか遠くに聞こえる。カクはそのまま何もしない。

「ねえ、......何見てるの?」
「そりゃあさっきまで弄っとたやつじゃ」

 「さっきまで服着とったからの」さも当然と言わんばかりで、聞いた私が馬鹿みたいだ。「何もしとらんのに全然収まらんみたいじゃが......」とからかうようにカクが言うので、脱がされかけている服の中から、「寒いの!」とつい強がりで返してしまう。

「ほう、そりゃいかん」

 「暖めんとな」カクはそう言って胸に頬を寄せてきた。カクの唇が辛うじて胸の先端に当たるか当たらないかの位置。カクの髪が鎖骨辺りをくすぐる。さっきまで服越しに感じていた体温を肌と肌とで感じられて心地がよい。でも、「どうじゃ、あったまったか?」「ビクビク震えてどうしたんじゃ?」とカクが何か話すたびに湿った息がふくらみの突起を掠める。唇が微かにあたる。両手は上にあげたまま服と一緒にカクの片手で押さえつけられていて、相変わらず顔は服の中だ。だからか、さっきよりも触れられているところを意識してしまう。

「あんあん言うばかりじゃわからんのう」
「ああああああっ!」

 不意にカクが突起を下から上にぺろ、と舐めあげた。そのまま舌先でぐりぐりと転がし、弄り倒し、もう片方の突起も指で同じように弄られる。両方をそうして弄くられながら「は指と舌、どっちがお好みじゃ?」聞かれると、うっかり答えようとそれぞれ意識してしまう。
舌は温かくてぬるぬるしてて柔らかくて、たまに唇で啄むように咥えながら舌先で弾かれ、かと思えばふくらみに沈むほどぐりぐりと押しつけられる。指は服越しに散々弄られたのと同じように、でも今度は優しく、親指と中指で摘まんだ乳首を人差し指でカリカリと擦られたり、上下にぴんと弾かれたり、指の間に挟んでグニグニと揉まれる。

「どっちじゃ?」

言いながらまた忙しなく舌と指を動かしてくる。

「ああっ、あっあっ、ああ、あああっ!」
「どっち?」

 指でも舌でも、比較できるよう同じ動かし方をされる。

「あっあっああ、うああっ、────あっ!」
「どっち?」
「どっちもぉっ!」

 服の中からくぐもった声でそれだけ叫んだ。でも、

「ほう、欲張りじゃな」

 まだ終わらない。舌で、指で、小さな突起から全身に快感がまわり、体が言うことを聞かない。

「いっ、言った! 言ったのに!」
「答えたらやめるとは、言っとらんじゃろ?」

 きっと終わると油断していた体に容赦なく快楽を叩き込まれる。

「そ、そん......──っ! あああああああっ!」

 体が跳ね、不本意ながらカクの唇に胸を押し付けるようになってしまう。

「ワハハ、嬉しいのう。わかったわかった、今度はこっちじゃな」

 左右入れ換えて、また初めから。思った瞬間、これまでされたことを思い出し、爪先の方から快感が一気に駆け上る。

   ◆

「おっと、うっかりしとった」

 結局、左右平等という訳のわからないルールのもと愛撫を続けていたカクはふと口と手を胸から離し、あごのところでひっかかっていたブラウスのボタンを外して、服をすべて脱がしてくれた。服の中にこもっていた湿った空気が取り払われ、新鮮な空気が入ってくる。と同時に眩しさに目をひそめていると、ついでに、とスカートも脱がされ、カクも私と同じように下着だけの姿になった。よっこいせ、とこちらに戻ってきて私を覗き混むカクと目が合う。「はあああ......いい仕上がりじゃのう」とカクは満足そうだ。

「なに、そ ────んっ!」

 両手を握られそのまま覆い被さるように組み敷かれる。露になった唇に舌が割って入ってくる。私の舌はあっという間に吸われ、カクの長い舌が口内を蹂躙する。喘ぐたびに指を絡めた手に力が入ると、カクも同じように握り返してくれた。ぷは、と一度舌を抜き、すぐ唇をあわせる。柔らかさを確かめるように下唇を啄まれ、上唇は舌でなぞられた。もうさっきからずっと息ができない。

「いやあ、ワシとしたことが。キスを忘れるとは」

 「すまんのう」といいながら、ちゅ、ちゅ、と可愛らしいキスを唇に、頬に、首筋に、鎖骨に浴びせてくるので、ようやく息が満足に吸えた。さっきまで、わたしを追い込んでくるような勢いだったけれど、今度は違う。お互いの指と指を絡め、カクの固い引き締まった胸板で、私のふよふよした胸や肩が押し潰される。重なったところがあたたかい。私の顔のすぐそばにカクの顔があって、カクの鼓動が、ドッドッドッドッと肌越しに伝わってくる。

「疲れた?」
「まさか。気持ちよくて参っとるだけじゃ」
「え?私、なにもしてないのにいい────っ!」

 突如、カクが自分の足を私の足の間にぐいぐいと押し付けてきた。ショーツがずれてぬるっとした感覚があり、やっぱりもう何かが溢れかえってると自覚する。これまで全く触れられていなかった体の一番敏感な部分が、待ってましたと言わんばかりに悲鳴をあげた。「のこの声、耳に心地よくてのう」耳元でそう囁かれても、これまでの快感とは質が違いすぎて頭に入ってこない。無理、無理。抗えない。気持ちがいい。思ったとたん、足が止まる。

「え?」
、自分でやってみい。ワシより気持ちいいかもしれんぞ」

 「ほら」と言われるがまま、ゆっくり腰を動かす。いいところに、いい加減で。じわじわ、ぞくぞくと、自分で自分を虐めるように、気持ちがいいところを押し潰して擦る。カクがにやにやとそれを見ているのだが、私はもう夢中で気がつかない。「手伝ってやろう」とカクがまた乳首を口に含み、吸い、舐め、舌で転がす。私の腰は、カクの足がぬるぬると汚れていくのもお構いなしに、動き続ける。「イクときは言うんじゃぞ」カクは私の顔を真上からじっと見つめている。自分が今、どんなにだらしない顔をしているのかと思うと羞恥で震えるが、今は快感の方が勝っていて、素直に、うんうん、としか頷けない。

「あっあっ、い、いきそ、あっ────ああああっ!」

 一際大きな声が出そうになった瞬間、開けた口を塞ぐようにカクの柔らかい舌が入ってきてくぐもった声になった。ずっと蓄積されていた快感が一気にはぜて、体がピンと硬直する。そのあとはゆるゆると緩んでいき、あとは、カクと唇を合わせたまま、ふ、ふ、と肩で息をする。
 気持ちよかった、と思ったのも束の間、カクの足がそのまま動いて、果てて一層敏感になった核を絶妙に、でも逃がすまい、と責め立ててきた。思わず「いっあ! いっ! いっああらあ! あああっ!」口を塞がれながらもなんとか抗議するが、両手は動かず、カクの足は止まらない。

「いやあ、の好みは見せてもらったからの。ちょっと練習せんと」
「────っ!!!!」
「一回だけ」

そんなの、三秒と持たない。

   ◆

「よしよし、そろそろどうかのう」

 カクはそう言って、あのあともう一度果てた私のショーツに手をかけた。私は最早、格好だけでも抵抗をみせる力もないので、ショーツはするするとあっけなく剥ぎ取られていく。カクは、脱がしたショーツがもう全く意味をなさないくらいに、ぐちゃぐちゃになっているのを確かめて、そっと床においた。にやける口許を慌てて手で隠していたがもう遅い。

「......笑うなんてひどい」
「違う違う、喜んでるんじゃ!」

 ボクサーパンツを脱ぎ捨てながら弁解し、取り繕うように、さて、と言って私の足を開こうとする。散々よがっておいて、そして、以前の試みは本当に参考にならないなと頭ではわかっているのだが、実際に血管の浮き出た男性器を目にすると、怯んでしまった。意図せず足に力が入る。足に手を添えていたカクも私が怖がっているのに気がついたのか「焦りすぎたの」とタオルケットをかけ、腕枕をし一緒に横になってくれる。

「いや、ほんとに! 嫌じゃないの!」
「わかっとるよ」
「......好きなんだよ」
「わかっとる。わしだってが好きでも尻に何か入れられたら怖いわい」

 真面目な顔で言うので吹き出してしまった。「そっか、そういうのもあるね」「ないぞ!?」生娘のくせに生意気じゃ、と言うので、耳年増なの、と応戦する。軽口を叩いていたら、さっきとは違う熱で気持ちがほぐれ、心があたたまってきた。

「入れて?でも、痛かったら、やめてくれる?」
「もちろんじゃ!」

 カクは、じゃあまずはこうしよう、と言って、まだぬるぬるしている私の足の間の溝に指をあてがって、ゆっくりと差し込んだ。カクの長い指が、つぷ、と抵抗なく入っていき、自分でもびっくりする。さっきまで足で押し潰すようにされていたクリトリスが今度は手のひらでぐいとされ、体が跳ねる。あわせて、中もきゅっとして、カクの指が入っているのがよりわかった。

「トロットロで柔らかいのに、きゅーっとしてて気持ちいいの」
「じっ、実況は、やめ......」
「でもほら、わしが何か言うたび、ほら、きゅっとするんじゃよ。自分でもわかるじゃろ?」

 カクは完全に意地の悪い顔になって私に同意を求めてくるが、私はせめてもの抵抗で「うん」とは決して言わず、手で顔を覆った。同意しているのと同じだ。

「きっと大丈夫」

 カクはそういって体を起こすと、私の割れ目に自分のモノをあてがった。今度は指じゃない。カクの硬くて柔らかいかたまりの先端が滑りのよくなっている泥濘に沈んでいく。ゆっくり、少しずつ。それでも、今まで経験したことのない圧迫感につい体に力が入ると「尻じゃないから大丈夫じゃって」と笑わせてくる。

「そうは言っても、仕方ない。気をそらせちゃろう」

 カクはそうして深く口付けた。これは知ってる。知ってる気持ちよさだ。舌と舌がぶつかるたび、わかっているのにぞくっとする。上顎をつつと舐められるとぞわぞわと快感がせりあがってくる。そして、お臍の下あたりが疼いて、中がヒクヒクうごめくのがわかった。カクのが入っているから一層わかる。「あぁ......すごい、のう」カクが熱い息混じりでそう言うので余計にぞわぞわしてしまった。

「もう少しで全部じゃぞ」

 カクは唇を一旦離すと今度は両手を私の胸に添えて、ふくらみの感触を楽しみ、ふくらみとは対照的に固く尖った頂点の飾りをくりくりと弄り回す。これも知ってる。今日何回も覚えた気持ちよさだ。指の動きにあわせて、あっあっ、と声が漏れ、声にあわせて中の壁が収縮する。奥に、奥に、という動きに、カクも誘われるように、でも決して急がずゆっくり、腰を沈める。

「──っ!あぁ、入った。これで、全部」
「はあ、はあ.....。.ふう、ふふ、よかった......」
「今日はもう動かんから、これで終いじゃ。お疲れさん。よう頑張ったな」
「え、でも......」
「大丈夫、入った入った。また今度じゃ」

 「入ったー! ばんざーい!」カクはそう言ってニコニコして、大きな手のひらで私のお臍の下あたりをゆっくり、愛おしそうに見つめながら撫でる。私ときたら、カクがもう終わりだと言ってくれているのに、そんなカクの優しい手からすら快感を得てしまって、また中がぎゅーっと収縮する。カクが慌てて、でも慎重に、乱暴にならないように引き抜いてくれたその擦れにすら「あああああっ!」とあられもない声を出す始末だ。引き抜かれ、ぬらぬら光るそれは、私のお腹の上で白いほとばしりを吐き出して、今はふにゃふにゃとしている。カクは今日はじめて息が上がっていて、肩で息をしていた。

「はあっ、はあっ、......っ、お前......そんなに締め付けられたら、さすがのワシも無理じゃって......」
「ご、ごめん......」

見つめ合って、どちらからともなく笑いあった。

「「ばんざーい」」



あとがき top 大人の遊び方