理知の散佚

 私たちはシーツの中で言葉を交わさない。なぜなら、彼が言葉を発さないから。ロブ・ルッチは人とまともに口が利けない変人だ。うっかり付き合ってしまった私も変人だとパウリーにはからかわれ、カクさんには「がんばるんじゃぞ」と憐みの目を向けられる。

 ルッチは事に及ぼうとするときは決まって『おれは羽を休めてくるぜ。あとは若い二人でよろしくやんな。ポッポー』などという台詞を使ってハットリをどこかに逃がし、そのあとは無言を貫きとおす。必然的に、彼は目で語る、いや命じることになるのだ。

 『脱げ』『舐めろ』『開け』『黙れ』『逃げるな』『イけ』
 決して言葉で言われているわけじゃないのに、彼の目がわたしを射抜いて、わたしを屈服させるから、今日もまた、私だけひとり喘ぐことになる。私の声しか響かない部屋の、なんと虚しいことよ。やだやだやだやだ。どんなに私が声を上げたところで、彼が「嘘をつくな。いや、じゃないだろう?」「こっちはそんなふうに見えないけどな」などと卑猥な台詞で煽ってくることもない。ただ指を器用に動かして的確にイイところを責めてきながら、黒い瞳がふたつ、無言で見つめてくるだけだ。

 見られるだけ。
 言葉にしたらそうかもしれないけれど「視線が刺さる」とか「舐めまわすような視線」とか言われることだってあるし、見られるって結構「力」に近い。私はそれを体の芯で実感している。
 目をそらしても、ルッチが私を見ているのが分かる。それがわかると、わたしはぞくぞくして、ナカがぎゅうっとなって、その収縮を楽しむようにルッチが抽送を速めていく。奥に、奥に、さらに奥に。柔らかく解して、とろとろにして、もしかしたらルッチと付き合わなかったら、死ぬまで暴かれなかったんじゃないかという場所をとん、とん、とノックされて。
 私は声にならない声をあげ、今日何度目かの絶頂を迎えた。

 少しだけ意識が飛んでいる間に、私の身体は清められて毛布にくるまれていた。目を覚ますと、隣に横たわっていたルッチと目が合う。もぞもぞと身体を動かして手を伸ばすと、柔らかく指が絡められた。

「ねえ今、私のこと愛しいな、ってそう言ってるでしょう?」

 ルッチが何も言えないのをいいことに、私は勝手に、彼の愛の言葉を捏造する。



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