嬋娟と為れ


「ほら、舐めて」

 ベッドに腰かけたは、同じベッドの上で赤ん坊のように身体を丸め、歯を食いしばるようにして息をするカクの口元に自らの中指を差し出した。カクの瞳からはいまだ反抗的な色が消えない。噛みつかれるかも、とはぞくぞくした。そして、噛みついてきたらどうしてやろうか、と思案する。陰茎の根元を縛った可愛らしいリボンを解いてやろうか、いやいや、それではごほうびだ。ぬるぬるにした空いている手で、先端をこねくり回してやろうか、いやそれよりも、ハンカチをローションに浸してそれで嬲るほうがいいか。考えているうちに、噛みついてくれないかなとさえ思う。
 残念ながら、カクは大人しくの指を舐めた。丁寧に舌を這わせて、口に含んで吸った。歯があたることすらない。は、残念、と思った自分に思わずふふ、と笑ってしまって、カクに勘違いさせてしまう。

「何、笑っとるんじゃ」指から口を離してカクがを睨む。
「ああ、違う違う。ごめんね、カクのことじゃないよ」
「この、状況で……、わし以外のことを考えるなんて、ッ、それも失礼じゃろ」

 ああ、その通りだとは素直に白状する。

「もし指に噛みつかれたら、どうしてやろうって、考えてた。ペナルティをね。でも、上手に舐めてくれたから、それが嬉しいやら残念やらで」

 カクは、ほっとしたのか、ぞっとしたのかわからない。ひとまず噛みつかなくてよかった、とは思う。はふやけた中指をカクの後孔にそっと這わせた。そして穴に飲み込まれている器具をコツン、と爪で叩く。それだけで、カクが「ふう゛ッ!」と声を漏らし、身体をびくつかせた。

「鳴かぬなら、鳴かせてみよう、だっけ? いい言葉だなあ」

 声を漏らしてしまったカクがまたを睨む。はそんなのお構いなしに、カクの髪を撫でながらちゃんと自分でぎゅうぎゅうしてたんだね、えらいね、と声をかける。の言葉に、カクの顔がほんの少し蕩けていく。
 理性と本能とを行き来するこの瞬間。はこれが見たくて今日もカクを苛む。



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