僕の愛い人

「ねえ、いつもどうしてるの?」

 床に座りベッドにもたれる姿勢で雑誌を読んでいたカクは、ベッドの上で同じように雑誌を読んでいたはずのから降ってきた、だいぶ抽象的な質問に首をかしげることしかできなかった。読んでいた雑誌から顔を上げ、後ろを覗き込むようにしてをうかがってみるがはこちらを見るだけで何も言わない。仕方なく「どうしてるって?」と問うてみる。

「じい」
「G?」
「マスターベーション」
「はぁ!?」

 急に何を、とカクは憤るがはカクの怒りなぞどこ吹く風、といった表情だ。
 暇なのが悪い、とカクは思った。今日は雨が降っていて、とはいえ、自由になる金も乏しく、飯も済ませてしまい、結局何をするでもなく、ごろごろするだけの一日になろうとしていた。
 雑誌を閉じたが寄ってきて、カクの肩越しに股の間に手を伸ばす。ふに、とした感触を気に入ったのか、はそのまま服の上からカクの股間のモノをやわやわと揉みしだいた。頬と頬とが触れ合い、の体温であたたまった香りがカクの鼻腔を掠めていく。
 部屋着では守備力が低い。ほんの少しの時間でカクの陰茎はすっかり勃ちあがってしまう。が満足そうに笑った気がした。

「で、このあとどうするの?」
「どうするって……。本気で見たいんか?」
「ぜひとも」

 はあああ、と大きく大きくため息をついたカクは尻を浮かせてスウェットと下着を一気に膝まで下ろした。幸い下着に染みはなく少しほっとする。我ながら情けない格好だな、とカクは気まずく、さっさと済ませようと、天を仰いでいる己を握って扱いた。
 感情を込めないように、作業のように、淡々と右手を上下させる。それでも刺激は刺激に違いなく、早くが満足してくれないかとそればかり思うのに、は「そんなに強くて大丈夫なの?」と興味が尽きないようだ。

「あんまりまじまじと見んで欲しいんじゃけど」
「ええ? じゃあ……、ねえ、どんなこと考えてしてる?」
「ッ……それは、個人情報じゃろ」
「ちょっとだけ! ちょっとだけ!」

 カクは諦めて「昨日のはぬるぬるじゃったなあ、とか」「きゅうきゅう締め付けてきて最高じゃったなあ、とか」などと苦し紛れに言ってみるが、は「へえ。他には?」と動じず、なんなら、の色々を思い出したカクの方が大変だった。さっと見せて終わるつもりだったのに、点火された欲望は燃え広がる一方だ。右手は止まらない。

「んぁっ! あっ、ちょ、ああっ」

 はカクの耳に舌を差し入れ、わざと水音をたてた。には、ぴちゃ、ぴちゃ、と子猫がミルクを飲むような可愛らしい音に聞こえているが、カクにはどんなに卑猥に聞こえているのだろう。顎を反らせて「ぁああッ」と喘ぐカクが答えだろうか。
 耳から舌を抜くと、怒ったような顔したカクがを見つめてきた。

「……じゃろうな?」
「ん? なに?」
「責任、取ってくれるんじゃろうな?」

 言い終わるや否や、カクはベッドに飛び乗り、を組み敷いた。そしてそのまま、唇を重ね、荒々しくの口内を舌で蹂躙する。は「待って」とも「ストップ」とも言えず、ああこれはやりすぎたかもしれない、と遅すぎる後悔をする。


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