花隠り

「なァ、いいじゃろう?」

 「こんなところまで来る物好きはおらんて」「大丈夫じゃから」「誰か来たらすぐやめるから」とカクは説き伏せるように繰り返しに言い聞かせた。は渋々といった顔で、一回だけ細い首を縦に振って、こくりと頷く。の同意に気を良くしたカクはぺろ、と唇をなめて、念には念を、とドアからの死角に位置どった。がわかりやすくほっとしたのがわかった。

「職場ってだけで、なんでこうも興奮するんじゃろうなあ?」

 言いながら、タイトスカートから伸びるの太ももを指先だけで下から上へと撫でた。それだけでの口から「んッ……」と小さい声が漏れる。はそれが悔しかったのかカクを下から睨みながら「職場でしちゃ、いけないことだからでしょ!」と抗議にも似た言葉を続けたが、カクはそれを無視して上から下へ、下から上へ指を往復させ続けた。そうして少しずつ、指先を鼠径部に近づけていく。
 古い資料を保管するだけの資料室には余程のことがなければ誰も訪れない。しかも今は昼休み。窓から差し込む光で埃がキラキラと輝くのを見て「こんな昼間から、やらしいのう」との耳元で囁く。は案の定「カクがどうしてもって……っあ、い、言ったん、じゃん」と自分は悪くない、と喘ぎ混じりで言い訳をしてくる。

「そうじゃ、そうじゃ。わしのせいじゃな。は仕方なくわしに付き合ってくれてるんじゃった」
「そ、そうは、言ってないけど……」

 俯きながら蚊の泣くような声で「私だってここ最近忙しくて会えてなかったから、その」と恥ずかしがるのその顔がたまらなくて、カクはつい唇を唇で塞いでしまう。驚いてあいたの口にすかさず舌を差し入れて、の舌を追いかける。上顎をなぞれば「ん゛んんッ」とくぐもったの声がカクの鼓膜を震わせてぞくぞくした。
 カクはが快感から逃げないようにの足の間に自分の足をいれ、両手での後頭部と腰をホールドする。抱きしめてもう離さない。腕に力を入れて身体を密着させると、がびくびくと体を震わせているのが分かる。カクは心地よい微振動を感じながら、犯すようなキスを続けた。

 「今日だけは残業せんでくれんか?」カクが問うとが蕩けた瞳をそらしながら小さく頷いた。カクは安心してまたキスを再開する。


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