諦めて、覚悟して?

※身体が入れ替わりました

「気が付いた?」

 目が覚めると自分が自分を覗き込んでいて、驚いて飛び起きると、笑顔の自分がいた。

「え?」

 自分の口から洩れる声は紛れもなくちゃんの声だったし、パジャマのハーフパンツからすらりと伸びている足先の爪には可愛い色が塗ってある。こちらも紛れもなくちゃんの足だった。手も小さくて、ふにふにと柔らかく、整えられた手の爪にも、足の爪とは違う色が塗られている。
 そこで思わず、ハーフパンツの中身をぐいと見てみると、あるはずのものがなかった。代わりに、目に入るのはちゃんの形のいい胸の膨らみと、薄いキャミソールをつん、と持ち上げている勃ちあがった乳首だ。

「見ちゃうよね~」

 面白がる自分の声が聞こえ、ようやく、目の前の自分であるはずの男をまじまじと見つめる。橙色の髪に、丸い目、何より人より四角く長い鼻。我ながら、そうお目にかかれないビジュアルだ。

ちゃんは、わし……なのか?」
「そう」
「わしは、ちゃん?」
「そう」
「なんで?」
「わかんない」

 カク(in)は、はああああ、と大きなため息をついた。ちゃんから、水でも飲みなよと水の入ったコップを手渡され、あおるようにして一気に飲んだ。寝て起きたらこうだったんだから、また寝て起きたら戻るんじゃない? とちゃん(inカク)は呑気だ。というより、先ほどからそわそわと落ち着かない。表情も声音も不安からは程遠いが、どうしたのだろうと、そのまま問う。

「カクくんはすごいね」
「は?」
「私ね、カクくんのこの体で目が覚めたら、私が隣で寝てるでしょう? わけわかんなかったけど、それ以上に、その……、寝てる私を見てたら、カクくんの……これがムクムクしてきて、もう大変だったの。これ、触ると気持ちがいいし、でも、あんまり勝手に弄るのも申し訳ないし、だから、その」

 言い終わる前に荒々しく唇を塞がれた。むしゃぶりつかれた、という方が正しい。カクは自分の舌が自分に入ってくるようでぎょっとしたが、上顎を舌でなぞられたの体が、カクの思考とは裏腹にそれを「気持ちいい」と感じてしまい、たまらず短い声が漏れる。ちゃんの、あの声だ、とカクはにぼうっとさせられた頭で、それだけ考えた。
 の体は舌と舌が絡んだだけで、何やら下腹部のあたりがうずうずともどかしく、カクはたまらず太もも同士を擦りあわせる。自分の唇を、舌を、頬を覆っている手を、こうして感じるのは奇妙なのだが、それよりも圧倒的に快感の方がすさまじく、カクは思考が追いつかない。ぷは、と唇を離すと、目をギラギラさせた自分、もといが言った。

「カクくんは、すごい。こんなに力が強いのに、いつも私に優しくしてくれてたんだね」

 言いながら、はカクの両手をとってベッドに押し倒した。の体ではもちろん、カクの腕力には敵わず、カクは簡単に組み敷かれてしまう。

「ごめんね。でももう限界なの。カクくんのこれが、ずっと、したい、したいって言ってて、もうおかしくなりそうなの。カクくん、助けて……」

 カクは、もはや涙目になっているの頭を優しく撫でる。自分が下半身に翻弄されている姿を直視するのは辛いものがあったが、それよりそんなものに振り回されているが気の毒だった。

「わしの身体がすまんの。その……最近忙しくて、ご無沙汰じゃったろ? わしも限界だったんじゃ、許してくれ」
「うぅ……」
「ほれ、ひとまずわしが抜いちゃろう。一回イケば冷静に……」
「やっ! 駄目だよ! カクくんも気持ちよくなろう?」
「ん?」
「まかせて!」

 ちゃんの表情は逆光でよくわからないが、笑っていることだけは確かだ。

   ◆

「んぅ……ぁあ……、あ……ん……ッ……」
「ね~? 気持ちいいでしょう? たまんないよねえ」

 はカクを背後から抱きしめるようにしてベッドに乗りそのまま壁にもたれると、キャミソールの上からカクの柔らかな膨らみを鷲掴みにして、上を向いたままの両乳首の先端を人差し指ですりすりと擦り始めた。他のどこにも触れないよう、慎重な動きでそこだけを左右に往復させる。
薄い布越しのむず痒い感覚に、また腰がもぞもぞしてきて、カクは先ほどと同じように太ももをぎゅっと閉じようとする。だが、すかさず

「閉じたらだめだよ? ちゃんと向こうから見えるようにしておこうね」
「うぁあッ! ちゃ、ん……ッ!」

 太ももの内側を指でなぞられ、のけぞってしまった。一緒に乳首も根元から摘ままれ、ぐりぐりと、押しつぶされるように愛撫される。弱い刺激を与えられ続け、敏感になっていた突起には強すぎる刺激だった。

「今度はどっちもぐりぐりするよ~。ほら、ぐりぐりぐりぐり……」
「~~~~ッ!! ん゛ん゛ぅ……ッ!」
「カクくんは、声出すの恥ずかしいの? 我慢しなくていいんだよ?」

 たとえ女性の身体だろうと、恋人の前で女性のように喘ぐのは避けたかった。それなのに、は固くしこったそれを親指と人差し指で根元から摘まむようにして、ゆっくり、ぐりぐりと弄ってくる。小さな二つの突起から快感が腹のあたりにぎゅーっと蓄積していく。
 は丁寧に丁寧に、それを続けた。我慢できず腰が動いてもは気にも留めない。足だけ閉じないように、と何度も言われ、カクはとにかくそれだけに集中した。足に力を入れ、閉じないように、閉じないように。
 少しだけ刺激にも慣れてきたころ、が耳元でくすりと笑った。

「私の身体だから、何が気持ちいいか、私が一番わかっちゃうんだなあ」
「ぁあッ、ぅぁあッ! あぁんッ、~~~~ッ!」
「根元摘ままれたまま、かりかりされたら気持ちいいよねえ。布越しだと痛くないし、ずーっと、かりかりできちゃうね」
ちゃんッ! ちょ、ぁあッ! ま、ッで、これっ! 、ちゃあッ!」
「ん~? あ、ダメダメ、また足閉じようとしてる」
「ぁ、あぁああ……ッ!」

 はさっきからずっと胸の飾りを摘まんで、カクを丁寧に捕まえて離さなかった。いくら体を捩っても、それは思いもよらなかった刺激が生まれるだけでなんの意味もなく、じわじわと追い詰められていくようでカクは戸惑う。股の間がひくついて、中から温かいものが溢れてくるのが分かった。

「カクくんが私の身体をこうしたんだよ? 毎晩毎晩、たくさん弄って、舐めて、吸って、揉んで、摘まんで……散々、ね」
「そう、じゃっ、たな、あぁッ、~~ッ!」
「仕上がりは、……どう?」
「~~~~~~ッ!!」
「ね? たまんないでしょう?」

 ちゃんの言うとおりだった。
 自分が、毎夜たっぷり時間を使って苛んだちゃんの身体は、与えられる全部の刺激を余すことなく快楽として享受していた。すべてが気持ちよくて、びりびりと頭の先から痺れるような快感は、ジャムをぐつぐつと煮詰めていくように、熱く濃厚になっていく。

、ちゃ…、……わ、わしは……もう……」
「そうだね! 次は、抱っこしてあげる!」

 こっち向いて? ちゃんが囁く自分の声に甘い響きが混じっているのがわかり、これ以上は耐えられない、とそう思うのに、早く早く、と言いながら、また胸の突起を摘まみはじめるちゃんに逆らえない。

「もっと気持ちいいからね」

 尾てい骨のあたりから全身に鳥肌が広がって、恐る恐る、ちゃんの方に身体を向けると見慣れた自分の笑顔があった。ちゃんの、今は自分の、下腹部がきゅ、と締まる。



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