時の狭間で・あちら側

 カクはドアを開けて、閉めた。それだけでこの部屋にいて、全くわけがわからない。ドアはもう開かなかったし、物理的には壊せないこともわかった。すぐに諦めて部屋全体を見渡そうとしたが、見渡す前に目に飛び込んできたのは、目の前の壁から突き出しているとしか言えないベッドに、一糸纏わぬ姿で横たわっている女性だった。慌てて駆け寄ると、どういう構造なのか腹から下は壁の向こうのようだ。ひとまずジャケットを脱ぎ、身体を覆うようにかけて肩を掴んで揺さぶる。

ッ!」
「……んん……」

 がいる以上、破壊を試みるなどの荒っぽいことは出来ないと諦めるしかなく、しかも、あちら側はあるのか、どうなっているのかもよくわからず、身動きが取りづらい。の半身は自由なのか、それともすべて壁に埋まっているのか、そもそも、これはなんなのだ。
 が目を覚ましたところで絶対に謎は解けないだろう。自分が何とかするしかないのだということは、カクにも十分わかっているのだが、この状況を作り出したものの意図もわからなければ、これが攻撃なのかもすらわからず、とにかく途方に暮れるしかない。

「……カク? ……え!? え、なに!?」
ッ! よかった!」
「なっ!? なに!? なにこれっ!?」

 はカクのジャケットを身体に巻きつけると、自由が許されている範囲で目一杯身体を縮めてガタガタと震えだした。カクは慌ててベッドに乗り、を抱き寄せる。無理もない、目を覚ましたら謎の部屋だというだけでも恐ろしいのに、衣服を奪われ、裸で身体の自由までも奪われているのだ。強く抱き締めながら根拠もない「大丈夫」を繰り返す。

【怖いのはわかるが落ち着いてくれ、

壁の向こうから聞こえてきたのは、紛れもない自分の、つまり、カクの声だった。

   ◆

【何が起きてるかワシにもさっぱりじゃが、ひとまずな。この状況から脱するには、そっちのワシとの協力が不可欠なんじゃ。辛いと思うが……耐えてくれ】

「な、なんでワシの声が……」
「カク? カクだよね? なんなの?」

 二人で同じくらい、いや、もう一人の自分がいるカクの方が余計に混乱していると、あちら側からやけに落ち着いた声がまた聞こえてくる。あちら側のカクは、自分はそちら側の自分の半年先の未来の自分であること、つまり半年前にこの部屋のそちら側をと一緒に経験していること、その経験上この部屋から出るにはある条件を満たす必要があること、その条件はこちら側でしか知ることができずそちらに教えられないこと、そちらの音は全く聞こえないことなどを淡々と淀みなく説明するので、二人とも黙って耳を傾ける他なかった。だが、大人しく聞いているととんでもないことを言い出した。

【条件を満たすにはその……、肌を、重ねる……まあその、セックス、する必要があっての】

「はあああああああああああ!??!」
ッ、気持ちはわかるが! 落ち着くんじゃ!」
【おうおう、そうじゃの。怖いのう。おい、そっちのワシはちゃんとそばにいて抱いてやっとろうな? が怯えてかわいそうじゃろ】
「言われなくてもぎゅっとしてもらってますー! あほー!」
「いや、あれも一応ワシなんじゃろ?」
「そうだけど! なんか! 落ち着いてて腹立つ!」
「すまんの……」

 さっきまで冷たい身体でガタガタと震えていただが、あちら側にいるのが、よくわからないが「カク」だとわかったら、少し落ち着いたようだ。

【その……本当に不思議なんじゃが、こっち側にあるの身体は、半年後のの身体なんじゃ。だから、まあその……少し触るぞ】
「えっ! あ……」
「大丈夫か!?」
「あ、う、うん。びっくりしただけ……」
【誓って傷つけることはないし、その、今日のは半年後の出来事ってことで、ノーカンでどうじゃろ?】
「ノーカン!!!!」

 はさっきよりさらにじたばたと腕をベッドに叩きつけた。こちらからは見えないが、この分だと足も同じようにばたつかせていることだろう。が好きに動けているということは、あちらの「カクだ」と主張する恐らく男もこれをただ眺めているのか。の気持ちが済むまで待っているのだろう。
 こればっかりは「そう感じる」としか言えないのだが、確かにあちらの自分は、自分だ。自分だから、自分だとわかるとしか言えない。自分の「手」を疑い無く自分のものだと思えるのに近い。あちらにいるのは、ワシじゃ。となれば。

「これが初体験、じゃないんだよね?」
「少なくともあちら側のは半年先らしいからの」
「これは練習、ってことで……」
「ああ、本番はここを出てからじゃ」

 楽しみにしておれ、となるべく明るく付け足した。

   ◆

【じゃあの、ちょっと準備するから。触るぞ。こっちはなるべく声をかけるようにするからの】
、出来ればあちらで何をされてるのか、教えてもらえるか?」
「え? わ、わかった。えっと、今は足をベルトで……浮かせて、固定? されてる……」

 おいおいおいおいおい! なんちゅう羨ましい設備じゃ、とカクは口許に広がる笑みを手で覆って隠した。は出るためなら仕方ない、と諦めたのか、今度ばかりはあまり騒がなかった。いや、もしかしたら、単に自分が壁の向こうでどんな格好で固定されているのか、想像ができていないのかもしれない。そして、それがこれからどう自分を追い詰めていくものなのかも。
 辛くないか、という向こうの声に「なんて返事したら伝わるかな?」などと呑気なことを言っているのがその証拠だ。この異常事態で鳴りを潜めていたカクの嗜虐心が、むくむくと頭をもたげてくる。

【よし、はじめるか。ワシにはの声が聞こえんから、の身体の反応が頼りじゃ。よく見ておくようにするからの】
「えっ!?」
がちゃんと教えるんじゃぞ?」
「あ、え、っと……」

 今さら恥じらってももう遅い。カクにはが足をもぞもぞさせ、そして、足が閉じられない、と今気づいただろうことが容易に想像できた。あちら側にはの下半身しかなく、こちらの声も聞こえないのだ。そんなとき、どこを見るというのか。

【いきなりこちらを触られるのは嫌じゃろ?しばらくはそっちのワシと楽しんでくれ】
「さすが、ワシ。優しいのう」
「……、それ、言ってて恥ずかしくな、ん……」

 ベッドは頭側に大分スペースが確保されていた。とはいえ、の腹から下は壁の向こうで、普通に添い寝するのは難しい。も大分リラックスしたようなので、胡座をかいて座ると、そこに枕との頭をのせた。そのまま身体を折り曲げて軽くキスをする。少々窮屈だが仕方ない。とりあえず、両耳を指で優しく撫でながら、ちゅ、ちゅ、と唇だけでなく、鼻先や、頬、瞼なんかにも唇を落としていく。

「ふふ、くすぐったい」
【こんなこと言うのは本当に心苦しいんじゃが……】
「ぁんッ!」

 が思わず出た己の嬌声に、慌てて口を手で覆った。だが、あちらの自分は容赦しない。

は乳首を弄られるのが好きみたいじゃぞ】
「……へえ?」
「なっ、うそ! ちがうッ!」

【すまんのう、じゃがここから出るためじゃし……】
 はじめから女の正解を教えられるのはかなり腹が立つが、相手は自分だ。ここは素直にかけたジャケットを払い除け、露になったの胸へと手を伸ばす。寒さからか、期待からか、のそれはぴんと上を向いて尖り、ふるふると微かに震えていた。人差し指の腹でそっと、微かに触れるくらいに、ゆっくり前後させる。

「ん……ッふ……」
「ほう、感度がいいのう。それなら……」
「ゃっ、だぁ……、い、あっん……っ!」

 今度は少し強めの刺激、前後に何度も弾くように指を往復させる。案の定、はちゃんとここで快感を得られるようだ。機械のように正確に、同じ速さ、同じ強さで指を動かしていく。先端は弾かれるほどに固さを増していき、ぴんぴんと指に跳ね返ってくる。

「ね……えっ、……や、ぃやぁっ! ぁ、ふっ……んっ!」
「嫌そうには見えんがのう」
【そろそろこちらもいいかのう】

 あちらの声に一応手を止める。も見えはしない壁の向こうを見つめていた。

【ほらあ。やっぱり乳首はよかったじゃろ?】
「やっ! ど、どこ見てんの!?」
【おっと! そんなに動くと顔にぶつかる!】
、あっち側で見る場所なんぞ、ひとつしかないじゃろう?」

 の顔が真っ赤に染まり、せめてもの抵抗なのか目をぎゅっと瞑って顔を背けた。途端「ぁ……」と小さい声を漏らして身体を捩る。

「ほら、あっちのワシが何したんじゃ?」
「っ……、あ、足の間に……」
「足の間? もっと正確に説明できんのか?」
「ぅ……く、クリト、リスに……息を、かけられて……」
「へえ、それくらいでも、こんなに鳥肌立てとるのか」
「~~ッ!」
【せっかく手が四本、口は二つあるんじゃから、そっちのワシも休まず楽しんでくれ】
「あっちは半年先輩じゃしのう、こっちも早く追い付かんと」

 言い終わるのを合図に、また両乳首を優しくつねるように摘まむと、親指と人差し指でくりくりと擦った。そうすると、が甘く喘ぎながら口を開けるので、容赦なく舌を差し入れる。逃げる舌を舌で、乳首を指で、逃がすまいと追いかけて追い詰めていく。
 舌を唇で捕らえて吸うと、背中がぐっとしなり、カクの指に乳首を押し付けてくるような格好になるのがたまらない。もちろん、それに応えるように指をひたすら動かす。親指と中指で両乳首の根本をぐっとつまみ、ぐりぐりとしながら、人差し指で先端をすりすりと擦るのがはお気に入りのようだ。深いキスをしながらそれをすると、くぐもった喘ぎ声をひたすら垂れ流した。だが、両手は身体の脇でシーツを掴むばかりで抵抗してこない。

「ふ、ここが気持ちいいなんて、どこで覚えたんじゃ?」
「~~~~ッ! い、言わ、ないで……!」
【聞いとる余裕はないかもしれんが、ワシも触るぞ】
「ぁああああああ゛あ゛ッ!!!」
「ああもう、あっちのターンか」

 恐らく、一番敏感な突起をとうとう弄られ始めたのだろう。はさきほどよりもずっと身体をしならせ、背中は弧を描いている。が握りしめるシーツのひだが大きく、長くなった。ひとまず手も休めて、上からをじっくり眺める。

ー、なにされとるんじゃー?」一応聞いてみる。
「ああっ! やっ! クリっ、を! あああっ、そん、なああっ!」
【びっくりするじゃろ? 忘れとるかもしれんが、こっち側のの身体は半年後の身体でなあ。その……半年間、弄りまくったんじゃ。ここも、中も。あ、もちろん乳首もな】
「おうおう、半年でどんなに成長したことか」
【じゃから、まあ……。そっちのにしたら、開発済みの身体を急にくっつけられとるようなもんかの? その……、感想は?】
「嘘、うそッ! ああ゛ぁ────ッ!!」
「見事なイきっぷりじゃのう……」

 恋人が初夜もどきでここまで乱れるとは。不思議な部屋のドアはまだ開く気配はない。

   ◆

【ほらほら、休まず手と口を動かさんか。一生この部屋でいいのか?】
「すまんのう、まだドアも開かんようじゃし……」
「やあっ! ま、ってよお! ま、だっ! からだ、が、あああッ!」

 絶頂を迎えてもあちらのワシは手を休めていないようで、が身体をしならせてビクビクと痙攣して果ててもなお、突起への愛撫は続いていたようだ。不規則な痙攣に身体を任せるしかないはかわいそうで愛らしい。
 胸の愛撫を再開すると、イったことでより敏感になっているのか、先程よりさらに喘ぎ声が大きくなった。顎の裏が見えるほどにのけぞっている。固くはりつめた乳首の固さは手遊びにちょうどよく、反応も見ずに好きにこねくりまわした。

「やああっ! も、無理ッッ! ゆるっ、してよおっ! あ、あ、あああっ!」
「ほら、今あっち側はどうなっとるんじゃ?」
「ゆびっ! ぁあっ! ゆびで! すり、すりっ、されっ、て、ぅああ゛!」
【じゃあそろそろの好きなやつ、はじめるかの】
「え……」

 が驚きで一瞬動かなくなったのも束の間、すぐにまた悲痛にも聞こえる声をあげ始めた。一生懸命身体を捩って、快楽を逃がそうとしているように見えるが、あちらは阻むものがない。むしろ、身体に教え込むように執拗に責められているだろう。自分なら絶対そうする。

「今度はどうしたんじゃ?」
「あああっ! した! したでぇっ…やぁあああっ!」
「へえ、舐め回されて吸い付かれてしゃぶられとるのか。そりゃいいのう」
「やぁああぁああ……あぁああああ……ぐり、ぐりしな、いでぇっ!」
【は、舐めやすくて最高じゃの】
「足は閉じられないんじゃもんなあ」
「あぁっ! ~~~~~~~~っ!!! カ、クうっ! たす、けてぇ!」
【ああこら、逃げたら終わらんじゃろ。それにしてもここまでいやらしく育つとは……。そっちのワシもこれから半年、ちゃんと励めよ】
「そんなによがられると、ちいっとばかし癪に障るのう」

 の絶叫を塞ぐように、開いた口に舌を突っ込む。荒々しい動きでも、は拙くとも必死についてくるようになった。この数十分で。舌を吸いながら、今度は指先でひっかくように乳首をカリカリと弄んだ。跳ねる身体に翻弄されながらも、絶え間なく刺激を与え続けていく。

【ん? もしかしてイっとるのか? もう痙攣しすぎてよくわからんから、とりあえず続けるぞ】
「イったああああっ! またっ、あああっ! あ、あ、あ、イクイクイクっ!」
【ふ、腰が動いて……物足りんようじゃの。あ、乳首はちゃんと弄っとるじゃろうな? さぼるなよ。は乳首を弄られながら、が一番大好きなんじゃ。そうじゃろ?】
、そうなのか?」
「あ゛あッ! ちがッ、うぅああ゛! も、……ッゆ゛るじ、でっ」
【あ、せっかくだから舐めてやったらどうじゃ? ココを舐められながら乳首も舐められるなんて、今しかできんぞ】
「確かにのう」
「ああぁああっぁあ゛ぁッ! ぁ、な、なめるのッ! ゃ、だめッ! ィあっ!」
はのう、いやいやと首を振りながら、ワシの口にココを押し付けてくるのがまた、かわいいんじゃ。あ、ほら。よしよし、まだ止めんから安心せい】

 片方は舌で、片方は指で、痙攣する身体を押さえつけながら、しつこくしつこく、快感にあえぎ浮かせているだろう壁の向こう側の腰を責めるかのように嬲る。乳輪は乳首の固さとは正反対にふわふわと捉えどころがなく、何度も舌が滑った。その度に舌先が乳首を掠め、が甘い叫びで喉を震わせる。
 ぶるぶると震え、跳ね回る突起と孔しかないあちら側にいる自分は今、何を考えているだろう。舐めれば、つつけば、吸ってしゃぶって弾けば、素直に反応する、抵抗もしない突起はさぞ虐めるのが楽しかろう。白い壁を見つめながら、こちらの突起も指と舌で思いつくまま弄くり倒す。

「んあああ゛ッ! ちく、びもぉ! あ、そこッも! とけぢゃう゛!」
「まだ蕩けとらんから安心せい」

 固さを失わない乳首の存在を分からせるように舌先でぐりぐりと押し込むように舐めた。こちらのBGMは耳に心地よい。

   ◆

【水は飲ませてるか? さすがに少し疲れた】
「おっと、それもそうじゃの。すまんかったな」
「──ッ! ……ぁ、ッ! …………んッ……」

 余韻が残っているのか、は何もされていないのに小さく喘ぎながらぴくぴくと脈打っていた。からだ全体が大きな心臓のようだ。
 部屋を見回すとドアのすぐ横に小さなチェストがあり、その上に水差しとコップが鎮座している。ぐったりとして身体を起こすのも儘ならないようなので、背中に腕を回し口移しで水を飲ませた。粘膜同士の触れあいにまた身体が疼くようで耐えるように、閉じていた瞼をぎゅっと瞑る。飲ませ終わると、は大きく息を吸って、ゆっくり長く吐いた。

【もうそろそろの辛抱じゃ。指、入れるぞ】
「弄られながら、じゃったよな?いいもん見つけたぞ」

 カクは先程、水差しが置いてあったチェストの引き出しから見つけた小瓶の栓を抜くと、その中身をの胸元に垂らした。

「つっ、めた……ぁッ……!」
「すまんすまん、いま馴染ませるからの」

 手のひらで、満遍なくゆるゆると塗り広げると、適度な粘性を持った液体がの肌を覆っていった。手のひらを動かす度に、屹立したこりこりとした乳首の感触がまた心地よく、何度も往復させてしまう。

「ぁあっ! ぁ、あ、……ッ、~~ッ!!」
【お、ちゃんと乳首も虐めとるな。感心感心】
「ぃゃぁあああぁぁああッ! それだめッ!!!! っあ! またイクっ!」
? 何されとるんじゃ?」
【おお、やっぱり外と中から同時に刺激されるとたまらんか。今日は乳首までセットじゃからのう】
「へえ、道理で。気持ち良さそうじゃもんなあ」
「──ッ! んぅ……ッ! あッ! ~~~~~ッ!!」

 最早ろくに声も出せず、細い首をさらけだしながら絶え間なく痙攣しているの滑らかな肌に指を滑らせながら、カクはのんびりと言った。指を広げ、ぷりゅぷりゅと逃げていく胸の小さな尖りを五本の指で順に撫でていく。そんな単調な刺激にもは律儀に喘いだ。飽きてきたらぬるぬるした指でそれを捕まえてみようとするが、滑ってうまくいかず、何度も何度もしごくようになってしまう。
 あちらはあちらで、両手を使って外と中からクリトリスを苛めぬいているのだろう。あちらの突起は一つだが、こちらは二つだ。両方を、平等に、丹念に、公平に、愛撫する。

「ゃああっ! む゛ねはっ、ちく、びっ、や゛めでっ! も、むりっ!」
【すまんのう、条件が曖昧でな。どこまでやれば十分なのかわからんのじゃ。だから手を休めるなよ】
「じゃと。すまんのう、聞こえたか?」
「い゛ッでる、のにぃ゛! あ゛っ、あ、ぁっ、またっ!」
、どんなに乱れても大丈夫じゃからな。その日からのワシはもう、すごいぞ。安心して、気持ちいいことだけ考えとれ】
「そうじゃそうじゃ。明日から楽しみじゃのう」
「へ、へん、じゃなッ、い?」
「かわいいのう」

 の身体がまた総毛立って、顎ががくっと上を向いた。玩んでいた乳首がまたぴんと張りつめて主張を増す。

【総仕上げといくか】

   ◆

、実況。できるか?」

 もう快楽を与えたいといった意思がなくとも、の身体はただ触るだけで、勝手に快感を得るようになっていたので、カクも柔らかな双丘を好き勝手揉みしだくことにした。たまに意図せず乳首が刺激されるようで、が身体を捩る。あちら側の腰はさぞ艶かしく揺れているだろうな、と想像して、少しだけ嫉妬のようなイラつきを覚えた。

「ぅ、あ……、あ、はい、って、あぁ……ゃ……」
「痛くはないか?」
「ぅ、ん。だ、いじょぶ……あ、んッ、あ、ゆっく、り……でた、り、はい、って……」

 あちらは半年後、ということだったが、心配は心配だった。仮に、痛いと泣き叫ばれても、こちらの自分にはあちらの自分を止める術がない。は慣れない異物の圧迫感に戸惑ってはいるようだが、苦しくはないようだ。様子を伝える言葉の端々に甘い疼きが混じる。

「~~~~ッ! た、ぶん、はい……った……?
【ずっとな、もどかしかったんじゃ】
「っああぁああ! ゃ、いじ、っちゃぁあっ!」
「あっちは容赦ないのう」

 カクもまた、意思をもった戯れを再開する。やっていなかったことはなかったかと、ひとつひとつ確認するように、丁寧に弄る。

の好きなこと、いっぺんにやるにはどうしても手が足りんくてのう】
【今日、ようやく叶うぞ】
「ほら、どうしたんじゃ?」
「あっ、はいっ、た、ままぁっ、いじられ、てっ……~~~~ッ!」
「それで?」
「ッんぅ! な、かが、ぎゅ、ってする、と、あ、カクの、が」 

【あぁ……。そっちのワシには悪いが、とんでもなくいいぞ】
「羨ましいのう。そんなに締め付けとるのか」
「だ、ってぇ! ずっ、と弄るからッ!」
【いつまでもこうしていたいが、それも無理じゃし仕方ない】
「~~ッ! ぅあ゛ッ! ああ゛ッ! ぁあ゛あっ!」

 あちらはピストンし始めたようだ。規則正しいリズムでから声が漏れ出て、身体が揺れる。自分にできるのは、あちらの自分の言う通り、手を休めないことだけだ。ここまで来て条件を満たせなかったとなっては元も子もない。開きっぱなしのの口に、また舌を伸ばす。つい数十分前まで、啄むようなキスしか知らなかったに。
 は胸に伸びているカクの腕をぎゅっと掴んできた。抵抗ではなく、何か触れていたかったのだろう。身体が跳ねるのに合わせて、手に力が入る。

もいいんじゃな、わかるぞ】

 唇と舌を離して、の顔をじっとみる。

「はあ、たまらん顔じゃなあ」

 気持ちよくて気持ちよくて仕方ない、といった顔だ。

「せっかくじゃから、よく見ておこうかの」

 突かれている最中のの顔なんぞ、こんなにゆっくり見れんじゃろう? と言うと、はぼうっとしているだろう頭でもなんとか羞恥を覚え、顔を背ける。今更だと苦笑しながら、寂しいのう、と言ってみるだけで、はゆっくりと、だが、すぐにカクをまっすぐ見つめた。

「半年でこんなにいやらしくなるんじゃな? 明日からしっかり励まんと」
「それにしてものここは全然萎えんの、ずっとカチカチじゃ」
「ほれ? 自分でもわかるじゃろ? 弄りやすくていいのう」
「弄って弄って、もっと大きくしようなあ」
「ワシしか見んのだからいいじゃろ」
「あっち側も楽しみじゃなあ。まずは明日早速励むからの」

 突かれている喘ぎまくっていると見つめあいながら、乳首を捏ねながら、言葉でも責め立てていく。は言葉を理解する度に、恥ずかしそうに視線を背け、またこちらに戻す、というのを繰り返した。たまに顎が見えるほど背中をしならせるのでそのときも視線は外れた。

「ぁああああっ! んんんんんッぁあああっ!」
【ああもう! 残念じゃなあ!】

 どれくらいそうしていたかわからないが、の叫びのような嬌声のすぐあと、あちらから自分の切羽詰まった声が聞こえてきた。恐らく双方果てたのだろう。自分の吐精時の声なんぞわざわざ聞きたくもないが仕方ない。ははあはあと肩で息をしているようだが、その他異常はなさそうだった。 部屋の様子が変わらないことに不安を覚えながら、取り急ぎ、シーツの乾いた部分での身体を拭いてやっていると向こうから声が聞こえた。

【納得いかんが、言うても仕方ない】

 ドアの開く音と訝しむ自分の声。

【満足しなかったのはワシか?】

 一転、暗転。

   ◆

 カクは意識を取り戻した、と知覚してすぐさま飛び起きた。素早く回りを見渡して、ここがの部屋で、のベッドの上とわかる。

「あ、カク。どしたの? なんか怖い夢でも見た?」
!?」
「はいっ! なに?!」

 ベッドから飛び起きるとキッチンに立つに駆け寄る。は見た限りなんともなさそうだ。カレンダーと時計を見て、そうだ、初めての部屋に遊びに来て、そしたらあの部屋にいたんだ、ということを思い出した。

は、なんともないのか?」
「え? ああ、私も疲れてたのかな? さっきまでベッドでカクと寝てたんだけど……」
「それだけか? 身体は……」
「ぁんッ……!」

 言いながら、の頬に手を添えるとが小さく喘いで、慌てて手で口を覆っている。び、びっくりしただけ! と顔を背けるので、指先で耳の後ろを、つ、となぞるとまた身体をびくつかせた。

「ゃ、ちょ、っと、起きて、から、変ッ、なの」
「変? なにが……」
「ん……、その、おなか、が、あついっていうか」

 もじもじと足を擦り合わせるを抱き寄せて、まだしたことのないはずの深い口づけをしてみる。するとは先ほどあの部屋で覚えたばかりの舌使いでカクの舌を追いかけてきた。ちゅ、と水音をたてて、顔を離すと、物足りない、というのが自分でも不思議そうな複雑な顔をしたがいた。

「か、カクッ! な、なんで……」

 記憶はなくとも、身体が覚えている。

「まずは、半年か」

 カクは抱き寄せるだけで「んんッ!」と喘ぐ恋人の頭を撫で、まずは戸惑いつつも身体を震わせている恋人をベッドに連れていくことにする。


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