仰せのままに

「もし、身体が疼いて仕方ないのなら、荷物をまとめて入り口で待っとってくれ」

 なんてひどい言い方だろう。これじゃあ、仮に会いたくて待っていても「身体が疼いてるのか」と思われるじゃないか。
 頭を振って、深く息を吐くと、さっきまでのじくじくとした身体から何かが抜けて、すっきりする気がした。一度カクの手が離れると、さっきまで自分達がしていたこと、もとい、自分がされていたことはなんだったのだろうと、もう一人の冷めた自分が問いかけてくる。
 どうしよう、待っていようか。久しぶりに会えたのは嬉しかったし、触られたのも、嫌ではなかった。でも「続きがしたい」と思われるのは恥ずかしい。例え、それが事実でも。

!?」

 言われた通り、格納庫の入り口で待っていた私を見たカクのびっくりした声で、ああ自分は間違ったかもしれない、と思った。カクは口元に手を当てて、こみ上げる笑いを隠そうとしているので余計に悲しくなる。ほら、やっぱり。「したいから、待っていた」って、きっとそう思われている。泣くほど傷ついたわけじゃないのに、なんだか恥ずかしさと悔しさ、情けなさなんかで、喉がうっとつまって、涙が滲んできた。カクが慌てて私の手を引いて、格納庫に引っ張りこむ。

「すまん! どうした!?」

 私が泣くととりあえず抱きしめるのはカクのやり方だ。カクの胸で大して高くもない鼻が潰れて、鼻をすすると、ずび、とかわいくない音がした。惨めでさらに泣きたくなる。

「っう……ひっ……わ、笑う……から……」
「あああ! 違う、違うんじゃ! 待っててくれると思っとらんかったから! 嬉しくて!」
「……なん、で? 待つよ……」
「じゃって……さっきは半ば無理矢理じゃったし……。その、自分勝手じゃったな、と。目も合わせてくれんから、てっきり怒らせたかと……」
「……怒ってない。あと、その、……よかった」
「ん……わはは、そうか!」

 大きな手で背中をばしばし叩かれる。今のは嬉しくて笑ったんだって、わかった。さっきのだって「笑われた」わけじゃないことくらいわかってたけど、自分で思うほど、器用に感情は制御できない。だから、涙を流したら、それはそれで、自分が思っていた以上にすっきりした。

「カクさん、おっきく、なってますけど」
「……言うてくれるな」

 泣いてても可愛いんじゃ、は。と小さな声で呟いたのが聞こえた。

「ここ、……鍵かかるの?」

 私も小さな声で呟いたら、カクが少しだけ目をぱちりとさせて、あのいたずら好きの子供のような笑顔を浮かべた。

「中からもかかるし、外から開ける鍵はワシが持っとるから……。もう誰も開けられんのう」

 私はカクに気づかれないよう、唾を飲む。ガチャリ、という音がなんだか無慈悲に聞こえた。

   ◆

 せっかくじゃからさっきの続きをしようか、とカクは言って、私を壁際に立たせた。フレアスカートの中にそっと手を差し入れ、内腿をさする。

「今から……、そうじゃのう。まずは指で確かめるとするか。さっきので、どれだけここが蕩けてるか、確認せんとなあ。下着の上から、割れてるところをゆっくりなぞってみるかのう。声は……出してもいいが、ここは響くぞ?」

 カクが上から私の顔を覗きこむようにしつつ、ゆっくり指を動かす。動かしながら、「ああ、これは……。もう脱いだ方が良さそうじゃの」と笑うので、顔がどんどん熱くなる。さっきは、暗かったし、後ろにいたから、表情までは気にしなくてよかったのに。たまらず顔を背けると、左手であごを捕まれ、固定された。

「こらこら、ちゃんとこっちを見んか。反応がわからんと、のいいところもわからんじゃろ?」
「……ッ!ぜ、全部、も……知ってる、ッ!くせに……」
「いやいや、買い被りすぎじゃ。例えば、ここをずーっとカリカリひっかいとったら、どうなるんじゃろな?」
「いあっ! ぁ……、や、や、ぁ……ッ! ああ!? ちょっ!」

 両手でカクの右手をつかむが、カクは動じない。それどころか顎をつかんでいたはずの左手がいつの間にか胸に添えられていて、そちらも同じようにカリカリと引っ掻くように弄られる。さっきまでずっと弄られ続けていたせいで、普段よりじんじんと痺れるそれは、すぐまた固くなって、弄りやすいのうとカクを喜ばせた。

「おっと、また忘れとった。左手でまた乳首を弄るぞ。中指でカリカリするからの。クリトリスと一緒に弄るから……声は、……我慢できんじゃろ? じゃ、続けるぞ」
「ぅあッ────ぅあ、あ、あっ、あっ、あっ──ッッ!!」
「お? 今日はいつも以上に堪え性がないのう。ひょっとして、こうして言葉にされるのがいいのか?」

 カクが何か言っているが、私はそれどころではない。大して大きくない声も、反響して、自分に届くと、自分が二倍も三倍も喘いでいるような気になる。カクは喋りながらも手を疎かにすることはない。一定のリズムで途切れることなく与えられる乳首と淫核への刺激は、私の足をがくがくと震えさせるのに十分すぎた。
あ、あと少し──と思ったところで、ぴたりと刺激が止まる。

「あっ……な、なん……」
「すまんのう。どうせなら、舌でイかせたくての。こっちのが好きじゃろう?」

 カクはそう言うと下着に手をかけ、ずるりと下ろして、跪いた。濡れた股に風があたってすうすうと冷えるので、思いがけずぞくりと震えたのも束の間、さっきまで指で弄られていたところに、あたたかい舌と唇が、くちゅ、と添えられる。引けた腰を逃さないよう、両手でお尻を捕まれた。 スカートの中にカクがいる。滑稽な姿だと思うのに、上からそれを見下ろして、妙に興奮してしまう。

「じゃあ今度は……がイクまで舐める。イっても舐める。以上」
「ぁっ!? え? なにそれ!」
「以上!」
「ぁ……ぁあ……ん……ふ、あぁ……」

 宣言の勢いとは裏腹に柔らかく舌が添えられて、もう少し強くてもいいのに、と思うくらいの優しさで、ちろちろと舌先でくすぐられる。舌先は柔らかく密着して絡みついてきたり、かと思えば、固く尖らせてツンツンとつついたり弾くようにされたりと、色々だったが、とにかく休む間もなく舐められ続けた。
 そのうち、足先に力が入っていき、カクの頭に添えていた指先に力が入る。カクは当たり前だけどスカートのなかで、こちらが見えていないはずなのに、こういう私の変化を溢さず受け止めて、私は確実に追い詰められていく。

「ぁあっ! あっ! あ、あ、ああっあ、い、いく、いく、いっ! いっ──ッ!」

 足がまた震え、今度は完全に達して脱力してしまいたいのに、カクはまだちろちろと舌を動かすのをやめない。壁に私を押し付けるようにして、私が膝を折るのも許してくれなかった。

「ねぇっ! 無理、無理っ! 無理ぃ! あ、あ、あ、あ、あああっ!!」

   ◆

「わはは、すまん。やりすぎた」

 笑い事じゃないんだけど……と怒る体力もない。もうこうなっては、フレアスカートが汚れるのも気にせず、壁にもたれながらずるずると膝を折ってへたりこみたいところだが、足の間に入れられたカクの足がそれを許してくれない。

「最後の仕上げじゃなァ。さ、壁に手をついて……、あ、そこの木材がちょうど良さそうじゃの。そうそう、乗って、よし……」
「は……ふ、……ぅ、これで、いい……?」

 もはや自分で何かを考えられる余力がないため、カクの言う通り、保管してあった木材に乗って身長差を調節し、壁に手をついて、後ろを振り返った。
 お尻をつき出すような姿勢で、従順にカクを待ちわびる私を見下ろすカクは、お手伝いが上手にできた子供を褒めるような優しい笑顔で「完璧じゃの」と私をあやしながら、どろどろになった私の恥部に、そそりたった自身を押し付けた。そして顔を耳元へ寄せると、低い、なめらかな声で、私を追い込んでいく。

「はあ、もどかしいが仕方ない。説明せんと。、もうわかるじゃろ?今から、これを、入れたり、出したり、するからの。いいところは全部これで擦るぞ。クリトリスの裏も、奥も、全部。この体勢ならそうじゃな……入れながら、指で乳首もクリトリスも弄るか。ナカがすごいことになりそうじゃな。ん? 聞いとるか? 身体をいくら捩っても無駄じゃぞ。ちゃんと捕まえとるからの」

 まず耳から犯されていく。これから何をされるか、しっかり言い聞かされて、まだ動いていないカクの指を、腰を、嫌でも想像してしまう。揺れた腰は逃げようとした訳じゃない、早くとせがんでいるだけだ。

「じゃ、あとは身体で確かめてもらうかの」

 カクが腰をゆっくり寄せてくる。つぷ、と、私の内側に硬くてぬるっとしたモノが入ってくる。襞がじんわりと押し広げられていき、その緩慢な動きにあわせるように、指がそれぞれの突起を捉えて、歯痒いほどのもったいぶった動きでいじめてくる。
 ずるり、と抜かれたかと思えば、また、つぷぷ、と入ってくる。ゆっくり、ゆっくり、それの繰り返しだ。滑りがさらによくなって、馴染んだと思ったら、腰をぴったりと密着させてきて、ひたすらにじわじわと奥ばかりを優しくノックされる。

「んあぁッ──! あ、ああ゛ッ! ぅああ゛ぁ────ッ!!」
「焦らしたせいか、いい聞かせがよかったのか……今日は一層いい声で鳴くのう」
「ふっ──! んん゛ぅ……ッ! ん゛ああッ!」
「ああ、すまんすまん。恥ずかしかったか? ちゃんと聞かせてくれ」

 そう言って、指の動きをほんの少しだけ、強く、速くされる。もういっぱいいっぱいの身体にさらに刺激が上乗せされていく。

「あああっ! も、や、やめッ! お゛っ、お、かしく──な──っ!」
「あぁ! もう、最っ高じゃの。こんなにひくつかせて……動かすのももったいないわい」

 そうは言うくせに、全然何もやめてはくれない。もう自分では何もわからないけど、きっと、もう何度も何度も甘く達しているに違いない。あがったきり、いつ、さがったのかわからないのだ。今辛うじて出来ているのは、とにかくただ立つことだけ。

「ねぇッ!! ほ、んぁあッ! と、にっ! 無理ィッ!!」
「おお、よしよし。良く頑張ったの。名残惜しいが仕方ない」

 カクがまたほんの少し、腰と指の動きを強めた。カクが達するために私にさらに与えた刺激は、そんなに激しいものではなかったのに、今のわたしには十分すぎるものだった。自分でもどこにそんな筋肉があったのか、と驚くほど、ぐねぐねとカクを締め付けているのがわかる。

「い、いっ──ちゃ……!」
「わしもじゃ」

 カクが短く言い捨てると、腰の動きも止まった。自分のナカに入っていたモノがどく、どく、と脈打っているのがわかる。
 早く、座りたい。ベッドに身体を預けたい。シャワーでぐちょぐちょになったすべてを洗い流したい。身体はまだびくつき、跳ねて、カクを喜ばせようとしているのに、頭ではそんなことを思った。でもこれはきっと後ろの恋人が今日全部叶えてくれるはずだ。
 私は勝手に安心し、後のことは彼に任せることにして、最後まで身体をひくつかせた。



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