手解き致しましょう

 今日ほどこの島に夜が来ないことを苦々しく思うことはないだろう。カクは不夜島にさんさんと降り注ぐ太陽を見つめながら、眉をしかめた。カクはついこの間、この島で十八歳をむかえ、最長五年に及ぶ長期任務への参加も決まったところだったが、その任務に就く前に「特別訓練」を受けるよう指示されていた。

「荒れてるわね」
「別に」

 中庭で汗だくになりながらトレーニングをしているカクに、カリファが何気ない風に声をかける。カクは、カリファがなぜ自分にこんな風に声をかけるのか知っているので、羞恥と怒りを悟られないよう努めたつもりだったが、それは失敗に終わり、かなり素っ気ない返事となってしまった。カリファは気にせず続けた。

「あなたの気持ちはよくわかる。でも訓練生はみんな同じよ」
「やめてくれ、余計惨めになる。なんでこんなことまで管理されなきゃいかんのじゃ。腸が煮えくり返るわい」
「そうね……、ごめんなさい。デリカシーがなかったわ」

 さんは優しくていい人よ、それが言いたかったの、とカリファはその場を離れた。

 カクは今日、性交をするよう指示されている。それが「特別訓練」だ。



 コン、コン、────ゆっくり、だが、しっかりとしたノックの音がカクの部屋に響いた。ベッドに腰かけていたカクは大きくため息をついて、たっぷり間をとってから「開いとるわい」とそれだけ答えた。

「失礼するよ」

 ノックから散々待たせたというのに、その女性はその事に苛ついたそぶりも見せず、穏やかな表情でドアを開けた。カクと目が合うとにっこりを微笑む。カクはもちろん、険しい顔のままだ。女性は落ち着き払った堂々とした態度と口調のせいもあって、カクよりもカリファよりも、もしかしたらルッチよりも年上かと思わせる雰囲気があったが、体躯は一般女性のそれだった。素っ気ない黒のジャケットに白いビジネスシャツ、黒いタイトスカートに黒いパンプス。この島の関係者らしい装いだ。女性はカツカツとヒールの音をたてながらカクの目の前まで近づいてきて、止まった。

「今日の訓練内容は聞いているかな?」
「聞いとるに決まっとるじゃろ。さっさと済ませるぞ」
「おっと、それはいけない。君は何か勘違いしているようだね」
「勘違い? お前とセックスすればいいんじゃろ?」

この真っ昼間から、と付け加えたカクの口元に彼女の人差し指が添えられる。

、だよ。カクくん。君の勘違いは二つある。一つめはさっさと済むと思っていること。二つめは君が主導権を握れると思っていること」
「なんじゃと?」

カクはの手を振りのけながら反論したが、は泰然と構えており、それがまたカクの癪に障った。

「今日の私の仕事は、君とセックスすることだけど、正しく言えば、君にセックスを教えること。もっと言えば、……君に『やめないで』と言わせること、かな」
「……絶────っ対に言わん」
「そうだろうね。まあ御託はいいから始めよう」

 さて、まずはどうすればいいか、知っているかな?
 腰を落として目線を合わせてきたがにやりと口角をあげ問うてくる。カクは怒りで顔が真っ赤になるのがわかった。



「なんじゃこれは」
「マッサージだよ。君は疲れていそうだし」

 からうつ伏せに寝るように、と言われたカクは渋々指示にしたがった。カクが横になると、ぎっ、とマットレスが沈み込みが自分を跨ぐように上に乗ってきて腰の辺りでの湿った体温を感じた。手のひらが肩甲骨の辺りに添えられ、そのままゆっくり面で圧がかかり、肺がじんわりと潰れていく。思わず「ふぅっ……」と息が漏れていく。肩の辺りから背中、腰、とじっくり解されていくのがわかり、それがまた、存外気持ちがよくて、カクの眉間の皺も徐々に解れていった。

「さあ、今度はこっちを向いて」

 の声に、来たか……とカクは観念した。さっきまで思いの外いい気持ちだったのに、と名残惜しい気もする。上を向いて寝転ぶと、ジャケットを脱いだがまた跨がってくる。タイトスカートがさっきよりも随分上にずり上がっていて、下着が見えそうだ。カクは思わず顔を背けた。カリファだって似たような服を着とるのに、なんじゃこれは……。

「そろそろ脱ごうか」

 はカクのシャツの裾からすっと手をいれ、そのまま腰から胸までを指でつつつ、となぞっていった。の手の動きにあわせて肌が露になり、カクの背筋にぞわっとした何かが走る。

「なっ……、なんでわしだけ脱がされるんじゃ!」
「ふふ、君も脱がしたければそうしていいよ?」

 カクを見下ろしながらが嘲笑うかのように問いかける。言う通りにするのもしないのも腹が立つ。カクは結局「別にそういう意味じゃないわい」との肌を見るのは拒むことにした。は何も言わず、今度はカクのベルトに手をかけ、カクは下着だけの姿になった。当たり前だが、さっきよりもの体温が近い。篭った熱も感じた。

「……っ」

 の唇と指がゆっくりカクの体をなぞっていく。耳を甘く咥えられ、首筋を指でなぞられる。指はそのまま鎖骨をなで、鍛えられた胸板を手のひらでさすった。唇も同じようにゆっくり下がっていく。の指がカクの乳首に触れる。そのまま、くっと曲げ先端を刺激したのと同時に、もう片方も唇でちゅっと吸われた。

「──ああッッ!!」

 両乳首への刺激に思わず声が漏れた。カクは慌てて手で口を覆うがもう遅い。はそんなカクには見向きもせずに、ひたすら指を動かし、唇と舌を這わせる。円を描き、ピンと弾く。上下左右に弄り倒す。点で、面で、線で、は指でも舌でも同じ動きで刺激を与えていった。カクは、手で押さえても漏れ出る自分の嬌声を聞きながら、下着の中で自身が硬くなっていき、先端から何かが滲み出てきているのがわかった。

「もう少し教えてあげたいところだけど、今日はこのくらいにしようかな」

 カクの肌から唇を離し、体を起こしたが後ろ手でカクの太ももを撫でながら言った。カクはせめてもの抵抗でを睨み付けるが、まだ腰が震えている。

「自慰とは違うだろう?」
「五月蝿いっ……」

 カクは初めての刺激に戸惑いながらなんとかそれだけ悪態をついた。息が上がっている。はカクの下着に手をかけ、一気にずらした。カクの膨張した先端が下着にひっかかりながらも、ぱちん、と飛び出る。何するんじゃ!と抗議するが、は意に介さない。もするりと下着を脱ぐと、カクの下着と一緒に遠くへ放った。

「知ってるかな? 女の子にもおちんちんはあるんだよ?」
「は?」
「君のこれよりもさらに繊細だから優しくするようにね」
「な、何を……」

 言っとるんじゃ、と続けようとしたがの言葉の方が先だった。

「お手本を見せよう」
「あああッッ────!!!!」

 がぱんぱんに硬くなったカクの先端をぱく、と咥え舌で転がすようにしながら口に含んだ。熱くぬめった柔らかいもので敏感な部分をなぞられる。唾液でぬるぬるとした唇が上下して、唇が先端部の段差をしごくように動き舌がぐるりと一周する。たまらずカクの腰がびくん、と跳ねた。はその様子を眺めつつ、歯が当たらないように細心の注意を払いながら、今度は根本までゆるゆると飲み込んでいく。

「あっ! あ、ああっ……ふ……んッ──!」

 温かく湿ったの口内に収まったカク自身にの舌が何か別の生き物みたいにまとわりつく。そのたび喘ぎ混じりのうわずった声が漏れる。カクから漏れ出てくる滴りとの唾液でてらてらと光るようになったそれからは唇を離すと、またカクの上に跨がった。はカクの両手を握り、バランスをとる。

「私の声も聞かせてあげようか」

 はそのまま昂りきってそそり立つカクのそれに腰を落とした。

「アアアアアッ────!」
「んんっ……! っあ、はあ……、君の方が、いい、声だね」

 の声はカクの声で掻き消されたが、カクはそれすら気がつかない。カクのそれは難なくの肉壁に飲み込まれていき、窮屈な、でも心地いい圧迫感に包まれた。上下に動かなくとも、先端や根本がきゅっきゅっと締め付けられ、気を抜くと果ててしまいそうだ。だが、はたととんでもないことに気がつきカクは一瞬現実に引き戻される。

「あっ、お前、その、避妊はっ……!?」
「ああっ! ……ああ、君は、なんて……いい子なんだ。あっ……ふふ、ご褒美だよ」

 は中をきゅーっと締め付けながら腰を浮かせ、カクをゆっくりしごいた。抜けるかどうかのところで、またゆっくり腰を落としていく。現実が快楽に塗りつぶされていきカクはまた喘ぐことしかできなくなった。何度か繰り返すうちに、カクはたまらずの手を振りほどき、腰を掴む。

「こらこらあっ! 君が、余裕をなくしたら駄目だろう?」
「じゃっ……て! もう! 無理っ……!」
「やめるかい?」

 抜けるか抜けないかのところで腰を止めたの冷たい声が、カクに降り注ぐ。先端だけがまだ辛うじて繋がっていて、が少しだけ腰を動かすとちゅぷ、と卑猥な音がした。今すぐこの掴んでる腰を揺さぶって、自身を打ち付けたい。のに。カクは何も言えずを睨み付けた。は目をそらさない。視線だけで「さあ、言え」と命令されている。屈辱だったが、下半身は全く別の答えでいっぱいになっている。ああ……、

「や、やめ、────る」
「合格だ。やめてはあげないが」

 同時にの腰が落ち、根本まで一気に飲み込まれた。

「あああっ! そ、そんな!! なんっ──!!! ああっ────!」

 突然の予期せぬ刺激にカクはもう耐えられなかった。びくびくと腰を震わせながら、の中で情けなくなっていく自身から堪えきれなかった欲望が吐き出されていく。柔らかくなっていくそれに追い討ちをかけるように、の中はぴくぴくと痙攣して、まだそれを締め付け続けた。張りつめていた時もよかったが、柔らかくなったそれをに包まれるのもよかった。ただ、やはりそのままでいるのは難しく、が腰を浮かすと、ぬるっと吐き出されてしまう。続けて、の足の間から、自身の欲望が漏れ出てきた。カクは漏れ出てくるそれの量に比例して、どんどん熱が冷え、冷静になっていく。

っ! すまん! は、はやく何か、避妊を……」
「はじめて名前を呼んでくれたね」
「えっ、あっ」
「心配ありがとう。そうだね、大事なことだ。何より任務に支障が出るしね。君は本当に偉いし、優しい、いい子だ」

 はいつの間に用意していたのか、濡れたハンドタオルを股にあてがいさっと拭うと、別のタオルでカクの汚れた体も優しくふいた。柔らかな、いい香りがする。

「私は大丈夫だよ、避妊は薬でしているから。言わなくて悪かったね。仕事柄、性病検査も受けている」
「そ、そうじゃったのか。で、でも……」
「君のその普通さはこれからきっと武器になる。大事にして、絶対になくさないように」

 はカクの顔をまっすぐ見ながらそう言うので、カクは自分が全裸なことも思いだし、急に恥ずかしくなった。もう遅いと思いつつ、ベッドの端で丸まっていたタオルケットをひっぱり自分の下半身を覆った。はそれを見て微笑む。

「そういえば」
「なんじゃ?」

 自分の下着やらタオルやらを鞄にしまい、ジャケットを羽織ながら、が悪戯めいた笑みを浮かべる。ドアノブにはもう手をかけていた。



「キスはとっておいた。そちらは本当に好きな人とするといい」




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